第63話 建築ラッシュ
今度は避難させる人数が桁違いに多い。
建築ラッシュに沸く大樹の森の拠点。
一方で探しものをする次郎。
何を? そして見つかるのか?
お楽しみください。
ダイクン王国の国民を避難させる前に、やらなくてはならないことが山積みだ。
ダイクン王国の人口は、開戦前で約一万人。
大樹の森の拠点に入れることは出来るが、住む住居が無い。
いや、その前に、一万人を受け入れられる大きさに初期設計した前鬼を褒めねばなるまい。
前鬼は、「想定内です」とあっさりしたものだったが。
無駄に広場が広いな、とは思ってたけど、田畑の拡張を想定しているもんだとばかり思ってた。
前鬼の先見の明、恐るべし。
とまあ、こういう理由で、今は建築ラッシュだ。
住民総出に近い状態で皆手伝ってくれている。
アルメリア姫も、こちらの提供したツナギの作業服で一緒に作業してくれている。釘を運んだりとかの軽作業ばかりだけど、その心意気が嬉しい。
ただ、ドワーフ達の過剰労働が心配だが。
彼らは、放っておくと再現なく働いてしまうから。
事実、初日に10時間を超えて労働してた。
管理を任せたはずのドアンが、率先して休みなく働いていた。
怒った僕は、椿に労働管理を依頼して、1時間の昼休憩と合間にも小休憩をとらせ、実働時間を8時間以内にすることを徹底させた。
無視した者は、椿の冷気を浴びることになるか、強制的に眠りの世界に誘われることとなる。
雪女は気温と湿度を操る能力があるのだから、僕が人の睡眠に快適な気温と湿度を教え、サトリから簡単な暗示法を教えてもらって、うまくいったようだ。
「一段上の段階に登れた気がします」と、椿も喜んでいた。
椿も一人で管理することなく、教わった技術を雪ん子達に伝え、皆で交代しながら巡回することで、幅広くカバーすることが出来たようだ。
優秀優秀。
男を取り殺す技術も跳ね上がってしまったが、致し方ない。
アルメリア姫の屋敷と近衛兵達の住居兼官舎が完成し、もう一般国民の分に手をつけている。
一般国民の分は、とりあえずアパート形式の建築にしている。その方が建築効率が良いし、定住しない人達にも対応出来るからだ。
やる気のある人は、現住民の皆と同じように、働いて稼いだら、家を持つことも夢ではない。
ここでは、最初から賃金を発生させている。
例の管理者様の思し召しの通貨を使って。
価値観設定は、最初のエルフ達の色が濃厚だが、それは仕方がない。日々修正してるけどね。
管理者様もこの事態を想定してたの?
はるか彼方の方のお考えはわかるものでもないか。
また、住居建築とは別に、僕がしていたことがある。
それは、隠形鬼探しだ。
新たな召還が必要かと思ったが、牛頭と馬頭の話では、隠形鬼は名前ではなく、能力が現す鬼の形態だと言う。
そこで、今いる鬼達の中に隠形鬼を探してもらったら……居るわ居るわ、12人も居た。
案の定、全員コボルト戦の遊撃要員。
と言うか、一朗太と鈴蘭も隠形鬼だった。
灯台もと暗し。
僕が探していたのは、忍者の祖と呼ばれた固有名詞の隠形鬼だったんだけど、鬼の能力の一つだとは思わなかった。
結果的には、嬉しい誤算だったんだけど。
「いっさん、そんなに存在感あって、隠形鬼なの?」
「はあ。まあ」
「鈴木次郎様、お言葉ですが、ウチの一朗太の隠形鬼としての能力はピカイチなんですよ!
鬼の中でもおそらく一番の使い手です」
お見それしました。
なんか一朗太は、でかいし、デンとした風情が安定感があると言うか、隠形鬼のイメージとかけはなれた印象があったけど、人は見かけに依らないことを痛感した。
「じゃ、いっさんが隠形鬼チームのリーダーね」
「え!? なしてそんな……」
「承りました」
代わりに鈴蘭が返答してくれたから良し。
「大丈夫。
鈴蘭が補助してくれるし、なんとかなるよ、きっと」
「あんた、出世したよ。
良かったじゃないか」
鈴蘭が嬉しそうに一朗太の背中を叩いた。
「ワシはこのまんまで十分だったんだけどなぁ」
ウチは実力主義なんですわ。知ったからには逃がさんぜ。
というわけで、先行調査チームの出来上がり。
まずは、今現在のダイクン王国内がどうなっているのか、把握しておきたいんだ。
隠形鬼チームには、早速跳んでもらおう。
ダイクン王国までの道のりを記憶している近衛隊長に同行してもらい、サトリを通じて雲外鏡にイメージを伝達。転移先を掴んだら、皆で一斉に跳ぶ段取りを組む。
ただし、こちらの世界の人間が緯度経度を把握していないので、ダイクン王国までは小刻みに転移するしかないけど。
近衛隊長の名前はダリル・ローエンハイム。
そのダリル隊長からマウアー副隊長も同行させて欲しいとお願いされた。
マウアー副隊長はまだ若く、何事も経験させたい、とのことだった。
一理あるので許可した。
先行調査チームの出発日の早朝、僕とサトリに雲外鏡、隠形鬼チーム12名、そしてダリル隊長とマウアー副隊長が広場に集合した。
忍び込むのに、深夜の方が良さそうと思ったんだけど、一朗太によると朝も夜も変わらないとのことだった。
ーーー ダリル近衛隊長の視点です ーーー
ダイクン王国内の現状把握の為、ニンジャチームなるものが組織され、その道案内に請われた。
喜んで受けたさ。
後ろ髪を引かれる想いで国を脱出したのだ。
残された国民を心配しない訳がない。様子を窺えるだけでもありがたい。
スズキ・ジロー様には感謝しかないな。
出発日の朝、マウアーを伴って広場に来ると、盟主様と魔道具の鏡、そしてオーガ……いや、オニだったな……鬼が十数名すでに待っていた。
「お待たせして、申し訳ありません」
「いや、こちらもいましがた揃ったところだ。
雲外鏡、まずは南の草原の端まで頼む」
「畏まりました」
会話が出来る魔道具とは。
と思った瞬間には、盟主様と出会った草原に立っていた。
空間移動か。それも一瞬で。
まさに童話の世界だ。
この国は他の国々とは根本的に技術力が違う!
「近衛隊長と副隊長、ここから近い場所を思い出せ」
ダイクン王国からのルートで思い起こされるのは、やはり大蜘蛛の巣か。
また景色が変わった。
大蜘蛛の巣だ。しかもど真ん中!
大蜘蛛が何体も巣を張っている。
「邪魔だ。潰すぞ」
盟主様が号令すると、ニンジャチームは一斉に散らばった。
盟主様の目の前には一番大きな大蜘蛛が前足を立てて威嚇している。
盟主様のそばにはひときわ大きな鬼と女性の鬼が残っている。
「護衛を」
「いらん。他を潰せ」
盟主様はそう言うと、剣を抜いた。
少し反りが入った珍しい剣だ。
構えたかと思った時には、不思議な歩法ですでに大蜘蛛の眼前に移動していた。
いつの間にやら、目を一つ潰していた。
切ったのか、刺したのか、わからなかった。
私も剣にはそれなりの自負があるが……見切れる自信がない。
そして、大蜘蛛の足の一つを切り放したが……うまい。間接を狙って切り跳ばしたのだ。
大蜘蛛は図体の割には素早く動くので、正面に大盾持ちが立って牽制して、攻撃役が左右や背後から傷つけていくのがセオリー。
四~五人一組で挑むのが普通だ。
それを盟主様たった一人で、足を次々切り跳ばし、背後にも回って腹も大きく切り裂いていた。
野生の魔物の目が追い付けないのだ。
最後には、大蜘蛛の頭部と胸部、そして腹部も断たれていた。
鮮やかな腕前だ。
盟主様の体格に合った小剣で、力ではなく技で切ったのだ。
今は子供のお姿だが、この間見せた成人の体格で剣を振るえばいったいどうなるのだろう?
隣のマウアーも口を開けたまま、唖然としている。
彼女も剣に手を掛けているところを見るに、盟主様と共闘しようとしてたのだろう。
近衛隊長と副隊長が参戦する間も無く、終わらせてしまうとは。
辺りを見回すと、十数匹はいたはずの大蜘蛛が全滅していた。
これが大樹の森の精鋭部隊の実力か。
恥ずかしげもなく、武者震いが起きる。
マウアーの知見を高める為のはずが、私の経験の糧になってしまっている。
なんだか笑えてくる。
「なんだ?
ダリル隊長、笑ってるな」
盟主様が不思議そうに話しかけてくる。
「いえ、大変眼福でした」
「盟主様、一手ご教授ください!」
マウアーが前のめりに言う。
「機会があったらね。今は目的地に急ごう」
「はっ、失礼致しました」
そうだ。今はダイクン王国に向かわねば。
「雲外鏡、上空に逃げてたな」
「餅は餅屋と言いますよね?」
「今後もその調子で良いぞ」
「ははぁ。
ワシは良い主君を得ましたな」
鏡が少し羨ましくなった。
それから何度か空間移動をして、ダイクン王国の首都を眺める地点に到達したのだった。
ドアンさん、働きすぎは良くないよ。
ほら、次郎がカンカンになっちゃったじゃん。
罰として、サトリの強制睡眠の刑に処されたドアン。
良い夢見てね。




