第238話 夜露と徹夜
行軍訓練2日目の夕方、次郎の下へ報告と相談の為、烏天狗は一足先に大樹の屋敷に向かう。
今は初夏。
と言っても、ここ大樹の森は比較的カラッとしてて過ごしやすいんだ。じとっとした日本とは比べられないね。
ジーン・フェデラルの部隊は、真神を頂点とした一個師団に再編成した。
その名も【銀狼師団】。
当然、眷属狼達も編成されている。
でも、今は、眷属狼達を抜いた部隊で森の行軍訓練に出発している。師団を半分に分け、前半の部隊が森に入っている。
お目付け役として、前半部隊には将軍の正義が、後半部隊には副将軍のマフティがついていく予定だ。もう前半部隊は帰り道だけどね。
実際には、天狗達の監視下にあると言う過保護ぶり。まあ、大樹の森初体験だから、それぐらいじゃないといけないけど。
そして、今、僕は、執務室のイスの上に立ち上がり、あるポーズを決めている最中だ。
足をやや内股気味に開き、左手を顔の前に持ってくる。手の甲は外向きで指を開く。半分ほど顔を覆うようにするのだ。
右手は下げ、手の甲は前を向き、やはり指はパッと広げる。ポイントは右手の甲はお尻より後方にあること。
そして、顔は真剣な表情を保つ。
ヨシッ、出来た!
初代ジョ○ョ立ちだ。
「あ、あの~……」
「フッ。何かな、リント君」
ジ○ジョ立ちのまま聞く。
「カラステング様がいらっしゃいましたが……」
おうふっ。
こんなことしとれんじゃないか。
「鈴木次郎様、ご機嫌麗しゅう」
「うん、烏天狗も元気そうで何より」
慌ててイスから降りて、ポージングを解く。
「いや、某もそのマンガを読んでおりましたぞ」
わっ、初めて通じた。嬉しいね。
「それはさておき。
報告をもらった魔物の素材の回収は、明日、雲外鏡が行く手筈だよ」
「ご手配ありがとうございまする。
いえ、その件ではなく、佐藤将軍が魔蜘蛛を投降させた件でご相談が……」
「ああ、凄いよね。夜霧が居ないのに」
「はい。
これも佐藤将軍の力の一端でしょう。
っと、そうでは無く……。
十頭もの魔蜘蛛が新たに加入するとなれば、夜霧の負担も増えますれば……」
過重労働反対!
夜霧は、今居る五頭の魔蜘蛛の面倒を見るだけでなく、色んな人達に剣術や薙刀術の指導もしてもらってるもんなぁ。
これ以上は負担させられない。
「そうか。そうだよね。
喜んでばかりはいられないか。
どうしたら良い?」
「はっ。
そこで、我が眷属の増員を致したく、お願いに上がりました」
「おおっ。
と言うことは、夜霧と同じ絡新婦?」
「左様。
絡新婦の増員を考えておりまする」
絡新婦は、妖の中でもなかなか狂暴な類いらしいけど、烏天狗が居れば問題ないのかな? 夜霧も問題起こして無いし。
「良いよ。許可する」
「はっ。
では、早速喚び寄せても宜しいか?」
「あ、ちょっと待って。
リント、一応僕の後ろに来ていて。念の為にね」
「はい。畏まりました」
リントは、優雅に、それでいて素早く僕の背後へ回る。
また、僕は軽く覇気を醸し出しておく。同じ轍は踏まない。
「烏天狗、良いよ」
「では……。
我が眷属にして、魔性の蜘蛛よ。
此処に現れ!」
烏天狗の呪文が終わると同時に、空間に分子のようなものが集まりだし、それがヒト型を形成していく。
その空間の収束が終わると、そこに二人の男女が立っていた。
そして、召還された男女が正面の烏天狗に気付くと、すぐさま片膝を立ててしゃがみ込み、頭を垂れる。
「「烏天狗様。お久しゅうございます」」
「うむ。
夜露、徹夜よ。面を上げよ」
夜露と徹夜と呼ばれた二人がゆっくりと顔を上げる。
この二人もご多分に漏れず、美男美女。
妖になると美人になる法則でもあるのか?
「紹介するぞ。
我が主である鈴木次郎様である。
心して支えるが良い」
「初めまして、鈴木次郎様。
夜露と申します。何卒良しなに」
「…………」
「これ、徹夜。
ご挨拶申し上げなさい」
「……は!
す、すまない、姉さん。
て、徹夜と申します。今後とも宜しくお願い申し上げます」
「鈴木次郎様、申し訳御座らん。
徹夜は、神格を持った者に出会うのは初めてで恐縮したようで御座る。
某も伏してお詫び申し上げます」
「構わないよ。
僕が鈴木次郎だ。
夜露、徹夜。今後ともよろしくね」
夜霧の時とは反応が違うね。
いや、彼女の時もこうしてあげれば良かったのかな? そう思うと、夜霧には悪いことしたな。
「そう言えば、二人は姉弟なの?」
「はい。
同じ卵嚢から産まれ出でました。
たまたま戦場が近くにあり、瘴気を浴び続けた結果が今に至りまする。
とは言え、成長仕切らぬ幼体では生き抜くことさえ困難な時代。
そんな我等を保護して頂いたのが烏天狗様。
烏天狗様に忠誠を誓っておりますの」
姉の夜霧が生い立ちを語ってくれた。
うんうん。烏天狗は子供達だけでなく、弱き者全てのお助けマンだよね。
「いやいや、その頃既に足軽数名を屠っておったがな」
え!? 幼体で既に人間をも倒せたの?
妖怪のスーパーエリートなんじゃん!?
うん? 烏天狗が現れたって言うのは、二人を保護するってよりも人間に被害が及ぼさないようにする為だったりして。
まあ、何はともあれ、魔蜘蛛の管理者の増員が出来た。
ちなみに、夜露は絡新婦だけど、徹夜は男性なので、大蜘蛛とか山蜘蛛とか呼ばれてた妖怪になるね。
あ、そうそう、土蜘蛛ってのは、ヤマト王朝に与しない土着の豪族達のことで、普通の人間。時の権力者に靡かないので、蔑称でそう呼ばれていたんだ。
後の時代に土蜘蛛と呼ばれる妖怪達が出てくるけど、ヤマト時代に妖怪として呼ばれてた概念が定着しちゃって、そうなったんだと思う。
おそらく、蜘蛛の妖怪は"大蜘蛛"と言うのが正解だと思うんだ。
「あ、夜露も姉弟なのか?」
「違います!
あんなのと一緒にしないでくださいまし」
「夜露姉様は、ボクらが幼体の時に既に成体でいらっしゃいました」
姉弟で反応が違うけど、夜霧の方が年上と言うのがわかった。夜露は妖力がべらぼうに高いものな。
夜霧本人も、「上手く制御出来ません」って言うくらい。だから、戦に出すのも控えてる。
夜霧ほどの大物のフレンドリー・ファイアを喰らったら、仲間達も堪らないものね。
「そ、そうか。
いや、姉弟の妖って珍しいよね」
「左様で御座るな。
たまに大量に瘴気が吹き出し、集団で変化することも御座るが…………そういった状況では"共喰い"が発生することが多いで御座る。
血縁者が揃って残るのは、稀ではありますな」
そうなんだ……。
蜘蛛は元から肉食だし、蜘蛛の妖怪の気性が荒いってのも、そういったことと関係してるのかもね。
この辺の話は、これ以上突っ込まないでおこう。
「では、二人の歓迎を祝して、お昼ごはんをご馳走しよう」
「あ、それでさっきのポーズだったんですね。
……違うポーズもあったんですね」
リントがポンッと手を打って、何やら納得してた。
いやいや、全部違うポージングなんだけど!
まあ、いっか。
さあ、いざ行かん。厨房へ!
新たな妖が召還されました。
夜露と徹夜の姉弟。
同じ絡新婦の夜霧とは複雑な関係? いずれ、それも明らかになるでしょう。
さて、次話は、お待たせ致しました。グルメ話です。
お楽しみに。




