第229話 ジーンの能力
大樹の森国軍に寝返ったジーン・フェデラル率いる第10師団。
だが、その半数近くは未だゴドー王国軍のままだ。
その部隊にジーンが襲い掛かる。
ーーー 三人称です ーーー
次郎との謁見を終えたジーン達は、部隊に戻ることが出来た。
三人は真神の背に揺られ、散々な思いをしたが、それはまた別の話。
「我はここで貴様の為すことを見ている。
もしも翻意を覆したならば、即座にその首を噛み千切ってやろうぞ」
「ご随意に」
ジーンは、真神の脅しに対し、正面から真神の目を見つめながら告げる。
「時に、フェンリル様…………マガミ様。
盟主様とは、どのようなお方なのでしょうか?」
「……主殿は……盟主様は、我ら大樹の森に住まう全ての者達の神。
ヒトの姿形であろうとも、貴様らとは一線を画す存在だ。
努々忘れること無かれ」
「はっ。
私もお会いしてわかりました。
神がヒトの形をして降臨されたのだと」
普段の次郎はのほほんとしているが、戦場においては覇気をふんだんに撒き散らしているから、初対面の者達の誰もが畏れ戦く。
「確かに。
ジュリアム王(ゴドー王国の国王)とは全く違った威光がございましたな。
ジュリアム王の場合、国王という地位に畏れ戦きましたが、盟主様はご本人そのものに畏怖を抱きました」
副長が額の汗を拭いながら発言する。
「私なぞ、水の女神様から叩きのめされた直後に盟主様とお会いしましたので、散々でした」
ヘイズルも、身体中のあちこちを擦りながら漏らす。
「ほう? よく気づいたな。
弁才天は、あのなりで水に纏わる歴とした女神だからな」
「…………やはり、ですか」
相対したヘイズルは、真神の言葉に素直に頷いた。
ヘイズルは次郎に会った時、『神が顕現した』と確信し、それに仕える弁才天も神の一柱と考えたのだった。
(大樹の森国は神々のおわす国であったか。
このフェンリル様、いや、マガミ様も神の一柱に違いない。
気を引き締めて行かなければならないな)
ジーンは、今一度己を引き締める。
「これより我らはゴドー王国軍にあらず。
ただいまを以て、神々に仕える軍団として行動する。
ゴドー王国軍は敵軍である。
また、第10師団第一大隊、第二大隊、第三大隊、第四大隊も敵軍だ。容赦するな。
私に続け!」
「「「オオッ!」」」
ジーンが声高に宣言し、彼に追随する兵士達が喚声を上げながら赤い布を取り出して、各々の身体に結んでいく。敵味方の識別の為であろう。
そもそも、何故ジーンは反旗を翻したのか。
きっかけは軍の上層部からの仕打ちであろうが、それだけでは六千人に上る兵士達は付いて来ない。
それは、第10師団の特殊事情が背景にあった。
第10師団は新人兵士が存在しない。
ベテラン揃いであるが、退役間近であったり、上司に楯突いた兵も多くおり、粗忽者達の集団でもあったのである。
どの部隊からも厄介者達を押し付ける先が第10師団、という一種の倣わしとなっていた。
当然、他師団からは蔑まれている。
ただし、兵としての力量は他師団の上を行く。
何せ、数多くの戦場を経験したベテラン勢が多く居るのだ。
また、上官に楯突いた者達もただ噛みついた訳ではない。不条理な上官の振る舞いが許せなかった義を持った者達も多かった。
彼らは、ジーンが師団長付士官として赴任してきた時から彼をよく見ており、彼らの癇に障ることは何一つしてこなかった。逆にジーンの戦略や戦術に何度も助けられたことがあった。
ジーンが来てからの第10師団は連戦連勝を続けて来ており、ジーンが師団長としての初戦で撤退を選んだのも素直に頷けたのだ。
ジーン・フェデラル師団長に付いて行けば上手く行く。それが第10師団の兵達の想いであった。
ジーンは、そういった兵達も輝ける場所が欲しかったのだ。
反面、反骨心が治らない者達も居る。
また、若い年齢で師団長に駆け上がったジーンを妬む者達も居た。
ジーンと副長は、そう言った者達を第一大隊から第四大隊までの部隊に編成していき、最前線に送るよう仕向けていた。
◇◆◇
ジーンの部隊が第10師団に襲い掛かる。
「背後から急襲!?
味方ではないのか!?」
第一大隊長は、背後からの敵襲の中にジーンの姿を見つけた。
「おのれ、師団長!
裏切ったか!?」
第一大隊長がジーン目掛け、突っ込んでいく。彼のこめかみに血管が浮き出ている。
「……火……精霊よ……っ……大いなる炎の槍よ。
敵を貫け!」
呪文を唱えながら走り込んだ第一大隊長は、炎の槍をいくつも創出し、射出していく。
その五本の炎の槍は、狙いたがわずジーンの下へ急襲する。
バシッ、バシュッ、ザッザッザンッ。
ジーンは慌てる風でもなく、魔法で出来た槍を自らの剣で斬り払っていく。
通常、魔法攻撃は魔法で創出した結界や魔法攻撃で相殺するものだが、ジーンは剣で無効化出来るようだ。
全ての炎の槍を無力化したジーンは、その攻撃者を見つめる。
「その力、本当に惜しいな。
貴官がもっと自己中心さを抑えてくれれば……。
残念だ」
「おのれっ、若僧が!
消し炭にしてくれるっ!」
第一大隊長は、吠えながら次々と呪文を唱え続ける。
そして、ジーンの周りの大地から炎が吹き出す。まるで極小の噴火が起きたかのように見えた。
ジーンは慌てず、自分の正面の炎の柱を剣で斬り捨てる。
その瞬間、斬られた炎の柱が消え失せていく。
どうやら、ジーンが剣を振るうと魔法で生じた現象そのものに影響を及ぼすようだ。
魔法緩衝能力。
これがジーン・フェデラルが持つスキルであった。
「フェデラル様のスキルは相変わらずですね」
「ええ。第一大隊長個人の魔法で一個小隊を壊滅させるほどの威力があるはずが、フェデラル様の前では単なる児戯と化してしまう」
側に居た副長とヘイズルが感心しながら、二人の戦闘を見つめていた。
「そして、その剣技はゴドー王国軍随一」
どちらともなく、呟いていた。
彼らが瞬きを二回する間もなく、第一大隊長の首が宙を舞っていた。
◇◆◇
『西側の戦闘は全て終了しました。
残るは中央部と東側です』
「そうだな……。
水軍は後方の川を利用して東側の援護に回れ。
他は中央部の援護だ」
サトリの報告を聞いた次郎が指示を出し、大樹の森国軍が動き出す。
「鈴木次郎様。
任務完了致しました」
次郎の前に三人の妖が跪いていた。
一人は大柄な体躯、一人は華奢な身体付き、一人は四足獣。
隠形鬼の大妖、一朗太、鈴蘭、ぬぅである。
「第2師団長並びに第9師団長の首を獲りました」
「よくやった。ご苦労様」
「ただいま、他の隠形鬼達が指揮官らしき者共の首を狩っておりまする。
じきに報告が為されるでしょう」
戦場においての一朗太の口調は普段と違い、重々しいものだ。
「大勢は決したな。
これより僕達の軍が全敵兵に猛攻を掛ける。
到着したら、隠形鬼達は引き揚げて良いぞ」
「はっ。畏まりました」
返事と共に三人の姿が消え失せる。
「さあ、最後の締めだ。
引き締めて行こう!」
「「「おおっ!」」」
ジーンの能力の一端が示されましたね。
今後のジーン達の活躍をご期待ください。
さて、次話は、この戦いの後のお話です。
次郎も驚く展開が……。
お楽しみに。




