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第233話 カイの案内 後編

 ジーン達も生ビールは気に入った様子。

 だが、いつもの調子で刺身を頼んでしまったカイはほんの少し申し訳ない気持ちだった。

 生の魚は口に合うのか?

ーーー 三人称です ーーー


 収穫祭で偶然知り合ったジーン達元第10師団の面々を、住民のカイが西地区の赤提灯の店へといざなった。


「このオトーシと言うのも旨いな。

これはキャベツか?」

「ああ、春キャベツと言う。普通のキャベツよりも柔らかくて甘い。今が旬の野菜だな」

 大樹の森の都の先達として、ジーンの質問に答えてやるカイ。

(春キャベツを軽く湯通ししたみたいだな。

それにポン酢に植物油らしきものを合えてある。

あと、多少ピリッとするのは胡椒か?

複雑過ぎて俺にはここまでしかわからん。

オトーシも毎回違うものが出るんだもんな。

さすがはタイショーだな)

 今回のお通しは、やみつきキャベツと呼ばれるもの。

 今が旬の春キャベツをさっと湯通しし、よく水切りをする。

 そこに、ポン酢とオリーブオイル、ダシ汁、醤油、岩塩、粗挽きした黒胡椒、絞ったゆず果汁を混ぜ込み、最後にカツオブシを振りかけたものである。

「これは?」

 今度はヘイズルが、別添えの小皿に盛られた白い塊を指差し、聞いてくる。

 カイが箸の先にその白い塊をちょんとつけ、舐め取って確かめる。

「ああ、これはマヨだな」

「まよ……?」

「マヨネーズと言って、万能に近い調味料だ。

生野菜を食べる際によく使われるが、それだけじゃない。

ありとあらゆるものに使われるな」

「まよねいず……」

 ヘイズルは納得しているのかしてないのか、お通しのやみつきキャベツにマヨネーズを乗せて、「旨い旨い」と食を進める。


 四人が揃って生ビールのおかわりをした頃、

「へい、お待ちどうさま。

マグロのお刺身だ。

大トロは苦手な人も居るから、赤身と中トロの二種にしておいた」

「来た来たぁ!」

 はしゃぐカイ。

 その様子を見て、他の三人もやや前のめりに出された料理に向かう。

「これは……生ものか?」

 少し躊躇いガチになるジーンとヘイズル。

 だが、副長は顔色を変えず、赤身に箸を伸ばす。

「よもや、こんなところで出会えるとはな」

 そう言うと、躊躇い無く口に入れる。

「うむ。旨い!」

「おい、フクチョーさんよ。

そのままでも悪かないが、サシミならショーユに浸けないともったいないぜ」

 カイは手本を示すように、赤身を箸で摘まんで醤油に浸け、食べてみせる。

「なるほど、専用の調味料か」

 副長は、今度は見よう見まねで醤油に浸けてから赤身を食べる。

「む。より魚の旨味が増したように感じる」

「だろ。

あと、このワサビを添えて食べると……。

くぅー、より鮮烈に味わえる」


「生の魚なのか!?」

 カイと副長の会話を聞いていたジーンが思わず口に出た。

「ああ、フェデラル様。

大丈夫です。

生とは言え、変な味もしません。新鮮な味がしますので、安全だと思います」

 率先して食べた副長がジーンを見ながら、安心だと訴える。

「私の父が漁師でしてね。

子供の頃はいつも一緒に船に乗っていたものです。

今は兄が跡を継いでやってるはずです」


 副長は小さな漁村で生まれ育ち、家族で漁をするそこでは当たり前の家庭だ。

 副長は十歳の時に銛の才能が開花した。

 船上から狙った獲物は百発百中。十二歳の頃には、子供ながら村一番の銛撃ち名人となっていた。

 だが、漁をするのは銛で突くほど大きな魚ばかりではない。手のひらサイズの小型の魚も漁の対象だ。

 そこで代わりに出てきたのは兄。

 兄は弟ほどの銛撃ち名人ではなかったが、魚群を探知する"勘"が鋭かった。

 同じ船に祖父と父も同乗していたが、経験豊富な二人を上回るほど、魚の群れを探り当てることが出来たのだ。

「兄ちゃん、なんでそんなに魚の居場所がわかるの?」

「わかんねえけど、なんか呼んでる気がすんだよな。

たまに海面が光って見えたりするし」

 副長は、子供ながらに『あ、勝てないな』と思ったそうだ。

 軍人となった今なら、特殊なスキルを授かったのだろう、と思い至るが、子供にはそれがわかるはずもない。ただ、漁師としては兄には敵わない。

 そう思った副長は、十五歳になる年に、銛を槍に持ち変えて軍へ入隊。槍使いの名手として称えられるほどになり、平民ながら副師団長の地位まで登り詰めた逸材であった。


「船上の漁師だけが味わえる極上の料理がありましてね。

獲れ立て新鮮な魚なら、生で食べられるんですよ」

「ほほう?

漁師ならではの極上の料理か」

「じゃあ、これも水揚げしたばかりのものなんだろうな。

な、タイショー」

 カイが店主に確認する。

「鮮度が良いのは保証するが……。

ウチは水揚げのその日には出さないぞ」

「「「え!?」」」

 四人が揃って驚く。

「せっかくの代物だ。熟成させないと良さが出ない。肉と同じさ」

「……熟成か。

なるほど、確かにねっとりとした味わいがあるな。

だが、新鮮でもある」

 副長は、記憶にある生の魚の味を思い起こしながら比較しているようだ。

「ウチの漁師が優秀なおかげだな」

 鬼の店主が言った通り、獲った魚をより良い状態に保つには、漁師の腕も影響する。

 今回はマグロであった為、漁をする河童達も締め方に一工夫している。

 獲った直後に脳締めを行い、ワイヤーで神経締めまで行う徹底振り。

 数に限りがある為、マグロは全て大樹のお屋敷と河童達に振り分けられた。

 だが、「新之丞しんのじょうなら大丈夫。これを一番活かす腕を持っている」と、次郎の采配で一部がこちらに回ってきていた。

 余談だが、彼ら四人以外にも客が居るが、全て河童達である。

 住民を驚かせない為、全員人化(じんか)している。だから、異様に美男美女揃いの店内になっているのだ。

 当然、全ての席にマグロの刺身の盛り合わせが並んでいる。


「旨いな」

 いつの間にか、ジーンが刺身を食べていた。

「ヘイズル、無理しなくて良いぞ。残しても良い。

私や副長で処分しておこう」

「い、いえ。食べます」

 ヘイズルは、ゴクリと喉を鳴らし、恐る恐る赤身に箸を伸ばす。

 パクリ。

「こ、これは……舌の上でとろけるようだ……。

ああ……旨味が広がっていく」

 ヘイズルは官能に悶えているようだ。


「やっぱり、ここはニホンシュじゃなけりゃいけない。

タイショー、アツカンを頼む」

「あいよ。

お連れさんはどうする?」

「カイと同じものを人数分頼む」

 ジーンが皆の分も注文する。

「あいよ。

熱燗四本ね。

ちょいとお待ちを」

 店主は再度奥へ引っ込む。

「アツカンはホットワインのように温めた酒なんだが、これがまた旨い。

特にサシミに合うんだ。

ただ、入れ物が熱いから気をつけな」

 カイは、熱燗が来る前から注意を促す。

 それを横目で見つめる笑顔の女将の睡蓮すいれん


 しばらくして、四人の前に熱燗が届く。

 カイから所作の指導を受け、おちょこに熱燗を注ぐジーン。

 そして一口。

(香りが先に来るが、舌の上でも旨味が香るようだ。

これはどのような酒とも違うな。

キリッとしていながら柔らかな味わいも含んでいる。

フルーティなんだが、どの果実か想像出来ない。しかし、旨い)

「くぅ~~~。これこれ。

やっぱ、サシミに合うのはニホンシュだな」

 カイの呟きを聞いて、ジーンも刺身に箸を伸ばす。

(むっ……気のせいか、サシミの旨味が増した気がする。

ゴクリ。

!! 今度は酒がより旨く感じられる。

何なんだ、これは?)

「カイよ。

このニホンシュと言うのは、何で出来ているんだ?」

「そう思うよな。

俺も最初に口にした時、どの食材の記憶とも当てはまらなくて悩んだもんさ」

「何かの果実だとは思うのだが、ほんのり花の香りもするから余計わからなくなった」

「おお、そこまでわかるか。

あんたは鋭敏な舌を持ってるな。

だが、これはな…………やっぱ止めとく。

想像してる内が楽しかったりするからな。

次に一緒に飲むことがあったら、そん時に教えるさ」

「そうだな。それも楽しめるな」

 ジーンとカイは終始笑顔で飲み食い続けるのであった。


 二人は、翌日にまたここで再会することになるが、それはまた別のお話。

 どうやら、刺身は皆に好評なようで安心しました。

 日本を訪れる外国人の人達もマグロの刺身は感動して食べてくれますよね。それどころか、今や世界中でウケ過ぎて、日本に回ってくる魚の量が減ってしまってる状況に。

 子供の頃は、『魚より肉!』って感じでしたが、味覚がまだ未熟だったんですね。

 そう言えば、味覚の内、苦味を感じる器官は死ぬまで発達するらしいですよ。知ってました?


 さて、次話は、ゴドー王国との協議と行軍訓練の模様をお届けします。

 お楽しみに。

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