第231話 穀倉地帯の割譲
穀倉地帯の戦いも終息し、戦後交渉が始まる。
そして、その交渉団に新たなメンバーが加わる。
ゴドー王国との戦後交渉は、思いの外、時間が掛かった。
ゴドー王国も往生際が悪いと言うか何と言うか。
だが、今までの「我々は大国だ」と言う圧力を掛けて来ない。掛けて来れない。
3個師団を壊滅させられたからだ。その前の1個半の師団と国境警備軍も壊滅している。
ゴドー王国は当初、賠償金で済ませようとしていたが、そうは行かない。
今回は、穀倉地帯が狙いだからだ。ヤンバル国の為、そこは譲れない。
ゴドー王国側がぐだぐだやってるから、穀倉地帯全域の小麦を収穫しちゃったよ。それはもう素早く。
なにせ、三国から農業支援者を派遣して、従来の住民達と協力して刈り取ったから、早い早い。もちろん、転移門を使って。
そこで、ちょっと面白かったのが元ゴドー王国軍第10師団長ジーン・フェデラルの存在。
フェデラル家は穀倉地帯全域を領地とした地方領主家。ジーンはそこの跡取り息子。
穀倉地帯の町を訪問する際、当然ジーンを連れていった。
「ジーン様!」「ジーン坊っちゃん!」「ご子息が戻られたぞー!」
「さすがに坊っちゃんはやめてくれ。もういい歳なんだから……」
ジーンは、町の住民達から歓迎されていた。
15歳で軍に入隊するまで、町の住民達とよく交流しており、一緒に麦踏みや刈り入れもしていたらしい。
ホント、絵に描いた理想の領主の息子みたいなヤツだなぁ。ちょっと憧れちゃう。
カザフ王国のビダン国王とヤンバル国のアシモフ首相も同行していたが、ジーンに対する町の歓迎振りを目の当たりにして、二人が僕に話しかけてきた。
「盟主殿。
ここはいっそのこと、彼にここを治めてもらうのも手かと」
「うむ。
当初は、カザフ王国と我が国で共同管理をすると言うお話でしたが、ここの領主の子息がこちら側に居ますからな。
スムーズにことが進みそうです」
ええ~、と言うことはウチが管理するの?
思いっきり飛び地なんだけど。
「主殿。
転移門がある限り、飛び地とか、あまり気にならない気がするのですが……。
それに我や八咫烏なら、ここに来るのも容易いことですぞ」
真神の言う通り、転移門があれば距離は関係無くなる。
転移門に何かの不具合が生じたとしても、神速持ちの真神と八咫烏に、音速を超えた天狗達も居る。
「ふむ……」
最初の通りにカザフ王国とヤンバル国に共同管理してもらうパターン、ウチが管理するパターン、賠償金のみでこの穀倉地帯を放棄するパターン……等々、様々なパターンを脳内でシュミレーションしていく。
二十通りほどシュミレーションして、無駄だとわかり、思考を止める。
「キュキュオ。キュキュ」
いつの間にか、救護班のキキが目の前に来ており、足をポンポンと踏み鳴らしていた。
これは知ってる。「座れ」って意味だ。
キキに従って、その場に座り込む。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「鈴木様。頭から湯気が出ていますよ?」
前鬼と正義が心配げに声を掛けてくる。
「え!? そうなの?」
そう言えば、頭が熱い。
一つのパターンで最低五つの派生をも想定して、その対応策まで考えてたのはやり過ぎだった。
思考し過ぎか。
既に判明している事柄を思い浮かべるのと違って、未来の予想を想定していくことは大変だよね。不確定要素が多いし。
「キュオッ」
はい。おとなしくしときます。
キキの治癒を受けながら、前鬼と正義の方を見る。
「予定を変更する。
穀倉地帯全域をウチの管理下に置くぞ。
そして、ジーン・フェデラルに管理を任せる。
なお、ジーンは真神の配下とする」
「「「はっ」」」
と言うことで、穀倉地帯の最北部をヤンバル国に割譲すると言う当初の案は消え失せ、穀倉地帯全域を大樹の森国の領土とすることに変更となった。
このことは戦後交渉団にも通達済み。
その一員であるヤクトには、賠償金を放棄しても良いと伝えた。代わりにウチがそれに換わるものをカザフ王国とヤンバル国に支払ってあげれば良い。
ヤンバル国には食糧を、カザフ王国には魔石を主体した物品で賄うつもりだ。
ところが、ヤクトがゴドー王国から賠償金をもぎ取ってきた。
なんでも、穀倉地帯のさらに南部にあるゴドー王国の工業地帯を褒めそやし、ゴドー王国の経済発展に多大な貢献しているのを数字でもって述べていたらしい。
また、その地形について、どこがどう便利なのか不便なのかまで話したようだ。
ヤクトは文官長に納まっているが、その頭脳は政治や経済に留まらず、軍事にも明るいと来た。戦後交渉の最適役だ。
さすがにゴドー王国の交渉団も冷や汗が止まらなかったみたいだね。
終始ニコニコ顔のヤクトの恐ろしさを知ったか! ……敵に回すと怖いヤツ。
賠償金は、三国平等に振り分けられたが、ウチが貰った金額分を魔石や食糧に変換して、カザフ王国とヤンバル国に配っておいた。
広大な穀倉地帯を入手出来たからね。
でも、大樹の森の都の小麦は閉鎖しない。穀倉地帯の一極集中はリスクが伴うから。
一応、大樹の森の堆肥をここの穀倉地帯に蒔くつもりだけど……。
初期ドワーフ達の見解では、大樹の森は魔素が濃いようで、それが作物の生育に良い環境を与えている、とのこと。
あと、緑スライム達も一部派遣するつもり。
彼らは、植物の病気を防ぐプロフェッショナル集団だ。頼りになる。
たまに、そこに無い植物を生やすこともあるけど。まあ、ご愛敬と言うことで。
結局、穀倉地帯の南部に設置した防備はそのまま使うことになり、ドアンや初期ドワーフ達がさらにテコ入れすることに。防壁を造るそうだ。
人手は、カザフ王国とヤンバル国にも手配を掛けた。
カザフ王国はドワーフの技術者が多く居るだろうし、ヤンバル国は今後の食糧の購入費用を稼げて、Win-Winの関係を構築出来るね。
「戦争が終われば、ワシらの出番じゃな。
さあ、張り切って造るぞい!」
ドアン達がやる気を出してる。
あ! 監視役の雪女達も派遣しなきゃいけないか。
ユキには申し訳ないけど。
そうそう、大樹の森の都では、収穫祭を滞りなく開催出来たよ。こっちは穀倉地帯の小麦の収穫より早い時期だからね。
収穫祭が終わった1ヶ月後に穀倉地帯の小麦の収穫だったから、余裕を持って派遣することが出来たんだ。
終戦直後に臨時兵は即解散したので、収穫には間に合ったし、兵士達は三日交代で休みを与えたので収穫祭を楽しめたみたい。良かった良かった。
~~~ 余談 ~~~
大樹の森の都、収穫祭。中央広場。
「いらっしゃい、いらっしゃい。
春キャベツだよ。
柔らかくてとっても美味しいよ」
「さあさあ、新玉ねぎだ。
火を通せばあま~くなるよ。
スライスして生でも美味しいよ」
「こっちは春野菜のスープがあるよ。
魔猪のお肉も入ってて、コクがあるのさ。
旨いぜー」
様々な屋台が立ち並び、活気に溢れてる。
「師団長……あ、いえ、フェデラル様。
大変活気がありますね」
「祭りか。
良いものだな」
「私はこの都の繁栄振りの方に感心致しました」
ヘイズル、ジーン、副長の元ゴドー王国軍第10師団の面々である。
三人は、三日交代の休養は穀倉地帯の町で過ごし、三回目の休養日に初めて大樹の森の都に来ることを許され、訪れていた。
「なんでも、美食の都と謳われているそうだ。
屋台のスープでも買ってみるか」
「「はい」」
三人は揃って、屋台の春野菜スープを購入する。
「ああ、これは旨いですね。
春野菜が甘く、肉にも力強さがあります」
「さすがは美食の都と言うところか」
その言葉に一人の男が振り返る。
「なんだい。
お兄さん達は都は初めてかい?」
「はい。
この度の戦争で、こちらの国民になりましたジーン・フェデラルと申します」
「こりゃご丁寧に。
俺はカイ。カイ・エフェクト。
しがない一般国民さ。
……ここのスープも旨いが、素材の良さで旨いんだ。
だが、この都の真の美食は他にある」
カイと名乗った男は自慢気に宣う。
「真の美食……」
「ああ、あんた達が見たことも聞いたことも無い料理がわんさかとあるぜ。
それに、そもそも料理をする技が違う」
「ほう?
料理に技?」
「見たところ、軍人さんなんだろ?
剣術や格闘術にも技があって、それが優れていればいるほど強いんだろう?
料理も同じことが言えるってことさ」
「この都にその技を極めた御仁が居ると?」
「居る。
頂点にいらっしゃるのは、盟主様と宰相様だ。
盟主様は祭りの際にはよく腕を振る舞ってくださっていたが……最近は忙しいみたいで俺達も残念なんだ」
もう一度あの塩焼き鳥が食いてえ、と嘆いている男の横でジーンが呟く。
「そうか……盟主様がな」
「だがな、そんな盟主様のお墨付きを貰った料理人の店がある」
「ん? そんな店があるのか?」
「よかったら一緒に行くかい?
今夜辺り店が開くらしいから」
三日置きに開店だからな、と呟く男。
「それは面白そうだ。
ぜひ案内を頼む。
君の分の代金は私が持つ」
「おっと、それはいけない。割り勘だ」
カイは、「またオカミサンに怒られちまう」と、頑なに奢りを断る。
「じゃあ、16時に中央広場の北口で集合な。
それまで収穫祭を楽しみな。
おっと、腹は空かせておいた方が良いぜ。後悔することになるからな」
カイはそう言うと、手を振りながら人混みの中に消えていった。
「なんとも気持ちの良い男でしたな」
「うむ。
明るく軽快そうでありながら、真面目そうなところが伺えた」
「今夜が楽しみですね」
結局、穀倉地帯は大樹の森国の領地となりました。
国家の主権はそのままに、カザフ王国とヤンバル国の属国化も承認されるようです。国家連合の誕生ですね。
また、面白そうな組み合わせの出会いもあったようです。
さて、次話は、その彼らの交流のお話です。
前編と後編に分かれていますので、まずは前編から。
お楽しみに。




