第62話 鏡よ鏡よ鏡さん
みんなに相談する次郎。
自分の力だけで解決出来ないことを、他の人に相談するのは良いことですね。
果たして、解答を得られるか?
会議室に大妖達と正義に集まってもらった。
「みんなに相談したいことがある」
「どうしたにゃ?
何でも言ってみるにゃ」
アヤメの即答に、思わず笑みが溢れる。
「うん。
空間をねじ曲げる妖って居る?」
「空間を?
何が目的で?」
前鬼の問いは皆が思う疑問だろう。
「地球人では出来なかったワープが、妖なら実現出来るものがいるのかなって」
「フィラデルフィア実験の再現ですか?」
正義が第二次世界大戦中の有名な話を持ってきた。
「ああ、あれはねつ造だから参考にならないよ。
科学的に可能性のある理論は、たった一つ残ってるけど……実現不可能なんだ。
太陽を上回る質量って、扱えると思う?」
正義も押し黙っちゃった。
僕もフィラデルフィア実験に夢を見たなぁ。映画でも観たし。
「それでも、妖なら、不思議な妖術を扱う妖なら、出来るんじゃないかと思ってさ」
妖の起こす不思議な現象は、後で考えると、理論的には説明出来る。
ただし、地球の科学力では実現不可能なことばかりだけど。
だからこそ、期待したい。
「科学的なことはわかりませんが、空間を弄る妖なら一体だけ心当たりがありますよ」
おおっ、後鬼から光明が。
「どうなさるおつもりですか?」
続けて、後鬼は目的を聞いてくる。
「せっかくなら、避難民の要望を叶えてあげたいかなって。
でも、ダイクン王国までかなり距離があるからさ。
そこから国民を避難させるのは、現状では無理が有りすぎる」
「相変わらず、優しいというか甘いというか……」
後鬼がため息を吐く。
『それが主様の美徳でもあります』
サトリの言葉に、みんなが笑いながらも頷いてくれる。
「で、その妖って?」
「雲外鏡ですね」
後鬼から解答が出た。
「確かに。
居たと思ったら、フッと存在感が失くなるな」
前鬼は遭遇したことがあるみたい。
「ああ、あやつですか。
いつもコソコソしてるだけの妖でありんすよ」
『雲外鏡は、照魔鏡の付喪神です。
妖の正体を明かす妖でもあります』
「ホント、イヤなヤツでありんす!」
タマモは正体を明かされたことがあるのかな?
正体を明かされる前に、どこでなにをしていたかは聞くまい。
「でも、雲外鏡がいっぱい人を運んだにゃんて、聞いたこともないにゃ」
「いや、空間をねじ曲げられるなら、それで良い」
ワープ・ドライブが可能だろう。補助はこちらで補えば良い。
「では、広場に行きましょう」
後鬼が立ち上がって、みんなを促す。
「ほらほら、あなたも立って。
召還するのでしょう?」
後鬼ママは切り替えが早い。
「ならば、我ら全員で行かねばなるまいな」
「おうよ」
(……面白そう)
「ピュピュピィーイ♪」
「い、行きます」
「行くでありますですはい」
「私も同行します」
「なんか楽しそう」
「私はなんでも構いません」
「ホッホッホッ。
妖召還見物と参ろうではないか」
「キュオ」
みんな一緒に来てくれるらしい。頼もしいね。
大妖達と正義が揃った広場で、住民達も遠巻きで覗いている。
妖召還では、下手に近寄ってはならないことは十分伝わっている。
「何が行われるのでしょうか?」
「しっ!
ジロー様の集中を乱してはいけないわ」
アルメリア姫とエリシャンテもいるようだ。
「では、始めるよ」
大妖達が一斉に身構える。
僕は丹田に集中し、両手を勢いよく合わせる。
「召還!」
唱えた瞬間には、もう目の前にいた。
大きな鏡だ。
宙に浮いている。
なぜか、少しふわついているようにも見える。右に行ったり、左に行ったり。
「無駄にゃ。
ここは、あたしの結界の中にゃ。
逃げられにゃいよ」
ナイス、アヤメ。妖が逃走するなんて、思ってもみなかった。
『雲外鏡。
主様の御前です。
大人しく伏せなさい』
サトリが指示する。
「は、ははぁ。
痛いことしないでくださいね」
宙に浮いていた鏡が地に着いた。
鏡そのものが喋るんだ。無機物と会話は初めてだなぁ。
おや? 鏡面が少しずつ曇ってきたか?
「僕は鈴木次郎。
君を召還した者だ。
君が雲外鏡かい?」
「ははぁ。
鈴木様には、ご、ご機嫌麗しゅう。
こ、これなるは、照魔鏡の付喪神、雲外鏡でございます」
ちょっと緊張しているようだ。
「君には期待している。
これから仲間として、よろしくね」
「す、鈴木様の麾下として、励みまする」
気弱な妖なのかな? 優しく接してあげないと。
「雲外鏡。
お久しぶりでありんすねえ。
その節は色々とお世話になったでありんす」
タマモの笑顔がめちゃ怖い。
「ひょえー! 九尾狐!
た、退避せねば!」
「だから、あたしの結界内だって言ってるじゃにゃい」
「かぁ~。
猫又の菖蒲かや。
え? あれ? 犬猿の仲の二人が何故に?」
「なんにゃ!?
あたしにもケンカを売るのかにゃ!」
まあまあ、アヤメにタマモ。抑えて抑えて。
アヤメとタマモがコンビ組むと恐ろしいんだろうな。なんとなく想像出来る。
『昔話に花咲かせるのは後でいくらでもしてください。
雲外鏡。
主様に忠誠を誓いますか?』
サトリが珍しく突っ込む。
「その声はサトリか……。なんとまあ、次から次へと。
…………誓おうではないか」
『では、あなたの核を主様に差し出しなさい』
「そ、それは!?」
雲外鏡の鏡面がぐるりと一周する。
「……いや、状況を把握した。
大妖達がこうまで集っているとはな。
鈴木様、これがわしの核ですわ」
雲外鏡がそう言うと、目の前に光が灯る。
『主様。
それを飲み込んでくださいませ。
害はありません』
サトリの言う通りに光を吸い込み、嚥下する。
『これで主様は雲外鏡を思う様扱えます』
特に身体に変化は見られないが、サトリが言うなら、そうなんだろう。
(雲外鏡は逃げに定評がある妖でございます。
他の大妖達は気概を持った者達ばかりですが、雲外鏡は疑わしいのです。
存在は知られておりますが、どの妖とも交流はありません。
また、付喪神はそれぞれ核というものがあり、それが本体になります。
念のための措置を取りました)
サトリが念話で説明してくれた。
なるほどね。
雲外鏡が逃げに徹すると、誰にも捕まえられない、ということでもある訳か。
まず、雲外鏡にワープ・ドライブ……転移の確認と検証をしてみるか。
「雲外鏡。
ここから、あの真神のところまで転移出来るか?」
「容易きこと」
雲外鏡がそう言ったと思った瞬間には、すでに真神の前にいた。
空間が歪むとかそういった現象は見られなかった。
「戻れ」
「はいな」
もう目の前だ。
素晴らしいな。間髪入れずに転移出来るようだ。
「では、今度は僕を連れて転移してもらおうか」
雲外鏡に指定場所を伝える。
「ほうほう、畏まりました」
その瞬間、景色が変わり、目の前に狼の耳をしたヤツがいたので、蹴りを入れて再び転移する。
「あいたっ!」
遠巻きのギャラリーから、ハヤテの声が聞こえた。
「ホッホッホッ。
鈴木様は、転移の楽しみ方をご存知のようだ」
雲外鏡の知らないナターシャの下へと伝えたが、これは無理だった。
「今度は、僕だけ転移させて、また戻すことは出来るか?」
「最初の転移は出来ますが……再度の転移は出来ませぬ」
やはりか。ワープ・ドライブそのものだな。
「わかった。
では、アヤメを残して大妖達全て、大樹前まで転移させろ」
「ははっ」
アヤメの隣に真神が居る。
真神がお座りして後ろ足で耳を掻いてる。
笑わせてくれる。
真神、それは君の高速移動じゃないか。なんでもない風を装ってるけど、それくらいわかってる。
「あ、あの犬神は自分で移動してきましたぞ!」
「本当に我を動かしたのかぁ?
疑わしいぞ」
「真神、あまり雲外鏡を虐めてやるな」
笑いを堪えるのが大変だ。
まあ、とりあえずは大人数の転移も可能なことがわかった。
しばらく待つと、みんな戻ってきた。
「なんでありんす!
転移したら、しっぱなしじゃありんせんか!
雲外鏡、おまえは地獄を見たいのかえ!?」
「ひええ!
ち、違う! わしじゃない!
鈴木様のご命令で仕方なく……」
あれ? 正義が走ってくる。
「私まで跳ばされました。
が、良い経験でした」
さすが正義。爽やかに笑ってる。
「ほ? 妖ではなかったのですか?」
ああ、そういえば、正義は八岐大蛇の加護をもらって、妖力が半端なく付いたんだった。でも、雲外鏡が間違えるほどとはね。
正義もこちら側に踏み込んで来たかな?
ま、雲外鏡の能力もだいたいわかった。
ひとまずこれで解散で良いだろう。
これから、ダイクン王国の国民を避難させる計画を練らなきゃだ。
「鏡よ鏡よ鏡さん」って、幼児番組のロンパールームが最初らしいですね。
作者は普通に白雪姫のセリフだと思っていました。




