第58話 焼き鳥
無事に撃退に成功した次郎達。
しかし、戦後処理に頭を悩ませる。
そのまま放っておくことも出来ない。
どうする?
コボルト戦もようやく治まったようだ。
しかし、この後の処理が大変だ。
西の森の中はコボルトとオーガの死体だらけ。
このまま放置して、病原菌を撒き散らされては困る。
住民総出で森から引きずり出す。
出るわ出るわ。
全部で2,000体ほどにもなる。
よくもこれほどの数が潜んでいたものだ。
とりあえず、大樹の森の拠点前にうず高く積み上げた。
タマモの鬼火で焼き尽くせるかな?
タマモを呼び寄せる。
「タマモ、済まないが、これを焼き尽くせる?」
「そうですねえ。
焼くことは出来ますが、どうしても燃えカスは残るでありんすよ」
そうだよなぁ。
でも、殺菌処理にもなるから、焼くことになりそうだ。
(パパ……任せて)
タマモに抱かれているヒルコから念話が入った。
「ヒルコ、どうするの?」
すると、ヒルコが歌い出した。
ピッピッピューイ♪
ピッピッピューイ♪
いや、スライム達を呼んでいるのか?
西門から続々とスライム達がやって来る。
スライム達が、コボルトやオーガの死体をぐるりと取り囲んだ。
ピューーーイピッ!
ヒルコが号令したようだ。
スライム達は、ポンッポンッと跳ねて行き、頂上あたりで静止する。
その頂上が徐々に低くなってきた。
ヒルコによる進化で強化された溶解液で溶かしているのだ。
ちなみに、回復スライムはこの中にいない。
治療の真っ最中なのだ。
ヒルコもよくわかっている。
あれだけあった死体が、一時間もしない内にほぼ消えていく。
高さを数十センチほど残して、スライム達の饗宴が終わったようだ。
ヒルコがこちらに跳ねて来る。
(パパ……魔石)
ヒルコが身体から取り出し、渡してきたものは魔石だった。
大人の拳ほどもある大きな魔石だ。
オーガのものか?
「ヒルコ、そしてスライム達。
ありがとう。
すごく助かった」
お礼を述べると、スライム達が一斉に歌い出した。
ピピピッピーーーピッ♪
ピー♪ピー♪ピー♪ピピピー♪
スライム合唱団の再演だ。
「みんな、悪いけどもう一踏ん張りお願い。
スライム達が魔石を取り出してくれた。
回収して、ドワーフの工房へ運び込んでくれ」
「ま、待ってくれ!
こんな大量の魔石じゃと、工房に入りきらん」
ドアンが慌てて止めに来る。
えー、どうしよう?
「ご主人様、第一集会場なら今は空いています」
ナイス、後鬼。
「ごめん。
運び先を変更します。
第一集会場へ持っていって」
再度指示を出す。
ドアンが、でかい魔石は工房に、とか言ってるけど、そっちでやってね。
「ドアン、魔石を入れる箱とか、用意しなくて良いの?」
「ハッ! いかん。こんなことしとれん!」
珍しく、ドアンがダッシュして西門をくぐって行った。
あとで、牛頭が魔雄牛にリヤカーを引かせて、効率良く運び入れてくれた。
今日の夕ごはんは、戦勝パーティー。
そうなんだけど、またトン汁なの?
戦勝祝いでトン汁が振る舞われる大樹の森の拠点では、日本の常識が崩れ去っていく。
いや、他にも料理は色々あったけどね。
僕は、焼き鳥屋さんになってた。
住民に感謝を込めて、奉仕するんだ。
今回はタレにこだわった。
甘口・辛口は当たり前。
単純な塩だけも用意したが、わざわざ塩ダレも作った。
刻んだ玉ねぎに塩とレモン汁を入れ、ちょっとズルして後鬼から仕入れた塩麹を封入。
寝かせてる暇は無いので、思いっきりシェイクシェイク♪
これで四種類の準備が整った。
やってみて一番大変だったのは、意外にも塩。
タレ三種は、串に刺した鳥肉をタレにくぐらせて焼けば良いけど、塩はその加減が難しい。
最初に自分で試食用に、均等に塩を振って焼いてみたけど、なんか違う気がした。
よくよく考えてみて、はたと気付いた。
串に刺した肉の大きさがまちまちなのに。
また部位ごとに肉の味わいが違うことにも、思い至った。
さすがに、焼き鳥屋さんでバイトしたことないので、適正な塩加減がわからない。
なので、塩を注文してきた人には素直に自信がないことを伝え、了承してもらった上で提供した。
焼き鳥も奥が深い。
余談
「旦那様、焼き鳥屋さんがありますよ。ほら」
「おう……って、なんだぁ?
ジロー様がやってるのかよ。
大丈夫なのかぁ」
「そう言うヤツに提供するものは無い!
あ、橋姫は美人だから、喜んで提供するよ」
な、てめえ、と言うハヤテの隣でクスクス笑う橋姫。
「橋姫、塩ダレがおすすめだよ。
ハヤテは塩な」
橋姫には塩ダレ、ハヤテには塩の焼き鳥を差し出す次郎。
「コノヤロ…………おん、うめえじゃねえか」
「こちらの塩ダレも美味しゅうございますよ。
ほら、旦那様、あーん♪」
「あーん♪」
焼き鳥を焼いてる串が震える次郎だったが、橋姫に甘口、ハヤテにもう一度塩を提供する。
二人共に美味しいとの評価を受け、やや項垂れる次郎だった。
塩加減を習得しつつあることを自覚しないまま。
余談
「次郎、どう?
うまくやってる?」
前鬼と後鬼が次郎の焼き鳥屋の様子を見に来た。
「焼きはうまくいってると思うんだけど、塩の加減がまだ……」
「一朝一夕にはいかないわよ」
後鬼は笑いながらも、塩ダレを注文する。
「私は塩だ」
前鬼はただ一言述べる。
「あ、いや、だから、塩加減が……」
「もう、仕方ないわね。
前鬼に塩を出してあげて」
しぶしぶ前鬼に塩を、後鬼に塩ダレを出す次郎。
(むっ、うまいぞ!
どこが問題なんだ?)
前鬼が首を傾げている。
それを見た次郎は、ほら、やっぱりね、と思うのだった。
「もう一本、塩」
前鬼が追加注文する。
「そうね。私も塩をもらおうかしら」
ええーと言う次郎を後鬼が急かす。
「あんまり苛めないでよぉ。
はい、塩二本ね」
塩を受け取った後鬼が一口、口にする。
「次郎、頑張んなさい。
精進あるのみよ」
「はぁい」
二人は焼き鳥屋を後にする。
「いったい、これのどこがおかしいというのだ?」
前鬼が二本目の塩焼き鳥にかじりつきながら、後鬼に呟く。
「いいえ、なんら問題ないわよ。
むしろ、美味しいと思うわ」
「なら、何故?」
「あの子、食には並みならぬこだわりがあるのよねぇ。
まあ、ああ言っておけば、おごらず努力するでしょ」
やはり、塩加減を掴みつつある次郎だった。
余談
「鈴木次郎様、塩を二本お願いします」
「や、ワシは甘口を……」
「良いから、一本目は塩でいくの!」
一朗太と鈴蘭の夫婦だ。
「なんで、みんな塩ばかり注文するんだ?
塩が未熟で自信無いのにぃ」
「またまたぁ。
焼き鳥の塩が絶品だって、噂ですよ」
なんだってそんな噂が? と首を傾げた次郎は、はたと思い当たる。
狼の耳をピコピコさせてる姿を。
ヤツの仕業か、と呟きながらも、手さばきも軽やかに塩焼き鳥を焼いていく次郎。
「塩二本、お待ち。
甘口も焼いてくね。三本?」
「甘口は五本、私に辛口を一本お願いします」
あいよ、と威勢良く返して焼いていく次郎を見ながら、鬼夫婦は塩焼き鳥にかぶりつく。
「あら本当。絶品だわ」
「うまい」
お世辞がお上手、と返す次郎は串を一斉に並べて焼いていく。
鈴蘭には辛口一本をそのまま、一朗太には甘口五本を紙袋に入れて渡す。
「いっさん、袋熱いから気をつけてね。
毎度ぉ」
鬼夫婦は、本当に焼き鳥屋さんみたい、と笑って去っていく。
余談
今度は、弁才天とユキの登場だ。
「あらら、鈴木次郎様。
本当に焼き鳥屋をやってるのね。
じゃ、噂の塩をお願い」
「私も塩を」
「……あ、あたくしは、甘口を……」
二人の袖から椿が顔を出す。
「せっかくだから、あなたも塩にしなさいな」
「あ、あの……はい」
「ダメダメ。
食べたいものが一番なんだから。
二人がそんなこと言ったらダメでしょ。
椿ちゃんは甘口ね」
「はうぅ……」
15歳ほどの次郎に微笑まれ、顔を赤く染める椿。
(あら~。男を取り殺すはずの雪女が、逆に取り込まれてるわぁ。
しかも何故今日に限って、その年齢の姿なのよ。
現人神、油断ならないわ)
塩二本と甘口一本を受け取った一同は、その場を去る。
塩焼き鳥を頬張りながら、弁才天とユキがこそこそ話し合う。
(ちょっとぉ、雪女が男に取り込まれてどうすんのよ)
(仕方ないわ。
椿の好みなのよ)
(どストライクってか。
椿は遊撃部隊で戦時モードの現人神を見てないから、余計ね)
(逆よ。
アレを見たら、さらにのめり込むわ。
椿は、強くて笑顔が素敵な男性が好みだと言っていた。
私達が雪女だからなのか、感情の起伏が激しい方が良いとも)
(あちゃー。もろに現人神そのものじゃない)
「あの……お姉様方。
おかわりしませんか?」
「「する!」」
間髪入れずに返事をした二人だったが、焼き鳥屋の方を見つめ、目をキラキラさせている椿を見て、そっとため息をついたのだった。
焼き鳥屋さんでは、塩からスタートします。
その方がお肉そのものを味わえる気がして。
そして、5本目くらいで鶏皮に行きます。
これははずせません。
また、昔、会社のスタッフに連れていかれた有名なお店で、生レバ刺しが絶品と勧められて食べましたが、今もやってるのかな?
胡麻油に塩が振ってありました。
20年も前の話ですが。
レバ刺しは食中毒にお気をつけて。
馬のレバ刺しなら安全らしいですよ。




