第31話 秋の収穫
大樹の不思議な力なのか、作物がよく育つ環境ですね。とても良いことです。
みんなで明るく楽しく過ごしていきたいものです。
あれから二週間ほどで牧畜産業のスタートにこぎ着けた。
魔牛25頭、魔馬33頭もの規模になった。
魔牛はほとんどが雌だ。雄は群れのリーダーの3頭のみ。
雌牛は乳牛としてミルクをもたらしてくれるから、食生活が充実していくだろう。
雄牛は畑を耕すのに力を貸してくれている。
雄牛は力持ちで、農業従事者には大変ありがたい存在。彼らの人気者だ。
魔馬は雄雌関係なく、乗用馬や馬車馬になってもらった。
騎馬隊を組織出来るのも夢ではない。
これで、妖達以外にも機動力が生まれる。
また何時なんどき、魔物の集団と相見えるかもしれないのだ。準備だけはしておく。
まあ、まずは乗馬の練習からだね。
ドワーフ達が鞍や鐙を作ってくれてるので、そのあとだ。
そして、秋の収穫だ。
これが一番大変なのかもしれない。
米も実をしっかりつけ、稲穂が垂れ下がっている。
ジャガイモやサツマイモも大きく育っている。
他には、ほうれん草、キャベツ、レタス(栽培した)、ニンジンなどだ。
ちょっと早いけど、大根やネギも少しだけ収穫する。
だって、住民みんなの好物の大事な具材だから。
ほらほら、あんまり採らないようにね。本来は冬野菜なんだから。
どこまでトン汁が好きなんだ。
皆、やっとの思いで拠点に着いた初日に、温かい食事で迎えられ、その感動が美味として刷り込まれちゃったんだね、きっと。
キノコはまだ栽培出来てないけど、アヤメ隊長率いる採取チームが森から採ってきてくれている。
キノコ汁も良いなぁ。
狩猟チームも今日はこちらのお手伝い。
採取チームと牧畜チーム以外の住民総出で収穫だ。
収穫なら僕もお手伝い出来る……はずだ。
子供達に混じって、ジャガイモ掘りをした。
土が思いの外ふかふかで、抜く度に尻もちをつきっぱなしになる。
それを見て笑う子供達も次々尻もちをつく。
みんなで大いに笑い合う作業となった。
その日の夕ごはん。
トン汁があるのは予想通りだが、ここでは見慣れぬモノが。
それは白の中に茶色が混じり、タプンとしている。
鋭くアヤメを見た。
「にゃあん♪」
誇らしげに鳴くアヤメ。
思わずギュッと抱きしめた。
自然薯だ。
森で見つけて来たのだろう。
まず見つけるのも大変だが、掘るのがまた一苦労。
「3メートル近くあったにゃ。
掘るのに苦労したにゃ」
天然の自然薯は、収穫するまで10~20年はかかるという。
普通は1mほどだったはずだ。
アヤメのほっぺにキスして感謝しておいた。
静かにとろろと向き合う。
厳かにせねばなるまい。
両手を合わせ、「いただきます」の呪文は必須だ。
まずは、とろろそのものを味わう。
口に含むと、全体がトロトロでふわっとしてるのに、噛み応えがある。
淡い香りと大地の力強い味わいが鼻腔と味覚に同時に襲いかかる。
ダシのバランスが良く、自然薯特有の味を損なわず、旨味をさらに上げてくる。
ああ、もうこうなっては、白ごはんが必要だ。
白米をよそってもらうのに、茶碗ではなく、丼を要求。
そこに炊きたての白ごはんを半分だけよそってもらう。
コレ大事。
とろろは自分でかける。
とろろと白ごはんのバランスを崩してはいけない。
マイフェイバリットを作り出すのだ。
とろろは白ごはんの半分くらいにとどめる。
このラインが味のバランスと掻き込み易さの両立なのだ。
いざ、参る!
丼と箸の擦れ合うカチャカチャ音を奏で、一心不乱に掻き込む。
時折、トン汁を啜るのを忘れてしまう。
落ち着きを取り戻すのに、トン汁は欠かせない。
焼いた肉や野菜炒めも並んでいたが、この小さな身体に入るのは限られている。
とろろごはんで満たすため、あえて今日はパス。
おかわりをしたが、三杯で打ち止めとなってしまった。
この小さな身体が恨めしい。
でも、久しぶりのとろろごはん、美味しかったー。
ごちそうさまでした。
余談
「にゃ、にゃ、にゃあん♪」
「なんでありんすか。
たかが頬にくちづけされたくらいで」
タマモの言葉には、ギリッと歯ぎしりが混じる。
「次は口びるにいただくにゃ」
「ふん。次郎様の初物はあちきが頂くでありんす」
「そ、それはエッチにゃ!」
「手取り足取り恙無く、夜伽いたすでありんすえ」
「あ、あたしだって」
「顔が赤いでありんすよ。
ウブなことで……ウフフ」
『それは無理ですね』
「にゃっ」「きゃっ」
突然のサトリの割り込みに驚く二人。
『そもそも、主様はあちらの世界で60年の生を生きて来られたのですよ。
ヒトの生では還暦という長いと言える期間です』
サトリは一呼吸置いた後、
『それに、あのお顔にあの個性です。
おモテにならない方がおかしいでしょうに』
「そ、そんなにモテモテだったのかにゃ?」
『ええ。女は掃いて捨てるほどに』
「あちきの計画が……」
タマモによるウブなショタ喰い計画が脆くも崩れ去った瞬間だ。
「あたしは逆に良いかにゃあ。
あ、あんまり得意じゃにゃいし、次郎様にリードしてもらえる方が安心にゃ」
『主様は処女には特にお優しくしておいでです』
「あたしは処女なんて言ってないにゃ!」
『あら?では、そういうことにしておきましょう……フフフ』
笑いながらサトリはその場から消えていった。
タマモは、まだ何かブツブツ言いながら、頭を抱えていた。
普通のとろろも好きです。
うどん屋さんそば屋さんのトッピングに「とろろ」あると、頼みたくなりません?




