第248話 お好み焼き
大樹の森の都、西地区にあるアーケード商店街に集められた原住民の代表者達。彼らに地球の料理の試食が振る舞われる。
そして、その料理の評価は如何に?
ーーー ナターシャの視点です ーーー
東地区のアーケード商店街のまだ開店していないお店に集められた私達。
ジロー様の主催する試食会にお呼ばれしたの。
ジロー様の故郷のお料理。これは是が非でもいただくわ。
「さて、みんな。
テーブルの蓋を取ってくれるかな。
ほら、こんな風に」
ジロー様がテーブルの真ん中に指を掛けて蓋を取っていた。
パカッ。
え? 普通のテーブルと思ってたら、蓋があるの?
見様見真似で蓋を取ってみる。
あら、蓋の下から鉄板が。
「ほう?
鉄板料理と言う訳じゃな」
「あらぁ。
ドアンさんはご存知無かったのかしらぁ?」
「フン。
ここの建築一切はクーガーが担当しとる。
ワシの管轄外じゃ」
「テーブルの横にあるつまみを捻って、目盛りを5~6にしてくれるかな」
えーと、つまみ、つまみっと。
あ、あった。これね。
で、目盛りを5にしておこう。
パチン。
目盛りを動かしたら、何かスイッチが入ったような音がした。
「それで鉄板が温まるから。
鉄板が熱くなるから触らないようにね」
はい。
リントがみんなに取り皿や箸などを配膳している。
「あら? 何これ?」
スプーンの先が平たくなったような、ヘラのような器具も一緒に渡してくる。
「コテと言うんですよ、ナターシャ様。
それで料理をカットしたり、スプーンのように掬って食べられます」
ふーん。変わってるわね。
「これからみんなに食べてもらうのは、お好み焼きと言う。
材料も入手しやすく、調理法も簡単。
だから、妖のみんなは自分の家でよく食べてる」
へぇー。そうなんだ。
オコノミヤキね。
「自分で簡単に出来るのか。それは良いな」
「えー、団長に出来るでやんすかねぇ」
「団長が料理してるところなんて、想像出来ないわね」
「閃光団では料理しないのか?」
閃光団と銀狼師団の連中の会話ね。
「あ、いや、団員全員しやすよ。
数日間続く戦闘が当たり前でやんすからね」
「ただ、団長が当番の時は、何故か『なんか違う』モノが出来ちゃうのよ」
「一応、食べられるんでやすが、なんと言うか……ねぇ」
「あ、でも、たまーにものすごく美味しいのが出来ちゃうから、余計に不思議なのよ」
みんな、楽しそうに笑ってる。
「それで、最初は初心者にはハードル高そうな広島風から行くよ。
だから、僕がみんなの分を焼くね。
各テーブルごとに一枚ずつ作っていくから、みんなで分けて」
わあ、最初はジロー様が作ってくれるんだ。
しかも、わたし達のテーブルに来た。
ジロー様が、なんかシャカシャカやってる。
小麦粉を水で溶いたものかしら?
油を引いた鉄板の上に、お玉で流し込んで……あ、そのお玉で生地を広げてる。綺麗な円になってる。
今度はキャベツの千切りかしら? その円の上に乗せてる。
「この天かすが良い仕事をするんだ」
さらに、テンカスを乗せて青ネギも乗せて、その上からもやしも乗せてる。
「これは削り粉と昆布粉だ」
二種類の粉をまんべんなく振り掛けるのね。
「そうしたら、豚バラ肉を乗っける」
綺麗に並べてる。ここまで流れるような手順。さすがはジロー様。鮮やかね。
お肉の上から少し生地を足してる。
「ひっくり返す前に火力を上げるとか、細かなコツがあるから、広島風は個人では取っつきにくいかもね」
ザバンッ。ジュワっ。
大きなコテを両手で使ってひっくり返してる。
うーん。ここまで見てて、ちょっと私ではうまく出来る自信がないなぁ。
「このタイミングで焼きそばを炒める」
麺にソースを掛けて炒めてる。
その麺も綺麗な円状になってるし、あっ、焼いてた生地を麺の上に。
ああ~。ここまで来るとちょっと無理かもって思っちゃう。
「さらに、卵を割り入れて、軽く混ぜながら同じ円形状にして、乗っけるんだけど……。
ここまでの行程を見て、やれそうかな?
ナターシャ?」
「ひゃい!?
…………わ、わたしにはちょっと難しい……かも?」
突然、振るんだもん。慌てちゃった。
「うん。貴重な意見をありがとう。
そうなんだよね。
まあ、これは専門のお店で食べてもらうのが良いかもね」
はい、その方が良いかも。
「最後にもう一度ひっくり返してソースを塗る。
で、青のりをパラリ。
これで完成」
コテで切り分けて、このテーブルのみんなに分けてくれた。
「他のテーブルの分を作ってくるから、先に食べてて」
「待ってました!」
「いただきます」
「いただきますぅ」
「これはコテで食うんか?」
「ああ、この広島風は箸の方が食べやすいかもね」
あーあ、ジロー様、行っちゃったぁ。
「ほれ、ナターシャもエリシャンテも、いつまでもジロー様ばっか見とらんで食え。
冷めたらもったいないぞ」
そ、そうね。
これは試食会だもの。ちゃんと食べて評価しなきゃ。
「おう、うめえな。さすがはジロー様だぜ」
うん。美味しい。
お肉の旨味とダシ粉の旨味が相乗効果を出してるのね。
それだけじゃなく、野菜の甘味が、お口の中にじんわり広がっていく。
また、麺の存在感がボリューム感を演出してる。
「材料は特に変わったものは一切なくてぇ、普通にお店で売ってるものばかりでしたねぇ」
「俺様は買って帰ることにするぜ」
「ハヤテ、オヌシ、家で作るんか?」
「おう。
嫁さんに食わしてやろうと思ってな。
フライパンありゃ出来るだろ」
そういえばコイツ、ガサツな性格なのに、料理系は不思議と上手なのよね。都一のお店を経営してるだけあるわ。
「私は少し難しいかなぁと思っていますぅ。
タイミングやコツが色々ありすぎてぇ。
途中のお野菜の蒸し具合も経験重ねないと難しそうですし。
麺を焼くのに、フライパンも二つ同時に必要ですよねぇ」
「ふむ。
家庭用の鉄板を用意する必要があるかも知れんのぅ。
鉄板を家庭用フライパンの2倍くらいにして、魔石を嵌め込んで温める機能をつければよかろうて。
持ち運び出来る程度の大きさと重量に抑える必要があるか……」
さすがドアンはドワーフ工房の長ね。もう新しい器具のアイデアを思い付いたみたい。
「おっ、良いねぇ。
それがあれば、家族で焼き肉も出来そうだぜ」
「うむ。
今度試作してみるゾイ」
◇◆◇
ジロー様が全てのテーブルで作り終わったみたい。
わたし達のテーブルに戻ってきた。
「次は関西風お好み焼きだよ。
これは簡単だから、家庭で気軽に作れると思う。
タマモ、お願い」
「かしこまりました」
あら、タマモ様が指導してくれるのね。
「関西風お好み焼きのお手本を示すでありんす。
これは広島風に比べて簡単に美味しく作れるから、おすすめでありんすね」
ニッコリと笑うタマモ様は、戦闘の時とは違って可愛くて好きだわ。
「そして、今日は豚玉とイカ玉を用意したでありんす。
ばり……ばり……なんだったかしら?」
「バリエーションにゃ」
うふふ。アヤメ様のツッコミは今日も健在ね。
「そうそう。そのバリエーションが豊富なので、好きな具材を入れるのもありでありんす」
なるほど、豚肉やイカ以外にも好きな具材を入れて良いのね。
「まず、小麦粉を水で溶いてよく混ぜる。ここでダシ粉を入れちゃっても良いでありんすよ。
そうしたら、次々具材を入れて混ぜる。
あちきは行程がわかるように、一つ一つやってみせるでありんすが、皆の前には具材を入れた状態のものを配るでありんす」
ジロー様、アヤメ様、リントが手分けして器を配ってくれる。
「イカ玉を作るでありんすが、イカは皮をちゃんと剥がす。食感を良くする為に。
皆に配ってあるのは、皮を剥いで粗みじん切りにしたものがもう入ってるでありんす」
タマモ様は色々と具材を入れていってる。
あら? テンカスはわかるけど、さっきのには無かった赤いものも入れてる。
「これは紅しょうが。
お好み焼きには紅しょうがを入れるべき、と思うでありんす」
ああ、あのちょっとピリッとするやつね。
「最後に生卵を入れたら、あとは混ぜるだけ。
出来るだけ空気を含ませるように、下から混ぜた方が、フワッとして美味しくいただけるでありんすよ」
タマモ様の手つきも鮮やかね。
ジュワッ。
「蓋をして蒸らしても良いでありんすが、無くても良いありんす」
「タマモ様よぉ。
蓋をするメリットは?」
ハヤテが良い質問してる。
「中のキャベツがじっくり蒸らされて、甘味を出しんすね」
「なるほどな。
なら、俺様は蓋をする一択だな。
リント、蓋をくれ」
言われてリントが差し出したものは、大きなお椀に取っ手がついたような、見たことのない形状をしてた。
「ほう?
鉄板焼き専用の蓋と言う訳か。
こりゃ、まだ金物屋にもないだろうな。
まあ、家で作る時はフライパンで出来るから、その蓋で良いだろうよ」
ハヤテのやつ、絶対に家で作る気ね。
ザバンッ。
「ひっくり返したら、形を整える程度は良いでありんすが、押さえつけたりしてはダメ。
せっかくのふわふわ感が無くなっちゃうでありんすよ」
基本、あまり触らないのがコツね。
「最後にソースを塗って、青のりをパラリ。
これで完成。
好みでマヨネーズを掛けても美味しいでありんす」
タマモ様がやるんなら、わたしもやるわ。
みんな、各々焼き始めた。
嬉声に混じって、悲哀の声も聞こえる。
ひっくり返すのを失敗したのかしら。
「そうそう、そうやって高さを出すように鉄板に流し込むと中が蒸されるし、ひっくり返すのも楽でありんすよ。
なかなかやるじゃない、ナターシャ」
珍しい! タマモ様に褒められた。
ちょっとドキドキする。
よっ、はっ、っと。
ふぅー、なんとかうまくひっくり返せたわ。
あとは、ソースを塗って、マヨネーズを掛けて……完成!
ハフッハフッ。
あっついけど、美味しーい。
これ、一枚じゃ足りないわ。
「豚玉は片面焼いてる間に豚肉を綺麗に並べなさい」
うん、まだわたしには豚玉がある。
みんなも一枚じゃ足りないみたい。イカ玉と豚玉の両方を焼いてるみたいね。
さあ、豚玉行くわよ。
お好み焼きは受け入れられたようですね。
作者は、生地にチーズを入れたものをよく作ります。さらに卵2個入れるのが、マイフェイバリットなんですよ。
35年くらい前に、近所のお好み焼き屋さんに卵追加のトッピングがあって、ふと頼んでみた後からずっとそうしてます。
食べてみると、卵の旨味がぐぐっと感じられ、一発でハマってしまいました。
機会あれば読者の皆さんもお試しください。
さて、次話は、この続きの意見交換会のお話です。
おや、ここに居ない調味料研究所の面々にもなにやら動きが……。
お楽しみに。




