第243話 真神大戦 連戦の果て
真神は戦い続ける。大樹の為に。
ーーー 真神の視点です ーーー
「ねえ、生かしたまま逃がしちゃって良かったの?」
女性の姿に顕現した大樹が話し掛けてくる。
先ほどの三体の魔獣のことだな。
「今後のことも考えての処置だが?」
三体の魔獣を執拗に攻め、前後不覚となっても叩き起こし、何度も痛めつけてやった。
会話の出来るオーガの「もう……許して……許してください」と言うセリフが聞こえたので、それをきっかけに三体共解放してやった。
「まーくん、楽しそうだったけど……」
「楽しいものか。
殺さぬように細心の注意を常に払っておったのだぞ。
だが、まあ、恐怖は植え付けた。
ヤツラはおろか、ヤツラに近い者共も近寄ることはなかろう」
「ああ、それで。
本当は、まーくんなら瞬殺出来ちゃうんだろうな。
まーくんはこの森で最強の存在じゃない?」
いや、他の大妖達と大きな差がつかぬのでなんとも言えぬな。
それに……遥か彼方の存在と化した主殿が居られるからな。
最初にお会いした時は可愛らしい幼子で、何としても守ってやらねば、と思ったものだが……。度々なるほどと感心させられる振る舞いや治世をお示しになり……いつの頃からか、我では敵わぬ存在と成られていた。
「まだ夜明けまで時間がある。
我は眠るぞ」
大樹のウロに戻ることにする。
「まーくん、ありがとう。
おやすみなさい」
「ん……おやすみ」
◇◆◇
今、我は人間の軍隊と戦っている。
数が多い。
百や千では利かぬくらいの数だ。万の軍勢であろう。
やむなく、眷属狼達を喚び出し、対抗することにした。
「狼どもめ! ええい、蹴散らしてくれるわ」
「行け行け! 大樹は目の前ぞ」
指揮官も多く居り、どれが総指揮官か見分けがつかん。
数多の矢が飛び、投げ槍が放り込まれる。
だが、ここは森の中。
そのような飛び道具は通用せぬわ。
眷属狼達に、飛び道具を扱う者共を殲滅することを命じた。
人間の数は多い。生かしておく必要もない。
魔獣共は、同種に恐怖が伝播して大樹に近づかぬことを期待して、生かして返してやったが、人間の軍隊が相手ならそこまで気をつける必要もない。半数ほども減らしてやれば良かろう。
「重装歩兵、前へ」
ガシャン、ガシャン。
むっ。装甲兵と言うヤツラだな。頑丈そうな鎧を纏っておる。さらに大盾持ちか。
その装甲兵に眷属狼が飛び掛かる。
装甲兵の振り回す剣や槍を躱し、正面から眷属狼が当たるとあっさり倒せている。
倒れた装甲兵は、鎧の重みと眷属狼の重量が重なり、起き上がれぬようだ。
また、他の眷属狼達が武器や盾を取り上げ、上に乗っかった眷属狼が装甲兵を嬲り殺しにかかる。
装甲兵の鎧も、眷属狼の爪や牙で十分に引き裂ける程度だった。
ドワーフ達が手掛けるものとは雲泥の差だ。
フフッ。我の出る幕も失くなってしまったな。
「ギャアア! た、助けて!」「ぐわわっ。噛みついて離れない」「痛いー!」「嫌だー!」
阿鼻叫喚の図だな。
我に刃向かう者に対して慈悲の心は持ち合わせておらぬ。存分に思い知るが良い。
「ウオン!」「ウオォーン」
むっ。
どうやら、総指揮官を見つけたらしい。
そちらに向かうことにする。
知らせを聞いて来てみれば、そこは南の草原だった。
ふん。
総指揮官は森に入らず、遠方から高みの見物か。
「お、大きい!」「狼の魔物か!?」「デ、魔狼だ!」
「この大きさ……まさか、神話に出てくるフェンリルなのか!?」
人間は本当に煩い。
辺りに雷撃の嵐を降らし、黙らせる。
ピシャァンッ、ゴッゴッゴッゴッ。
「雷魔法!?
まさに神話に出てくるフェンリル様だ」
またか。
我をそんな横文字で呼ぶな。
「人間よ。
なぜ大樹に押し寄せる?
何が目的だ?」
周りの者共が「喋った!?」「やはりフェンリル様だ」などと煩いが、総指揮官らしき者を睨みつけ、問いただす。
「知れたこと。
大樹の……世界樹の実を手にするのは我らロマノ聖国だ!」
大樹の実?
大樹は花は付けるが、実は宿さぬがな。
「如何にフェンリルであろうとも、魔物の一種に過ぎん。
全軍でもってかかれぃ!」
良かろう。
我に刃向かう者には死を与えてやろう。
瞬時に指揮官の跨がった馬の直前に出現する。
そして、馬が硬直している隙に、総指揮官の上半身を咥える。
「ぐわっ! だ、誰か助けよ!」
そんな弱さでよくも総指揮官など出来るものだな。
ブシュッ。
顎に少し力を込める。
「い、痛い……痛い痛い!」
ブシュッ、ボタボタボタ。
総指揮官が血塗れになっていくが、誰も助けようともしない。
所詮、烏合の衆か。
もう良い。面倒だ。
ブチィッ。
総指揮官を真っ二つにし、吐き捨てる。
「今後一切、大樹に近づくこと無かれ。
もし違えることあらば、貴様らの子々孫々に至るまで我が滅ぼしてくれよう」
ガアアッ!
兵達が硬直していたので、一声吠えておく。
「うわぁー」「に、逃げッ!」「こんなところ二度と御免だぁー」
蜘蛛の子を散らすように、兵共が三々五々に散らばって行く。
まったく、お粗末な軍隊があったものだな。
歯応えもなく、矜持もない。
逃走した兵共は、眷属狼達が追い立てることだろう。その数を半数に減らすまで。
さて、我は大樹の下へ帰るとするか。
◇◆◇
「まーくん、お疲れ様」
女神?の姿で顕現した大樹が出迎えてくれた。
「やつらの目的がわかったぞ」
「なになに? やっぱり私のナイスバディ?」
「たわけ!
オヌシの実とやらだ」
「私の実?
もう、みんなしてエッチねぇ」
くっ。何がエッチなものか。
「オヌシの実には何か特殊な効果があるのか?」
「わかんない。
だって、一度も実なんてついたことないもん」
大樹がしきりに首を傾けている。
だが、あらゆる種族が欲しているのだ。何かしらの効果があるのであろう。
……そういえば、クリムト帝国軍のオーガを尋問した際、「覇王の源」を獲りに来たとか言っておったな。
それが大樹の実のことか?
言葉通りのものとすれば、奪われるのは宜しくない。
覇王に相応しいのは、唯一我が主殿以外に居ない。
大樹にクリムト帝国軍とのやり取りを説明しておいた。
それからしばらく、大樹は深く思考の渦に埋もれていた様子。
「ねえ。
まーくんはここに住んでいたのよね?
そして、たくさんのヒト達と一緒に生活してたんだよね?」
「ああ、大樹の森の都にな。
オヌシも住民を愛し、加護を与えておった」
「…………」
大樹が我をまっすぐ見つめてきた。
「まーくん……。
あなた、"時を超えて"やって来たんじゃない?」
時を超えて……か。
まあ、我もなんとなくそんな気はした。
大樹によると、クリムト帝国と言う国名はここには存在しないらしい。
いや、"まだ"存在しない、と言うべきか。
時空転移と言う言葉はあるが、その現象の記録は一切無い。地球でも異世界でもな。
だが、事実として起こっている。
未来の大樹が発動したのであろう、おそらくは。
現在の大樹が出来るのかは不明。
今、一生懸命踏ん張っている大樹を見る限り、出来ぬのだろう。
「まーくん、ごめん。
出来ないみたい」
「いや、良い。
まだしばらくは、こちらでやることが残っておるからな」
「え!?
残ってくれるの?」
「残るもなにも、元の時間に戻せぬのであろう?
それに、この調子では、まだまだ様々な種族が襲ってくることが予想出来る。
守って欲しいのだろう?」
「まーくん、大好き!」
ふん。
事象には因果関係があるはず。
我が正しい行いをすれば、自ずと結果が伴おう。それに依り、元に戻れるやも知れぬ。
まあ、戻れずとも、数千年も待てば主殿達もやってこよう。妖の我にとって、瞬きの時と変わらぬ。
◇◆◇
あれから幾年の時を過ごしたか。
相も変わらず、我は多種多様な種族を相手取って戦ってきた。
ほとんどが魔物であったが、熊や猪、蜘蛛、大蛇、蠍、等々。ありとあらゆる生物が押し寄せて来た。
ヒト型種族も様々来たな。
今まで見たことの無かった巨人族まで群れで来ていた。ただ、こいつは知恵が回らぬので、比較的に楽ではあったがな。
ヒト型種族はだいたいが群れで襲ってくるので厄介であった。巨人族以外は連携攻撃もあり、苦労したものだ。
「まーくん。
ヒト型種族にはフェンリルって呼ばれてるね。
毎回、「違う!」って否定してたけど」
女神姿の大樹がコロコロ笑っている。
「我は真神だからな。
唯一種族だから、同族と言うものは存在せぬ」
「フェンリルって、ヒトが勝手に作り上げた神話に登場してるのよ。
その姿がまーくんにそっくりなんだろうね」
「ふん。紛らわしい」
「でも、まーくんの存在がその伝説に真実味を帯びさせた感じかな」
「…………。
その論理からすると、フェニックスとやらもそうなのか?」
「あはは。
不死鳥なんて居る訳ないじゃん。
…………。
もしかして、まーくんの居た世界には居るの?」
大樹がハッとした表情をしていた。
「いや、まあ、あいつもフェニックスなどと呼ばれることに憤慨しておったがな」
「えー! 居るんだ!?」
「我の仲間は八咫烏と言う。
会っても、決してフェニックスなどと呼ぶなよ」
「わかった。
ヤっちゃんだね」
くく。そう呼ばれる八咫烏の顔が見てみたいものだ。
キィィーン。
甲高い音が聞こえてくる。
ハハハ。噂をすれば、と言うヤツか。
おおっと!?
聞きなれた高速音が彼方から聞こえてくる。
あれは何だ? 鳥だ! いや、飛行機だ! いや……。
…………古すぎて、今の人には通じないか(笑)。
そう言えば、子供の頃、父親が映画に連れていってくれたのが、「スーパーマン」でした。後にも先にもこれっきりなので、印象深い作品です。
クラーク・ケントが異世界転移した作品があったとしたら……著作権問題で業火が吹き荒れることでしょうね(苦笑)。
さて、次話も真神大樹続きます。
お楽しみに。




