第3話 前鬼と後鬼
少しずつ妖は増えていきます。
お楽しみあれ♪
あれからずいぶんと歩いた。
3時間18分42秒歩いた。
なぜ、そんなに正確な時間を把握出来てるかというと、タネは簡単。
ステータスボードに時刻表示があったんだよね。
さらに表示切替機能まであり、歩行時間や歩数はおろか、通ってきたルートがマップ機能に自然と記録される便利さ。
マッピングまで出来てるじゃん。
しかし、一番驚いたのが、インベントリ。
ステータスボードにインベントリ表示が存在し、切り替えると様々なものを出し入れ出来る機能付き。
もうステータスボードじゃなくて、万能ボードと呼ぼうかしら?
あ、そうそう、インベントリにすでに衣類が登録されてた。
管理者様ありがとうございました。サイズぴったりです。5歳児用ですな。
でも、飲料水や食料は登録されてなかった。
自分で確保しなさいということですね。
優しくもあり厳しくもあり、管理者様はまるで親のような……パパァンと呼ぼうかな?
冗談はさておき、サトリのナビでピンポイントで湧き水を案内してもらい、いざ飲料水確保かと思いきや、汲む道具が無いことに気付く。
ふと思いつきでインベントリに収納してみると、入る入る。トン単位で。
しかも、飲料水として問題ないレベルまで浄化して。
もう魔法使えなくてもいいや、って思ったね。
ステータスボードさえあれば、魔法と同じことが出来そう。
そのうち、ステータスボードからファイアボールも飛び出すんじゃなかろうか?
もし、雷とか出せるなら「サンダーブレ○ク!」と叫びたい。
いや、じょうろを飛ばして「ファンネ○!」もいいな。
閑話休題。
その湧き水の近くに、しばらく拠点に出来そうな場所を発見した。
そこは大樹のウロ。
そしてその大樹がまた超巨大。
てっぺんが見えない。
いったい何百年何千年生きてるんだろ?
中の空間はだだっ広く、つくり?もしっかりしているようだし、サトリとも相談して、仮の拠点とする。
次は食料確保に動く。
お日様は中天に差し掛かるくらいなので、時間はある。
ここでサトリが活躍。
食べられる果物や木の実を即座に判定、場所まで案内してくれる。
嬉しかったのが、芋を探り当てたこと。
炭水化物は大事。
「拠点は少し丘になってるね」
『良い拠点かと』
森の中とはいえ、多少の視界が開けていて眺めも良い。
景色を眺めることは、精神安定にも視力向上にも良い。
ただ、完全には見渡せないので、防衛観点では現状イマイチ。
大樹の上に行けば別だけど。
登るのは……無理そうだ。
食料確保の道中に、野生動物も襲って来たので返り討ちにしたけど、みんな肉食系で食べられたもんじゃない。
今日のところは、お肉無し。残念。
帰り道、ふと気になってステータスボードを表示させてみると、妖召還の文字が明るく見える。
「召還出来そうな気がする」
さっきの獣達を撃退したことで経験値を稼いだのかな?
『では為されませ』
「うん」
『できれば護衛役がよろしいかと』
うーん、護衛ね。どんなイメージすればいいのかな?
あいるびぃばっく発言のサングラスアンドロイドは妖に居ないし?
アホな思考は遠くにやり、護衛のイメージを絞り出す。
少しずつ空間が揺らめき、淡く光が瞬く。
ゆっくりと虚が像を結び出す。
いや、一瞬のことだったかもしれない。
あたかも最初からそこに存在していたかの如く、二体の妖が顕現した。
彼らは人型の男女の様相をしており、男の方は2メートル半ほどの長身、女の方も2メートルを優に超える高身長。
体格も下手なマッチョではなく、均整の取れたモデル体型をしており、顔面偏差値がこれまた高い。
お揃いの美男美女といったところか。
二人が並んで歩けば、百人が百人振り返るだろう。
ただし、その額に二本の角が無ければ。
唇から時折見え隠れする牙も相まって、百人が百人うつ向くこと間違いない。恐怖に身体を震わせながら。
「やったね。成功した」
『これは……いきなり大物を召還されましたね。しかも二体』
「知性があり、礼節も知ってる妖と言えば彼らが一番だと思ってね」
『しかし、主様は大丈夫ですか?
お加減が優れないとかございませんか?』
「心配してくれてありがとう。全く問題ないよ。
……ちょっとフラつく程度かな?」
『まったく……無茶をなさる』
「それより、これからよろしくね。二人とも」
呼び掛けられた二人は、膝を付きうつ向いたまま動こうともしない。
わずかに震えていることを除けば。
『これ、いかに主様の御前とはいえ、声を掛けられたのです。面を上げなさい』
「はっ!」「ははっ!」
意を決したかの如く、顔を上げる二人。
「僕の名前は鈴木次郎。
力を貸してもらいたくて、二人を呼び出したんだ」
『私はサトリ。主様の側仕えです。
あなた達も名乗りを』
「私は前鬼と申します」
「後鬼でございます。よろしくお願いいたします」
前鬼と後鬼と言えば、役行者に仕えた有名な鬼。優秀な弟子でもあったという。一説では夫婦とある。
いきなり暴れん坊な妖を召還しても御せる自信も無いし、礼儀を知ってそうな妖となれば限られてくる。
この二人なら、護衛役にぴったりだと思う。役行者の護衛もしていたらしいし。
「して、まずは何を致しましょうか?」
「うん、本来は護衛役として召還したんだけど……お肉が食べたい!」
「かしこまりました」
言うが早いか、前鬼が立ち上がり、一礼をしてからすっと立ち去る。
ビュンッと音が聞こえそうなほど、素早い動きだ。
「では、わたくしはお膳の準備を致しましょう」
後鬼も立ち上がって優雅に一礼し、三歩後ろの位置に移動する。
一緒に拠点に向かいながら、さっき確保した食材を一つ一つ説明していく。
塩も鍋も無いことを嘆いたら、「持ってます」って。
え? なぜ? どうやって?
役行者の術って不思議。
深く考えると囚われそうだから、どんな料理にするのかに話題を変えていった。
後鬼が簡易囲炉裏をこしらえて、火を起こし(役行者の不思議術発動!?)、鍋を出して(どっから?)水を張り(これは自分のインベントリからね)、茸でダシを採って、味噌(なぜ持ってる?)を溶いて、皿や食器だけでなく、食卓やイスまで(もういいや)用意してくれるという完璧さ。
テーブルクロスまで敷いちゃってくれてるよ!
後鬼の不思議演舞を眺めて間も無く、前鬼が鳥を5羽携えてやってきた。
「ほう、なかなか良い拠点ですな」
そう言った次には鳥を捌いて、あっという間に部位ごとに切り分けられてた。
君も使えるんだね、不思議術。
まな板も包丁も出たことすら認識出来なかったよ。
いや~美味しかった、鳥鍋。
なぜかカツオダシの風味もあって、ダイコンやニンジン等の具材も豊富で…………深く考えちゃダメなヤツだ、これ。
余談
『主様は、一人称を「僕」と呼称されることにしたんですね』
「おかしい?」
『いえ、大変愛らしゅうございます』
「中身が60歳のジジイなのに?」
『百年にも満たないお若い身空であれば、何らおかしくも無いかと』
「そ、そうね。……君らからしたらそうなるんだ」
余談
「後鬼。謁見の際に恐れおののくとは失礼だぞ」
「あら、あなただって額に汗びっしょりだったじゃない」
「そ、そんなことは」
「ごまかそうと、狩りに行くのだって縮地まで使って早々に走り去って」
「…………」
程よく尻に敷かれるのが夫婦円満の秘訣♪
また明日も投稿しますね。
前鬼と後鬼と言うと、作者が思い出すのが、永井豪先生の「手天童子」の「戦鬼」と「護鬼」。
あれは秀逸でした。