第50話 ニョロニョロ
またまた弁天お姉さんの登場。
彼女の活躍はいかに!?
初シャコ捕獲の翌日から、弁天が海側に張り付き、早速シャコ捕獲指導に取り組んでいるようだ。
シャコはうまいが、生きたまま捕獲しないといけないみたいだ。
死んでからものの数時間で身がドロドロに溶けてしまう特徴のせいだ。
日本でのシャコの特徴と全く同じ。
そのせいで、流通量が少なくてやや高価だ。
僕は海辺育ちで、普通によく食卓に上がるものだから、全国的に口にしてない人が多いことに、大人になってから驚いたものだ。
後日、シャコ漁の計画書を持参した弁天のどや顔は、人間味あふれてて、僕は好きだけど。
今も弁天は海側に張り付いて、計画書通りに行くのか、経過観察している。
もうケガ人も出てないようで、一安心。
また、別途にドワーフにシャコ専用茹で鍋を作ってもらっている。
万全にシャコを味わえるというものだ。
弁天の代わりに、湖方面の監視をしてくれている八咫烏から連絡が入った。
(あるじ……ニョロニョロ)
ニョロニョロ? 蛇かな?
(ヤタ、それどれくらいの大きさかな?)
(んと……長さは……ヌシの3倍くらい)
は? 30メートルも!?
コイツ、ヌシから隠れて過ごしていたのか。
(……水揚げ場の方に向かってるよ)
まずい!
「サトちゃん、緊急事態!
湖にいる河童達に避難するよう伝達!
全て放棄して、弁天と合流するように。
体長30メートルの蛇らしきものが、湖の水揚げ場に接近中と弁天にも知らせて!」
『ただちに』
サトリの存在感が消失する。
「リント、至急、八岐大蛇をここに呼んで」
「かしこまりました。
ベランダをお借りします」
そう返事をしたリントはベランダに赴き、なにやら叫んでいる様子だが、ここには何も聞こえない。
おそらく、音魔法だろう。
最近、リントの成長が激しい。
声に魔法を乗せるだけでなく、指向性を持たせ、特定の相手だけに声を届けることが出来るのだ。
師匠のナターシャもその才能に驚いている。
全エルフの中でも、ナターシャは最強の一角らしいが、才能だけなら匹敵するそうだ。
なんだか、誇らしい。
GO!GO !リント。
いかんいかん、現実に戻ろう。
リントの将来像にニマニマしていたら、いつの間にか、八岐大蛇が目の前で口をポカンと開けたまま、待っていた。
「お、おほん。
八岐大蛇、ご苦労様」
「はっ、八岐大蛇、これに」
気を取り直して、八岐大蛇に話をする。
「湖に体長30メートルほどの蛇らしきものが出現した。
困ったことに、水揚げ場に向かってきている。
敵対するようなら、排除しなければならない」
「ははっ。お任せあれ」
「僕も一緒に行くから乗せて欲しいが、まずは弁天の出方を見たい」
「なるほど。
我が水軍の力量を見定めなさるか」
人並みサイズの八岐大蛇に跨がり、ベランダから飛び立つ。
湖を目指して飛んでもらうと、眼下の水路が激しく水しぶきを上げている。
あれは弁天か?
飛ぶより速く泳ぐって、どうなってるの?
空気抵抗より水の方が抵抗力高いはずなのに……。
妖には常識が通じない。
ことごとく物理学に合わない存在だ。
湖近くで水しぶきが一旦止んだ。
河童達と合流したのかな?
また水しぶきが上がると、それが先ほどより激しくなった。
河童達も高速移動し始めたのか。
それが水揚げ場を越え、湖に到達すると水柱が次々と立ち上がる。
水柱が収まると、弁天と河童達が水面に立っている。
「弁天。
対象までの距離、およそ500メートル。
直上の上空に八咫烏がいるので、目安にしろ。
対処は任せる」
声に気力を乗せて弁天に届ける。
弁天が振り向き、頷いたのがわかった。
弁天がなにやら指示を出し、水面に立ったまま一斉に移動を始めた。
ホバークラフトみたいでカッコいい。
ジェットストリームアタックが出来そう。
周りの河童は10人いるが、一人また一人と水中に潜っていく。
水面でホバー走行しているのは、弁天と左右の河童二人だけになった。
「なかなかに練度が高そうですな」
八岐大蛇が感心している。
さて、どう出る、弁天?
ーーーここから弁才天の視点ですーーー
次から次へと問題が起きるのね。
しかも、私のいない方に。
30メートルの蛇ですって?
太古の生物がそのまま生きているみたいね、異世界って。
現人神も見ている。
失敗は出来ない。
いいえ、この間の失敗を取り戻す良い機会だわ。
相手は水中を潜航しているみたいだから、こちらも河童7人を順次潜航させていく。
対象を水中で取り囲むように指示を出してある。
一瞬、呼吸のために水面に顔を出したのを見逃さない。
完全に蛇ね。
さて、異世界の大蛇に話が通じるかどうか。
蛭子神がこちらの魔物を従えたらしいので、一応説得を試みる。
接触寸前に、大蛇が大口を開け、食らいついてきた。
やっぱりダメかぁ。
角まで生えてるから、齢を重ねれば龍にもなれるかもと期待したけど、これはダメね。
理性の欠片も無いわ。
「作戦変更。
ただちに討伐せよ!」
どうせ、湖のヌシから隠れて潜んでいたのでしょ?
そんなんじゃ、私達に歯向かうのは無理よ。
河童達が水中で一撃離脱を繰り返す。
堪らず鎌首を水上に上げてきた。
あちらこちら血が滲んでいる。
もうボロボロね。
「最後通牒よ。
私に従うなら助けてあげる」
不敵に笑ってみせる。
その時、大蛇の角が光り雷が走る。
私も手を振って雷を発生させ、大蛇の雷を呑み込む。
河童達も雷を発生させている。
そのまま大蛇ごと包んで感電させていく。
電気ウナギのような個体ね。
でも、電気ウナギみたいに身体を絶縁体で覆ってないから、感電しちゃうのね。
大きいだけの蛇ね。
バシャンッと鎌首で水面を叩き、プカプカと全身を浮かび上がらせてくる。
まあ、味はウナギほどじゃなくても、食べられるでしょ。
現人神が降りてくる。
「すごいね。
簡単にやっつけちゃった」
「自分は、河童達の連携を評価したい」
二人して褒めてくる。
やめてよ。この程度のことで。
「弁天がパパッと指示出す姿もカッコ良かったぁ」
「しかりしかり。
さすがは水神の一柱よ」
え? そう? ほ、褒めすぎよ。
「あ、ありがとうございます」
「でも、一番感心したのは、弁天が停戦勧告したことだね」
あまりにストレートに褒めてくれるものだから、頬が熱くなるのが自覚できる。
「……今回のことでさぁ、思ったんだけど」
現人神が一呼吸置いて、
「河童達の能力もよくわかったし。
有事の時だけでも、全員水軍になってくれない?」
水軍試験だったか!?
私達はもとよりそのつもりだったが、そうでは無かったようだ。
それでも、どうやら試験に合格したようだわ。
「謹んで拝命致します」
「うむ。大樹の森の水軍の誕生であるな。
住民共も安心して過ごせよう」
八岐大蛇は、元々私達を水軍に推挙してくれていたのは知っている。
その事で、水揚げ場を度々訪れてくれていたから。
「良かった。
水軍の指揮官は弁天ね」
「え? 八岐大蛇殿ではなくて?」
「自分は遊撃ぞ。
端から水軍に属する気はない」
「逆に、必要なら八岐大蛇を使う立場だね」
「うむ。よろしく頼む」
ええーっ、聞いてないわよ。
「でも、この大蛇どうするの?」
「解体の際に、毒腺に気をつけながら取り出し、内臓も全て取り退けば良いでしょう」
「あ、やっぱ、食べるんだね。
蛇は食べたこと無いな~」
「鶏肉が近いかしら。
あっさりしていて、結構美味しいですよ」
うふふ。現人神の可愛さに、最後は笑ってしまった。
シャコの味わいって、子供の舌には淡過ぎて、嫌いではないけど好んで食べていませんでした。
なんてもったいないことを!と思いますが、子供の舌では難しかったかも?
家の前の海にたも網で掬えちゃうほど当たり前でした。
シャコは泳ぎが遅いですからね。
ワタリガニの方がまだ速い。
それらを捕まえるのが、海辺の子供達の遊びですね。たも網は必須品でした。




