第49話 水揚げ場
飛蝗退治のあとは、彼らの出動ですね。
また謎の能力を発揮します。
お楽しみください。
飛蝗退治の翌日から、八咫烏や天狗達に交代で生息エリアを監視してもらった。
十日を過ぎた今、変化が無いので大丈夫と思うが、バッタの生体通り、卵から孵化までの期間の一ヶ月は、監視の対象とすることにしている。
その後に、満を持して緑スライムにお出ましになっていただく寸法。
彼らの植物魔法が活躍することだろう。
ホント、彼らの植物魔法は不思議がいっぱい。
たいていは、地中に眠っている種子が発芽して成長する現象を起こすのだが、そこに存在するはずのないものまで生えてきたのだ。
それは急激にすくすくと育ち、実をつけた。
まさかと思って、手に取ってみると紛うことなき和梨だった。
この世界の原住民達にも確認したが、見たことも聞いたことがないと言っていた。
実際に食べてもらったが、同系統の果物も知らない、とのこと。
僕は和梨が好きなので、嬉しい出来事だったが。
美味しいよね、幸水。
話を戻すと、彼らの植物魔法は、そこに存在しない植物を生やすことさえ出来る、ということだ。
彼ら緑スライム達なら、枯れるであろう草原も瞬く間に復活させてくれるに違いない。期待したい。
そして、一ヶ月後にバッタが孵化しない状況を確認し、緑スライム達に草原を復活してもらった。
たまに、イチゴやブドウなど果物系を生やしていたが、ご愛敬だろう。
あ、後鬼が根っこごと採取してた。
果樹園の充実のためって。
この一ヶ月に、大樹の森の拠点もさらに発展した。
湖と海の水揚げ場が完成したのだ。
今までも、河童達に漁をしてもらっていたが、湖や海で捕った魚介類をわざわざ拠点に持ってきてから仕分けしていたのだ。
そして、また湖なり海なりに泳いで戻る、という非効率な漁だった。
今は水揚げ場ができて、そこで仕分けして、またすぐに目の前に飛び込んで漁が出来るようになった。
もちろん、休憩所も併設されている。
河童は、素潜り漁と小舟を使う漁に分かれて行うようだ。
個々で好みがあるらしい。
素潜り漁は、モリで獲物を仕留め、腰に据え付けた網に収容するスタイル。
小舟漁は、端におもりをつけた投網で行う。
素潜り漁は、数は少ないが狙った獲物を捕ってくることが出来る。
小舟漁は、獲物を選ぶことはしにくいが、一度に多数の獲物を捕ることが出来る。
どちらにも一長一短があり、どちらの方が優れているということもない。
どちらも漁は順調のようだ。
そんな海の水揚げ場でケガ人が出た、との報告が上がってきた。
病院にケガ人が三人担ぎ込まれたらしい。
僕も様子を見に行くことにする。
病院に入って受付に聞くと、一階の大治療室で治療中のこと。
早速行ってみる。
大治療室に入ると、エリシャンテとキキの二人で一人のケガ人を治療していた。
一番重傷みたいだ。
他のケガ人二人には、それぞれ鎌鼬と回復スライムがついている。
ケガ人を見てみると、全員の装甲が割れている。
河童の装甲は、かなり頑丈だ。
以前のデモンストレーションで見せてくれたが、弓矢を弾き、槍も弾き返していた。
さらに、魔法攻撃までケロッとしていたのだ。
「遅くなりました」
弁天が入って来た。
「あ、鈴木次郎様。いらしてたんですね。
わざわざご足労をかけまして、申し訳ございません。
また、この失態の責任は私にあります。
どのような処罰でも……」
「いや、それはいい。
一体何があった?」
弁天が語るには、海で素潜り漁をしていた一人が大物を見つけ、挑んでみたが返り討ちに。
その時、ものすごい衝撃音が海中に響き渡り、他の二人が駆けつけるも、同じく返り討ちにあったようだ。
この三人は周りの助けが入り、救急搬送されたが、その時点で、反対側の湖の水揚げ場にいた弁天に連絡が入り、駆けつけて対処したとのこと。
「なんなの、その大物って?」
「シャコでした……体長2メートルほどの」
シャコってあのシャコ?
茹でると美味しいヤツ。
エビと違って、茹でても身が固くならず、柔らかくてふわっとしてるよね。
「あ、もしかして、シャコパンチを喰らった?」
「そのようです」
地球でも、体長15cmのシャコのパンチが、22口径の拳銃と同様の威力があるって話だ。
パンチの衝撃で、周りの水が沸騰してキャビテーション(泡の発生と消滅が起こる物理現象)が起きるほど。
体長2メートルもあれば、それだけ威力が凄まじくもなるだろう。
「その巨大シャコは?」
「生きたまま、炊事係に渡しました」
「え?もう?」
「甲殻類は、素早く調理するに限りますよ。
海の水揚げ場で絞めてしまってから輸送すると、下手すると身がドロドロに溶けてしまう恐れがあります。
ご安心ください。生きたまま茹での一択だと伝えましたので」
あ、そう。甲殻類好きなのかな?
今度カニ鍋やる時は同席しようっと。
鍋将軍で腕をふるってくれそう。
鍋将軍を敬遠してはダメ。
一番良いタイミングを見逃さず、皆に振る舞ってくれるありがたーい存在なのだよ。
話を戻して。
ケガ人を救急搬送した後、海に到着した弁天は、自ら潜って対象を確認。
自ら対処するのを控え、監視していた河童に鉤付きのロープを用意するよう命じ、からめ捕る方法を指示。
安全に捕獲に成功した、とのこと。
「私はしばらく海側に張り付き、シャコ退治の指導をしたいと思います」
「ああ、任せるよ」
「今回のシャコは、鈴木次郎様に献上致します」
「ありがとう。
じゃ、弁天も今日の夕ごはんはウチの屋敷に来て」
鍋をつつく前に、一緒にご飯を食べておこう。
一番重傷者に、僕も協力して治療を行った。
胸の装甲だけでなく、背中の甲羅まで砕かれていたからね。
僕は内臓を重視して治癒をしたのが良かったのか、患者は最後には自分で立ち上がって歩いて帰っていった。
経過観察の意味を込めてしばらくは通院と、エリシャンテに言い渡されていた。
パンチの衝撃は、後日に影響が出ることもあるからね。
僕の大学の同期で同じボクシング部のエースが、パンチドランカーになってしまった。
あれだけ強いヤツが二度とリングに立てないなんて、ものすごく悔しかっただろう。
そんな人を出したくない。
心配性なくらいがちょうど良い。
特にこの異世界では。
余談
大樹の屋敷の入り口で、少し呼吸を整える。
ちょっと緊張気味ね。
現人神と夕食を同伴することになろうとは。
当然、側近達もいるだろう。
敵対する気は毛頭無いが、それでも緊張する。それだけのメンバーだ。
気を引き締めねば。
一つ深呼吸をしてから、呼び鈴を鳴らす。
ガチャリと扉が開き、
「いらっしゃいませ、弁才天様。
お待ちしておりました。
どうぞ中へ」
丁寧な洋風のお辞儀で迎えられた。
確か、現人神の付き人のエルフ。
少年のように見えて、齢百を越えているらしい。
屋敷の者は全て侮るな、とはユキの助言。
侮るもんか。
あの現人神が直接使う者達に、まともな者がいるはずがない。
私は冷静に対処するわ。
付き人が食堂まで案内してくれるそう。
素直についていく。
食堂に着く前に、付き人から声を掛けられた。
「弁才天様。少し緊張されておいでのようですね」
こやつ、内心を見透かすか。
「少し失礼をば」
私に正対し、腕を十字に切る。
九字印では……ない?
「これで良いでしょう。
もう食堂に着きます」
ハッとした後、身体に血が巡って来ているのがわかる。
これだから屋敷の者は。
それから間も無くして食堂に着いた。
「弁才天様が到着されました。
入室致します」
付き人が扉を開け、先に中へと促してくる。
入室して、一番奥の席の現人神に一礼する。
「弁才天、ただいま参りました。
本日はお招きに預かり、光栄にございます」
「弁天、そんなかしこまらないで。
さあ、座って座って」
いつの間にか、付き人が椅子を引いて待ってる。
ここは素直に従う。
座ってみると、テーブルの料理よりも着席しているメンバーに目が行ってしまう。
錚々(そうそう)たる顔ぶれだ。
神格を持った者ばかりが並んでいる。
いや、持たぬのが三人いるのか?
九尾狐は妖として純粋に突き詰めた大妖。いやそれ以上か。
下手な神は消滅されかねん。
本当に何柱かの神を喰らっているな。
そして、一番与し易そうに見える化け猫。
しかし、ユキから「特に猫又には気をつけよ」と言われている。
最後に、一番わからないのが一人。
名から推察するに、あの蛭子神だとは思うのだが、存在感があるのか無いのかすら、判別出来ない。
住民から聞いた話では、湖に出現した巨大な大妖をひとのみしたのだとか。
また、このメンバー全員と一触即発な状態になったことがあり、この大妖達が覚悟したという。
さすがは日の本の最初の神か。
「今日は、弁天が河童を指揮して捕ってきてくれたシャコがあるよ」
「これほど巨大なシャコは見たことがない。立派なものだ」
大柄な鬼が笑う。
「さすがのあちきも、ここまで大きいのは初めて見るでありんす」
「茹でるのに少し苦労しました」
鬼女が続く。
「ドワーフに専用鍋を誂えてもらうか」
大神も発言する。
「普通のシャコは美味しいけど、あっという間に無くなっちゃうにゃ。
でも、コイツは食いでがあるにゃ。
弁天ちゃん、ナイスにゃ」
「自分は食えれば何でも良い」
八岐大蛇が手のひらに乗るほどに小さくなって、テーブルの上に乗っている。
神鳥までクワワッて鳴いてるし。
現人神の前で、なんでこんなに自由なのよ?
「では、皆さん、手を合わせてください」
パンッて、ここはみんな静かに合わせるのね。私もするわ。
「いただきます」
「「「いただきます!」」」
意外と?静かに食事が始まった。
茹でシャコは付き人とメイドが皆均等に行き渡るように取り分けてくれた。
酢味噌とわさび醤油も用意してくれている。
もちろん、両方試すわよ。
せっかく、こんなに量があるんだものね。
一口つけると、なるほどこれは確かにシャコだ。
茹でても身が柔らかく、甲殻類独特の味わいながら、あっさり上品。
大味にならず、味も上等。
これは、早速明日から捕獲指導をしなければ。
「弁天」
現人神だ。
「なんでしょうか?」
「このシャコ、いつから漁出来そうかな?」
皆の視線が突き刺さる。
『主様。
今日の今日の出来事ですよ。
ケガ人も出ております。
弁才天を急かすような発言はお控えくださいませんと』
サトリがいたか!
この妖は、全ての妖の天敵になりかねない。
「ああ、そうか。
ごめんね。
後日、一緒に計画を練ろうか」
これでは足りんだの、次はいつ味わえるかだの、色々聞こえてくる。
良いでしょう。
明日から特訓です。
近日中に良い漁計画書を持参しましょう。
とても良い晩餐でした。
ごちそうさまでした。
弁天お姉さんは、内心が俗っぽくて、作者のお気に入りです。
彼女の登場シーンは筆が進んじゃいます。
弁天率いる48の河童達の連携は妖一かもしれません。
今後の戦いでも外せない戦力となるでしょう。
パンチドランカーになった同期、元気にしているだろうか?
強いのに、とっても優しいヤツでした。
一緒に日本拳法同好会を創りましたが、今も現存してるだろうか?




