第40話 鵺(ぬえ)
この第40話で10万文字を突破しました。
これで読者の方が増えると良いなぁ。
最低20万文字を書いた方が良い、というなろう作家の先輩のアドバイスを読みました。
すでに書き貯めてある分が余裕で超えているので、楽しみでなりません。
今は約450人ほどの方が読者様になっていただいております。投稿始めて20日経っていません。感謝感謝です♪
とりあえず、今の目標は読者様が1,000人を超えることですね。
これからも「異世界~妖怪」を宜しくお願い致します。
週間定例会議から三日後。
今日の仕事は全て休みにしてもらい、住民達に家に籠ってもらった。
牧畜チームだけが牛馬の世話をしてくれている。
防壁の上にいる見張りもわずか数人だ。
僕らは、拠点より南50kmの地点に来ている。
召還にどんな妖が呼応するのかわからないので、安全を期して草原を召還の場に選んだのだ。
そう、イメージが無いのだ。
イメージ無く召還されたのはヒルコのみ。
ヒルコは僕らに一切の敵意が無く、逆に皆に馴染んでくれたから良かったものの、もしもヒルコクラスの妖が敵対してきたとしたら?
前鬼と正義と共に、色々シュミレーションしてみたが、あまり良い結果にならなかった。
前鬼に言わすとしたならば、「撃退すれど、無傷では済まない」と。
誰かが欠けるとも言うのだ。
イメージ無しの召還は、正直怖い。
今まで順調だったので、平和な生活を壊されたくない。
では、無理矢理イメージすれば?とも思うが、うまくスキルと連動してくれないようだ。
ままならない。
僕の左右は前鬼と後鬼が固めてる。
そのさらに隣をアヤメとタマモが控えている。
真神は自らを僕の背後に位置取り、眷属狼を召還して、拠点への道のりを塞いでいる。
真神の後ろに、元のサイズに戻った八岐大蛇が草原を睥睨している。
上空では、八咫烏が円を描いて遊泳。
戦闘チームは、八岐大蛇の前方に整列して控えている。
ナターシャ、ハヤテ、ドアン、エリシャンテはその前だ。
ドアンは戦闘能力が無いのに、付いていく、と言って聞かなかった。
こちらの世界には無い現象を見たいのだろう。
正義だけは、真神の隣が許されている。妖達の評価が高いのだ。
ヒルコは、なぜか僕の頭の上に陣取っている。
お気に入りにされた?
これが今考えられる最大の布陣だ。
「始めるよ」
誰かがゴクリと息を飲んだ。
『では、為されませ』
パンッと眼前で手を合わせ、丹田を意識する。
「召還!」
一瞬にして現れる妖達。
そう、"達"だ。
単体ではなく、大勢の妖達がそこに存在した。
『頭が高い!控えよ!』
サトリが珍しく強く言う。
前鬼が思いっきり息を吸い込み、
「者共よ!
ご主人様の御前である!
座して控えよ!」
前鬼の大声が響き渡る。
すると、ザッザッザッという音と共に、召還された妖達の前方から順番に膝を付いていく。
そんな中、我関せずといった風体の者達もいた。
向かって一番右端にいた集団だ。
それどころか、その集団は唸り声を上げながら、こちらに突進してくる。
「私と後鬼、八岐大蛇はそのまま次郎様の護衛。
他の者達は撃退せよ」
前鬼の号令が響き渡った。
「あたしもこちらに残るにゃ」
「すまん。助かる」
まだ召還された妖達を掌握してないからか。
結界術の第一人者のアヤメも残ってくれた。
「あの集団は……」
「鵺はダメダメにゃ。
話が通じた試しがにゃいにゃ」
そうか、鵺か。
そういえば、デタラメな身体をしている。
熊の両手両足なのに、身体は馬。顔が虎?猫? 背中に羽毛まである。
なのに、隣は、牛っぽいのに腕に鳥の羽がつき、顔が犬なのもいる。
同じ形態のものがいない。
まるでキマイラだ。
鵺の伝承の姿がまちまちなのも頷ける。
「鵺は元来の妖ではないようにしか思えません。
人が集団生活を始めてから、いつしか発生しましたが、出会えば人であろうが妖であろうが、あのように襲って来ます。
私達は、人や動物が変化したり、人の想いが重なって発生したりするものです。
あのような本能が形を成しただけの存在が、妖とは考えたくもありません」
後鬼が鵺を敵視しているのが十分伝わってきた。
「これが鵺か。
いいか、相手の形態をよく見ろ。
それぞれの特徴が出ている。
森で狩りをするのと変わらん。
一体に対し3名以上で当たれ!」
正義の的確な号令がよく聞こえる。
「おうおう、こやつらはよう鳴きよるわ。
冥途の土産に、あちきの鬼火を味わうが良いでありんすえ」
タマモの凄惨な笑顔が深まる。
「こやつら、まだ生き残っておったか。
憐れな者共よ。
我が滅ぼしてくれよう」
真神は多少、鵺のことを知ってるのかもしれない。
「コ、コイツらは、か、身体を引きちぎれば、大人しくなるんだな」
「あっしの踏み潰しを喰らうが良いでありますですはい」
牛頭と馬頭も鵺対策がしっかりあるようだ。
(あるじ……歯向かうもの……滅ぼす)
先制攻撃は八咫烏だ。
光り輝く化鳥が急降下して鵺を掴み上げ、上昇している合間に鵺の身体の半分が消失し、地面に落下していく。
こちらが15人に対し、鵺は50体以上。
あれ?
ヒルコが見当たらない。
と思ったら、僕の頭の上にいた。
もはや定位置になっている。
各リーダーはドアンの護衛として残ったようだ。
ハヤテがウズウズしているが、大丈夫か?我慢出来る?
人数差をものともせず、どんどん鵺を討伐していく。
「もう終わりますな」
前鬼が言うと、
「こちらも、不穏な動きをしている者はおらん」
八岐大蛇が座して待つ妖達を監視してくれている。
「あ、終わったにゃ」
戦闘を終えた皆が戻ってくる。
みんな無事?ケガしてない?
キョロキョロしてると、
「あれ?正義がいない。
牛頭と馬頭も」
やっぱり3人がいない。
「隊長なら、少し遅れるとのことでした」
副隊長のマフティが報告してくる。
武闘大会でウサギ系獣人のマーリンと対戦した土魔術師だ。
「殲滅確認?」
「いえ、それはすでに完了しております」
「……次郎殿、参りましたぞ。しかし……」
八岐大蛇の頭の一つが報告してくれた。
戦闘チームの中央が開いて、3人の姿が見えて来た。
いや、彼らに囲まれて鵺が一体、同じ歩調でこちらへ歩み寄ってくる。
その歩みが止まると、鵺が伏せをする。いや、これも跪いている?
正義が僕の前に来て、ピシッと一礼する。
脱帽時の自衛隊式の敬礼だ。
一部のマンガやドラマで、脱帽してるのに額に手を持ってきて敬礼するシーンがあったりするが、日本ではあり得ない。
僕も同じく答礼する。
「報告致します。
鵺が一体、命令通り戦闘前より跪いておりましたので、接触致しました。
尚、そのまま放置すると、我々と戦闘に陥った者共と誤認されかねない為、連れて参りました」
「やすめっ!
正義、ご苦労様。
では、その鵺だけは違うんだね」
「はい。
戦闘前に跪いていたのを目視致しました」
よし、接触してみよう。
頭の上のヒルコを一撫でし、乗せたまま鵺に近付く。
「君は話が通じるのかい?」
すると、グルルッと呟くように返事をした。
『主様。
その鵺には明らかな自意識があります。
先ほどの鵺達とは違います』
サトリの報告だ。
鵺をよく見てみる。
顔は猫と虎の中間。身体は黒ヒョウのようにしなやかなネコ科のもの。
手足は太い虎のもののようだ。
尾が二又に分かれている。
驚きなのは、背中に大鷲の羽まで生やしている。
四足に加え一対の羽は、哺乳類の運動脳では制御が難しいはずだ。
「君、もしかして、元は猫又なの?」
また低くグルルッと返事が来る。
「そうか。何があったかは知らないけど、大変だったね。
僕らと仲良く出来るなら、一緒に暮らそう」
鵺の瞳が潤んでいるように見える。
「よしっ。こちらはこれで解決。
話を戻そう」
クルリと回り、中央部へ戻る。
まだ大勢の妖達がそのまま待ってるのだ。
眼鏡を掛けてる人が頭の上に掛けながら、「眼鏡が無い!どこ?」ってやってるシーンをよく見かけます。
次郎が頭の上のヒルコを忘れガチなのは、そこからの発想です(笑)。