表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/236

第52話 一朗太(いちろうた)と鈴蘭(すずらん)

景色に見惚れていたら、なにやら不穏な気配が……。

新展開の第4章をお楽しみください。

訓練場から移動して、南側の防壁の上に到着した。

うーん、見晴らしが良いね。

天気も良いし、気持ちの良い秋晴れだ。

南門の上から下を覗いてみる。

ちょうど、湖と海の水揚げ場から荷物が届いたようだ。荷揚げしてる最中だね。


見張り役の獣人に話しかける。

「異常はないかい?」

「はっ、兎が三度拠点に向かって来たこと以外、異常は見当たりません!」

「その兎は?」

「しばらくしてから、いずれも東の森へ行きました」

真面目な人だ。こういう人は安心出来る。

「ご苦労様。

交代時間まで頑張って」

頑張りますの声を背に西側へ向かう。


西側の見張り役は鬼だった。

体格が大きい。

「どう? 異常ない?」

「は、はあ。

特に異常は見当たらねえんですが……」

「何か気になることでも?」

「ワシの気のせいなら良いんですが……臭うんですわ」

臭う?

「実際の臭いではありやせん。

なんちゅうか、陰の気が臭うような気がして……」

「もう少し詳しく」

「こればかりは説明のしようがありやせん。ご勘弁を」

「では、臭いが気になる場所はわかる?

あの辺とか、この辺とか、曖昧で良いからさ」

少し柔らかく言い直す。

「なんとなくで良ければ」

そう言うと、鬼は防壁から森を見渡す。

「森のあちこちに散らばってる感じなんですが、特に気になるのはあの辺でしょうか」

彼が指差したのは、この西側と北側の境に近い場所だった。

「君、名前は?」

一朗太いちろうた

「では、いっさん、一緒に行こう」

一朗太を伴って、防壁上の北側との境に向かう。


そこに行くと、どうやら北側の見張り役らしき人がいた。彼女も鬼だ。

「やあ、見張りご苦労様」

「は、はっ! これは鈴木次郎様。

ご機嫌麗しゅう」

彼女は膝をついて礼をする。

「固いのは無し無し。

普通に接してね」

彼女は立ち上がると一礼し、スタスタと一朗太に歩み寄る。

「一朗太。あんた失礼な態度取ってないでしょうね」

「ワシはなんも...…」

「どうせ、なんか感じたんでしょ?

そう言う時は休憩中の見張り役に声を掛けて、二人で監視しなくちゃ。

この唐変木!」

「いや、だって、休憩してるから……」

「それより、お役目の方が大事なの!」

「もうその辺で勘弁してあげて」

くすくす笑いながらも仲裁に入る。

全くもう、とまだまだプリプリしてる彼女は、鈴蘭すずらんと名乗った。

一朗太とは昔馴染みらしい。


「で、鈴蘭はなぜこっちに?」

「はい。西側から嫌な陰気が流れてる気がして、境まで参りました」

鈴蘭まで陰の気か。

鬼の持つ独特な感性なのか?

「上から見てわかる?」

首を横に振る二人。

「わかった。

二人は休憩中の見張り役に声を掛けて見張りに立ってもらって。

弓装備を忘れずに。

それから、二人とも南門に集合。

二人は近接戦装備。

これは命令です」

「「は、はい!」」

虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。

直接探索に乗り出す。


南門で待っていると、ちゃんと装備をした二人がやって来た。

弓も背にして、剛剣と細剣を装備している。

僕も小刀を装備している。

「よし、何があるかわからないので、気を緩めずに行こう。

いっさんは、先導を頼む」

「へい!」

防壁前の更地から森へ踏み込む。

その瞬間、一朗太に向かって来るモノがいた。

ほぼ同時に、後ろにいた鈴蘭が一足飛びに一朗太の肩に乗り、細剣で弾き返す。

何奴なにやつ!?」

鈴蘭が一朗太の肩に乗ったまま叫ぶ。

弾かれた曲者は、木を蹴り、再び襲いかかってくる。

今度は、一朗太と鈴蘭の二刀で迎え撃ち、鈴蘭の細剣が敵の攻撃を防ぎ、一朗太の剛剣が腹部に当たり、両断していた。


さらに、上と左右からも襲いかかってきた。

「左を受け持つ!」

それだけ言って、小刀を抜きながら左側に飛び込む。

相手は速いが、前鬼ぜんきほどじゃない。

片手で払い切りするが、弾かれた。

敵は着地と同時に地を這うように、こちらに向かって来る。

かなり低い姿勢だ。

中段の構えから突きを放つ。

躱して僕の左側に避ける。

そうだよね。僕の右側には一朗太達がいて、動けるスペース無いから、どうしてもこっちに来るよね。

突きの軌道から、腰を入れての袈裟斬りに変えて、力いっぱいに振る。

「ギャン!」

相手の首半分と胸を切り裂いた。

そのまま、風術で相手の顔を幾重も切り裂く。

動かないのを確認して、二人の後詰めにかかる。


上から来たであろう敵と、互いに木を蹴って空中戦をしている鈴蘭が見えた。

再び互いに木を蹴ったタイミングで、風術の連打で敵の足を狙う。

集中の乱れた隙を突き、鈴蘭が首をねる。

一朗太の方を見ると、相手の片腕がもう無い。

「一朗太、逃すな!」

「かぁぁっ!」

「キャンッ!」

一朗太が気迫を込めると、相手が硬直したかのように、ビクッとしたまま動かない。

そこを鈴蘭が飛び込み、一閃。

首が転がる。


「まだ警戒を解くなよ」

そう二人に言い残して、最初に相手した者のもとへ向かう。

なんだ? 犬?狼?の頭で身体がヒト?

「犬っコロですかい?」

一朗太が辺りを警戒しながら、聞いてくる。

「人狼にしては、身体つきが小さいですね」

鈴蘭も細剣を構え、目線は森へ向けながら、話に入ってくる。

「原住民に聞いてみないとはっきりしないけど、たぶん、コボルトという種族だと思う」

一朗太が感じる陰気があちこちあると言ってたから、深追いせずに撤退することにする。

「いっさん、コイツを持ってきて。

一度、拠点に戻ろう。

鈴蘭は殿しんがりを頼む」

「「はい」」


コボルト……イメージと違ってかなり強い。

ここを攻めようとしてるのか?

八咫烏やたがらすや天狗達の監視をくぐり抜けて、ここまで接近するとは、かなり厄介かもしれない。

防壁の上を見上げる。

見張り役も増やさなきゃだな。

一朗太と同様の能力を持った者も選別したい。

まずは主力メンバーを召集しよう。

それからだ。



余談

「さっさと気術で拘束すれば良いのに、モタモタしてるから」

「いや~、あれは溜めがいるからなぁ。

そんなパッと出来るもんでもないぞぉ」

「またそんなこと言って。

あんたの気術はあたしも認めてるものだから、チャッチャとやってよ」

「だから、チャッチャとは…………。

むっ、努力はする」

「よしっ、それでこそ、あたしの男だ」

実は昔馴染みなだけではないらしい。




また新たなキャラが登場しました。

鬼の一朗太いちろうた鈴蘭すずらんもご愛顧くださいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ