第235話 第24中隊vs魔蜘蛛の群れ
覚悟を決めた第24中隊長が魔蜘蛛の巣へ向かう。
ここに魔物との戦いが繰り広げられる。
ーーー 三人称です ーーー
行軍訓練中に魔蜘蛛の群れを発見した第24中隊。
訓練中とは言え、実際の行軍で障害に出くわせば排除行動する為、魔蜘蛛の群れに挑む。
一人、第24中隊長だけが蜘蛛の巣へと近づき、慎重に縦糸のみを掴みあげる。
ふぅ~。
長く息を吐き出した第24中隊長は、意を決して縦糸を揺らす。
ガサガサッ。
特に声を上げずに、樹上から魔蜘蛛が襲いかかってきた。
「す、素早い!」
思わず声を漏らした第24中隊長だったが、一足飛びにその場から離れることに成功した。
地上に降り立った魔蜘蛛と対峙する第24中隊長。そのすぐ背後にはすでに兵士達が剣や盾を構えている。
最初の魔蜘蛛が降り立つ振動が伝わったのか、次々と魔蜘蛛が地上に降りてくる。
「第241小隊は正面、第242小隊は右へ回り込め。第243小隊は左に回り込むんだ。
他の小隊は全てのフォローを」
第24中隊は、中隊長の指示通り、スムーズに移動する。
「攻撃開始!」
号令と共に一斉に襲いかかる。
槍が剣が魔蜘蛛の脚や腹部に命中する。
ガッガン、カァン、ガッ。
「か、固い」「剣が通らない!」「柔らかいはずの腹部にも槍が刺さらないぞ」
兵士達の剣や槍をモノともせず、魔蜘蛛が身体を起こす。
「正面注意!
攻撃が来るぞ」
中隊長の注意が森に響き渡る。
魔蜘蛛は、前脚四本を持ち上げ、正面に居た兵士達数人ごと掴みかかる。
兵士達は、剣や槍で外側から内側へ向かってその脚を振り払う。蜘蛛の間接が曲がる方向へ正しくパリィしたようだ。
これが逆向きだと、力をまともに受けてしまい、下手すると抱え込まれてしまう。
相手は昆虫と同じく節足動物の魔物だ。単純な力も強い。
「ほう? 上手く捌いたな」
「元の師団は魔物の討伐が多く、魔蜘蛛も経験しておりますからな」
正義の感嘆に答える副長。
元のゴドー王国軍第10師団は、いわゆる厄介な任務が多く、それだけその兵士達の経験が豊富となっていた。
どちらも負傷することなく、一進一退の攻防が続いた。
「どれ。私も加勢するとしましょうか」
副長は、槍を手にして最前の魔蜘蛛の下へ向かう。
魔蜘蛛まで5メートルの距離まで歩み寄る。
シュンッ。
一瞬で槍を突き刺し、その槍先は魔蜘蛛の目の一つを潰していた。
「ふむ。
目は普通に通るな」
副長は、一切の力みなく呟く。
すぐさま初撃から二歩下がって、魔蜘蛛の前脚に槍先が向かう。
カァン。
「脚の外郭は固いな」
そのまま切り返し、関節を突く。
ザシュッ。
「うむ。
関節なら通用するか」
そのタイミングで魔蜘蛛が再度前脚を持ち上げ、副長を抱え込もうと振りかざす。
が、そうはさせじと兵士達が盾でもって先ほどと同じようにパリィする。
「ふんっ!」
今度は気合いを込めて突き刺す副長。
ブチィッ。
副長は、突き刺した刃先を外側に振り回すように引く。
ドサッ。
魔蜘蛛の前脚の一つが関節から千切れ飛び、地に落ちる。
「これでようやく前脚一本か。
この森の魔蜘蛛は骨が折れますなぁ」
「関節だ。関節を狙え」
やれやれと呟く副長の隣で第24中隊長が号令を下す。
だが、すでに地上に降り立った魔蜘蛛は五匹に上る。
「副長、これを使え」
後ろに下がっていた正義が自分の槍を副長に手渡す。
「都のドワーフ工房産の槍だ。
存分に使ってくれ」
「ははっ。
ありがたく使わせて頂きます」
副長は槍を取り替え、上下左右前後と振り、具合を確かめているようだ。
(うむ。バランスは確かめた。
あとはこの槍自体の性能を確かめるとするか)
副長は、先ほどとは反対側の前脚の外郭に"わざと"突き刺す。
ザシュッ。
(ほう!?
先ほど弾かれた外郭とは思えない手応え)
魔蜘蛛が突き刺された前脚の後ろの脚、第2脚で副長を振り払おうとするが、副長は槍を180度回し、槍先と反対の石突近くの柄で第2脚を弾く。
(柄の部分も木材でありながら頑強。しかもしなやか。
これは超一流の業物だ!)
副長は、次々と技を繰り出し、まるで楽しんでいるかのようだった。
そして、いつの間にか、魔蜘蛛の一匹を討伐していた。
「さすが副長!」「副長の槍捌きはいつ見ても感動するな」「あの領域に近づきたいものだ」
(いや……これは私の力量と言うより、槍の性能のおかげだな)
「魔蜘蛛はまだまだ居ますよ。
気を抜かぬように」
「「「はっ」」」
第24中隊が五匹目の魔蜘蛛を討伐した時、ソレが現れた。
「シュー……シャー!」
一際大きな魔蜘蛛が威嚇音と共に樹上から降ってきた。
蜘蛛には声帯が無い為、鳴くことはないが、動いた際に体毛や脚が擦れあって異様な音がすることがある。
巨大なこの魔蜘蛛は、"わざと"音を出しているのだ。それが対峙する者に恐怖を与えることを知っている。
正義がその巨大な魔蜘蛛を確認すると、猛然と駆け出す。
「副長、中隊長、すまないが急遽参戦する。
コイツは"成り掛け"だ!」
正義は、誰よりも先頭に立つと愛剣を構え、正面の魔蜘蛛を睨み付ける。
よくよく見て取れば、その魔蜘蛛の頭部には二本の角が生えていた。
進化している魔蜘蛛であった。
後方に下がれ、との将軍からの指示で、やや躊躇いガチだが、命令通りに下がって行く第24中隊。
(将軍は"成り掛け"と言ったな。
魔物が進化でもするのか?
いや、住民に居るとも言っていたな)
副長は、色々と聞きたいことがありながらも、黙って下がる。
「副長。
将軍をお一人にして宜しかったのでしょうか?」
「将軍のご命令ですからね。
だが、いつでも飛び掛かれる体勢を維持しておいた方が良いでしょう」
第24中隊は、正義と巨大魔蜘蛛に注目しながらも、周囲への警戒を怠らない。対魔物戦の経験が豊富な証拠だ。
森などに生息する魔物は、背後から襲って来るものが大半。
彼ら元第10師団の兵士達は、身をもって経験している者がほとんど。兵士の力量の大小は、経験に勝るものはない。
(よし。みんな下がってくれたな。
しかし、"成り掛け"と遭遇するとはな。このまま退治してしまうと、夜霧様から叱られてしまうか?
……弁天は"成り掛け"と対峙した時、投降を呼び掛けたと言っていたな。
一応やってみるか)
「敵対するか? それとも降伏するか?」
ザワッ。
将軍の降伏勧告に驚く兵士達。
相手は国でも人でもない魔物だ。知性もなく本能で襲って来る蜘蛛の魔物。
それに話しかけることすら、異様と言わざるを得ない。
「私達もこの大樹の森の住民だ。
敵対しないと言うなら見逃そう。
だが、襲って来るのならば…………ここで殺す」
正義の妖気が一気に膨らむ。
その妖気に周りの者達が気圧され、身体が震える。
(ま、参りましたね。
サトウ将軍が強いのは肌で感じていましたが…………盟主様とはまた違う……これほどの闘気を纏う方だとは。
大樹の森国……次から次へと驚くことばかり。着いていくのがやっと、ですな)
副長も焦りが隠せず、額から汗が吹き出す。
「どうする?
やるか? やらぬのか?」
正義はさらに問う。
ギ、ギ、ギ……。ドンッ。
巨大魔蜘蛛が腹部を地に着け、八つ足を綺麗に畳む。
夜霧がここに居たら、「蜘蛛の平伏よ」と言ったことだろう。
「ギ、ギ、ギギ……ミナ……オリテ、コイ。
ナ、ナラベ」
巨大な魔蜘蛛が仲間の魔蜘蛛達に指示を出した。
「「「しゃ、喋った!」」」
兵士達が一斉に驚いた。
実は、正義自身も内心で驚いているが、それを表面に出さないだけだ。
そして、新たな魔蜘蛛達が次々と現れ、巨大な魔蜘蛛の背後で同じように平伏していく。
数えると、10体にも上る数が居た。
「コ、コウサン、シマス……アナタニシタガイ、マス」
巨大な魔蜘蛛がおずおずと話しかける。
「わかった。
……う~ん、どうしたものかな?
このままここに放置してたら、ウチの狩人達に狩られてしまう懸念性もあるか……」
正義はしばし考え込み、再度口を開く。
「我々は軍隊と言う職の者だ。敵と戦うのが仕事だ。
また、それとは別に糸を紡ぐ仕事もある。
そのどちらか良い方があれば、一緒に都に来るか?
食べ物は保証しよう」
正義は、今回はサトリも雲外鏡も同行していない為、次郎に事後承諾を申請する腹積もりで、魔蜘蛛達を都に誘うことにした。
「ミヤコ、イキマス」
「よし。では、私についてきたまえ」
将軍が魔物と会話し、あまつさえ降伏させてしまった……。
大樹の森の住民として、まだ日が浅い兵士達は驚愕に包まれていた。
魔蜘蛛は進化すると賢いですね。冷静な判断が出来るところが凄いです。
さて、次話は、この行軍訓練の続きです。
大樹の森に生息する魔物は、魔蜘蛛だけにあらず、というところです。
お楽しみに。




