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第26話 武闘大会 中編

武闘大会って、一回で済むかなぁ?

済むといいなぁ。

これから本チャンの闘いがあるし……必要なら、キャラがそう言ってくるよね?


続く第三試合。

ウサギ系獣人の女性とドラド族のヒト種の男性の対戦だ。

これはどちらも特長を活かした闘いと言えた。

開始の号令で、ドラド族の男性が呪文を唱え、石つぶてを飛ばす。

ドラド族の男性は魔術師だ。

すごいのは、その数と速さ。

いくつもの石つぶてが高速で襲い掛かる。

一方、ウサギ系獣人は素早く躱していく。

右や左に前に後ろへと、仕舞いにはリングフィールド全てを駆け回っていた。

ドラド族の魔法が追い付かなくなるほどの高速移動だ。

翻弄され始めた魔術師に向かってウサギ系獣人の高速の飛び蹴りが入った。

そのはずが、魔術師の足元がドンッと弾け飛び、魔術師は宙に舞って蹴りを躱していた。

その魔術師が地面に降り立つ瞬間に、今度こそ間違いなく、ウサギ系獣人の蹴りが腹部に入った。

2メートルほど後ずさった魔術師は、膝を折り、腹を押さえて「降参」と言った。

「勝負あり。勝者、マーリン」

後鬼が宣言すると、リング上空から大量の石つぶてがパラパラと降ってきた。

ギリギリの勝負だった。


「ひょえ~。あ、危なかった~。

あんた、一回の呪文で出せる石は7個が限界じゃなかったの?

今、降ってきた石、百個はあるんだけど!」

マーリンは今更ながら、背筋に冷たいものが伝う。

「ふん、数えていたのか。目も良いようだな。

だが、それも手だったはずがこの様だ。

また、出直すさ」

「こんなにヒヤヒヤしたのは初めてだよ。

あんたは間違いなく強い。

また勝負しよ♪」

「ありがとよ。もっと精進しとく」

手に汗握る良い試合だった。

ドラド族の男性魔術師、最後に受けた腹部中央部じゃなく、右の脇腹を押さえながら退場して行った。

最初の蹴りを避けきれず、脇腹をカスってたんだな。

あの位置は肝臓辺り。打撃を受けると大の大人でも立っていられるのはごく僅か。

プロボクサーでもマットにうずくまるほどだ。

お大事に。


そうして、大きなケガも少なく?順調に大会も進んで行った。

「次の第十試合と第十一試合は模範試合とする」

主審の後鬼ごきが高らかに宣言する。

エキシビションマッチかぁ。

アヤメ、結界、大丈夫?

「ナターシャ、前へ」

「え?え?」

頭にハテナマークをいっぱい掲げながらも、ナターシャがリングに上がる。

「ナターシャ、あちきが遊んであげるでありんす」

いつの間にか、誰にも認識されないまま、タマモがナターシャの前に立っている。

ナターシャ、そのがぁ~んという顔はやめなさい。せっかくの美人が台無しでしょ。

「ナターシャ、がんばって!」

仕方ないので、声をかける。

一瞬ハッとした後、腹を括ったのか、タマモをキッと睨み返すナターシャ。

「勉強させてもらいます」

「良い心掛けじゃ。全力で来るでありんす」

両者が離れていく。


「第十試合、タマモ対ナターシャ。

はじめ!」

後鬼が号令すると同時に、一瞬で魔法弓を射掛けるナターシャ。

鮮やかな七色を発し、曲射も入っているので四方八方からの攻撃がタマモに襲い掛かる。

タマモはくすりと笑ったかと思うと、扇子を片手に舞いを舞ってるかのように、くるりと一周。

すると、魔法矢が弾かれるだけでなく、その全てがナターシャに帰ってくる。

「くっ」

ナターシャは再度弓を弾き、全てを相殺する。

そして、ナターシャが珍しく詠唱している。

おや、ナターシャの身体が少し浮いてる?

「ハッ!」

裂帛の気合いと共に弓魔法の連続射撃を行い、同時に高速移動していくナターシャ。

先ほどのウサギ系獣人のユーリンよりも速い。

高速移動しながらの連続射撃は、オーク戦でも見なかった戦法だ。

出し惜しみなどするまいというナターシャの意向だ。

タマモは相変わらず笑いながら、今度は両手に扇子を持ち、舞いを舞っている。

タマモが舞う度に、ナターシャの魔法弾が逸れたり弾けたり、中にはくるりと向きを変え、ナターシャに襲い掛かるのもあったりと、痛烈だがタマモらしい艶やかさだ。

タマモに跳ね返された魔法矢も、浮遊した高速移動だけで避けていくナターシャ。

「良い良い。これは先ほどよりマシな方でありんすね」

観客の皆も、ナターシャの派手な魔法の嵐に食い入っているのか、はたまたタマモの舞いに魅入っているのか、定かでないまま、シンと静まり返っている。


「これはこれで良いのでありんすが、せっかく宙に舞うなら、相手より上を獲らねば、ねぇ」

そう言うと、タマモはナターシャの真上に出現する。

「ほれ」

タマモが軽く小突いたように見えたが、受けたナターシャはドシンっと落とされて、衝撃でバウンドまでしていた。

「ぐうぅ……」

震える足でなんとか立ち上がり、肩で息をしている。


「もう終わりかえ?」

ナターシャの足の震えも治まり、

「まだまだぁ!」

返す返事とは裏腹にも見えるしゃがみ込みをするナターシャ。

いや、アレは座り撃ちか。

しかも、ナターシャの髪が重力に逆らって立ち上がる。

「これでっ!」

ゴウッと爆音のような音と共に撃ち出されたソレは、一体どれほどの威力が込められたものか、リングの半分近くの規模を形成していた。

「善き」

タマモがそう言った気がした。


「あ、一本しっぽが生えたにゃ」

ヒルコをあやしていたアヤメが唐突に口走った。

「しっぽ?」

衝突の衝撃に備えて身構えたこちらも、思わず聞き返していた。

タマモを見ると、ナターシャの特大の魔法弾を押し留めていた。

そして、扇子を持った両手を前方にかざし、ゆっくりと観音開きの扉を開けるかのような仕草をしている。

あ、ホントだ。

さっきまで無かった白銀のしっぽが一本生えている。

そして両手を肩幅まで広げた時、

「ヒトにしてはやる方か。

これは模範試合であったなぁ。

では、手本を示してあげないとでありんすねぇ」

ナターシャに聞かせるように言ったのか、はたまた単なる呟きなのか。

さらにもう一本のしっぽがそこにあった。

「あ、二本にしちゃったにゃ。

あいつ、やり過ぎなきゃ良いけどにゃあ」

と言ったアヤメもしっぽが生えていた。

結界を強める気かもしれない。

しっぽ二本のタマモの両手がさらに開く。

すると、ナターシャの特大の魔法弾もそれに釣られるように中央から割れていく。

完全に真っ二つになった魔法弾がタマモの両サイドを通り抜け、アヤメの結界に当たって弾け飛んで消滅した。


「そうそう、攻撃もお手本にならなければでありんしたね」

顎に閉じた扇子をやり、何事か考える仕草をした後、

「ナターシャは多重攻撃が得意でありんしたね。

そもそも、威力を上げずとも良い方法もありんすよ」

そう言うと、タマモが扇子を一閃。

七色の魔法弾?がタマモから放出される。

まるでナターシャの弓魔法のようだ。

これもまっすぐ飛ぶのや曲射の如く曲がるものまでそっくりだ。

ナターシャが同じく七色の魔法矢で迎撃する。

しかし、ナターシャの身体が打ちのめされ、“上“に跳ね上げられていた。

タマモの攻撃は地中からも仕掛けられていたのだ。

ドサッと倒れ込むナターシャに、

「死角をもっと勉強するでありんすよ。

狙うなら、今回のようにお腹ではなく頭部か顎先を狙うでありんす」

タマモはかなり手加減してくれたようだ。

「勝負あり。勝者、タマモ」


ナターシャは大事ないようだ。

先ほどのエルフの奥さんに支えられながら、リングを退場して行く。

タマモは悠々とこちらに歩み寄ってくる。

「タマモって、教え方上手いんだね」

「ええ、ええ。もっと褒めておくんなまし」

「あんたが手加減を知ってることに驚きだわ」

タマモは、アヤメからヒルコを受け取り、「ヒーちゃん、ママカッコ良かったでちゅか~」などと溺愛ぶりを示してる。

あ、ナターシャがさっきの奥さんに、ガミガミとされてシュンとなっている。

ああ、あの二人は師弟でもあったな。

その隣に、落ち着かずキョロキョロしてるハヤテがいた。

わかる。僕にも見える。

次に呼ばれる君の姿が。

手を合わせ、君の無事を祈っておくよ。

南無~。



余談

「ナターシャ、あなた浮遊魔法に呪文を唱えてたわね」

「だってだって、高速移動も掛けなきゃだし」

「呪文を読み解く者がいたら、先読みされてロクなことないって、あれほど口すっぱく言っておいたじゃない」

「そんなの、ミレイユお姉ちゃんくらいしかいないよぉ」

「まだ言うか!」

「はうぅ……ごめんなさい」

弟子は師に逆らってはいけません。

下の☆をつけていただけると励みになります。

よろしくお願い致します。

ミレイユさんは今後度々登場して来るキャラになります。

ナターシャ、リント、ミレイユさんのエルフトリオの絡みも面白くなります。

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