第247話 未公開レシピ 試食会
この間の昼食時に、未だ未公開のレシピが多く存在することに衝撃を受けた次郎。
そして動き出す……。
ーーー カイの視点です ーーー
行政庁長官室の前。
コンコン。
「どうぞ」
部屋の中から招く声が聞こえる。
ガチャ。
「カイ・エフェクト、参りました」
「やあ、カイ。
まずは掛けたまえ」
行政庁長官のヤクト様に従い、ソファーに腰掛ける。
「ゴドー王国からの徴収、ご苦労だった」
ヤクト様が仰る徴収とは、大樹の森国の新たな領地、穀倉地帯への侵入者を捕らえ、その身代金を回収したことを指す。
「いえ、これも警備兵が優秀なおかげです」
「うむ。
アヤカシの方々はもとより、新規参入した銀狼師団の連中も良いようだね」
元ゴドー王国軍第10師団。現在の銀狼師団だ。
新領地の穀倉地帯の防備と俺が率いる交渉団の護衛をしてくれている。
敵側であった時、我が軍とは一切矛を交えずに撤退に徹したと言う。
その潔さが優れている。
軍事は門外漢だが、ウチの軍隊を相手にすることは愚かな行為と思える。
今までの戦時記録を読み返してみても、ウチの軍の戦闘力が半端ない。常識を覆している。
河童隊48名と弁才天様の50名に満たない寡兵で、敵兵1万人以上を殲滅するって、非常識にもほどがあるだろう。
神の御業としか言い様がない。
……あ、いや、弁才天様は水の女神様だったか……。
「それで、本題なのだが……。
明日の朝10時から3時間ほど、予定を空けておいてくれたまえ。
昼食は出るから用意しなくて良い」
ふむ。午後は仕事出来るな。
「パワーランチですか?
少々早い時間ですが」
役職が上がるにつれ、パワーランチを活用する機会も増えたしな。
なにせ、長官のヤクト様の方針が「残業しない、させない」だからな。一日の時間の組み立てをしっかりしないとならない。
「了解です。
何か準備しておくものはありますか?」
「特に無い。
強いて言うなら、朝食は軽めで済ませておいた方が無難なことくらいかな」
???
「昨日、週間定例会議があったろう。
そこで、我が君より試食会が提案されたのだよ」
なにっ! 盟主様の試食会だとぉ!
…………ふぅー。
……まずは落ち着け、俺。
「なぜ、そのような席に私のような者が?」
「行政庁一の美食家と噂される君だ。適任だろう?
しかも、市井に詳しい」
そりゃ、平民出だから市井に詳しいってよりも、一般市民そのものだからな。
「はあ……」
「故郷の料理で、我が君からすると当たり前のメニューらしいのだが、国民に公開しても良いかどうかを判定して欲しいそうだ」
なんと、盟主様の故郷の料理!?
これは是非とも食べてみたい。
「やってくれるな?」
「はい。
不肖、カイ・エフェクトでよろしければ」
「うん。期待している」
◇◆◇
翌日、指定された場所に到着。
なんだよ。西地区のアーケード商店街じゃないか。
渡された地図で確認すると、赤提灯の店とさぬき屋の中間地点らしい。
どちらも俺が常連としている店だから、詳しくはある。
しかし、この集合場所は、まだ開店していない閉鎖中の店舗のはずだが?
ガラガラ。
横開きの扉だ。この界隈では、このタイプの出入口が多いよな。
指定された店舗に到着したぞ。
はっ! もう盟主様がいらっしゃっている。しかも成人の姿だ。
しまった。
「お、遅くなって申し訳ございません。
行政庁のカイ・エフェクトと申します」
今は朝の9時。集合時間の1時間前のはずだが、目上の方より遅い到着はダメだ。
深々と頭を下げる。
「ああ、まだ集合時間の1時間も前だよ。
気にしない、気にしない」
相変わらず、盟主様はお優しい。
「あれ?
君、塩焼き鳥の好きな人じゃん」
覚えてくださっていたのか。
コボルト戦直後の戦勝を祝って祝宴を上げていた時、盟主様自ら焼き鳥を焼いて、皆に振る舞ってくださっていた。
もうずいぶん前のことなのに。
「当然。
君、全種類の焼き鳥を注文をして、一本一本確かめるように食べた後、塩を一本ずつ注文して、延々十本を平らげていたよね。
記憶に残るさ」
あれは絶品だった。
あの味の記憶があるせいで、焼き鳥があるどの店に行っても満足出来なくなっていたんだ。
あのタイショーですら、追い付けなかったんだぞ。
あの時、タイショーにそう言ったら、「我が神と比べるな。おこがましい」と叱られてしまった。
「あれは、大変美味しかったです。夢に出るほどでした」
「ハハハ、ありがとう。
でも、まだまだなんだよなぁ。
もっと精進しておくね」
十分過ぎると言うのに。盟主様は、いったいどこに基準があるんだ。
「千切りじゃダメにゃの?」
「も~、粗みじん切りに決まってるでありんす!」
厨房の奥から人の声がする。
それを聞いて、盟主様が厨房に向かう。
「ああ、両方ある方が良いよ」
「ほらぁ」
「え?
それじゃ生地に負けちゃわないでありんすか?」
ああ、厨房に居たのはアヤメ様とタマモ様だ。
「広島風も出す予定だから」
「ああ、それで。
そっちは、あちきは門外漢でありんす」
「関西風はタマモに任せっきりになるから、よろしくね」
ヒロシマ風? カンサイ風?
「すまないな、カイ。
仕込みの真っ最中なんだ」
「いいえ。
私は、お待ちするのも楽しんでいます」
「適当に客席に座って待ってて。
ポットにお茶入ってるから」
「ありがとうございます」
大人しく待っていよう。
ガラガラ。
おや? 誰か来たようだ。
「こちらで合っているようです。師団長、副長」
「そうか」
「相変わらず、このアーケード商店街はどの店も魅力的な店ばかりですな」
銀狼師団のヘイズルとジーン、それに副長じゃないか。
「エフェクト参事……いや、そう言えば参与に昇進されたんですね。
ご昇進おめでとうございます」
「「おめでとうございます」」
三人が祝福してくれた。
「何も変わらんよ。俺は俺さ」
参事とは、部長や課長の上役に当たる役職だが、参与はさらにその上役に当たる。
民間企業なら役員クラスになる。
「俺に挨拶する前に、盟主様に挨拶すべきところだぜ」
「ああ、そんなのいらない、いらない。
今、仕込みで忙しいから。
カイ、あと何人か来るから、悪いけど君が面倒みてて」
厨房から、盟主様の声が聞こえてきた。
「了解しました」
それくらい容易い。
「客席に適当に座ってな。
お茶はポットに入ってるから手酌でな」
それから、時間を追うごとに次々と来場者が来た。
ドワーフの長のドアン様に、エルフの長ナターシャ様、獣人族の長ハヤテ様、ドラド族の長エリシャンテ様と、各種族のリーダー達が揃い踏みだ。
ガラガラ。
「おっ、ここでやんすね」
「副団長、こういう時は団長から入るもんじゃないのかい?
そんなんしてたら、足元見られちまうよ」
「良い。気にするな」
元傭兵の閃光団の主力三人もか。
確か、副団長のカウマンにサラ。そして団長のブレイド。
三人とも英傑の称号を持つ軍の猛者達だ。
「ブレイド、こっちだ」
ジーンが閃光団の三人を呼んでいる。
「ジーンも来てたのか」
「んじゃあ、ご相席失礼しやすよ」
彼らは意外と仲が良さそうだ。
「今度また三対三の模擬戦をやりましょう」
副長がそう言うと、
「良いでやすよ。また返り討ちにして差し上げるでやんす」
「今度はそうはいかない!」
ヘイズルも力が入っているようだ。
ガラガラ。
まだ来るのか。
「もう、ヤクトお兄様がギリギリまでお仕事為さるから!
もう皆様揃ってらっしゃるわ」
「姫様。もうその辺で」
「すまない。
だが、まだ時間前だぞ?」
最後はアルメリア姫様と姫様付のソフィア嬢。
そして、我が上司たるヤクト・ダイクン様。
「ヤクト様、アルメリア姫様。
どうぞこちらへ。
ソフィア嬢も」
元ダイクン王国民としては、適当に出来ない三人なので、自分の席へ案内する。
お茶を注ごうとすると、
「エフェクト様、お気になさらずに。
皆様、手酌でお茶を嗜んでいらっしゃるご様子。
どうしてもと言うのならば、私がお注ぎ致しますわ」
「ソフィア。
自分で注ぎますわ。
ヤクトお兄様もね」
さすがはソフィア嬢とアルメリア姫様。
真なる貴族意識をお持ちのようだ。
俺は立ち上がり、厨房へ向かう。
「リント、揚げ玉は?」
「今、シャカシャカが終わったところです!」
「よし、こっちへ持ってきて。
僕が揚げるから!」
「アヤメ、イカの下処理、終わったでありんすか?」
「イカは追いつかないぃ。どうしよう(泣)?」
「も~。
イカは半分こっちに寄越しなさい!
お肉のスライス終わったから、あちきもやってあげるでありんす」
「タマモ、大好きにゃ♪」
「はいはい」
厨房は戦争状態だな。
「盟主様、皆様お揃いです」
「え!?
もう、そんな時間?」
「今は9時45分。
まだ時間前です」
「……時間ぴったりに客席の方へ行くから、カイ、君にそれまで任せる!」
「かしこまりました」
つい返答してしまった。
15分。
独りで時間を潰すのなら、あっという間なんだが、複数の人達を相手するには長く感じてしまう時間だ。
さて、どうしよう?
「皆様。
10時になりましたら、盟主様が参ります。
あと15分ほどお待ちください。
さて、皆様もこのアーケード商店街は幾度か訪れているかと存じます。
様々な店舗が立ち並び、人気を博しております」
ここで、来場の皆の顔を一人一人見る。
こうすることで、大勢に話しているのではなく、あなたに話しかけているんですよ、と言う印象付けが出来る。
「では、これらのお店の中で一番人気の飲食店と言えば……?」
「疾駆庵ですわ!」
ソフィア嬢がうまく乗ってくれた。
「さすがですね。
実はその通りなんです」
このアーケード商店街の管理を行政庁が行っている関係上、各店の売上や来客数の把握は出来ている。
フフ、オーナーのハヤテ様は何も仰らないが、そう言われて嬉しいのだろう。鼻の穴が大きく膨らんで、ここまで鼻息が聞こえる。
「では、二番目は?」
しばらく、皆がざわつく。
「さぬき屋じゃないのか?」「伊勢福うどんの方が好きだが……」「赤提灯の店一択だな」
俺もジーンと同じく赤提灯の店と言いたいところだが……。
「実は、二番目は毎月コロコロと変わっているんですよ」
No.1は疾駆庵が不動の地位に着いているが、二番手は毎月変化している。
「ちなみに、先々月は尾張三河屋でした」
「オワリミカワ屋? 聞いたことないぞ」
「何屋さんかもわからないわね」
「ワシはよく行くがな」
おっ、ドワーフのドアン様は常連らしい。
「やはり、ご存知の方もいらっしゃるようですね。
尾張三河屋は、味噌煮込みうどんのお店として開店した店舗です。
他のうどん屋より遅れて開店したので、ご存知無い方もいらっしゃるかもしれません」
「ミソ……某は知らないな」
「あら?
あなた知らないの?
ジロー様の故郷の料理なのに」
「そうなんですかぁ。
では、一度食してみなければいけませんねぇ」
盟主様の故郷の料理は、いずれも絶品揃いだからな。一度は食すべきメニューではある。
「看板メニューの味噌煮込みうどんも大変美味ではありますが、その店の人気No.1のメニューは別にあるんです」
「たぶんアレじゃな」
ドアン様お好きなようだ。
「その店の人気No.1メニューは、豊橋カレーうどんなんです。
そこのカレーうどんはちょっと変わってまして、カレーうどんの下にとろろご飯が隠れているのです」
「一杯でお腹いっぱいになりそうですね」
「なんだよ。
俺様は開店当初に行って、ミソ煮込みウドンだけ食べて出て来ちまったじゃねえか」
ハヤテ様、それも仕方の無いことかと。大抵の皆がそうだったのでしょうから。
しかし、日を追うごとに豊橋カレーうどんの注文数が増え、先月にとうとう店内売上No.1の座に着いたのだ。
かといって、他のメニューの注文数が下がった訳でもない。
最初は常連客が何の気なしに注文したのだろうが、旨さに気付いて周りに宣伝していったのだろう。
口コミに勝るもの無し、だな。
「それにトンカツをトッピングすると抜群に旨くなるんじゃ」
「ああ、トッピングの種類が色々ありましたね」
「カレーにトンカツ。
これ以上の組み合わせは存在せんワイ」
ハハ、好みは人それぞれ。
さて、そろそろ15分経ったと思うが……。
「みんな、お待たせ」
厨房から盟主様がやって来た。
ふぅー。これでバトンタッチだ。
「カイ、ありがとう」
いえいえ。
俺も着席する。
「今日は伝えた通り、ある料理の試食をしてもらう。
この料理は、僕達の世界では定番料理で、広くみんなに食べられていた当たり前のものなんだけど、こっちの世界で受け入れられるのかわからない。
そこで、君達にそれを判定してもらいたいんだ」
ああ、それでアヤカシの皆様ではなく、原住民の俺達ばかりが集められたんだな。
「その料理は……」
カイは、大樹の森国においては珍しい常識人。ヤクト長官の右腕として存在感の高い人物。
そのカイに下された新たな辞令。
それは次郎の故郷の料理の試食会に参加して、評価をすること。
その試食会当日、15分間の場繋ぎを頼まれることになりましたが、上手くしのいだようですね。
さすがは、行政庁長官の懐刀。やりますね。
さて、次話は、読者の皆さんにはバレバレですが、例のアレのお話です。
お楽しみに。




