第54話 防壁上の訓練
コボルトは侮れない。
次郎達は慎重に反撃の策を練っていく。
今回は住民総出で迎え撃つ気構えだ。
そして、着々と準備を進めていく。
防壁の上で葬儀でも開いているのか、というくらい西側だけ人が溢れながらも、しんと静まっている不思議な空間を生んだ翌日。
コボルトを感知出来る者が百名を超える結果となった。
いや、今日も増え続けている。
多くの住民が、昨日感知出来なかったのが悔しかったのか、今日も防壁の上に上がり、努力していた。
それが今日になって突然、感知出来る者が増殖していたのだ。
魔法を使える者は、ミレイユ先生の指導のもと、全員感知出来るようになったのは、なんとなく理解出来た。
妖達は、自ら隠形の術を使わせてから、再度森を見させると、なんとなく違和感を見つけることが出来たのだ。
これも後鬼の指導の成せる技だから、なんとなくだけど、理解は示せた。
僕がわからないのは、獣人達。
ハヤテが、「んなもん、変な音がするとか、変な臭いがするとか、なんとな~くイヤなものを見た、くらいで良いんだよ」と、アドバイスにもならないようなことを言ったら、次々感知出来るようになってた。
後鬼に確認したけど、感知出来てたって。なぜ?
ハヤテは感知出来るようになったのか、と確認すると、「さっぱりわからん」とのたまわった。
コノヤロ。
さらに衝撃だったのは、八咫烏がハヤテの言を聞いて試したら、一発で感知出来るようになったことだった。
今、喜び勇んで、大樹の上で円を描いて飛んでいる。
昨日、落ち込んでたもんなぁ。
アヤメがそれを聞いて再び試していたが……もう何も言うまい。ドンマイ。
烏天狗は、わざわざ反対の東側の防壁の上に天狗達を集め、感知方法を伝授しながら、通常通りの偵察飛行を命じていた。
コボルト達に違和感を覚えさせないためだ。
河童達は水路からも感知出来たようで、これは大変ありがたかった。
これで、拠点側と水路側の二方面からの攻めが出来ることになる。
今日明日は準備期間にあてがい、3日後に一斉攻撃を仕掛けるつもりだ。
大樹の拠点初の防衛戦だ。
気合いを入れてくぞ。
余談
食糧庫前にて。
「おや、確か、一朗太と鈴蘭だったかえ」
「タマモ様、ヒルコ様、ご機嫌麗しゅう」
「どうも」
「ウチの旦那が芋が好きでしてね。
サツマイモの炊き込み飯でも炊いてやろうかと」
「ああ、それは良いね。
あちきも炊こうかしら。
ヒーちゃん、食べたことないかな?」
「ピューイピュ?」
「あら、知らないのね。
いいわ。今日作ってあげる」
「ピューイ♪」
「ヒルコ様って、可愛らしいのですね」
「そうでしょ。赤子のようなものだからねえ」
「うん、めんこい」
タマモがクククと笑う。
「ホンに二人は肝が座っておるのう。
たいていの者は、あちきとヒーちゃんを前にすると、萎縮するというに」
「これでも、戦国の世を凌いで来たでなあ」
「言葉使いはご容赦を」
「良い良い。気にしてないでありんす。
それに、あの大妖の面々の前でも変わらぬ態度に、あちきは感心したでありんすよ」
「ゴツい人ばかりで、ワシは戦いたぞぉ」
「「ウソおっしゃい!」」
そして、三人とも笑いあった。
余談
大樹の屋敷。前鬼と後鬼の私室。
「このままだと、感知出来ないのは僕だけになりそう……」
「修行が足りんのではないか?」
「そう言うけど、前鬼パパが教えてくれるのは格闘術ばっかで、陰陽術なんて教えてくれてないじゃん」
どうやら、次郎は拗ねているようだ。
「そ、そうだったか?」
前鬼は、助けを求めるように後鬼を見る。
「次郎。こちらに来てまだ一年経っていませんよ。
陰陽術なんて、まだまだ先の話です」
「だって~。
リントもすぐ出来ちゃったし」
才能の塊のリントを引き合いに出されて、困る二人。
「た、確か、ハヤテも出来んかったはずだぞ」
「あのバカちんと同列はイヤだ~」
次郎が悶えている。
「アヤメも出来なかったわね」
「あ、ちょっと救われた気がする」
ピタリと悶えが止んだ。
(ハヤテと同列はイヤで、アヤメは良いのね。くすくすっ)
「年が明けたら教えてあげるわ。
だから、この大樹の森の長として、しっかりしなさいな」
「はーい」
それから、三人で仲良くぼた餅を食べたとさ。
次郎はなんだかんだ、満足であった。
余談
タマモの私室。
扉がノックされる。
「入るにゃ~」
「返事を待ってから入りなさいよ」
「あたしとタマモの仲じゃにゃいか。
ほれ、コレ持ってきたにゃ」
どんな仲よ、という言葉を飲み込んだタマモは、差し出された皿を見る。
「あら、ぼた餅じゃない。
あちきは好きだわ。
まあ、許してあげるでありんす」
「ヒーちゃんの分もあるからね~。
ほらほら、タマモ。お茶淹れて」
まったくも~と言いながら、ヒルコをアヤメに渡し、お茶を淹れ始めるタマモ。
「どうしたのよ、それ」
「後鬼からもらったにゃ」
「ああ、次郎様があんこ好きだからね」
「ん~、なんか最近、後鬼が妙に優しいにゃ」
「別に良いじゃない。
美味しいものもらえるんだから」
「それもそうか」
三人で仲良く、ぼた餅を食べたとさ。
ぼた餅良いですよね。作者も好きです。
ぼた餅とおはぎの定義って、諸説入り乱れていて定まってはいません。
なので、「ぼた餅」と呼称しようが「おはぎ」と呼称しようが、実は個人の自由なんです。
作者の故郷でも、同じものを指して両方の呼び方をしてましたよ。




