第42話 鬼の参入
大樹の森の拠点に到着するまでの道すがら。
拠点への帰り道、新たに仲間になった妖のリーダー達に話を聞いてみた。
まず、弁天。
彼女は、七福神に数えられるほど有名だが、それは弁財天としての地位だ。
元は弁才天という。
響きが同じだからということで、才が財に変化して、富みをもたらしてくれる神様として、後に信仰されるようになった。
まさに人の欲によるご都合主義だ。
でも、元来は水神の一柱。
八岐大蛇と同じだね。
さらにマニアックなことを言えば、役行者が直接会ってるはず。
前鬼と後鬼の知り合いかも?
プライベートなことは突っ込まないことにしてるから、わからないけど。
ここでは、河童の棟梁であることの方が重要だ。
逸話通り、厳選された48人の河童を従えている。
弁天は美しい女神の姿をしているが、河童は違う。
その河童だが、外見がイメージと違うと言うか、イメージ通りと言うか。
まず、マンガやアニメでよくある頭の上のお皿、というのは無い。
また、ざんばら頭でも無い。
おや?と思う無かれ。
甲羅はあるし、手足の指の間には水かきがあり、泳ぎは得意。
亀が二足歩行形態に進化した姿と言えば、わかりやすいかな?
顔つきはもっと鋭いけど。
胸から腹にかけてしっかりした装甲がある。
頑強な出で立ちで、防御力が高そう。
また、淡水専門なのかと思ったら、海もイケルらしい。
海にも亀いるもんね。
これは、西の漁場整備が捗りそうだ。
お刺身、かに鍋、貝汁……夢が膨らむ。
まずは、湖と拠点と海に繋がる水路の巡回をしてもらおう。
水揚げ設備は、ドワーフ達の手が空いてからだな。
あまりドワーフ達を酷使しないように気を付けないと。
ドワーフ達は興が乗ると寝食忘れてのめり込むタチだから、始末が悪い。
ドワーフを管理する人を選出しないとなあ。
次にユキに聞いてみた。
ユキが眷属と言ってるのは、やはり雪娘や雪ん子だった。
女性ばっかりじゃん。
何でも、気候が女性の気をはらむなのだとか。
理系の悪いクセで、事象に論理的思考を持ち込んでしまう。
深く考えるのは、今は止めておこう。
そういうものだ、と認識するしかない。
また、ユキの「灼熱でも平気」と言うのは、ホントらしい。
日本の妖怪として、雪女と言う通り名が有名過ぎるが、本来は温度や湿度を自在に操る能力を持っている、とのこと。
うむ。ハウス栽培の適任者だ。
一部は倉庫管理もしてもらおう。
熟成肉も美味しいからね。
そして、烏天狗。
源義経の師匠であり、神隠しにあった子供たちを救う逸話が有名だね。
驚いたのは、ダイダラボッチの異名も持っていることだった。
巨大化出来るの?
「では、お見せ致そう」
そう言った烏天狗本人が巨大化して見せた。
幻術ではなく、本物だった。
ただ、巨大化は術の一種で、個々の力量によって大きさや変化時間が違うらしい。
八岐大蛇とは真逆だね。
彼は巨大サイズが本来の姿だから。
また、天狗達はイメージ通り、空を自在に飛ぶことも出来る。
飛ぶのは、背中の羽で飛んでいるのでは無さそうだ。
飛翔術で飛んでいる感じに見える。
八岐大蛇が、自分は飛翔術で飛んでいると言ってたし。
普通に飛ぶなら、かなり大きな気嚢を持ってなきゃ無理だよね。
あれ? 八咫烏って、気嚢を持ってるのかしら?
見た目はそれっぽいけど、妖だからなぁ。まあ、いいか。
天狗達に防空と偵察をお願いしたら、八咫烏の負担が減るかな?
今まで、一人でやってくれてたから大変だったろうに。
たまには、休ませてあげたい。
また、天狗は様々な術の使い手だと言う。
大樹の拠点の生活がより一層充実するに違いない。
最後に、鎌鼬。
会話がままならないが、こちらの言うことは理解しているようだ。
また、リーダーをしている個体は、他の鎌鼬よりも一回り大きい。
それだけ歳を経ているに違いない。
名前はあるのか聞いてみたが、あるのか無いのかすら判別出来ない。
名付けしていいか?と聞くと、「キュオ」と返事があり、肯定の意思が感じられた。
これしか聞き取れないとも言う。
さあ、お悩みタイムに突入だ。
鳴き声から取って「キュキュ」も響き良さそうだが、呼び掛けにくいしなぁ。
「キューちゃん」は九官鳥になってしまう。
……あかん。名付けセンスゼロだ。
頭抱えて悶えていると、
「どうしたにゃ?
ヘンテコな踊りして」
踊ってなんかないやい。
名付けに困ってると、アヤメに伝えた。
「キキちゃんで良いじゃにゃい。
そんなのは感性でパッと決めてあげればいいにゃ。
ねー、キキちゃん」
「キュイキュイキュオ」
なんか鎌鼬も嬉しそうだ。
僕には感性が無い~。
そうして、キキと名付けられた。
話を戻して。
鎌鼬は診療所に勤めてもらうことになっているが、傷だけでなく、手足の切断の治療も出来ると言う。
こちらが、ケガの具合の単語を並べて
、「キュオ」を肯定と捉えた結果だ。
そして、一番驚愕したのが病気の治療だ。
鎌鼬の治癒能力は、外科だけでなく内科も範疇にある、とのこと。
ただし、病気は薬と安静の併用が必要らしい。
(このときの返答が、「キュキュイ、キュオキュイ」など一気に複雑になったので、連想ゲームの末、わかったこと。時間がかかった。)
実は、召還された妖は彼ら以外にもいるのだ。
鬼だ。
河童や雪ん子、天狗、鎌鼬達はそれぞれ約50人ずつの集団だが、鬼はその数倍の200人以上いた。
種類も多すぎて、今は把握出来ない。
牛頭と馬頭が統率したようだ。
元々、地獄で多数の鬼達を率いてたくらいだ。お手のものなんだろう。
さて、彼らの適材適所はなんだろう?
鬼は個性が激しいからなぁ。
住民達と同じで、希望ヒアリングと各所での適性を見ていくしかないか。
これで400人以上の妖達が加わることになる。
住民達より多い数だ。
トラブルにならないことを願うばかりだ。
余談
召還された四人のリーダーが集まっている。
「鈴木次郎様とは、何者なのであろうな」
烏天狗が皆に問いかける。
「あのようなヒトは会ったことありませぬ」
ユキも今まで出会った者達を思い起こすが、記憶に無いと首を振る。
「あの変化も見事でしたね」
弁才天は朗らかに笑う。
「おおっ、あれも良いが、その後の圧よ。
あれには参った」
「伏していて良かったなぞ、経験がありませぬ」
烏天狗が額に汗を滲ませ、ユキが口惜しいと思いながらも納得している。
「キュオ」
キキが自慢気に鳴く。
「あら、キキも知ってるのね」
「何っ、弁才天もキキも知っているのか!?」
烏天狗だけでなく、ユキも弁才天に視線を注ぐ。
「アレが現人神よ」
弁才天が言うと皆に納得の空気が流れる。
「あれがそうか」
「初めてお会いした」
「キュイキュイキュオ」
「キキ、あなた、相当な齢を重ねてるわね。
もしかして、私と一緒で大陸から渡って来たのかしら?」
「キュオ」
「とにかく、現人神は結構厄介な存在よ。
ヒトが修行して神格を得る途中だと、よく間違われるけど、そんな生易しいものじゃないわ。
現人神って、神格そのものが受肉してるの。
下手な神を簡単に蹴散らすわ」
弁才天は、自分も蹴散らされる側だ、と言う言葉は飲み込む。
「キュオキュオ」
キキも、大人しくしとけ、とでも言いたげだ。
新規参入の妖のリーダー達も個性が強そうですね。
大樹の森のワチャワチャが増えそうな予感。
今後もご期待ください。