第33話 スライムの増加
本格的な秋。
異世界の秋も過ごしやすいようですね。
秋も更け、過ごしやすい日々が続く。
冬はまだ先だ。
そんな頃に、一つの報告があがってきた。
狩猟チームから、最近スライムが目立つと言うのだ。
スライムなどどこにでもいて、普段は気にもならないそうだ。
無害と言う訳でもないが、攻撃性も低く、狩っても何も得られないので、無視する存在と言う認識が一般的らしい。
ナターシャもたまに狩猟チームに合流して狩りをするが、特に気にしたこともなかったと言う。
「言われてみれば、そうかも?」という程度だ。
「報連相は大事」と常日頃伝えてあり、小さなことや細かいことほど良い報告と評価していたので、上がってきたのだ。
まず、僕はスライムのことがよくわからない。
生態系も何もかもがこの異世界独自の存在だ。
それに森の中では、高速で走り抜けてばっかりだったので、スライムを見たことも無い。
真神を呼び、眷属狼達を使って、スライムの拠点周辺の生息分布を調べるよう依頼。
また、アヤメにはスライムを一匹捕まえて来て欲しいことも伝える。
アヤメは拠点の結界を張っており、彼女の許可なく何人も拠点内に入ることが出来ない。
アヤメが捕まえたスライムと一緒に戻ってくれば、手間が省けるというもの。
今、執務室にいるのは、僕、サトリ、前鬼、真神。
眷属狼達からのスライム発見を真神が認識し、サトリを通じて前鬼に伝わる。
そしてその前鬼が地図にプロットしていく。
捜索始めてしばらく経った。
「あんまりいないね~」
いるにはいるのだが、ポツリポツリとしか報告がない。
「元からさほど目にするものでもありませんので、致し方ないのでしょう」
前鬼の筆も止まりがちだ。
「我の眷属狼は鼻が効く故、取りこぼしは無いはずですが……」
「そこは否定しないよ。
眷属狼の捜索が実測値に近いはず。
ただ、狩猟チームの報告との差異が気になるだけさ。
本業の狩人だけが感じる何かがあるのかもしれないし...…」
「ぬっ。
少しまとまった報告が来ましたぞ」
真神がそう言うと、前鬼のプロットする筆が動く。
「ほう。これはやりがいが出てきたな」
そう言いつつ、前鬼の筆のスピードが上がる。
拠点周辺はまばらでしか存在しなかったスライムが、東に行くに連れて増えていく。
特に湖周辺がかなり多い。
「スライムって、水辺を好むのかな?」
『狩猟チームに確認して参ります。
少々お待ちを』
え?サトちゃん、ここでプロットのお手伝いしながら、狩猟チームへの確認作業出きるの?
サトリの存在感が明滅する。
意識を飛ばしては戻ってくるを繰り返しているようだ。
頭が焼き切れないか、心配していると、
『お待たせしました。確認して参りました。
狩猟チーム全員と各リーダー全員にも確認しましたので、時間が掛かってしまい、申し訳ありません』
いや、全然待ってないんですけど。
もう狩猟チーム全員プラスリーダー全員に?
しかも、プロット作業を継続しながらって、どんなCPUを積んでるのやら。
『聞いたところによると、スライムに水を好む特徴は見受けられません』
拠点周辺数キロは20匹程度しかいないのに、東の湖近辺で優に500匹以上のプロットが示すのは?
「異常発生か!?」
前鬼が代表して見解を述べる。
「ジロー様。
アヤメ様が到着されました。
お屋敷の庭でお待ちです」
リントからアヤメ帰還の報告が入った。
「わかった。
前鬼と後鬼もプロット作業ご苦労様。
プロットはここで一旦中止にしよう」
全員で執務室を出て、アヤメの下へ向かう。
屋敷を出ると、スライムを摘まんで立っているアヤメがいた。
「次郎様、お待たせにゃ」
「アヤメもご苦労様。
そのスライム、どの辺で見つけたの?」
「東の湖の近くにゃ。
眷属狼達が集ってたから、見つけるのは簡単だったにゃ」
ナイス、アヤメ。
その辺りのスライムが欲しかった。
「動きは鈍いから、下に置くにゃ」
アヤメはそっと地面にスライムを置く。
じっと見てみるが、ヒルコが這うより遅い動きしかしない。
「動きは鈍いけど、触っちゃダメにゃ。
触ると警戒色を出して溶解液を出してくるにゃ」
アヤメは、スライムを結界でくるんで持って来た、とのこと。
「ジロー様、お待たせしました」
「おうっ、ジロー様。待たせたか?」
「ジロー様よ、何か面白いことでもするのか?」
「ジロー様ぁ。エリシャンテ、只今参りましたぁ」
サトリから呼び出してもらった各リーダーも到着した。
「スライムか?
どうすんだ、そんなもん」
「サトリ様にさっき聞かれたでしょ。その関連よ、きっと」
ナターシャが鋭い。
「みんなに集まってもらったのは他でもなく、このスライムが普通のスライムと何か違いが無いか、見て欲しいんだ」
「ほう。ではこのスライム、他とは違う何かあると言うのじゃな?」
「わからない。
と言うより、僕らにはその判別が出来ない。
この世界の住民である君達にしか出来ないんだ。
頼むよ」
「よくわかりませんがぁ、やれることはやってみますねぇ」
エリシャンテがやる気を見せて前に進む。
「ちょい待ち。
そのままじゃ危ねえ。
前鬼様、なんか棒みてえの無いかい?」
ハヤテがエリシャンテを押し留め、前鬼の方を見る。
「これで良いか?」
前鬼が菜箸を取り出す。
「ああ、十分さ」
ハヤテは菜箸を受け取ると、スライム前にしゃがみ込む。
「ホントはそこらの小枝で良いんだが……。
子供の頃は、スライム見つけるとこうやってよく遊んだもんだ」
そう言いながら、ハヤテが菜箸をスライムに突き刺す。
「みんなで刺して、誰が一番長く保つのか、比べっこすんだ。
ほれ、爺さん、あんたもやんな」
もう一本の菜箸をドアンに渡す。
「ホッホッホ、子供はどこにいても同じ遊びを考え付くもんじゃわい」
ドアンもしゃがんでスライムを突き刺す。
「やったわね、わたし達も」
「エリ達も同じくですぅ」
この世界の子供達の定番の遊びのようだ。
「スライムなんて、なかなか見つかるもんじゃねえから、見つけるとみんながワラワラと集まって来るんだよな」
「ムッ、もう溶け始めた。ちと早すぎんか!?」
「そうかぁ、爺さんの刺し方が強かったんじゃねえの?」
「バカにするでない。ワシはこれでも常勝のドアンちゃんと呼ばれておったわ」
「警戒色もかなり薄くない?
ほら、刺してるところだけ色が変わってるのみよ」
「あらぁ、突き刺し放題なのかしらねぇ」
「いや、コイツの溶解速度は異様に早いぞい。
前鬼様、もう何本か棒っきれをくれ」
前鬼から何本か菜箸を受け取ると、ナターシャやエリシャンテに渡して、皆で全てスライムに刺していく。
「うわっ。俺の棒がもう溶けやがった。
ホントコイツ、溶かすのが早ええや」
ハヤテの菜箸が溶け、ドアンの菜箸も溶けた。
それどころか、今刺したばかりのナターシャとエリシャンテの菜箸も刺した部分だけ溶けきっていた。
「ジロー様、このスライムは異常です。
こんな溶解速度が早いスライムなんて、見たことも聞いたこともありません!」
ナターシャが指摘する。
「それに、普通のスライムは触られると全身に警戒色を発色するのに、コヤツは刺された部分のみじゃ」
ドアンの解析が異常性を物語っている。
「サトちゃん、妖達全員に呼び出しを掛けて」
『かしこまりました。ただちに』
「みんなも全員、会議室へ」
「「「「はい(おうよ)(おう)」」」」
異世界定番のスライムの登場です。
魔物の底辺に位置付けされているスライムが、大樹の森の拠点の生活を脅かす。
その対応に動き出す次郎達。




