第232話 カイの案内 前編
ひょんなことで知り合ったカイとジーン達。
そのカイの案内で都内を巡回する走竜バスに乗り込む。
ーーー 三人称です ーーー
走竜バスが停留所に停まり、多くの人が降車する。
「さあ、着いたぜ」
見上げて見れば、通りに屋根がついており、その屋根から様々なポスターらしき宣伝看板があちらこちらからぶら下がっている。装飾も華やかだ。
「ここが都の西地区の華、アーケード商店街だ」
「アーケード……商店街」
「様々な店が並んでおりますな」
「綺麗な通りなんですね。
なんか、良い匂いもします」
都の住民であるカイ・エフェクトが、ジーン・フェデラル、副長、ヘイズルの三人を連れ、アーケード商店街に訪れる。
「目的の店は、このアーケード商店街のちょうど真ん中にある。
ぼちぼち歩くことになるから、早速行こう」
カイが先頭で歩き出す。
「あ、ちなみに、この入り口にあるのが都一番の甘味処の疾駆庵だ。
この二号店は中で食べられるらしい。
甘いものが好きなら、また後日訪れるといい。
ただし……」
「あのように並ばなければならない、と言うことか」
疾駆庵二号店の前は行列が出来ており、その行列の後方はアーケード商店街の入り口を突き抜けている。
「開業から客が詰めかけているからな。
今、隣の空き店舗を増築しているらしい」
カイの言う通り、元々人気を博してた疾駆庵が二号店を出店し、そこではイートインコーナーがあり、二号店オリジナル商品も並ぶとあれば、都の住民が放っておく訳がない。
現在、二号店の隣の空き店舗の出店権利を取得し、増築工事の真っ最中だ。
二階部分全てをイートインコーナーにする予定のようだ。
また、増築工事をしている側は、持ち帰り専門の店舗とすることで、入り口をスムーズに捌けるようにするとのこと。
行列が予想以上で、アーケード商店街そのものの進入に弊害が起きそうなのを見て、いち早く次郎が動き、増築と店舗構成が決定事項とされた。
「いやはや、実に様々な店が並んでいますな。
花屋もあれば肉屋もあるし、果物専門の店、野菜専門の店も。薬屋まで」
「副長。あちらに服屋まであります」
「ここに来れば一通りの物が揃うのだな」
「ここ以外に、東地区にでかい百貨店があるぜ。そこの方が種類も多いな」
「でぱあと……?」
「だが、メシはこっちの方が旨い。
あと、幾ばくかはこっちの方が値段が安いかな?」
「武器や防具は無いのか?」
「無い。
軍人さん達や狩人達が使う物は、ドワーフ工房が一手に引き受けてる。
と言うか、ドワーフ工房よりも優れたモノが無い。
彼らは一流の職人集団だ。
他の国や街で鍛えた程度の物では太刀打ち出来ないだろうな」
「さすがはドワーフと言うことか」
「"ウチ"のドワーフ達の腕が凄いんだ。
あんた達みたいに他の国から流れて来たドワーフ達も、皆ウチの初期ドワーフ達に師事してるって話だ」
「ほう?
防壁を造ってる彼らの中に居るのかもしれないな」
「その防壁ってのは何のことかはわからないが、ここのアーケード商店街も初期ドワーフの一人が携わってるんだぜ。
この屋根もそうだが、全ての店の内装もな」
「ここの全ての建設を……」
ジーン達三人は足を止め、屋根を見上げる。
「ほらほら、進もうぜ。もう少し先だからな」
「す、すまない」
「まあ、そういう反応はわからないでもない。
俺も大樹の森の都に来た当初はそうだったからな。
一月では慣れはしまいが、半年もすれば『なるほど』って納得は出来るようになるかもな」
「カイはもう慣れたのか?」
「毎日新しい発見があって、もう少し掛かるかもな」
カイは屈託無く笑う。
「フェデラル様。
あれこれ考えるのは止しましょう。
今はあるがままを受け入れるのが得策かと」
「おっ!?
あんたヘイズルだったっけ?
良いこと言うね。その通りだと思うぜ」
カイは、道中にあったうどん屋も紹介しつつ、アーケード商店街の半ば辺りでようやく足を止めた。
「到着したぜ」
カイにそう言われ、ジーン達が店を見上げる。
「これはまた立派な……」
「シン……簡素な店名だな」
「俺達はそう呼ばない。
ただ、赤提灯の店と呼んでいる」
カイが足を止めたのは、隠形鬼の新之丞が経営する居酒屋、『赤提灯の店』だった。
ガラガラ。
「「いらっしゃいませ~♪」」
明るい声が歓迎してくれる。
カイは構わず、奥から三番目のカウンター席へと向かう。
「ちょいと!
お連れさんが一緒なんだろ?
テーブル席かお座敷席にしたらどうなんだい!?」
店の女将の睡蓮が嗜める。
「良いんだよ。
ここじゃなきゃ、タイショーの仕事振りが見れねえから。
…………あんた達もこっちで良いよな?」
カイは、ジーン達の方を振り返って、おいでおいでする。
「構わないさ」
ジーン達は、微笑みながらカウンター席に向かう。
「オカミサン、とりあえずナマを四つ」
「ふふっ。
日本人みたいに注文しちゃって」
「おっ、そりゃ嬉しいね」
「カイ。
ニホンジンとは?」
「ああ、盟主様の種族だよ。
この店の従業員達もそうだし、将軍もそうだぜ」
「水の女神様もか!?」
ヘイズルが食い気味に聞いてくる。
「水の女神様?
……ああ、弁才天様のことか。
弁才天様もニホンジンだが……残念だったな。
あの方は将軍の奥様だよ」
「なっ、ちがっ……。そう言うことではない!」
「ハハハ。
ニホンジンの女性は軒並み美人揃いだからな。
だが、気を付けな。
美しさとは裏腹に、全員強いぜ。
たぶん、あんた達が束になって掛かってもかないやしない」
「ふん。それはもう知っている」
ヘイズルは少し不貞腐れた様子で深々と腰掛ける。
「だが、盟主様とここの従業員とは見た目が少し違うな。
盟主様や水の女神様はヒト種のようであったが、ここの従業員はオーガのように角が生えている」
ジーンは、鬼の特徴を捉え、比較しているようだ。
「ああ、ニホンジンはバリエーションが豊富でな。
背中に羽の生えた人達も居るし、見た目がリザードマンが甲冑を着けたような人達も居る。中には四足獣みたいな人達だって居る。
見た目に囚われるな。視野が狭くなるぜ」
「肝に銘じておこう」
生ビールが届いた頃、
「いらっしゃい。
今日は早いんだな」
鬼の店主がカウンター越しにお通しを提供する。
「何言ってんだよ。
今日は収穫祭だ。仕事も休みだよ」
「ああ、そうか。
祭りだったな」
「タイショー。今日は何が良い?」
「マグロが頃合いだな」
「おおっ、あの幻の!」
「内海に紛れ込んだらしい」
大樹の森の西側は海に面しているが、内海である。
マグロは外海に居る回遊魚だが、稀に内海に入って来ることがあるようだ。
「なら、サシミは外せないな。
人数分頼む」
「あいよ」
店主は奥に引っ込み、準備をする。
「カイよ。
このナマと言うのはエールの一種だと思ったのだが、あまりにも味わいが違う。
何故こうも違うのだ?」
副長が思わず聞いてきた。
「ああ、それは作り方が違うからな。
材料が一緒なのに、違いが出る。
ほら、焼いた肉と煮た肉は味も食感も違うだろ?
それと同じさ」
この世界の人間が主飲するエールビールは上面発酵、この店で出しているラガービールは下面発酵、とそれぞれ酵母も違う。
「まあ、旨いんだから気にするな」
「うむ。素直に楽しむとしよう」
副長以外の二人も、旨い、と言いながら生ビールを飲んでいる。
(あ! しまった!
つい、いつもの調子でサシミを頼んでしまった。
彼らは生の魚なんか食べたこと無いだろう。
どうしたものか……)
カイは後悔していた。
この世界の人間は生の魚を食べる習慣が無く、魚どころか動物の肉を生で食せば腹痛をすると言うのが常識だ。
(いざとなったら、俺が四人前食べれば済むことだ。
なあに、ここの料理は全て旨いんだ。他に何か火を通したものを注文してやれば良いだろう)
カイのそんな胸中を知るべくも無く、ジーン達はお通しを肴に笑顔で生ビールを楽しんでいた。
赤提灯の店に案内したカイ。
今日はマグロがあると喜び、いつもの調子で刺身を注文した。が、ジーン達を連れていることを思い出し、後悔することになる。
それでも、機転の利くカイはめげない。内心では『四人前のマグロの刺身が楽しめる』と思っているのかもしれませんね。
さて、次話は、この後編です。
お楽しみに。




