第242話 真神大戦 転移?
突如、転移門に包まれ、寸でのところを救出された真神。
そのまま転移門をくぐり抜けると……。
ーーー 真神の視点です ーーー
ここは…………?
辺りは明るいようで暗いとも感じる不思議な空間。
この空間は知っているぞ。
戦に出陣する際に毎度通っていた。
大樹の転移門。
主殿や雲外鏡の空間転移とは違う。
二人の転移は、発動すれば即座に異なる場所に出現するが、大樹のは文字通り"門"をくぐり抜けるのだ。
ほら、前方に出口が見える。
いや、見えてはいないが、なぜかそうとわかる。
とすると、先ほどの声は大樹のものか?
主殿の他、誰とも交信出来ぬ存在だぞ。
……しかし、そうとしか考えられん。
まあ良い。
門をくぐるとするか。
◇◆◇
通り抜けたそこは、柔らかな風が吹く草原の中だった。
ふむ。大樹のやつ、南の草原に転移させたか。
急いで戻らねばな。
あの鹿の群れをそのまま放置は出来ん。
都に近いとは言えぬが、さりとて遠くでもない。
狩人達や河童達が危険だ。いつ接触してもおかしくはない。
せめて、ボスや進化した者達くらいは排除しておかないと安心出来ぬであろう。
大樹に向かって駆け出す。
この進路なら、都を通ることになるな。
では、主殿に報告していこう。
あのお方なら、都の住民達に適切な処置を施してくださるであろう。
しかし、ボスの討伐は譲れない。
我を追い詰めることの出来た好敵手だから。
こういったことも汲んでくださるお方だ。そこは安心出来る。
他の大妖達が勝手に手出しせぬよう抑えてくださるようお願いしておこうか。
やつらに任せると群れごと葬り兼ねないからな。
大樹の森のバランスを考えぬ奴ばら共ばかりだから、厄介なのだ。
そうこう思考している内に大樹の根元に到着した。
到着してしまった!
どういうことだ?
南門をくぐった訳でもなく、防壁すら無かった。
いや、都そのものが無かったのだ!?
だが、大樹は目の前にある。
その根元に同化しているはずの屋敷も無い。
…………。
いったい何が起きている?
「大樹、大樹よ!
返答せよ!」
無駄かもと思いつつ、大樹に呼び掛けてみた。
しばらく静寂が訪れる。
やはり我では届かぬか。
さて、どうしたものか……。
(……ワンちゃん?)
ぬっ、返事をした!?
(ワンちゃんが助けに来てくれたの?)
「ワンちゃんではない!
真神だ!」
おのれ、まるで飼い犬の如きに呼びおって。
(ワンちゃんのお名前なの?)
「だから、我はワンちゃんではないと言うとろうが。
我の名は真神。
ま・が・み!
山林の大神であるぞ。覚えておけ」
(まがみ……真神…………。
うん。覚えた。
まーくんね♪)
話に聞いてた通り、お調子者だな。
「まーくんでもないと言うに……。
まあ良い。
いったいどういうことだ?
都はどうなった?
主殿は、鈴木次郎様は何処にいらっしゃる?」
(都? なに?
スズキジロー? 誰それ?)
「鈴木次郎様を忘れたか?
貴様にとっても大事なお方だろう」
(ええ~? わかんない)
惚けている訳でもなさそうだ。
大樹は思念で対話する為、意識が素直に流れてくる。
とすると、この状況はいったい?
(まーくんは私を助けに来てくれたんじゃないの?)
「助け? 助けが必要なのか?」
(うん。
魔獣達がいつも襲って来るの。
たいていのやつらなら、私だけで撃退出来るの。
でも、最近すっごく強いのが現れちゃった。
私でもギリギリ)
「オヌシでなんとかなったのであろう?
では問題ないではないか」
(最後まで話を聞いて。
そこにさらに追加で来ちゃった。
その強いのと同じくらい強いのが。
しかも追加で二体……)
大樹が困るほどの魔獣か。しかも合計三体。
「ソヤツらは徒党を組んでいるのか?」
(うう~んん。違うと思う。
徒党を組むどころか、鉢合えば戦ってるの。
おかげで私もなんとかなってるって状況)
強力な魔獣が三体ここに居るのか。
「ソヤツらの目的は何であろうな?」
(わかんない。
けど、私をガジガジ噛むの)
別に旨いものでもないだろうに。
(きっと私がナイスバディなのがいけないんだわ。
まーくんも魅力的だと思う? やっぱり?)
コヤツは……。
突如として、大樹の前に女性が現れた。
その女性は身体の周りに羽衣のような思念の塊を纏い、まるで天女の如き美しさを持っていた。
天鈿女を彷彿とさせる煌びやかな印象を受けた。
……だが、その女性が腰に手をやり、腰をフリフリする様は、非常に残念だ。
天鈿女の舞いとは似ても似つかぬその振りは……やめて欲しい。
そのせいで、「人化出来るのか!?」や「顕現出来るのか!?」などの疑問が吹っ飛んでしまったわ。
「その奇妙な踊りを止めぬか」
「あら、私の魅力を伝えるエロティカル・ダンスよ。貴重なのよ」
貴重なものか。残念さがより増しただけだわ。
むっ、顕現すると言葉を発することが出来るのか。明瞭な音声が聞き取れる。
「はぁ…………。
とにかく、その三体の魔獣共はオヌシに攻撃してきており、徒党を組むことなく各々が争っている、ということなのだな」
「そうそう」
「その魔獣の種別は?」
「一体は鹿。角が立派だから雄ね。森の東から来たわ」
ここでも鹿か。
「一体は竜。地竜ね。でも普通の地竜よりも数倍は身体が大きいの。
こいつは北から来た」
ラプトルよりも大きいのか。ティラノと同類か?
「最後の一体はオーガよ。
コイツも普通のオーガよりも大きいわ。南からやって来たの」
オーガか。知恵が回るコヤツが一番厄介かもな。
「わかった。排除しよう」
「え!?
まーくん、助けてくれるの?」
「助けて欲しいのだろう?
縁あってここに居るのだ。それくらいはしても良かろう」
ここは主殿の縄張りだ。
そんなヤカラを放置出来ぬ。
「ありがとう!」
我も大樹の加護とやらを貰った身だ。恩返しと言う程のこともないが、困っている者を助けることもやぶさかでもない。
「では、ソヤツらが現れるまでは、貴様のウロを寝床とするぞ。良いな」
「使って使って。
なんなら添い寝もするけど」
「要らん!」
「も~、いけずなんだからぁ」
大樹の性格はこんな調子なのだな。主殿のご苦労も偲ばれるのぉ。
それから、日もとっぷりと暮れ、森に闇が訪れた頃、ソレが現れた。
ふふん。
夜行性なのは知っている。
よく来たな。
まずは貴様から排除してやろう。
ズウゥン、ズウゥン。
足音が響くほどの巨体。
我を見下ろす位置にある頭。
その巨体に見合う巨大な脚と尾。
それとは真逆に小さな腕。
特徴的なのは、やはりその顎の大きさであろう。身体に比してあまりにも大きく、狂暴さを演出しておる。
ウチのティラノと全くの同種。ティラノサウルスと言うやつだな。
おうおう、ご丁寧に頭に二本の角まで生やし、ティラノにそっくりだな。
しかし、その面構えは全く似てない。
ティラノのような愛嬌が微塵も無い。
「ギャアァァンッ!」
吠え声も可愛げがない。
しかし、進化しているのなら、主殿を真似てみるか。
「そこな地竜よ。
大樹に手を出すでない。引き返せ。
そのまま引き返すのならば、こちらも何もせぬ」
大樹の前に出て、立ち塞がる。
「ギャアンッ!」
地竜が噛みついてきた。
が、少し身体をずらすだけで避ける。
「グアァァッ」
しつこく噛み付き攻撃をしてくるが、難なく躱す。
聞く耳無しか。
それとも理解出来ぬのか。
進化の度合いは個別でまちまちであろうから、致し方ないのかもな。
突如、我の居た地面が弾け飛ぶ。
やはりか。
進化個体は各々特有の能力が付与されている者が多い。
ティラノは音波攻撃であったが、コヤツは衝撃波のようだ。
ティラノより強力な攻撃であろう。
が、戦闘能力はティラノより劣ると見える。
ほれ、尾っぽを振り回し、打撃とするのはわかるが、己の力量より上の者に安易に背を向けるのは頂けぬな。ウチのティラノはそんな浅はかなことはせぬぞ。
地竜が背を見せた瞬間、飛び掛かって蹴りを入れてやる。
バシンッ。 ズザザザッ。
おう、30メートルは飛んだか。頭から地面に突っ込んで行きおった。
ドッドッドッドドッ。
我の背後からの突進。
ふふん。
オヌシのことは端から探知出来ている。
魔鹿の突進を空中で躱す。ついでに爪でコヤツの顔面を引っ掻いてやった。
ブシュゥッ。
「ヒィィーッ!」
魔鹿の顔から鮮血が溢れ出す。
徒党を組んでいる訳ではないが、"三体"同時に相手せねばなるまいか。
ゴオオオッ。
炎が我を襲う。
オーガの術だな。
その炎が周囲に飛び散らぬように、我の結界で包んで消化する。
「森の中で火を撒き散らすのは感心出来ぬな。
下手すると、貴様も焼け死ぬことになるぞ」
「うるさい。どけっ!」
オーガは話せるようだ。
だが、会話はしない。
痛めつけてから話をした方が聞く耳を持つだろう。
トンッと前脚で地面を叩く。
オーガの前後左右から岩が迫り出し、その身体を穿つ。
「ごぼっ……」
だが、この程度ではオーガの戦意を削ぐことは出来ぬな。
再度、オーガに土槍を喰らわせようとしたところに、魔鹿が我に突っ込んできた。
それを横に躱し、頭突きをお見舞いしてやる。
「ギャッ!」
魔鹿が地に倒れ込む。
「グオオンッ」
今度は地竜の衝撃波か。無駄なことを。
衝撃波を躱すついでに、周囲の大木を蹴り、地竜に飛び掛かる。
弱点の首を避け、首の後ろに噛みついてやる。
勢いに乗った我の体重が乗っかり、地竜を地に転がす。だが、噛みつきはまだ放さない。
どうだ、痛かろう?
貴様の短い腕では傷を宛がうことも出来ぬものな。
地竜の後ろ首をがっちり噛んだまま振り回す。
そして、オーガにぶつけてやる。
ドガッ。
フフッ。地竜とオーガが重なり合って十メートルほど飛んでいく。
我は、すぐさま魔鹿に再度の体当たりを仕掛ける。
起き上がったばかりのところをすまぬな。
魔鹿を同じ方向に突飛ばしたので、同時に視界に収めることが出来た。
コヤツらが大樹の言っていた強力な三体の魔獣とやらであろう。
どれ、もう少し付き合ってやろうか。
その身に恐怖が染み付くまで。
真神と魔獣との戦いが始まりました!
油断しなければ、やはり真神は強いですね。しかも、なにやら手加減している様子。
それにしても、大樹さんはやっぱり残念なお人? 美しさの比較として天鈿女を出しましたが、余計に残念さが浮き彫りに(笑)。
そう言えば、天鈿女って、ストリッパーの祖らしいですね。スタイルの良い美人さんを思い浮かべてしまいます。
さて、次話も続きます。
お楽しみに。




