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第65話 マウアーの我慢

ダイクン王国の首都を窺う次郎達。

そこにはオーガの大軍がいるはず。

そして……

ダイクン王国の首都が一望出来る丘の上に到達した。

なかなか大きい。

「ん、まずは独りで様子を伺うかのう」

「いっさん独りで行くの?」

「鈴木次郎様。

一朗太いちろうたは先行するだけです。

すぐに戻りますよ」

鈴蘭すずらんが全幅の信頼を置いて、代わりに言う。

一朗太は一礼して、その場から消える。


一朗太を待つ間、何気なく正門の方を見ていると、台車を引いている人々が現れた。

その人々が槍の柄で叩かれている様子も窺えた。

オーガの笑い声と共に。

どうやら、オーガ達は面白半分に民を痛めつけているようだ。

「くっ!」

振り返ると、ダリル近衛隊長がマウアー副隊長の肩を押さえている。

危ないなぁ。

飛び出されては、こっちの位置がバレるじゃん。

あ、一人槍で突かれちゃった。

そんなことしたら、マウアー副隊長が猪突猛進しちゃうよぉ。

「ぐうぅ……」

突然現れた一朗太に両肩を押さえつけられて動けないマウアー副隊長がそこにいた。

「いかんなぁ。

そんなんでは、みんなを殺すことになるぞぉ」

一朗太の間延びする言い方に、場の雰囲気が和む。

「鈴蘭。

おまえが付いていて、こんなんあかんだろう?」

一朗太は、その雰囲気から一転、鈴蘭を睨む。

「おまえさん、ごめんよ。

許しておくれよぉ」

鈴蘭が一朗太にすがり付く。


「マウアー副隊長、飛び出しても良いけど、僕達は一切の手を退くよ」

我ながら底冷えする言い方だな、と自覚しながらも発言する。

「盟主様、大変お見苦しいところをお見せしました。申し訳ございません。

伏してお詫び致します」

ダリル近衛隊長が詫びてくるが、マウアー副隊長はどうか。

マウアー副隊長は、顔面を歪めてどうにもやるせない雰囲気だ。

「マウアー副隊長は命令違反する人なの?」

マウアー副隊長は話が出来にくそうなので、ダリル近衛隊長に話を振る。

「感情が高ぶると過剰に敵を痛めつけることはありますが、今まで命令違反はしたことはありません」

そっか。命令違反は無いんだ。

「では、許す。

しかし、一瞬でも皆の安全を脅かしたのだ。

マウアー副隊長。

今日より三日間、自室にて謹慎を命ずる」

しっかりと言い渡す。

「マウアー!

返事をせよ」

ダリル近衛隊長が小声で一喝する。

「はっ!

大変申し訳ありませんでした。

謹んで謹慎の命、承りました」


今度は一朗太に向き直る。

「で、どうだった?」

「全体像を掴むのに、三日欲しいなぁ。

予備日も欲しいから……五日後の早朝にここに迎えに来てもらいたい」

『私も残りましょうか?』

「いんや。

おめえほどじゃないけども、簡単な以心伝心なら出来るからよぉ」

かなり使えるじゃないか、隠形鬼おんぎょうきチーム。


その後、今日のお昼ごはんのおにぎりの山を取り出し、みんなで食べる。

僕はおにぎりを食べながら、干し肉などの携行食と水筒を隠形鬼チームに渡していく。

この程度の携行食の量じゃ、一朗太の体格では足りなくなるんじゃないか、と心配したが、オーガの管理がずさんな為、ちょろまかすのは容易いと一朗太は笑う。

それに五日程度の絶食は軽いものだ、とも。

帰ったら、お腹いっぱい食べさせてあげよう。

一通り渡し終えたら、「では」と一言聞こえたと同時に、隠形鬼おんぎょうきチームの全員が消えていた。


「あとは彼らに任せて、僕らも退くよ」

次の瞬間には、見慣れた大樹の拠点の広場に立っていた。

場所が分かれば、一発で転移出来るみたいだ。


ここで解散としたが、マウアー副隊長が近寄って来る。

「盟主様。

もうあのようなことにならぬように、しっかりと反省して来ます。

謹慎は三日ではなく、己が落ち着けるまで続けたく、ご許可をいただきたい」

自ら処罰を上げる人って珍しいね。

まあ、マウアー副隊長の気質には良いかもしれないので、許可する。

マウアー副隊長は、きっちり近衛隊式敬礼をしてから、回れ右してその場を去る。


雲外鏡うんがいきょうもご苦労様。

あとは自由にして良いよ」

「ははぁ。

では、ワシは畑を見に行くとしますわい」

昔から、人の農業する様を眺めるのが好きなんだってさ。

良い趣味だと思う。

僕らが絵画を眺めるのと通じるものがあるのかな?

僕も絵画の「落穂拾い」を眺めては、いつの間にか時間が経ってたってことがあったなぁ。

まあ、僕は大樹の屋敷に帰るけど。



この後も隠形鬼おんぎょうき達の活躍が続きます。

お楽しみに♪


今回は短めですが、この後の説話に長いものもあるので、バランスを考えて、今日はここまで。

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