第230話 ヤンバル国の決断
穀倉地帯の戦いに勝利した三国同盟軍。
切り取った穀倉地帯の南に防壁を設置する模様。
穀倉地帯の戦闘も終了し、部隊の半数が引き揚げて行った。
残った部隊で穀倉地帯の南側に防衛陣地を築き、防備を固める。
兵達の休養を急がせる為、僕と大樹さんは、転移門を使って帰還を促すことにした。
また、同盟国であるカザフ王国とヤンバル国にも転移門を開き、半数を自国へ帰ってもらったのだ。
残る者と帰る者は3日ごと交代とした。
これからゴドー王国と交渉しなければならないし、その間は気を抜けない。
兵達を完全休養させてあげるのは、もう少し先になる。
なお、今回の戦後交渉には、ウチのヤクトも同行することが決まっている。彼は根っからの政治家だ。上手くやってくれると思う。
また、ヤンバル国も副首相が同行すると言う。大物が出てきたね。今回の勝利で自信がつき、国をオープンにしても大丈夫と考えたらしい。
小国が大国に声明を挙げることは、リスクも伴うが逆もまたしかり。
実は、今回の穀倉地帯紛争の終了間際に、ヤンバル国の首相と直接お会いすることがあったんだ。
◇◆◇
「盟主様、御前を失礼致します」
「あれ? 将軍さんじゃん。東側は大丈夫なの?」
中央部の援護に回った僕達の前に、ヤンバル国の将軍が現れた。
「はい。
貴国の水軍の手助けがあり、いまや終息に向かっております」
うん。隠形鬼達の敵指揮官潰しも効いているだろうな。
「盟主様、ご紹介したい人物がおります」
そう言った将軍の隣に一人の男性が進み出た。
ん? 軍服を着てるね。軍の会議でも見たことない人だ。
「ヤンバル国首相、リュウ・アシモフと申します。
お見知りおきください」
「首相?」
ええっ!?
ヤンバル国の首相と言ったら、国のトップじゃん。そんな偉い人が戦場に来るの? 危なくない?
「ハハハ。これでも前は軍人でしたので、戦場の空気の方が落ち着くくらいですよ」
「秘匿しておりましたが、アシモフ首相は前回もその前の戦闘にも参戦していたんです」
将軍が苦笑混じりにそう告げる。
「将軍の君の指揮には従ったろう?
そう邪険にするなよ」
将軍の肩をバンバンと叩きながら、快活に笑うアシモフ首相。
豪胆で明るい人のようだ。
「その首相さんがどのようなご用向きでしょうか?」
こちらも国のトップである意識を保ち、問いただす。
「はい。
今回の戦闘終了後、ヤンバル国は貴国大樹の森国に帰属したいと思います。
どうか、お許しを願いたく、直談判に参りました」
……ええと、ヤンバル国がウチの傘下に入ると言うこと?
「ちゃんと議会を通しての申し入れなので、ご安心を」
『通常は、主国が弱小国に属国化を押し付けて来るものですが……。珍しいパターンですね』
サトリが驚くのも無理はない。僕だって、非常に驚いてる。
「盟主様であれば、一見バラバラな国や種族をまとめ上げることも可能と思います」
アシモフ首相が盟主と言う言葉の意味を挙げて告げて来る。
誰が言い出したのか、妖達、エルフや獣人、ドワーフ達を纏める人物と言うことで始まった……はず。
みんなしてそう呼ぶから、いつの間にか定着しちゃたんだよね。
とりあえず、ヤンバル国をウチの属国とするかどうかは、終戦後にみんなと協議してから、と言うことで、アシモフ首相達には下がってもらった。
食糧不足に陥ったヤンバル国の為に、この穀倉地帯を切り取ったのに……。予想外の事態になったもんだ。
その後、ヤンバル国の属国申請を聞いて、カザフ王国のビダン国王までが駆け付けて来た。
自分達も属国に成りたいと。
どうしてこうなった?
ーーー 余談 ーーー
「やってくれたな、アシモフ首相」
カザフのビダン国王が怒りを抑え、震える声でヤンバル国のアシモフ首相に声を掛ける。
「大樹の森国と同盟を結んだのは、我が国の方が先であるし、両国に大使館も設置してある」
「そうでしょうとも。
貴方は良い兄上をお持ちだ。羨ましい限りですな。
だが、ウチにはそういったコネは無い。
しかも、絶賛食糧不足の真っ最中だ。
弱き者は強き者に靡くもの。
そう判断したなら、行動は素早い方が良い。
そして、上位と仰ぐ方が優しく慈愛に満ちた方がより良い。
大樹の森国は、盟主様は、この穀倉地帯を我が国の為に切り取ろうと仰った方だ。しかも、その軍隊はどこよりも強いと来た。
我らが靡くのも自明の理ですよ」
その言葉通り、アシモフ首相の行動は早かった。
ヤンバル国の主要な食糧供給元であったタジン村に侵略駐留していたクリムト帝国軍を殲滅した脅威の軍隊が、同盟国のカザフ王国と軍事同盟を締結していたのにまず驚かされた。
そして、カザフ王国がゴドー王国から宣戦布告を受け、次に狙われるのはヤンバル国であることは予想出来たので、援護に自国の軍を動かすのは容易だった。
ただ、その軍事協議に例の謎の軍隊も参戦することがわかり、強い関心を抱いたアシモフ首相本人が作戦に参加。そして、脅威の戦闘力を目の当たりにしたのだった。
また、三国協議で、ヤンバル国の為に穀倉地帯を切り取ろうと提案し、それをまるごとヤンバル国に譲渡するとも言ってきたのが大樹の森国。
当初は、『何か裏があるのでは?』と疑ったが、アシモフ首相自身がその後の作戦に同行し、共闘してきた感想が『表裏が無い』であった。
それがわかれば、小国であるヤンバル国が既に国交を開いているカザフ王国に先んじるには、属国化してでも大樹の森国と親密になるしかない。
そこでアシモフ首相は強行策に出た。
戦場から伝書鳩を飛ばし、緊急国会を召集。腹心である副首相に属国申請するよう決議させた。首相不在のままで。
一見すると乱暴な行為だが、アシモフ首相には絶大なカリスマがあった。多くの議員達と国民から支持された稀有な為政者であったのが幸いした。
そして、決議の返答を戦場で受け取ったその足で次郎と謁見したのであった。
「王制である貴国が羨ましいですよ。
国王である貴方が決断すれば、即国が動く。
合議制の我が国では出来ない行為ですな」
「大樹の森の都は美食の都だ。
私なんか、盟主殿に昼食会に招待されたもんね!」
「美食……!?」
アシモフ首相の眉が上がる。
「それにトンカツやトーフなど、今まで見たこともない料理が溢れているのだぞ」
「……トンカツ?……トーフ?」
「それはそれは旨かった!」
「俺も連れてってくれ!」
「ん~……私に決定権が無いしなぁー。
そもそも、大樹の森国から招待されない限り、無理な話だなぁー」
ビダン国王の頬が緩む。
「ぐぬぬっ……」
「大樹の森国の交易品の窓口は、我が国のみとなっているからなー。
まあ、トーフなら貴国に分けてやらんでもないがなー」
どうやら、二人はよほど仲が良いらしい。
ヤンバル国のアシモフ首相は軍人上がり。
また、カザフ王国のビダン王とは親睦が深いようですね。
そして、二国が大樹の森国への帰属を表明。
次郎、どうする?
さて、次話は、穀倉地帯の統治に関してのお話とある出会いの模様をお届け致します。
お楽しみに。




