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第234話 二国間会議と行軍訓練

 穀倉地帯にも一時の平穏が訪れる。

 ……そう見えているだけなのかも知れない。

ーーー 三人称です ーーー


 季節は、春が終わりに近づき、初夏が窺える頃。


 大樹の森国の飛び地である穀倉地帯とゴドー王国の工業地帯の中間地点で、簡易テントが設営され、大樹の森国とゴドー王国の二国間会合が開かれている。


「え~、と言うことでありまして、先月はゴドー王国側から侵入しようとしていた不審者が58名に上りました」

 大樹の森国の文官が淡々と述べる。

「それは勝手に侵入しようとした盗賊か何かでは?」

 ゴドー王国側の職員が反発する。

「だとするならば、貴国の治安が悪くなっていると?」

「盗賊などどこにでも居る。

我が国の責任かのように言うのは、控えて頂きたい!」

「では、盗賊として処分してよろしいので?」

「盗賊は処刑。どこでも扱いは同じでしょう。

まさか生かしてるのですか?」

「ええ。

所属がはっきりしている者を打ち首にする法が、我が国には無いので」

 大樹の森国の文官が資料を配る。


「ええ~、今お配りした資料は不審者達の素性とリストです。

読み上げましょうか。

まずは、5月2日、5名。

ゴドー王国軍第8師団所属クランプ・スカー少尉、同じく第8師団所属マルロ曹長、同じく第8師団所属パウルス軍曹……」

「待ちたまえ!

我が国の軍人が盗賊だとでも仰りたいのか!?」

「貴国の論理に依るとそうなります」

「デタラメだ!」

「本人達の申告によるものなんですがね」

「その辺の盗賊共を捕まえてきて、そう自白させたに違いない!」

「そう仰いますが、貴国の治安の良さのおかげで、普通の盗賊団を見つける方が大変なんですよね。

まあ、貴方の立場も理解出来ます。が、このリストにあるように、貴族の方も相応にいらっしゃるようなので……。

貴国の許可無く首を斬るのもねえ」

「くっ…………」

「まあ、貴族家の者が出奔して盗賊に身をやつした、なんて話もあるのかもしれません。

となれば、首を斬れ、と仰った貴方方がその貴族家に恨まれてしまいますよね。

心中お察しします」

「…………」

 ゴドー王国側の職員達が一斉に口をつぐむ。

「こうしましょう。

このリストは差し上げます。

一週間後にこの続きを再開。

その時に"明確な返答"を頂く、と言うことで。

それ以上は待てません。なにぶん、不審者を収容する(生かしておく)のもタダではありませんから」

 それからほどなく双方が離散していった。



 簡易テントから数名出てきた。

「カイ・エフェクト議長、お疲れ様でした」

「3名だけだったから、疲れずに済んだ。58名もの名前を読み上げなくて助かったよ」

 先ほどまでの交渉窓口だったのが、カイ・エフェクトだ。29歳と言う若さでありながら、文官としてメキメキと頭角を現してきた逸材だ。文官長のヤクトの懐刀でもある。

「それにしても、今回は面倒な手順を踏むものですね。

侵入者は皆殺しでもおかしくは無いのに」

「相手がゴドー王国だからだよ。

これで俺達が『厄介な相手』だと認識させるんだ。

そうすりゃ、今後のゴドー王国軍の動きも変わる。

盟主様は、今の段階ではゴドー王国の壊滅までは考えていないんだろうな」

 カイは、『クリムト帝国と違って』とは口にしなかった。

「大国ですからね」

「クス…………盟主様が……と言うより、要職の方々が国の規模なんて考慮すると思うか?」

「え!?…………ああ、そうですよね。

相手国が大きい小さいで判断してるとは思えませんね」

「大小を一切気にされない方々だからな」

 そこに居た文官達全員が、大妖の面々を思い浮かべていた。


「エフェクト議長、お疲れ様でした」

「ああ、フェデラル師団長。

護衛ありがとう」

 二国間会議の文官達の護衛をしてきたジーン・フェデラルとその軍団の兵達が馬と馬車の近くで待っていた。

 ゴドー王国軍から寝返ったジーン達は、ほぼそのまま軍属となり、真神まがみ直属の一個師団として再編成されていた。

「また一週間後に護衛を頼むことになる。

すまないが、宜しく頼む」

「了解しました」

「それと、今夜空いてるか?」

「はい。

…………赤提灯の店ですか?」

「おう」

「空けておきましょう」

 カイは満面の、ジーンは柔らかく微笑む。


◇◆◇


 二国間会議から二日後。

 ジーンが率いる一個師団の兵達、その半数は、鬱蒼とした木々の中を進んでいた。


「将軍自ら同行されるとは」

 副長が隣の正義まさよしに話し掛ける。

「ん?

行軍訓練は陸自の……陸軍の基本だからな。

たとえ、将軍職の者であろうともおろそかに出来るものでもあるまい」

 彼らは、大樹の森を北へ向かって行軍訓練をしている最中だ。

「はっ。仰る通りでありますな」

(ゴドー王国軍の古株共に聞かせてやりたいものよ。

それにしても、このサトウ将軍も若いな。フェデラル師団長よりも若く見えるが…………ここでは見た目で判断出来ぬ国。

なにせ、あの盟主様もお若く見えたが、私よりも年上だと言うことだしな)

「むっ。

そろそろ先方隊の交代時間だな。

副長、行くぞ」

 正義まさよしが左腕に嵌めた"腕時計"を確認しつつ、副長を促す。

「はっ。了解であります。

第24中隊長、先方隊を交代せよ」

「了解しました。

第24中隊、速足ぃ、進め」

 ザッザッザッ。


 ちなみに、第24中隊とは、24個目の中隊と言う意味ではない。

 第124小隊を例に取ってみる。

 第1大隊第2中隊第4小隊、と言う意味である。

 こうすることで、小隊名がわかれば、所属する大隊及び中隊が明らかになると言う寸法である。


 また、正義まさよしがしていた腕時計だが、ドワーフ工房で造られた最新式である。

 軍用に造られたそれは、外郭がミスリルとアダマントを噛み合わせた金属で出来ており、非常に頑丈になっている。皮膚と接触する部分は、魔蜘蛛デビルスパイダーの糸から加工されたゴムで覆われており、着け心地も良い。

 衝撃はもちろん、冷熱の温度変化にも強く出来ている。

 また、動力源の魔石は極限まで薄く仕上げられ、軽量化に貢献している。そして、その魔石は初期ドワーフのケルビンが仕上げ、スライムの分体がコーティングされている為、空気中の魔素を取り込み、内包させることが出来る。理論上は、魔素がある限り動き続ける逸品だ。



 第24中隊が先方隊に追い付いた。

「ただいまより、第24中隊が先方隊となる!

第23中隊長、交代します」

「了解しました。では、後退します。

第23中隊、全体(ぜんたーい)、止まれ!」

 ザッ、ザッ、ザッ!

 号令から三歩で足踏みも、隊員揃って綺麗に収まる。陸自の教練が施されているようだ。

 第24中隊長と第23中隊長が掛け合いを行い、各中隊が軍隊様式に則り、前後を入れ替える。


 第24中隊が先方隊になった途端、偵察任務中の先遣隊から第24中隊長に報告が届く。

「正面に魔蜘蛛(デビルスパイダー)の群れを発見。巣を張っております。

いかが致しましょう?」

「何体居る?」

「目視では8体は居る模様」

「8体か。隠れているモノも居るだろうから……少し多いな」

 第24中隊長が思案しているところに、正義まさよしが話し掛ける。

「中隊長、横からすまない。

だが、この森の魔物を通常のそれと比較するのは危険だ。

通常の倍の戦力があると思った方が良い。

しかも、魔蜘蛛(デビルスパイダー)は見えている数の倍は居ると思った方が無難だ。

ヤツラは賢い生き物だ。

ウチの住民になっている魔蜘蛛(デビルスパイダー)は会話すら出来る」

 第24中隊長は大いに悩んだ。

 せっかく将軍に同道して頂いてるこの機会に中隊の良いところを見せたい反面、大樹の森、別名魔獣の森と呼ばれる魔物の脅威と中隊の地力を天秤に掛けているのだ。決して疎かに出来ない。

 第24中隊長は、しばらくして副長の顔を見上げる。

「副長、申し訳ありませんが、力をお貸し願えませんか?

将軍もお知恵を拝借したい」

(うむ。良い判断だ。

通常なら、二個小隊あれば十分対応出来るであろうが、ここを大樹の森として再認識してなおかつ力を示すか)

 副長はにっこり笑うと、

「よかろう。

一兵士として参戦しようではないか」

「わかった。

私は参戦せず、必要に応じてアドバイスを送れば良いのだな」

 副長と正義まさよしは、第24中隊長の要望を快諾した。

 そして、第24中隊長共々、最前部に足を踏み入れる。

 最前列の部隊はすでに足を止めていたが、そのさらに前方25メートル先の木々にところどころもやでも掛かっているかと思える白い箇所があった。


「確かに、これは蜘蛛の巣だな。

地上部分が多いが、木々の上の方にまで点在している。

大きな群れだ」

 副長も感嘆しているようだ。

「わざわざ巣に引っ掛かる訳にもいきません。

どうやって誘きだしましょうか?」

「ああ、夜霧よぎり様によれば、蜘蛛の巣の縦糸は粘着性が無いので、それを掴んで揺すれば獲物が掛かったと誤認した魔蜘蛛(デビルスパイダー)が出てくる、とのことだ」

 第24中隊長の疑問に答えたのは正義まさよし

「わかりました。

私が試してみます」

 第24中隊長自らが進み出るようだ。


 足音も極力殺しながら、ゆっくりと慎重に進む第24中隊長。

 ピピィ、ピピ、ピピ、チュン。

 第24中隊長の首筋に冷たい汗が流れるのも知らず、森の小鳥達がさえずる。

 カイの交渉術は、のらりくらりとしていながらも、芯が一本通っているようですね。

 そして、元第10師団も大樹の森で行軍訓練をしているようですね。


 ちなみに、防大では、作者が一年生の時は144小隊所属でした。そして、二年生に成るときに陸海空の所属と専攻科目が決まり、それによって残り三年間の所属する大隊が決定します。

 ところが、作者はまた第一大隊所属となり、純粋な第一大隊員で四年間を過ごすことになりました。

 当時、第一大隊は、あらゆる建物(学舎やPX(学生会館)、風呂、食堂)が近くて便利。また、厳しいとされる学生生活において、一番雰囲気が柔らかいとされていた第一大隊。(実際、一年生時に味わったので事実です。)

 軟弱な作者は、第一大隊で過ごしたいが為に、専攻科目を選ぶほどでした(笑)。

 今は知りませんけどね。


 さて、次話は、第24中隊と魔蜘蛛デビルスパイダーとの戦いの模様をお届けします。

 お楽しみに。


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