第239話 豚のしょうが焼き
夜露と徹夜の姉弟を歓迎する為、次郎はお昼ごはんをご馳走する。
正義達が新たな魔蜘蛛達を連れて来る、とのこと。
そこで、魔蜘蛛の管理者を烏天狗が眷属召還してくれた。
夜露と徹夜の姉弟。もちろん、絡新婦(徹夜は男性なので、大蜘蛛だ)。
そして、その二人を歓迎して、今から料理をするつもり。
「烏天狗は二人を食堂まで連れていってあげて。
烏天狗も一緒に食べるでしょ?」
「ありがたくご相伴に預からせていただきまする」
「うん。よろしく」
二人の案内は烏天狗に任せる。
「では、リント君。
ついて参れ」
威厳を保ちながら歩みを進める。
「はい」
もうドアを開けて待っているリント。
うむ、苦しゅうないぞよ。
厨房へ到着してみると、
「お待ちしてたでありんす」
「来た来た。
早くやるにゃ」
あれぇ? 何で居るの?
タマモとアヤメが揃ってるってことは、サトリも居るんだろうな。
『次郎様がイスの上に立って、ヘンテコ……コホン、ポーズを取る時はたいていこちらにいらっしゃるパターンが多ございます』
サトちゃん、今、ヘンテコって言った!?
「今日は何作るにゃ? にゃ?」
「さぞ美味しいものでありんしょう」
『次郎様がポージングした直後ですからね。期待が膨らみますよ』
「え!?
いや…………とっても普通なんだけど……」
そんなに期待しないでよぉ。
僕が食べたいだけなんだけどな。
「…………豚のしょうが焼き……です」
「にゃ?」
「あら? 定番中の定番でありんすね」
『でも、日本の食堂では一番人気じゃありませんか?
単純なようでも、皆を虜にするメニューでもありますね』
サトリは、取り憑いた相手の味覚も栄養摂取も共有出来るから、さぞや色んなしょうが焼きを味わったのだろう。
「最初に言っておくけど、特に凝ったこともしないし、普通に作るんだけど……。
それでも良いかい?」
『「「もちろん!」」』
んじゃ、やりますか。
しゅわっち。大人の姿に変化しておく。
「まずはリント君。
君にはスリスリの儀を命ずる」
リントにおろし器とタッパーを渡しておく。
「アヤメは生姜の皮を剥いて、リントに渡してあげて。
リントはそれをすりおろすこと」
「「はい(にゃ)」」
「タマモは玉ねぎをお願い出来る?」
「くし切りで良いでありんすか?」
「OKだよ。多少の食感は残したいから大きめで良いよ」
僕はお肉を担当する。
それぞれが動き出す。
僕は、豚のロース肉(と言っても、魔猪なんだけどね)をスライスする。
「次郎様。
手が空いたにゃ」
僕らはまだ作業中だが、アヤメが手が空いたようだ。
「うん。
アヤメは何か汁物をお願い。
あと、キャベツの千切りはあるから、それ以外の付け合わせもお願いね」
「にゃ……あたしに決めろ、と?」
「アヤメはセンス良いから任せるよ」
「にゃあ……ど、どうしよう?」
(サトちゃん、サポートよろしく)
(フフフ。かしこまりました)
サトリをサポートにつければ、なんとかするでしょ。
ロース肉のスライスが終わった頃、リントとタマモも作業が終わったようだ。
調味料を作ろう。
と言っても、黄金比率の万能調味料があれば簡単。
醤油2、酒1、みりん1。
この比率がたいていの料理に幅広く使えるんだ。好みで比率を若干変えるのもありだけど。
今回は、しょうが焼きなので、さらに砂糖1の割合で加える。
これをタマモに任せる。
「おろし生姜の量はどうしたら?」
「好きなだけ。
さっぱり系が好きなら多めでも良いよ」
「また難題を……」
「料理を振る舞うなんてね、最初っから他人のウケを狙ったって大したものにならないよ。
最初は自分好みの味付けで出しちゃえば良いんだ」
「ふうん。了解でありんす」
僕は、スライスしたお肉のスジ切りをしていく。これが柔らかい食感を生み出す。
他にも、お肉を酒に漬け込んで5分ほどもみ込む方法もあるけど、包丁持ったついでだから、スジ切りで済ます。
スジ切り終わったお肉をリントに渡し、片栗粉をまぶしてもらう。タレが絡みやすくて、僕はよくやる。
さて、前準備完了だね。
いざ行かん。コンロの前へ。
タマモとリントと一緒に、フライパンを並べたコンロの前に立つ。
「や、やっぱり、ボクもやるんですね?」
イエス、マイリント。
何事も経験だよ。
「フライパンに油をひいたら、まずは玉ねぎ」
ジャ、ジャ、ジャワァ。
「玉ねぎが半透明になった頃、お肉を投入。
お肉に赤い部分が残っちゃダメだけど、早めにタレを入れちゃって」
僕は中華鍋で大きいので、大量に玉ねぎを入れる。でも、高火力だから早く火が通るので、玉ねぎが透き通り出したら、お肉投入。
「大事なポイント。
タレを入れてからは、火を通しすぎないこと」
火を通し過ぎると、お肉の柔らかさが失われるのでおすすめしない。
炒め物全般のコツだよね。
タレを投入してから、中華鍋を5~6回煽る。
菜箸やお玉でかき混ぜながら、煽るタイミングは、いーち、にーい、さーん、で煽る。それを5~6回。
ほい、完成。
「は、早いですね!
ボクも火から外さないと!」
リント、慌てないこともコツなのだよ。
リントのフライパンも見てたけど、タレ入れる前のお肉の赤みが無かったから良いと思う。
炒め終わったしょうが焼きをお皿に盛っていき、インベントリからキャベツの千切りを取り出して一緒に盛る。
よしっ、豚のしょうが焼き、完成だ。
アヤメの方を見ると、そちらも完成したようだ。
「ふぃー。
そっちの時間に合わせるのに、めっちゃ苦労したにゃ。
褒めるが良いにゃ」
アヤメが額を拭う仕草まで演出してる。
いや、ホント、よく合わせられたな!?
豚のしょうが焼きなんて、手早く出来る料理の筆頭クラスなんだけど。
『本当に、アヤメの工夫と手際は凄かったですよ。
作業の一つ一つが鮮やかで、感心仕切りでした。
アヤメはセンスの塊なのね。
…………もしも、肉体が手に入った時、果たして追い付けるのか、自信を失くしてしまいそうです』
アヤメって、最初は十中八九失敗するんだけど、元が器用なのか、すぐに標準以上になるんだよね。羨ましい才能だ。
アヤメが作ったものに興味があって、覗きに行こうとしたら、
「ストーップ!
あとのお楽しみにゃ」
アヤメの笑顔の制止に、こっちも思わず微笑んじゃう。
「わかったわかった。
食堂で御披露目だね」
「あ、タマモはこっちで盛り付けのお手伝いにゃ」
「ええー。
まったく、あなたはいつもそうなんだから」
ブツブツ言いながらも、タマモも頼られて満足そう。
「んじゃ、先にこっちのお皿やらご飯やら、食堂に持っていくね」
リントと二人で、ワゴンにお皿や御櫃、食器類を乗せて持っていく。
「アヤメ様は何をお作りになったんでしょうね?」
「うん、短い時間だったから、簡単なもののはずなんだけど……。
まあ、楽しみにしておこう」
「お待たせ~。今準備するね」
食堂に着いたので、リントと手分けして準備していく。
「何かお手伝いすることはございませんか?」
夜露と徹夜が立ち上がって、寄ってこようとする。
「主賓は大人しく座っててよ」
「夜露、徹夜よ。
こと食に関しては、一切を鈴木次郎様にお任せせよ。
我らは手出しも口出しも罷りならん」
そんな大層なことでもないんだけどね。まあ、いいか。
リントにメインのお皿を配ってもらい、僕がご飯を盛り付ける。当然、大盛りだ。妖のみんなはよく食べるからね。
リントも原住民の割には、ここ最近よく食べるようになった。ここがまだ拠点と呼ばれていた頃は、年相応の量だったけど。
魔力量が増えると食欲が上がるのかしら?
妖達は、妖力値が高いほど大食漢なんだけど、原住民達の魔力値は同じ作用が働く?
何にしても、よく食べることは良いことだ。
ここ大樹の森の都では、お腹いっぱい食べられる幸せがある。そんな小さな幸せを重ねて行きたいものだ。
「お待たせにゃ」「入るでありんす」
アヤメとタマモもワゴンを押して入室して来た。
彼女達も配給していく。
よし、出揃ったな。
「夜露や徹夜も遠慮せずにね。おかわりもたっぷり用意してあるから。
では、手を合わせてください」
パンッ。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
いざ参る。
「おお、豚のしょうが焼きで御座るな。
某の好物で御座る」
へぇ、烏天狗は庶民派?
「定番中のド定番にゃ」
「そうでありんすね。
どの食堂にもあるものね」
「え!?
ボクは初めて見ましたけど?」
「「「はあ!?」」」
皆一斉にリントに目を向ける。
「えっ、いやっ、そんなに注目されても困るのですが……」
リントの顔がちょっと赤い。
「リント。
豚のしょうが焼きって、都に無いの?」
「は、はい。
見たことも聞いたこともありません。
調理中は、ジロー様のいつもの珍しいお料理かと思っていました」
あっちゃー。
当たり前過ぎて、こっちでもとっくにあるもんだと思い込んでたよ。
「サトちゃん、妖が経営してる飲食店って、何店ぐらいある?」
『疾駆庵のような形態も加味すると、合計で48店となります』
「それだけあって、1店も出して無かったのか。
材料も揃えられるし、レシピも単純なのに……」
『我々と同じく、思い込みなのかもしれませんね。
…………。
少しお待ちください』
サトリの気配が消失した。何か探ってるのかもしれない。
『お待たせ致しました。
妖達の一般家庭では自宅でよく食べるそうです。
しかしながら、原住民達は"しょうが焼き"と言う言葉すら認識しておりませんでした』
すぐに戻ってきたサトリから衝撃の報告がもたらされた。
「おほん。
料理が冷めると良くないから、まずは食べよう」
「そうにゃ。豚さんは冷めるとお味が落ちちゃうにゃ」
「そうでありんす。まずは食べやんしょ」
再度、いただきますをして、みんな食べ始める。
「ほらほら、次郎様も余計なことは考えないで、食べることに集中しなしゃんせ」
公開していないレシピがどれだけあるのか、考えてたら、タマモから注意を受けた。
うん。その通りだね。
まずは食べるべし。
一食入魂。
自分の前に視線を落とす。
左手前に大盛りのどんぶり白ごはん。
その右側にメインの豚のしょうが焼きがデンッと鎮座ましましている。
白ごはんの奥にお味噌汁。その隣に、小鉢に入ったほうれん草のごま和えと小皿にはお漬け物。
なるほど。アヤメも考えたな。
これなら短時間で用意出来るし、豚のしょうが焼きが味が濃いことを想定して、上手く調整したな。
まずは、そのほうれん草のごま和えに箸を伸ばす。
シャク、シャク。
あ、うまい。
しょっぱさと甘さが絶妙なんだ。
それに加えて、ごまをふんだんに合えてあるから、風味も豊か。
「アヤメ。
これ、おかわり」
「はいにゃ」
アヤメがそそくさとおかわりを注いでくれる。
このごま和え。
ダシやみりん等が入っていない。なのに、抜群のバランスだ。
たぶん、すりごま、醤油、砂糖、これしか使ってないと思われるが、全てが調和している。
アヤメの才能か。僕も負けていられない。
次にお味噌汁を啜る。
お、ナスのお味噌汁だ。
夏野菜の代表格を具にしたんだ。やるな。
ナスもほどよくとろりとしており、お味噌汁にバッチリ。
「アヤメ。
これもおかわり」
「あらあら、メインに箸もつけず、副菜ばかりおかわりして。
アヤメ。次回はあちきが副菜をこしらえるでありんすよ」
はっ、そう言えばそうだ。メインの豚のしょうが焼きと白ごはんに一切手をつけてないや。
いざ参る。お肉の海原へ。
豚肉にかぶりつく。
うん。柔らかく噛みきれる。
すぐにあまじょっぱい風味が口中に広がり、肉の旨味が土台となって、それらを支えてくれる。
生姜が効いて爽やかな後味を残す。
これは白ごはんを追っかけたくなるね。
口に噛みちぎったお肉を残しながら、どんぶり飯を掻き込む。
口の中がいっぱいになる幸せと共に咀嚼していくんだ。
もう一口お肉を放り込み、今度は付け合わせのキャベツの千切りを頬張る。
シャク。
今度は、キャベツのさっぱり感と淡い甘味が加わり、より完成に近づく。
完成? もちろん、これに白ごはんをさらに追加して訪れるものだ。
「いつ見ても、次郎様の食べっぷりは豪快にゃ。
見てるこっちが幸せな気分になるにゃ」
「本当に幸せでありんすねぇ」
「さすがは鈴木次郎様。
某も負けてはおられませんな」
全員の食事スピードが上がった気がする。
ふふ、こんな幸せな日常が続きますように。
ごちそうさまでした♪
~~~ 余談 ~~~
姉弟がこそこそと話し合う。
「姉さん、これ、旨いね」
「そんなレベルじゃないわ。
相当よ!?
今まで食べてきたしょうが焼きって、なんだったのっていうくらい。ものすごく美味しいわ」
「見た限り、普通の材料を使ってあるし……何が違うんだろ?」
「ここは異世界っていう話だから、何か特別な隠し味があるのよ、きっと」
何もございません。
違いがあるとしたら、豚肉の代わりに魔猪の肉を使用していることだが、日本から来た妖達に魔素が旨味として感知する能力は一切無い。
「副菜もすごく旨いんだよね。
おかわりしても良いのかな?」
「そんなはしたない真似……。
あら? 鈴木次郎様がおかわりしてらっしゃるわ」
「ほら、姉さん。
鈴木次郎様もごはんだけじゃなく、ほうれん草や味噌汁もおかわりしてる」
「そ、そうね。
あ、烏天狗様もしてらっしゃるわね。
……そう言えば、遠慮するな、と仰ってましたわね……」
「「おかわり!」」
勢いよく立ち上がる二人だった。
豚のしょうが焼き。
美味しいですよね。
タレが上手く作れた時のそれに浸したキャベツの千切りが、も~たまりません!
作者はショウガを多めに入れます。が、未だ『これだ!』というバランスのタレが見つかっていません。料理って、奥が深いですよね。ホント。
さて、次話は、ある人物視点のお散歩の様子を覗いてみます。
お楽しみに。




