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第61話 大樹の森の盟主

大樹の森の拠点に到着したアルメリア姫一行。

そこで目にするものは驚くことばかり。

伽噺とぎばなしが現実になった。

大樹の森の拠点に到着してみると、大妖達から正義まさよしやナターシャ達まで、主要メンバーが全員揃ってた。

「この人達を降ろすのを手伝ってくれない?」

そう言いながら、アルメリア姫を抱えて飛び降りる。

再び八岐大蛇やまたのおろちの背に飛び乗ると、

「次郎様はやらなくて良いにゃ」

「次郎様が為さることではありんすえ。

ここはあちき達にお任せくださいませ」

と二人して言う。

じゃあ、お任せしようかな?


「ご主人様、ちょっと」

前鬼ぜんきが呼ぶので、近くに寄る。

(あの女性が、おまえじゃなきゃ降りないと頑なでな。

頼めるか?)

前鬼ぜんきがこそこそ話で話し掛けて来た。

言われてそちらを見ると、姫付きの侍女さんがいた。

さっき悲鳴を上げてたよな?

吊り橋効果か?

まあいいや。さっさと連れて降りよう。

侍女に手を差しのべると、両手を広げて積極的に迎えられた。

ちょっと強めに抱きつかれる。

さっきの姫様もそうだったけど、やっぱり怖いのかな?

安心させる為に、頭をポンポンと二回軽く触れてあげる。

「大丈夫だから」

「はい!」

侍女さんをお姫様抱っこして飛び降りる。

地上に降りて、侍女さんの足を地に着けたのに、首をなかなか放してくれない。

「エミリア!

盟主様から離れなさい。

盟主様が困っておいでです」

アルメリア姫が助け船を出してくれて、解放された。

往々にして皆が揃う。


「また避難民ですね」

「大樹の森の拠点は、避難民を引き寄せる何かがあるのかものう」

「トン汁の匂いが引き寄せてるのかもな! ハハハッ」

「でも、避難民からしたら、大変幸運なことですねぇ」

ナターシャ、ハヤテ、ドアン、エリシャンテが口々に話す。

ひとまず、紹介だけはしておこう。

「彼らはダイクン王国の第一姫君とそのご一行だ」

アルメリア姫が一歩前に出る。

「ダイクン王国第一姫のアルメリア・ダイクンと申します。

今後とも宜しくお願い致します」

アルメリア姫が綺麗なカーテシーで挨拶する。

「整列!

大樹の森の盟主様に対し、敬礼!」

近衛隊長が号令する。

ダンッダンッ「ハッ!」

足を二度踏み鳴らし、右腕を水平に胸に持っていくのが、彼らの敬礼なのだろう。ちょっとカッコ良かった。

僕もゴーグル付き飛行帽を被ってたので、挙手の敬礼をして答礼する。

しっかり左右の近衛兵を見渡してから、顔を正面に戻し、敬礼した手を下ろす。

「なおれ!」

やっぱり、軍隊は似たような形式だね。


短い挨拶だけで終わらせ、避難民達を宿舎に向かわせる。

お風呂にも入りたいだろうし。

そこで、エリシャンテが話し掛けて来た。

「ジロー様ぁ。

あのアルメリア姫なんですが、一応、エリの知り合いなんですぅ。

エリが案内した方が良いですよねぇ?」

「え、そうなの?

窓口になってくれると助かる。

お願い出来る?」

「ジロー様の命とあれば、喜んで」

いつもポヤポヤのエリシャンテが積極的だ。

後で聞いた話では、ドラド族とダイクン王国は交流があり、貿易も行っていたとのこと。

エリシャンテとアルメリア姫は、お互いの姫様同士として交流していたらしい。

エリシャンテに案内を任せて、その場は解散とした。



余談

「アル。私が宿舎まで案内するから

、ちょっと待って」

「え? エリシャンテ様!

エリシャンテ様が何故ここに!?」

よく見知ったエリシャンテの登場に驚くアルメリア。

兄弟の無かったアルメリアからすると、幼い頃から姉のように慕ってきたのが、ドラド族の姫のエリシャンテだ。

人口からすると、ダイクン王国が一万人、ドラド族が数百人とかなり規模が違うが、ドラド族は竜神の加護のおかげで、一国として認められていた。

また、エリシャンテもアルメリアを妹同様に可愛がっていた。

「私もあなたと似たような境遇ですねぇ。

街はオーガに蹂躙されましたし」

「では、ドラド族の皆様も……」

「今はここにいる50名ほどよ」

「エリシャンテ様も同じ目に逢われたのですね……」

「でもぉ、ジロー様に助けていただいたわ。

八岐大蛇やまたのおろち様と共にね。

今は幸せよぉ」

「あ、あのエンシェントドラゴン様!

すごいですわよね。頭もいっぱいあって。」

「エンシェントドラゴンねぇ……。

間違いでは無いけど、八岐大蛇やまたのおろち様は私達が崇める竜神様のその先にいらっしゃる方だから、言葉に気をつけてねぇ」

「ええ!?

どうしましょう?

私達、散々エンシェントドラゴン様とお呼びしてしまいました」

「それくらいで怒る方では無いけど、繰り返して言わないでねぇ。

また後程、私の方からお話しておくから。

私達も今は八岐大蛇やまたのおろち様からご加護がいただけるように精進しているところなの」

「エリシャンテ様はすでに竜神様のご加護があるのでは?

それに、エリシャンテ様はドラド族一番の使い手だったはずではありませんか」

「そうだったのだけれど、たった一人だけ、八岐大蛇やまたのおろち様のご加護を頂けたの。

その瞬間、私は二番手になってしまったわ!」

キッと前方を見つめるエリシャンテ。

「きっとその方はすごい方なんですね」

「元々優秀な人だったし、ジロー様の同郷の人なのだからというのもあるけど……私も負けてはいられません。

日々努力するだけですわ」

「さすが、エリシャンテ様だわ。

私もエリシャンテ様のように努力致しますわ」

「ええ、お互い頑張りましょう」

珍しく、普段のポヤポヤが抜けて、キリリとしたエリシャンテだった。



余談

「やらなくて良いって言ったのに!次郎様ったら!

それになに、あのおんにゃ!」

「あのあまぁ!。

メスの匂いをプンプンさせて、鼻につくでありんす」

「それに、姫様が恋する乙女の目をしてたのも気になるにゃ」

「あら、あのお嬢ちゃん、そうだったの?

そんな素振りは見せなかったでありんすが」

「ちっちっちっ。

甘いであ~りんす?

立場をわきまえた振る舞いをしてるだけにゃ。

目はずっと次郎様を追っかけてたにゃ」

「下手くそな真似しないでよ、もう。

大衆の和に入っていたあんたが言うのだからそうなんでしょうけど。

所詮は小娘でありんす。

気にするほどもありんせんよ」

「でも、一国の姫という立場を持ってるにゃ。

……あれ? 大妖と姫、どちらが立場が上にゃ?」

「大妖ではなくて?

あちきは国をいくつも滅ぼしてきましたし、あちらはたった一国の姫なんしょ?」

「そういうもんか」

「そういうもんよ」

あやかしらしい論法だった。



余談

あたしはダイクン王国近衛副隊長のマウアー。

首狩りマウアーと呼ばれて三年経った頃に、近衛兵に抜擢された。

それからまた頑張って来て、ようやく近衛副隊長に地位にたどり着いたの。

……もう母国が失くなったけどね。

あたしは首狩りマウアーとして最後まで戦う、と訴えたけど、隊長に諭された。

近衛の誓いを忘れたか?

国民を守るのが王族の義務。

我々はその王族を守るのが任務だ、と。

近衛兵は軍の所属から逸脱し、王直轄の組織になる。

そして、王の勅命は姫様の護衛だった。


国からの脱出は、極めて困難な道のりだった。

敵兵に悟られず、遠回りしたこともそうだったけど、北上するにつれて、遭遇する魔物達が強くなっていった。

戦いに戦った。

幸いなことに、誰一人として欠けることもなく、北の草原までたどり着いた。

そこで、伝説のフェニックス様と出逢うなどと誰が想像できただろう。

確かに、姫様の命で伝説のフェンリル様が住まうとされている大樹の森を目指していたが、別の神獣様に遭遇するなんて。

そして、フェニックス様が会話出来ることにも驚いたが、後にフェンリル様とエンシェントドラゴン様まで来るとは。


もうその時は、あたしは絵本の登場人物になっていた。

そして、エンシェントドラゴン様の背に乗せていただくことも、その飛ぶエンシェントドラゴン様より早く走り抜けるフェンリル様の姿も、隣に一緒に飛んでいるフェニックス様がいることも、現実とは思えず、何度頬をつねったことか。


また、大樹まで徒歩では一年近くかかるであろう距離を、一刻足らずで到着してしまうなどと、誰かに話したら笑われるに決まってる。

でも、ここでは全て現実だった。

特に大樹の下に到着してから、主だった方々にお会いした瞬間、現実に引き戻されたと言った方が正しい。

そこに並んだ人達は全て猛者揃いだ。

首狩りなどと呼ばれたあたしなんか、可愛いもの。

クリムト帝国のオーガなんて怖くもなんともないが、あの人達を目の前にして生きてることに感謝しろ、と本能が訴えてきた。

その人達が崇める盟主様というのも不思議な方だ。

最初に出会った時は、単に普通の可愛らしい子供と思い、特になんとも感じ無かったが、突如成人男性に変身してあたしを抱えて飛び上がるのには驚いた。

ちょっとカッコ良かったし。

姫様や侍女がイカれたのもわからないでもない。

それでも、まだ普通の男性っぽかったし、最後までそうだった。

姫様との会話のやり取りでも、伝説の国の王と姫様の政治的やり取りなんだから、まあそんなもんだろうと思っただけ。

ただ、猛者達が心酔していることが雰囲気で伝わったけど、盟主様にそういう……なんだろ?……王威と言うのかな? それが感じられなかった。

本当に不思議な方。


案内された宿舎もすごかった。

男女別の大きなお風呂までついてる。

貴族でもないのに、ちゃんと湯船に浸かれるのよ。

長旅の垢も落とし、湯船に浸かったら、極楽を味わったわ。

お風呂から上がると、部屋着を用意してくれてた。

その後の食事も絶品だった。

特にあのトン汁というスープ。

変わった味付けだけど、馴染みがないだけで、美味しいことには変わりない。

おかわりはいかが、と言われた時に、近衛兵全員が立ち上がったのが可笑しくて、大いに笑った。

あたしもおかわりしたけど。


また、一人一人に個室が与えられ、皆恐縮したが、部屋の作法が一風変わったものだった。

部屋一面にタタミというのが敷かれ、土足禁止なのだ。

不便だなと思ったが、過ごしてみると良さがわかった。

部屋で好きなところに座れるし、寝っ転がれる。

ベッドの代わりにお布団というものが敷かれ、それも快適だった……と思う。

お布団に入った後の記憶が無いのよ。

気付いたら朝だった。


翌日、隊長と盟主様の話をしたけど、

「そうか。マウアーにはわからなかったか。

様々な国には様々な王がいるが、ああいう王は稀であろうからな。

いずれマウアーにもわかる時が来るだろう。

戦時にでもなればな」

なにやらわかったようなわからないような回答をもらっただけだった。

本当に不思議なお方。


おかげさまで読者様が1,000人を突破しました。

感激です♪

これからも、戦闘シーンとほのぼの路線を交互に内包させて行きます。

お楽しみ下さい。

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