第25話 武闘大会 前編
始まりました、武闘大会。
作者の思惑外のことで、これを書いている時は少し悩んだ記憶があります。
今は100話を優に突破して書いていますので記憶も曖昧ですが、振り返って読んでみて、あってもまあいいかな、と。
やっと秋口の涼しさを感じる朝です。
気持ち良いですね。
なぜか開催となってしまった武闘大会の朝でもあります。
大会会場は広場。
広場の周りに観客席まで設けられ、皆も詰め寄っている。
ルールは単純。
1対1で闘い、相手を降参させるか気絶させたら勝ち。
相手を戦闘リングから押し出しても勝ち。
ただし、過って相手を死亡させたら負け。
もちろん、妖達が死の危険があると思ったら飛び込んで阻止する段取り。
ここでは、妖達全員が審判であり、裁定者だ。
主審は前鬼かと思っていたが、後鬼。
主審は選手達の一番近くにいるため、もしもの際には妖術に長けている後鬼の方が良いらしい。
観客席に被害が及ばぬように、アヤメが結界を張っている万全の仕様だ。
また、アヤメの結界は戦闘リング上空にも設定されているため、空中に舞っても良いが、空中から範囲外に出ることが出来ない仕様。
戦闘リングは直径25メートルの円とした。
発想は、前世の小学校のプールから。
ああ、そういえば、現代ではプール設備のある小学校も激減したらしいね。ちょっと悲しい。
泳げない子供達がいっぱい出そう。
もし津波などの災害があったとしたら……。
閑話休題。
ま、だいたいこんな感じ。
マンガやアニメで勉強したからね~。
あ、早速挨拶しなきゃ!
「え~、皆さん、おはようございます」
ナターシャが音魔法で、僕の声を皆に届けてくれる。
皆、元気良く「おはようございます!」を返してくれるのが嬉しい。
「本日はお日柄も良く……なんてのは省きます!
ただいまより、大樹の森の武闘大会を開催いたします!」
大きな拍手と歓声により、武闘大会が始まった。
「第一試合、選手、前へ」
トラ系獣人の男性とドラド族のヒト種の男性がリングに上がる。
獣人の男性は、狩猟チームでたまに見かけた人だ。
「ルールは事前に説明した通り。
大樹の森の住民として恥ずかしくない闘いを」
主審の後鬼が述べる。
「はじめ!」
号令一閃、即座に獣人がタックルを咬ます。
ドラド族は獣人の頭を抑え、両足を開いて後ろに展開し、うまく反応したようだ。
それに、自分の体重を相手の頭から後ろ首に掛けて、獣人の突進をコントロールしている。
それでも獣人の進みは止まらない。さすがの獣人の怪力だ。
このまま押し出されるか、と思った時にいなしを入れて、距離を取るドラド族。
うまい。一度左にフェイントを掛け、右側に体を向ける。が、それもフェイントで左に抜けて行く。
いなしも一流だ。
再び獣人が突進を仕掛けるが先ほどよりやや重心が上向いてる。かちこみを狙った?
パァンッ!
鋭い音が響く。
ね、猫だまし!?
一瞬放心状態の獣人の隙を狙って、一本背負いが炸裂。
地面に大の字に転がされた獣人の頭に、体重を乗せたドラド族の正拳突きが襲う。
「そこまで」
後鬼が宣言する。
「勝者、マサヨシ」
ドラド族から大歓声が沸き起こる。
あっという間の決着。
両者、握手をして称え合う。
待て待て待て!
猫だましはまあ良いとして、一本背負いからの正拳突きだあ?
アレは日本拳法の鉄板技じゃないか。
僕も前世で似たようなことをやってたよ。僕は相手の頭を踏み抜いたけど。
しかも、名前がマサヨシ、だとぉ?
「サトちゃん、あのマサヨシって人、要チェックね」
『敵意は無いようですが……かしこまりました』
いろんな意味で衝撃的な第一試合だった。
そして迎える第二試合は、エルフの奥さん対ドラド族の狼系獣人の男性。
えっ、エルフの奥さん、闘えるの?
いつも畑の手入れしてくれてる人だよね。
夏野菜のトマトやナスが「見事に出来ましたよ」って笑顔で報告してくれた奥さん。
しかし、試合が始まってみると、終始圧倒する強さが露見した。
魔法ですよ、魔法。
呪文を唱え、おもむろに「ファイアボール」の一言を発声。
おおっ、かの有名な魔法の代名詞とも言えるファイアボール。
エルフの奥さんの1メートル先に、突如炎が揺らめき出し、ゆっくりと相手に向かっていく。
最初は歩行スピードくらいから徐々に走行スピードに加速して、相手の手前では高速に転じていた。
だが、ドラド族の男性は、「その程度」とニヤリと笑う。
身体がブレたかと思ったら、横に3メートルほど身体ごと同じ姿勢で移動していた。
さすがは獣人の身体能力と思った途端、その獣人の左右背後からいつの間にか出現していた大量のファイアボールが突き刺さる。
最初のファイアボールは囮だったみたいだね。
そこで手を緩めないエルフの奥さん。
何も呪文など唱えもしないのに、いきなり暴風が吹き荒れ、上空数メートルに巻き上げられてしまった獣人の男性。
そのまま場外へ押し出されて終了。
獣人の男性は、良いところを何も出せずに終わってしまった。
いや、何もさせずに終わらせたエルフの奥さんがすごいのだ。
「お粗末様でした」ってニコッと笑う奥さん。
美人だけど、ちょっと背筋が冷えたような気がする。怒らせないように気を付けようっと。
後で聞いたら、あの奥さん、全ての魔法を無詠唱で放出出来る、エルフの中でも凄腕の魔術師なんだって。
ナターシャが姉の如く慕う魔法の師でもあるそうだ。
あいや~、エルフ侮りがたし。
自分に絵の才能があれば挿絵とかアップしたいけど、高校時代の油絵で挫折しました(泣)。
それまで描いていた水彩画と全然違う。
また、高校の同級生が描いた絵を見て「絵の才能」というものを強烈に認識しました。
その子とは仲良く出来て、自分の小説の挿絵を描いてもらっていましたね。
今はどうしてるんだろう?
元気かな?
床屋さんを継いでるのかな?
「漫画家になれるよ!」と言ったのに、本人はストーリーが作れないから無理って言ってたのを覚えています。
天は二物を与えずでしょうか。
いや、一物でもあるのは羨ましい限りです。