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第27話 武闘大会 後編

ハヤテのように真っ直ぐな心を持つことに憧れます。

ハヤテ、頑張れ!

後鬼ごきがハヤテを見て、指で来い来いしてる。

「ハヤテ、大剣を使いなさい」

案の定、ハヤテが「やっぱりかぁ~」と呟きながら、リングに向かう。

「ハヤテ、良かったな。

相手が私でなくて」

と後鬼が笑う。

後鬼とハヤテでは差がありすぎる、というよりは相性がね。

あやかし達の誰が相手でも開きがあることは、ハヤテも実感していることだろう。

もし、ハヤテが後鬼を相手にしてしまったら、訳がわからない内に転がされているだろう。

それほど、妖術というのはこちらの世界の住人にとって、摩訶不思議なものなのだ。

魔法に長けたナターシャでも、度々首をかしげているくらいだ。


そして、ハヤテの対戦相手の登場だ。

トンッとリングに一息にジャンプしてくる大きな影は、真神まがみだ。

「我は今回、身体能力だけで相手してやる」

「お、俺も狼の末裔としての意地が、あ、ある。

たとえ、ま、真神様が相手だとしても、一矢報いてみせるぜ!」

ハヤテ、声が少し震えてるよ。

「ハヤテ!深呼吸~」

たまらず、声を掛ける。

それを聞いたハヤテは、大きく三度深呼吸して、少しは落ち着いたようだ。

「よく言った。オヌシの矜持、見せてみよ」

ハヤテの身体がブルッと一瞬震える。

あれは武者震いのようだ。ハヤテの顔つきが違う。


「第十一試合、真神対ハヤテ。

はじめ!」

背に取り付けた大剣を肩に担ぎ直したハヤテは、真神に向かって歩き出す。

それが駆け足に変わり、さらに加速していく。

真神は動かず、悠然と待ち構える。

衝突寸前にハヤテが大剣を振るう。

真神の肩から胴にかけての袈裟斬りだ。

ドンッという鈍い音が響き渡る。

ハヤテ特有の、切るではない大剣の重量を活かした叩き込みだ。

真神はびくともしていない。

いや、

「我の足が土に沈むほどの威力を出すか」

真神の足元を見ると、10cmほど土にめり込んでいる。

「まだまだぁ!」

叫びながら身体を回転させ、先ほどと同じ袈裟斬りを繰り出すハヤテ。

二撃三撃と連続での叩き込みだ。

四撃目が入る寸前に、真神が噛みつきに入る。

危ないっと思った瞬間には、ハヤテはしゃがんで躱していた。

ここで攻守交代のようだ。


真神は、噛みつきと前足のはたき込みを繰り返す。

その全てを躱していくハヤテ。

真神の瞬間的に消えて真横に出現しての噛みつきも避けた。

速さでは真神が圧倒してるのに、ハヤテが次々に避けている。

転がったり、跳ねて飛んだ先を大剣を地面で突き刺して方向を変えたり、四つん這いで駆け出したりと、決して颯爽としてはいないが、全て躱している。


「面白い、面白いぞ。ハヤテ」

真神が笑う。

「ハアハア……こっちは全然面白くねえんですが!」

肩で息をしているハヤテは、そう言いながらも油断なく大剣を構えている。

「コレはどうか?」

そう言った真神が走り出す。

ハヤテを中心に円を描くように回り出し、目に止まらぬ高速移動となる。

やがて、真神の残像まで見え出した。


「あれはわざと残像を作り出しているのです」

前鬼ぜんきが解説してくれたところによると、高速移動しながらもほんの少しだけ緩急をつけることで残像を発生させているらしい。

真神ほどの高速なら、そのままでも残像出そうだけど。ほら、扇風機の羽みたいにさ。

それには理由があって、「見ていればわかりますよ」とは前鬼の言。


突如、真神がハヤテに襲い掛かる。

それでもハヤテは避ける。

何度もそれが続くかと思った瞬間、バシンッと弾かれたハヤテがふらついた。

大剣を杖代わりに辛うじて立っている。

すると、真神がハヤテの眼前に現れた。

「ヒトにしてはよくやった。褒めて遣わす」

真神はそう言うと、くるりと回り、尻尾でハヤテをはたき込む。

「勝負あり。勝者、真神」

どうやら、ハヤテは最後の尻尾の打撃で気絶したらしい。

獣人達に運ばれていった。


「最後のは、残像が無いところから真神が出てきた?」

「その通りです。

最初の方はわざと残像箇所から出現し、相手が慣れた頃に残像あるなしに関係なく仕掛ける戦術です」

前鬼は、「わざわざ面倒なことを」とも呟く。

「ふん。これも教育である」

いつの間にか、背後に真神がいた。

「真神、ご苦労様。

良いもの見させてもらったよ」

「ははっ。御目汚しを致しました。

しかし、あのハヤテ、ほぼ全てを勘で避けておりましたな。

あやつはこれから伸びますぞ」

最後の一撃に勘では身体が反応したのに、目で見た情報との食い違いに混乱して避けきれずにかすったようだ。

しかし、勘で真神の攻撃をああも避けられるものなの?

僕には到底出来ないなぁ。



余談

「よくあれだけ避けられるものだな。

真神様の攻撃など、目で捉えられるものでもあるまいに」

「知らん。身体が勝手に動くんだ」

避けた本人が、なぜそうしたのか、なぜその姿勢になっているのか、全く分からずに闘っていたようだ。

「ハヤテ、これを」

獣人の一人が差し出したものは、どうやら牙のようだ。

「これは?」

「真神様の牙だ。

真神様が自ら手折り、おまえに与えると言われてな」

「そんな、畏れ多い!」

「そうだ。

おそらく、真神様はかのフェンリル様よりも畏れ多い存在だ。

その真神様から認めて頂けたんだ」

ハヤテは真神の牙を受けとると、崇め奉るように、両手で己の頭より高く掲げ、礼をする。

「この大樹の森の王はジロー様だが、おまえは俺達の長だ。

誇りを持って生きろ」

「ああ、今よりもっと強くなるぞ!」

神獣の牙を持つ最強の獣人の伝説は、まだ始まったばかり。


ナターシャもハヤテもヒトの領域では、やれている方です。

妖達も教育を忘れていませんね。

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