第41話 新たな妖(あやかし)
新たな妖達の参入。
今回は人数が多い。
次郎にまとめられるか?
中央部へ戻った僕は、召還された妖達と対峙する。
「次郎殿、飛び乗れるか?」
八岐大蛇の首の一つが地面スレスレまで降りてきた。
「無論」
身体強化を使って、八岐大蛇の頭に飛び乗る。
そこから少しだけ上昇して、全てを見渡せる位置にしてくれた。
壮観だ。
こんな景色は、防大時代の壇上に上がった時以来か。
「妖達よ。
面を上げよ」
ナターシャの音魔法にあやかり、丹田を意識して声に気力を乗せるイメージで声を発してみた。
「目の前で話されているように聞こえる。
それに五月蝿くもない、小さくも無い。
音魔法か!?」
「いえ、魔力が感知できません。
全く別物です」
後方で、ドアンとナターシャの声が聞こえた。
どうやら成功したようだ。
そのまま続ける。
「僕は鈴木次郎。
君達を召還した者だ。
これから、君達の力を借りたい出来事が想定される。
何が起こるのかはわからない。
だが、君達が力を貸してくれれば、僕らは決して負けはしない」
一度区切り、皆を見渡す。
「君達一人一人に役目を与えよう。
食事も与えよう。住まいもだ。
闘争を欲するならば、相手をしよう!」
ここで身体強化を使い、大人の身体に変化する。
同時に覇気を全身から発する。
前鬼達も一斉に跪く。
「もし、僕に従うというならば、あの森で、あの大樹の下で、一緒に暮らそう!」
後方を指差し、大樹へと皆の視線を誘導する。
ここで覇気を緩める。
「一緒に暮らすのは、楽しいぞ。
付いてこい!」
皆に笑顔を見せる。
「八岐大蛇、もう良いよ。
下に降ろして」
「ははっ!」
元の低い位置まで下げてくれたので、飛び降りる。
「見事な演説でした」
「凛々しかったですよ」
前鬼と後鬼が褒めそやすが、ちょっと照れる。
「さすが鈴木様です。
私などまだ膝が笑っています」
少し頼りない足取りで、正義もこちらへ来た。
「我ながら、政治家っぽくなっちゃったなぁとは思う」
と笑って返答する。
「あんた、よく歩けるわね。
あたしなんかまだ尻尾が膨らんでるにゃ」
「ヒトにしておくには、もったいないでありんす。
いっそ、こちらへいらっしゃいな」
アヤメとタマモも復活が早い。
アヤメなんか、自分の尻尾を掴んで、尾の先の毛が膨らんでいるのを見せつけている。
「あ、ヒーちゃん、気絶してるにゃ」
ああっ、ヒルコが頭の上にいること、すっかり忘れてた。
アヤメが僕の頭からヒルコをそっと退け、抱き上げる。
さて、召還された妖達の反応はどうか?
その妖達の中から、4人だけ立ち上がり、こちらへ向かって来る。
美女が二人と見た目がわかりやすい天狗が一人。もう一人は四足獣の姿をしている。
逆に、牛頭と馬頭が召還された妖の集団へ向かう。
前鬼から某か指示を受けたらしい。
「鈴木次郎様。
御前を失礼致します」
美女の一人が涼やかな声を発する。
「私は水虎と申します。
48の河童を率いる者でございます」
「水虎?……水虎大明神と言えば、弁財天。弁天様かい?」
「あら、ご存知とは、嬉しい限りでございます」
弁天は、手足が細いわりに胸とお尻が主張する、ある種女性の理想する体型の持ち主と言えた。
「鈴木次郎様。
私めは、ユキ。
雪の精、もしくは雪女と言った方がわかりやすいのかも知れませぬ。
あちらに控える眷属を束ねておりまする」
もう一人の美女は雪女。男を取り殺す逸話が多い。
ああ、その姿を見れば理解出来るかもしれない。
ニコリともしないが、どこまでも美しく儚げで、今にも解けて消えてしまいそうに見える。
男なら抱き締めたくなる心理に追い込まれるのかもしれない。
美少女や美女を見慣れていて助かった。取り殺されずに済みそうだ。
「今の季節は秋だが、大丈夫なのか?」
彼女の眷属達は、雪娘や雪ん子か。見た目ではわからないな。
「フフフッ、私め共にはいささかにも問題ございませぬ。
たとえ灼熱の中だとしても」
笑った、のか?
キレイ過ぎて、ちょっと理解できない。
「次は某の番だな。
お初にお目にかかる。
烏天狗と申しまする。
見ての通り、天狗でござる」
「大天狗の中でも一番有名な天狗だね」
「おおっ、ご存知か。
嬉しいのう。カッカッカッ」
そして、四足獣形態の妖と向かい合う。
「キュイキュイキュイ」
二足立ちになり、何か言っているように見える。
会話は出来ないようだ。
だが、理性はあるように見受けられる。
「君は…………窮奇?」
「キュオ」
「やっぱり、そうか。
日本では、鎌鼬の方が通り名が良いのかな」
「キュオオ」
「あ、切った後にキズを治せるってホント?」
「キュイキュイキュオ」
「何言ってるか、わからんくなった。
サトちゃん」
ここは頼りになるサトリを介そう。
『ここに』
「今の鎌鼬のセリフ、わかる?」
『あくまでイメージなのですが、「転ばす」「切る」「治す」です』
「ありがとう。十分だ」
診療所の職員ゲットォ!
「この四人には、大樹の拠点までの道すがら、色々と話を聞きたい。
良いかい?」
四人は頷いてくれた。
では、移動開始だ。
烏天狗って、妖怪なのに正義の味方みたいな逸話が多く残っていますね。