第60話 避難民を迎えに行こう
もう幾度目の避難民か。
次郎は構わず迎えに行く。
今回は事情を抱えた避難民。
次郎はどう導いて行くのであろうか。
冬を迎えようとしてるこの時期に、八咫烏から、衝撃の報告を受けた。
またまた草原に避難民が現れたというのだ。
もう何回目?
またトン汁の宴が開催されることになるだろう。僕は学習したのだ。
ただし、今回はちょっと複雑。
この間、戦端を切ったクリムトを王とする国、クリムト帝国と言うらしいが、そこと戦争して敗戦国となった姫が避難民だと言うのだ。
避難民が誰でも、救援することには変わらないけどね。
「サトちゃん、真神と八岐大蛇を広場に呼んで。
草原に現れた避難民を迎えに行く。
サトちゃんも一緒に来てね」
『委細承知致しました』
「前鬼、後鬼。
避難民を迎えに行ってくる。
後は頼んだ」
「行ってらっしゃい」
執務室にいた二人に声を掛け、広場に向かう。
広場に行くと、すでに真神と八岐大蛇が待っていた。
「主殿、また避難民だそうで」
「真神はもう慣れっこだね。
だけど、今回は厄介ごとを抱えなきゃならないみたいだ」
「何を今さら。
避難民を受け入れた後に、厄介ごとが無かった記憶が我にはありませんな」
「ハハハッ。そうかもしれない」
「次郎殿は、そういう星の下に生まれたのであろうな」
真神に加え、八岐大蛇も笑う。
頼もしい限りだ。
「場所は草原の南端だ。
道すがら、ヤタの報告を共有していくよ」
八岐大蛇は元のサイズに戻ってもらい、それに飛び乗る。
もちろん、ゴーグルは忘れない。
強風で、あばばばってなりたくないからね。
真神は、走った方が早い、と飛行は拒否。
さあ、迎えに行きますか。
お姫様を。
八岐大蛇の飛行は結構早いはずなんだけど、真神の方が先行してる。
飛行機をぶち抜く自動車がイメージされて、頭が混乱しそうになる。
草原の南端に来た時には、真神がきっちりお座りして待っていた。
あ、また、避難民からフェンリルって言われてる。
あまり言わないで。
本人、結構気にしてるから。
八岐大蛇も着陸する。
ズズンって大地に響く。
八岐大蛇も多頭竜って呼ばれてる。
それも訂正したい。
竜じゃなくて龍ですよ。
竜より高みに登った龍です。
八岐大蛇の背から飛び降りる。
「とうっ」
言ってみたかったセリフその3が言えた!
ホントは、その前に「変身!」もつけたかったけど、まあいい。
八咫烏も僕の隣に降りてきた。
「僕は鈴木次郎です。
大樹の森から迎えに来ました」
挨拶は先手必勝。先に挨拶したもん勝ちなのさ。
「申し遅れました。
ダイクン王国の第一姫、アルメリア・ダイクンと申します」
アルメリア姫はきっちりとしたカーテシーで挨拶して来た。
ん?ダイクンだと?
親族にキャスバルとかアルテイシアとかいませんか!?
「何故子供が?」
「遣いの者か?」
近衛兵らしき人達がざわめく。
こちとら慣れっこなんでい。
「貴様ら、我が主殿に気安いぞ。
ここにおわすのは、大樹の森の盟主なるぞ」
真神が唸り声を上げ、八岐大蛇も咆哮を上げ、さらに八咫烏まで甲高く鳴き、羽を広げ輝きが増す。
「と、共の者が失礼を致しました。
何とぞ、ご容赦くださいませ」
アルメリア姫が必死に懇願してくる。
「みんな、もういいから」
三人を宥めてから、アルメリア姫に向く。
「こちらこそ、ウチの家族がごめんね。
礼を持って礼に接す。
ちゃんとしてくれれば、こちらも相応に接するよ」
少し釘を刺しておく。
「ありがとうございます。
皆の者、お相手は大樹の森の盟主様です。
敬いを忘れず、きちんと対応をしなさい」
「「「はっ」」」
アルメリア姫はこちらに向き直る。
「大変失礼致しました。
代わって謝罪致します」
王族が頭を垂れているんだ。アルメリア姫は、しっかりとした教育を受けているのだろう。
「盟主スズキ・ジロー様。
フェニックス様にはご説明申し上げましたが……」
ん?八咫烏がいつの間にやらフェニックスになってる。
「聞いてるよ。
それで、君たちはどうしたい?」
アルメリア姫の言葉を遮り、話を進める。
「ダイクン王国は敗れたとは言え、国民のほとんどが王国内におります。
おそらく奴隷にされると思います。
なんとか、お救いいただけないか、と」
大事なことなので、さらに突っ込む。
「ダイクン王国の復興と国民の救出、どちらを望む?」
「国民の救出をお願いしたいと思います」
ほう。国より民を大事とするか。
「復興は望まないのか?」
さらに意地悪く、追及する。
「それは……元の暮らしに戻りたくはありますが、すでに王は倒れ、国は荒らされております。
私では国を引っ張って行くことなど、とても出来るとは思えません」
アルメリア姫の身体が少し震えている。限界だな。
「合格だ。
国は民あってこそのもの。
国を形成する民が寄り集まれば、そこがどこであろうと、国が出来る。
とりあえず、君達を受け入れよう。
ただし、君達を受け入れるだけだ。
ダイクン王国の民の救出は確約出来ない。
……努力はするがね」
アルメリア姫が膝から崩れ落ちる。
「姫様っ」
侍女に支えられ、アルメリア姫が顔をこちらに向ける。
「あ、ありがとうございます。
ありがとうございます……」
侍女と二人して大泣きしている。
気丈に振る舞っていたが、こうして見ると、普通の15歳くらいの女の子だもんな。
大妖達に囲まれ、僕からは意地悪なことを言われたから、そりゃ、極度に緊張したことだろう。
でもね、こちらも住民を抱えているんだ。
そう安請け合いなど出来ない。ごめんね。
サトリからも、特に不審な点は報告無かったから、大丈夫でしょ。
「さて、馬車や人は八岐大蛇に運んでもらうとして、馬をどうするか、だなぁ」
『主様。私が誘導しましょう。
護衛は真神の眷属狼で十分でしょう』
「ええ~、サトちゃんが付きっきりはダメだよ」
『ご心配無く。
大樹を目指すよう、暗示を掛けるだけです。
少々強めに掛ければ、こと足りるでしょう』
サトちゃん、そんなことも出来るんだ?
いつでも教祖様になれるね。
『私の教祖様は、主様ですよ。フフフ』
一本取られたぁ。
「八岐大蛇、たくさん運ぶことになっちゃって、ごめんね」
「なんのなんの。
この程度、軽いものであります」
あ、八岐大蛇の背中までどうやって運ぼう?
……仕方ないか。
「はいはーい。皆さーん。
これから八岐大蛇の背中に乗ってもらいます。
馬車も持ってもらうよ。
馬は、この狼達が誘導と護衛をするから安心してね~」
そう言ってから、丹田に力を込める。
ぐぐっと身長が伸びるのがわかる。
うーん、惜しい。
20歳くらいかな。
アルメリア姫の下へ向かう。
「アルメリア姫、失礼するよ」
まだ膝つきの状態のアルメリア姫を抱える。
「えっ、えっ!? 盟主様!?」
姫様をお姫様抱っこか。なんか笑えてくるな。
「しっかりつかまっててね」
両足に力を込める。
ひとっ飛びで行けるようにジャンプ。
「はうぅっ!」
可愛い声を頂きました。
八岐大蛇の背中にそっと降ろす。
「座って待っててね」
「あ……」
アルメリア姫の手が伸びて来たので、一度しっかりと手を握ってあげた。
次々運ばなきゃならないので、すぐ飛び降りる。
八岐大蛇の背中と地上を何度も往復して気づいたけど、飛ぶ時の感嘆詞って人それぞれなんだね。
だいたいは堪えているようなセリフなんだけど、一人「ヒャッホー♪」と言う強者もいた。
だけど、侍女さんの「あぁ~れぇ~!」は無いんじゃないか?
まるで僕が人攫いみたいに聞こえるじゃん。
全員の騎乗?が済んだので、八岐大蛇に出発するように頼んだ。
ぐんっと重力が身体に掛かった後、大樹の森の拠点を目指す。
「す、すごい!」
「素晴らしい眺めだ」
近衛兵達は肝が座っているようで、飛行を楽しめる余裕が出てきたようだ。
「おおっ、エンシェントドラゴンの背に乗れるとは!」
あ、それほぼ正解。
余談
一行は大樹の森の拠点に到着寸前。
「姫様、ご覧ください。
大樹がこんなにも大きいとは」
アルメリア姫付きの侍女が感動している。
「なんて立派な木でしょう……」
アルメリア姫の視線も大樹に釘付けになる。
「砦だ!
大樹を囲むように砦が築かれているぞ」
「防壁の周りにも、しっかりとした堀がある」
「防壁の上の見張り兵が皆、手を振っている?
ああ、盟主様に手を振っているのか」
見張り役の手振りに、次郎も笑顔で手を振り返す。
「あの見張り兵、オーガではありませんか?」
近衛兵の女性が近衛隊長に聞く。
「他にも獣人もいたが、私はエルフなんて初めて見たぞ」
近衛隊長は視力が良いようだ。
「いずれにしろ、大樹の森の盟主様は、あの全てを統率しているのだ。
逆らってはならん」
「ええ、フェニックス様にフェンリル様、エンシェントドラゴン様まで従えてますしね。
なんだか私、お伽の国に来た感覚ですよ」
大樹の傘の下に広がる街並みを見て、余計にそんな感覚に打たれることだろう。
「皆、着陸するよ。
衝撃に備えて」
次郎の指示に従って、皆身構えるのだった。
余談
「姫様、いかがなされました?」
アルメリア姫の呆けている様子を侍女が心配して声を掛ける。
「殿方の胸に抱かれるとは、あのような心地なのですね」
「姫様、しっかりなさってください」
「盟主様が……スズキ・ジロー様が、私の手を握りしめてくださいましたの」
気丈に振る舞う亡国の第一姫が、今はただの乙女になっている。
次郎が聞いていたら、「単なる吊り橋効果」と言いそうだ。
「姫様、今は現実にお戻りください。
これからが本番なのですから」
「えっ! 本番!?」
赤くなる頬を押さえるアルメリア姫。
(大樹の森の盟主様は危険だわ。
あの気丈な姫様が一発で落ちるなんて)
アルメリア姫は、立場と美貌が噛み合って、かなりの求婚を受けていたが、決して誰にもなびかなかった。
どんなにイケメンな貴族であろうが、男らしい騎士であろうが、アルメリア姫の気を惹くことはできなかったのだ。
(子供の容姿なら大丈夫だったのでしょうが、あのような素敵な男性になられては…………。
ハッ、ダメよ。私まで取り込まれては。
姫様をお守りすると誓ったのですから。
それに……エンシェントドラゴン様の背に乗せていただく際に、情けない声を出してしまった私に微笑んでくださったのです…………。
「大丈夫?」と頭をポンポンはズルいですわ!
あれは、あれは……もう一度していただけるでしょうか?)
無自覚に、今後の波乱万丈な展開を生みそうなフラグを立てる次郎だった。
真神と八咫烏はどっちが速いんでしょうね?
食べるスピードなら八岐大蛇なんでしょうけど…………あ、ヒルコが良い勝負するかもしんない。
設定では、主人公はこれほどモテるはずじゃなかったのに…………どうして、こうなった?




