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第46話 鬼女

今回は一人の鬼にスポットを当てました。

書いている内に、作者も意外な結末が!

お楽しみください。

ーーーある鬼の視点ですーーー

わらわは鬼に成りて幾日幾年経たのやら。

確か公卿くげの娘であったことは、薄く記憶しておるが、もうどうでも良きこと。

異世界に喚ばれて来たものの、心に響くものは何も無い。

一柱の神が恐ろしゅうてひざまずいたが、それも本能に従ってした行為に過ぎぬ。

その神の導きについていったが、周りの者共も同じであろう。

大樹の森の拠点とやらに着いてのメシは旨かったが。


その夕げの際に、我ら鬼の周りに臆せず食事を振る舞うおのこがいた。

「どうだ? 旨いだろ、トン汁」

鬼と一緒に握り飯とトン汁をかっ喰らう男。

それはもう幸せそうに食らうのだ。

「腹いっぱいになると、幸せになるぞ」

ふふっ、お主を見ているとなんだか笑えて来る。

「おう、姉ちゃんも立派な体躯をしてるな。

俺よりでかいんじゃねえか?」

その男がわらわに話しかけてきた。

言われるまま、その男の隣に立ち上がる。

「かぁ~。やっぱ、俺よりでけえ!

良いなぁ、おい」

「わらわが怖くないのかえ?」

ふと聞いてみた。

「はあ? なに言ってやがる。

怖ええ女なんて、ウチにはぎょーさんいるからよぉ。

あんたなんて目じゃねえよ。

それにあんたは、キ、キレイだからよ!」

わ、わらわをキレイじゃと?

目付き鋭く、牙も角も生え、鬼の形相そのもののわらわを捕まえてなんと言うことを。

この男を激しく睨む。

「そ、そんなに見つめるなよ。

照れるじゃねえか」

男の顔が赤らむ。

な、こやつ、本当に……。

しばらく、男を見つめていたが、ふと力が抜けた。

「あはははっ」

堪らなく笑えてきた。


「あははは……。

……うふふ。

して、あなた様のお名前は?」

こちらを振り返った男が、金縛りにあったかの如く、硬直していた。

「?……もし、あなた様?」

もう一度問いかけると、男の呪縛が解けたようだ。

「お、俺はハヤテ。ハヤテってんだ。

……いや、ホントにすげえ美人だな、あんた」

不思議に思ってると、ハヤテと名乗った男を見上げている自分に気づいた。

慌てて自分の顔や額に手を宛がう。

無い!角が無い!

口元にも手をやるが、あれほど鋭かった牙も丸くなっている。

ああ、なんと言うことでしょう。

鬼化が解けていました。

思わず、ハヤテ様に抱きつきました。

「ああ、ハヤテ様。

ありがとうございます。

この橋姫はしひめ、あなた様について行きとうございます」

お慕い申し上げます、と言うとハヤテ様もギュッと抱きしめてくださいました。

そして、一言呟いてくださったのです。「嫁にするぞ」と。

橋姫は、この異世界で幸せを掴みました!


ーーー次郎の視点ですーーー

ちょっと~!? どういうこと?

突然、ハヤテが見知らぬキレイな女性を連れて来て、

「俺たち、結婚します!」って。

何がどうして、こうなった?

そもそも、その美人さんは誰?

そんな人、いなかったよね?

周りの女性達も「キャーッ」って騒ぎ立てるもんだから、収集がつかない。


「ちょ、ちょっと待て。

ハヤテ、屋敷まで来て。

そちらの女性も一緒に。

前鬼ぜんき後鬼ごき、サトちゃんも一緒に来て」

ここ(広場)じゃ落ち着かないから、移動することにした。


屋敷に着くまでラブラブ光線を浴びまくるのか、と覚悟していたが、そこまでの影響はなかったようだ。

ハヤテの顔はニヤつきを無理に押さえつけている感じに見えるが、一緒について来た女性も、ハヤテの三歩後ろにつき、頬を赤らめてうつ向きながら歩んでくる。

女性の振る舞いが終始、楚々(そそ)としており、上流階級の出自を窺わせる。


屋敷に到着すると、僕の執務室へ案内する。

リントもついて来たようだ。お茶の準備をしに行ってくれた。

一同をソファーに着席させる。


まず、ハヤテの話を聞いてみるが、強そうだの、立派な体躯だの、鋭い目付きがキレイだの、顔全体がキレイだの、女性の褒め言葉すら現実と一致したりしなかったりで、埒が明かない。

あ、また、可愛いが増えた。

仕方ないので、女性の方に話を向ける。

「あなたは、こんなハヤテで良いんですか?」

ハヤテから「そんな言い方ねえだろ」とか聞こえたが、無視だ無視。

「はい……ハヤテ様が良いのです」

可憐だ。

はっ、いかんいかん。取り込まれるところだった。

サトリに念話で会話したが、女性は特に幻術を掛けたフシは無いと。


「あなたの素性をお伺いしたいのですが」

「はい。わらわは橋姫はしひめと呼ばれていた、鬼でございます」

以前の名は捨てました、とも言った。

橋姫、橋姫……ああ、あの有名な鬼女か。

え? 大妖クラスじゃないの?

納得と疑問が入り雑じる。

確か、元は公卿の娘なので、高貴であり楚々とした振る舞いも頷ける。

鬼と化した振る舞いも逸話に多々語り継がれている。

歌舞伎の世界では鬼女の元祖らしい。


「では、橋姫は召還された鬼なんだね」

召還された時は身長230cm、髪の長さも150cmある鬼の姿だったが、ハヤテと出会って人の姿を取り戻したと。

そんなハヤテに感謝もあるが、ハヤテが口説きまくったのか、橋姫も惚れ込んでしまったと。

ハヤテ無き人生は考えられぬとまで言った橋姫の目がキラリと妖しく光った気がした。

これはどうも、ハヤテが取り込まれた訳ではなく、橋姫が取り込まれた側なのかもしれない。


前鬼ぜんき後鬼ごきを窺うが、頷いていたので安心する。

「わかった。

橋姫を歓迎しよう」

パアッと花が咲くように橋姫が笑顔を見せる。

「ハヤテ様、我らの神がお認めくださいましたよ。

これでわらわも添い遂げることが出来まする」

見つめ合う二人。

「あ~ごほんごほん。

結婚も認めるけど、拠点内ではトラブル起こすなよ」

ったりめーだ、のハヤテの言葉が続き、

「橋姫、愛してるぞ」

「はい、わらわも愛しておりまする」

他んところでやれ!

一応、後日新居を作ってやることにして、さっさと執務室から追い出した。


「橋姫がよもやあのような娘子むすめごとはな」

「鬼女とは、嫉妬に狂って変化へんげした者が大半。

元は誰しもが可愛らしい女子おなごですよ」

前鬼ぜんき後鬼ごきの言葉に頷く。

『橋姫も長らく鬼化が解けず、苦しんだのでしょう。

それでも乙女心を失くしていなかったから、今の姿になれたのですね』

「いえ、また鬼化しますよ。

あの様子では、自在に変化へんげ出来ると見ましたが」

一瞬、目に妖光が光ってたもんね。

ハヤテ、決して浮気はするなよ。

どう見ても、おまえじゃ鬼化した橋姫を止められんぞ。


「でも、ちょっとハヤテを見直したよ」

「ほう、その心は?」

前鬼ぜんきが軽い口調で問う。

「感情をストレートに伝えて来るのはハヤテの美徳だけど、「愛してる」ってちゃんと言葉にして、橋姫に伝えてた」

ちょっと過去を振り替えつつ、

「僕はそれで失敗したことあるから……。

ああ、前鬼ぜんきパパもちゃんと伝えておいた方が良いよ。いつもね」

「次郎、良いこと言いました!」

後鬼がダンッと足を鳴らしながら言う。

みんなで前鬼ぜんきを見るが、顔を明後日の方を向いたまま動かない。

そこの壁、何にも無いのにね。


誰よりも早く、ハヤテが身を固めることになろうとは!?

キャラがまた勝手に動き出しました。

作者の想定外のことでしたが、書き上げてみると悪くないような気がして。

大筋のプロットを邪魔するどころか、良い味出しそうなので、そのまま決行しました。

今後のハヤテと橋姫の活躍に、乞うご期待♪

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