第240話 ブナ林と竹林
今日は大樹の森の都内の南部、農場の巡回に出掛けた次郎。
そして、それについてきたヒルコ。
二人の様子を窺うとしましょう。
ーーー ヒルコの視点です ーーー
今日はパパとお散歩。
最近は戦争とかにずっと行ってて構ってもらえなかったの。
戦うんなら、ぼくもお手伝いするのに。
「ヒルコの存在は、まだ他国には秘密にしておきたいんだ」
とか言ってて、連れてってもらえないの。
でも、今日は久しぶりにパパと二人っきり。いっぱい遊ぶんだぁ。
今は大樹さんの南にある畑に来ているの。
パパは巡回だって言うんだけど、違うと思うの。
だって、お巡りさんの巡回と全然違うもの。
うさ耳お姉さんにくっついて廻ったことあるから知ってる。
お巡りさんは、色んなお店や建物を廻って中に居る人たちとお話したりするのに、今日のパパは街中には行かないの。
今も、畑で働いてる人たちとお話してる。
「ピピッ」「ピー」「ピピー」
畑で働いてるスライムたちが挨拶してくれる。
「ピューイ、ピ♪」
挨拶されたら、ちゃんとお返事しなきゃ。
あ、パパが行っちゃう。
慌ててパパの頭の上に乗る。ここがぼくの定位置。とても落ち着く場所なの。
今度は果樹園。
ここは色んな果物が生って、いい匂いがするから好き。
今はさくらんぼやビワ、ブルーベリーが収穫出来るんだ。
パパの好きなイチジクは、もうちょっと先なんだって。
「地球に居た子供の頃、裏庭にイチジクの木が自生しててね。よく食べたものさ」
イチジクを採る時、白い汁が出るんだって。その白い汁は、かゆいかゆいになっちゃうから気をつけなきゃいけないって、パパが言ってた。
「白い汁に気をつけるのは簡単なんだけど、そこはヤブ蚊が多くてね。
毎年刺されるのを覚悟して採ってたなぁ」
ふん。そんな害虫はぼくが退治してあげるよ。
「あれ?
あんなところに林が出来てる。
また緑スライムが生やしちゃったかな?」
う~ん。
彼らは自由人っぽいところがあるからなぁ。
でも、彼らが生やす植物が結構役に立ってたりするから、下手に叱れないの。
「ブナの木だね。
何を思ってブナなんか?」
生やす植物は考えてやってるとは思えない。
たぶん、本能に従ってるだけだと思うよ。
「あ、いや、防壁内にブナの木があるのは良いことかもしれない。
ブナの木ってね、別名森の女王とも呼ばれてるんだ。
他の植物や動物達と共生関係を築く、とっても良い木なんだよ」
パパがぼくをなでなでしながら説明してくれる。
「ほら、根元にもう苔が生えている。
秋になったら、どんぐりも生るし、色々なキノコ類も生えるかもね」
どんぐり? どんぐりって何だろう?
秋になったらわかるよね。
キノコはわかる。
あのお肉みたいな感触がする植物だよね。とても不思議なヤツ。
煮ても焼いても、すっごくおいしいの。
ブナ林を抜けたら、今度は緑一色の木がいっぱい生えてるの。ニョキニョキしてて、まっすぐ生えてるの。
変わった木だなぁ。
「げっ! 今度は竹かよ。
しかも竹林になってるぅ」
タケ? 竹? 知ってるような、知らないような?
「ヒルコは覚えてない?
日本にもいっぱいある植物だよ」
う~……パパと出会う前は、意識が曖昧でただただ過ごしてただけからなあ。記憶にあるような、無いような?
「日本に居た頃は、生存本能で生きてきたんだね。
でも、今は意識が芽生えたんだ。生きてて良かっただろ?
この世に美味しいものがいっぱいあるって知ったことだしね」
ぼくはパパに会えたことが一番嬉しい。
「ここにも…………いっぱい美味しいものがあるはず」
え? この竹が食べられるの?
いや、ぼくたちは何でも食べられるけど、パパたちには難しいんじゃないかなぁ。
「うん。この竹には生だとヒトには毒になるものがあるね。固いし」
ヒトは溶解液が無いから不便だね。
「でもね。
タケノコなら話は別」
竹の子供?
「う~ん…………ちょっと時期が遅すぎたかな?」
なんか、パパがウロウロし出しちゃった。
「むっ、この辺が怪しい」
ん?
なんか土が微妙にもっこりしてる?
あ、パパがクワなんか取り出してる。
しかも、大人に変化してるし。
「よいしょ、よいしょ」
お芋さん掘ってるみたい。
ザクッ。ポコン。
ありゃ? 竹の赤ちゃん?
「これがタケノコだよ。
柔らかくって、美味しいよ。
煮物にも良いし、タケノコご飯も良いね」
じゃ、今日の夕ごはん?
「あ~、今日は難しいかな。
タケノコはアクを抜かないといけないから」
え~、残念。
「よっ、はっ、ほっ」
パパは次々にタケノコを掘り当ててた。
よく場所がわかるなぁ。
ぼくも真似して土を掘ってみたけど、ハズレばっかり。
「経験が物を言うジャンルだからね。
一度成功すれば、わかると思うよ。
地面がちょっと割れてたり、ポッコリしてるところなんか怪しいね。
僕はそこを足を踏んで、足裏にツンと来るところを掘ってるんだ」
う~……パパみたいに上手くいかない。
パパはもう十本くらい掘り当ててる。
ぼくはまだ……。
あ、地面が割れてる。割れた土がちょっと盛り上がってるような?
その割れ目の上に乗っかってみる。
むむむ。
お腹の下にツンと来る感触が!?
たとえ、タケノコがあったとしても、上手く掘れる自信が無い。
(パパ、パパ!
ここ、ここに来て!)
ここはパパを頼るのが一番。
「あいよ」
ぼくが退いたそこにパパが軽く足を踏み踏みしてる。
「うん。正解じゃないかな?」
パパが割れ目の隣を掘っていく。
あ、あった! タケノコ!
パパは丁寧に土を退けていく。
そして、クワを一閃。
ボコッ。くいっ。
「おめでとう。良いタケノコだ」
パパが笑顔で褒めてくれた。わぁーい。
「結構採れたね。
そろそろ帰ろうか」
はぁーい。
楽しかったね、お散歩♪
◇◆◇
「ただいまー」「ピューイ」
『お帰りなさいませ』「お帰りにゃ」「お帰りなさいまし」
お屋敷に帰ってきたぼくたちをサトリママ、アヤメママ、タマモママが出迎えてくれた。
「はい、お土産」
パパがテーブルの上に、亜空間からタケノコを取り出す。
『タケノコですね。
どこからそんなものを?』
「この森で竹にゃんて見たことにゃいにゃ」
「たぶん、緑スライムが魔法で生やしたんだと思う。
果樹園の南に竹林が出来てた」
「都内も常に変化するんでありんすね」
ママたちもため息混じり。
「ついでに言っておくと、それ以外にもブナ林が出来てた」
ママたちのため息がより一層深くなったみたい。
「あ、でも、ブナの木にはよくキノコが生えるって聞くでありんすね」
「にゃら、あたしの出番にゃ。
食べられるキノコの判別は得意にゃ」
アヤメママは探索が得意だもんね。
『秋まで待ち遠しいですね』
「にゃあ……秋までお預けにゃ」
ぼくも待ち遠しい。
「キノコは秋まで待つとして、タケノコのアク抜きをしておかないと」
「明日はタケノコごはんでありんすね」
「え~、タケノコの天ぷらが良いにゃ」
『タケノコとワカメの煮物も捨てがたいですよ』
パパとママ達がタケノコ料理のお話で盛り上がってる。
ぼくは何でも良いなぁ。
どうせ、全部おいしいに決まってるもん。
大樹の森の都って、毎日毎日大きくなってるし、ちょこちょこ変化もある。
探検しがいがあるなぁ。
明日はどこに行こうかな?
えい、たぁーの場所(戦闘訓練場)?
それとも、お馬さんや牛さんに会いに行く?
あ、蜘蛛さんが増えたって言ってた。会いに行ってこよ~。
うふふ、楽しみ。
いつの間にかブナ林と竹林が都内に発生。
緑スライム達の奔放さは相変わらずのようです。
でも、そのおかげで住民達の生活が向上するのも事実。
緑スライムの存在は、大樹の森の七不思議に確定ですね。
さて、次話は、初期に設定していたお話です。なので、伏線があっちゃこっちゃにあったものを回収していきます。
お楽しみに。




