第236話 レアモンスター
十頭もの新たな魔蜘蛛を仲間にした正義達。
だが、大樹の森には脅威の存在がまだまだ居ることを知る。
ーーー 三人称です ーーー
行軍訓練中に魔蜘蛛の群れと遭遇した第24中隊。
それに同行していた正義がその魔蜘蛛のボスを降伏させ、大樹の森の都に連れていくこととなった。
だが、行軍訓練は三日間を予定しており、明日まで続けなければならない。
そんな状況の最中、先遣隊からまたも緊急の報告がもたらせれた。
「報告します。
前方約1km先で魔物同士が争っているのが視認出来ました!」
「なんとまあ、次から次へと。
魔獣の森とは、よく言ったものですね」
副長も半ば呆れている。
「了解した。
副長、どういたしましょう?」
第24中隊長は、先遣隊員にきっちり答礼を返し、副長の方を向く。
「魔物の種類は?」
「はっ。
一体は魔猪。もう一体は……初めて見ましたが、その形状からおそらく魔蠍ではないかと思われます」
「そんなレアモンスターまで居るのですか……」
副長も驚きを隠せない。
正義が頭上を見上げる。
「そうか。日が傾き掛けているな。
魔蠍は夜行性だと聞いている。
夜営中に襲われたら堪らない。
排除に向かうぞ」
正義が将軍権限で部隊を動かすことを決定する。
「「「はっ!」」」
「おまえ達は巣に戻っても良いぞ」
正義が魔蜘蛛に向かって言う。
「イ、イキマス。
イノシシ、ト、サソリ、モノスゴク、ツヨイ。
デ、デモ、オイシイ」
角の生えた魔蜘蛛のボスがついてくると言う。
魔蠍は蜘蛛の巣に掛かっても、逆に魔蜘蛛の方が補食されてしまうことが多々発生している。魔蠍の尾節の毒で麻痺させられてしまうからだ。
魔猪の方は、そもそも蜘蛛の巣に掛からない。掛かっても周辺の木々共々薙ぎ倒して行く。
どちらも幼体なら話は別だ。幼体でその味を覚えている魔蜘蛛達。
「そうだな。
おまえ達の食事も用意してやらないとならないものな」
正義がニッコリと笑う。
そして、第24中隊と十体の魔蜘蛛の群れが北へ向かって行進を始めた。
バサバサッ。
北上を続ける第24中隊の下へ舞い降りる者が一人。
「烏天狗様」
空から舞い降りた烏天狗の前に駆け寄る正義。
「佐藤将軍。
気付いているとは思うが、進行方向で魔物が相争っているで御座るよ」
「はい。
今しがた報告を受けました。
何でも、魔猪と魔蠍だとか」
「うむ。
某も上空から確認した。
蠍が猪を襲ったようであるな」
「報告通りですね。
魔物は一体ずつですか?」
「そうであろうな。他に姿は見当たらなかった故。
そして、蠍も珍しいが、猪の方はちとでかい」
「……そうですか」
烏天狗がわざわざ注意を促すほどの巨大な魔猪。成獣に間違いない。
まだこの森に慣れていない兵士達を連れて行くには少々早いか?
正義はしばし考え込む。
「彼らも軍人だ。
まあ、これも良い経験となるでしょう」
正義の将軍らしい返答に、烏天狗も笑う。
「さすがは佐藤将軍。
某も同道致そう」
「それはありがたい。お願いします」
「あの方は?」
小声で第24中隊長が副長に聞く。
「ああ、空軍の副長ですよ。
単騎でクリムト帝国軍の千人長を屠ったとか」
「えっ!? あのオーガの!」
オーガ一体と兵士10人が同等と言われている。損耗を少なくする為、オーガ一体に対し、一個小隊を差し向けるのが定石。
それが単騎で千人長クラスを屠れるとなれば、その力量も推して知るべし。
「それはそうと、魔蜘蛛も従えるとはやりますな」
「ハハハ。成り行きでこうなりました」
「夜霧も喜ぶことであろう。
事の顛末は天狗に伝えておきましたぞ。
鈴木次郎様にも伝わろう」
「ありがとうございます。
念話が未熟でして……。事後報告するつもりでした」
「いかんなぁ。将軍ともあろう者がそれでは。
帰ったら、某が教授致そう」
「大変ありがたいです。是非お願い致します」
「うむ」
中隊長が戦慄に包まれる中、猛者二人が飄々と語り合う。
「見えてきましたね」
先頭を行く副長が漏らす。
「で、でかい!」「あんなサイズになるのか!?」「ここまで大きいのは初めて見るぞ!?」
兵士達同様、副長と第24中隊長も驚きを隠せない。
初めて見る魔蠍よりも衆目の中心は、成獣の魔猪に集中した。
その魔猪は、体高が5メートルを超え、体長は20メートル近くある。
魔蠍も体長が10メートルあり、巨大なのだが、魔猪の存在感が圧倒的で、視線がそちらを向いてしまう。
「ふむ。
某は蠍の方を受け持とう。
貴殿の剣では、蠍の手足が残らなくなってしまうからな。
また、ドワーフ達が血の涙を流しかねん」
ハッハッハと笑う烏天狗の隣で正義も、
「それは勘弁ですね。
剣術の方ももっと精進しなければ。
それに、ハヤテやナターシャも成獣を狩っていますからね。示しを表さないと」
実際は、ハヤテには妻の橋姫が、ナターシャには狩人達との連携があって討伐出来たのだが。単独で魔猪の成獣を仕留めた者はまだ誰もいない。
「ハハハ。お主も侍う者であったな。
存分に力を振るえば善かろう」
兵士達をその場に留めるように指示し、正義と烏天狗の二人は魔物が争う場に足を踏み入れる。
ガサッ。
「ブオオッ」
魔蠍と魔猪はほぼ同時に乱入者に気付いた。
魔蠍は新たな餌と認識し、身体を乱入者達に向けるが、魔猪は自分に攻撃してきた魔蠍から視線を外さない。
ドッドドッ、ドドドッ。
最初に動いたのは魔猪。魔蠍に向かって駆け出す。体当たりをするつもりだ。
魔蠍は特に回避行動を取らない。
というか、蠍自体はさほど素早い訳ではない。補食の際には素早く動くことがあるが、どちらかと言うと力強さに自信がある。
触肢と言う大きな鋏と口元にも鋏角と呼ばれる獲物を噛み砕く強靭な鋏、計四本もの鋏を有し、蠍の代名詞とも言うべき尾節には強力な毒針がある。そして……。
ドカッ。
魔猪の体当たりを受け、魔蠍が宙を舞う。
十数メートルは飛ばされただろうか。
地上に落ちた魔蠍は、何事も無かったかのように体勢を立て直す。
そう、魔蠍の甲殻は非常に硬いのだ。成獣の魔猪が乗っかったとしてもびくともしない。
「魔蠍と言うのは頑丈なんですね」
「某も蠍の戦闘を間近で見るのは初めてであるが、ずいぶんと硬いと見受けられるな。
しかも、接触時にきっちり毒針も刺していきおった」
「ですが、成獣の魔猪の方も平気そうですね」
「ヤツラは皮下脂肪が厚いからな。滅多な事では倒れやせん」
「どちらも一筋縄ではいかない相手ですね」
「うむ。気を引き締めて行こうぞ」
「はい」
正義も烏天狗も臆することなく、それぞれの相手の正面に立つ。
正義が正面に立つことによって、魔猪もようやくその小さな邪魔者に目が行く。
「ここは弱肉強食の世界。
悪いが狩らせてもらうぞ。
何せ腹を空かせた仲間達が待ってるからな」
正義は、鞘から愛剣を抜き放ち、正眼に構える。
一方、烏天狗の方はと言うと、既に魔蠍と戦闘に入っていた。
補食本能に囚われた魔蠍が積極的に攻撃を仕掛けてきていた。
烏天狗目掛けて、大きな鋏を携えた触肢が左右から襲い、毒針を有した尾節が頭上から突き刺してくる。
烏天狗は、愛槍の蜻蛉切でその悉くを弾き返す。
カァン、カァン、カンッ。
「ふむ。
確かに硬いな」
烏天狗が短く呟く。
「では、これはどうか?」
ピシャッ。バリバリ、ドォンッ。
烏天狗は雷術で無数の雷を降らす。
魔蠍が雷に打たれ続け、全身がブルブルと震える。
術が止むと、魔蠍の身体がドサッと沈む。
辺りにイオン臭の生臭い匂いが漂う。
烏天狗が槍先で魔蠍の身体をつついてみるが、一向に動かない。
「呆気ない弱点があったものよなぁ」
物足りなさ気な口調の烏天狗。
そして、正義は…………。
烏天狗はさすがと言うか、素材を出来るだけ無傷の状態で入手しようと、最初の試みで決まってしまいましたね。
烏天狗は、多芸であるばかりでなく、強運も持っているのかもしれませんね。
さて、次話は、正義の番ですね。
お楽しみに。




