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第228話 ジーンの思惑

 敵の水魔術師を捕縛した弁才天は、次郎の御前に引っ立てる。

 そこで為される対話とは……?

 弁才天が戻ってきた。


 ん? 何それ?

 弁才天の後ろに水の棺みたいなのがくっついてる。

「弁才天、ただいま戻りました」

「ご苦労様。

…………で、何なの、ソレ?」

「例の水魔術師を捕縛しました」

 え!?

 討伐ではなくて捕まえたの?

 うーん……士官なんだろうけど、ゴドー王国相手に人質になるかなぁ?


「鈴木次郎様。

コヤツの戦い方が妙で、一人も殺しておりません。ナールトン将軍からの証言もあります」

 ほう?

 カザフ王国軍の兵士達は強い。数十人のその兵士達を相手に無双しておきながら、不殺とは。

「で、弁天としてはどう考える?」

「何かしらの承認欲求を感じました。

話を聞いてみるのも一考かと」

「わかった。

ソイツを降ろせ」


 弁才天が手を振ると、水の棺が縦になり、上半分の水が取っ払われる。下半分の水で拘束しているのだろう。

「何か訴えることがあるのだろう?

我が盟主様の前で話すが良い」

 顔の周りの水の拘束が剥がれ、水魔術師はキョロキョロと辺りを見回し、一瞬ハッとした顔をした後、僕に焦点を当て、黙礼する。

「これは、全てを統べるお方と存じます。

私は、ゴドー王国軍第10師団所属、ヘイズルと申します」

「うむ。

大樹の森国盟主、鈴木次郎だ」

「大樹の森……。

そ、その盟主様にお願いの儀があって罷り越しました」

 ウチの国を知る者は少ないからね。戸惑うのも無理はない。

「聞こう」

「はっ。

私は第10師団長ジーン・フェデラル様の使者として参りました。

そして、師団長はそちらに帰属したい、と仰せです」

「ほう? 何故なにゆえに?」

 それからヘイズルと名乗った水魔術師は、ゴドー王国の現状と軍の上層部の動向を語った。

 また、ジーン・フェデラルなる師団長の為人ひととなりと彼の行動も語るのだった。


 ふーん、寝返りって言うより造反って感じかな?

 どちらにしろ、一度会って話してみないことには何とも言えないね。

「そのジーン・フェデラルに会ってみよう」

 水魔術師のヘイズルを解き放つことにした。


「拘束を解いて宜しかったのでしょうか?」

「ん? いや、だって弁天。

くっつけてるじゃん」

 ヘイズルの衣服は濡れている。

 あれは、弁才天の妖気で産み出された水だ。

 弁才天がそのままにしておく、なんてことする訳ないよ。

「バレたか……うふふ」

 ペロッと舌出してからに。人妻にしては可愛い仕草だこと。



ーーー 三人称です ーーー


 解放されたヘイズルは、双方が戦っている最前線に突入していく。

 戦闘が激しく行われている最中、ヘイズルは気にする風でもなく、どんどん足を進めていく。

 注意して見れば、ヘイズルの周りに薄い水の膜が張られているようだ。



「おお、光学迷彩か。なかなかやるな」

 ヘイズルは、自ら展開した水の膜を鏡面のように周囲の情景を映し出し、己の存在を隠していた。

 それでも、見えにくいはずのヘイズルを、次郎は正確に捉えているようだ。

「あの程度では河童達の足下にも及びません」

 弁才天は、フンと鼻を鳴らしながら呟く。

「フフフ、水軍長は水術には手厳しいな。

まあ確かにね。あの中に隠形鬼おんぎょうきやハヤテみたいなヤツが居れば、一発で看破されちゃうよ」


◇◆◇


「師団長、ただいま戻りました!」

「ヘイズル、よく無事で!

……いや、かなり損傷しているな」

 ジーン師団長が迎えたヘイズルの顔を確認すると、あちこちアザがあり、顔だけでなく身体中にも広がっていることが容易に想像出来た。

「例の水魔術師との対戦の結果です。

この程度に済ませてくれた相手に感謝です」

「それほどの差が……」

「ですが、なんとか会うことが出来ました」

「そうか、カザフ王国はなんと?」

「いえ、カザフ王国ではありません。

大樹の森国と言う国家の軍隊が援護しているようです」

「大樹の森……あの伝説の?

しかも、伝承でしか聞いたことのないところに国があると言うのか!?」

 ジーンは一瞬、お伽の国の話に想いを馳せたが、すぐに立ち戻る。

「はっ。

その国の盟主と名乗るお方と話すことが出来たのです。

師団長と会って話を聞いてみよう、と」

「それは重畳。

ヘイズルには苦労を掛けた。ありがとう」

「いえ、師団長から受けたご恩に比べれば、何事でもございません」

 ヘイズルは、引き抜かれただけでなく、士官にまで引き上げてくれたのが師団長のジーンであった。

 一般の水魔術師の待遇と言えば、輜重隊しちょうたいの水供給係が主で、戦闘面で評価はされたことがない。また、士官に昇進出来るのは一部の名家出身者に限られている。

 その評価を覆し、ヘイズルを士官へと強く推したのがジーン。当時のジーンは師団長付士官。そして、その承認をしたのが前任の第10師団長。師団長権限での対応だった。


「わかった。

では、その盟主様にお会いするとしよう」

「はっ。

では、私に付いてきてください」

「ヘイズル。

私も良いだろうか?」

 副長も同行したいようだ。

「副長は私の左隣に。

師団長は後ろに付いてください。

左右に手を広げた範囲から離れないように」

 水魔法の光学迷彩の有効範囲は、ヘイズルを中心とした半径1.5メートルほどのようだ。

 ヘイズルは、再度、水魔法の光学迷彩を展開して最前線に突き進む。


「水の膜の中からだと、こう見えるのだな」

「ええ。

相手から見えぬのに、こちらからはほぼ全て見えますね。

さすがはヘイズルです」

「この膜は視界を阻害するだけで、中に入られると普通に接触してしまいます。

もしもの時は副長、お願いします」

「むっ、心得た」

 ジーン師団長と副長が水魔法の膜の中の様子に半ば感動していたが、ヘイズルはより引き締めるのだった。

 何せ、この魔法を展開するのに通常では自分一人分だけで済むところを他に二人まとめてくるんでいるし、戦闘を行っている双方の兵士達と接触しないように、動きの先読みしつつ進んでいるのだ。かなり大変な作業であろう。


 解放された時の倍は時間を費やし、次郎の下へたどり着いたヘイズル達。

「盟主様。

お約束通り、ジーン・フェデラル師団長をお連れしました」

 ヘイズルは、何よりも先に次郎に対し姿勢を正し、報告する。

「うん。

ヘイズルだっけ?

ご苦労様。

見てたよ、例の光学迷彩の膜。

なかなかやるね」

「はっ、ありがとうございます。

なにぶん、水しか扱えませんもので」

「ふん。

未熟も未熟。

ここに居るメンバーなら一瞬で見破られるわ」

「弁天。そういうのは後で話せば良いよ」

「失礼致しました」

 次郎に窘められた弁才天は一歩後退る。


「盟主様。

ジーン・フェデラルと申します。

ゴドー王国軍第10師団長を務めております。

貴方様に問いたい。

盟主様は何を求めていらっしゃるのでしょうか?」

「僕の民と友人の幸せを」

 ジーンの問いに次郎は即答する。

(ふぅ……)

 ジーンは短く息を漏らし、言葉を続ける。

「我が第10師団は、麾下きかに属したいと存じます。

……正確には半分近くになりますが」

「半分?」

(次郎様。

この師団長は嘘偽りなく述べております。

また、彼は部隊の約半数しか掌握しておりません。

ただし、その半数は彼を信奉しておりますが)

 サトリがジーンの思考を読み取り、次郎に念話で話しかける。

(今までのように、こちらに恩義がある訳でもなく、保身の為でもなく、こちらに降るか……。

彼の大義名分はどこにある?)

(大義名分とまで行くかは図りかねますが、民を愛し、仲間を大切に想う心がモチベーションのようです)

(まるで聖人君子だね。

それは王や領主の面持ちだ)

(領主と言えば、彼はここ穀倉地帯の領主の跡取りですよ)

(え!?…………それは良いことを聞いた)

 次郎の口の端が上がる。


「ジーン・フェデラル。

君は何をしたい?」

「は?」

「君はこれからどう生きていきたいのか、聞いている」

「それは……」

 ジーンは、左右に控える副長とヘイズルの顔を見る。

「私を慕ってくれる者達が幸せに生きていくことに、この身を使いたいと思います」

(やっぱり王の器だね。

こういう人も居ても良いかもな)

「わかった。

ジーン・フェデラル及びそれに付き従う者達の受け入れを許可しよう」


「よろしいので?」

 次郎の肩に居た小鳥サイズに変化へんげした八岐大蛇やまたのおろちが確認してくる。

「ふん。

逆心を起こせば、その時は我が滅ぼしてくれよう」

 いつの間にか、ジーン達の背後に居た真神まがみが宣言した。

「「「フェ、フェンリル……様!?」」」

 ジーン達は振り返って驚愕する。気配なく後ろを獲られ、またそれが伝説と謳われたフェンリルの姿をしていたことに。

「構わないさ。ここの管理にちょうど良い人材だし。

たとえ翻意を覆したとしても、真神まがみが許さないって言ってくれてるしね」

「その際は、自分も、ですが」


 ジーン達三人は、しばし彼らのやり取りを驚きと共に眺めていたが、ジーンがいち早く正気に戻り、その場に跪く。

 続いて、副長とヘイズルも同様に跪いた。

「願いを聞き届けて頂き、感謝致します。

では、これより我が部隊は貴方様の配下として動きます」

「よし。

まずは部隊に戻れ。

その後の命令は"声を届ける"から、それに従え」

 次郎はジーンに命じた後、真神まがみを見つめる。

「それと、真神まがみ

「はっ。

こやつらを送り届ければ宜しいか?」

「うむ。

そのまま張り付け」

「了解致しました」

 そして、ジーン達三人を乗せた真神まがみの姿が消え失せる。



~~~ 余談 ~~~


「聖人君子みたいな思考の人がホントに居るんだね。

欲まみれの僕には出来ないなぁ」

『あら。

次郎様も都の住民達からそう想われていますよ』

「ええー。

どこをどう切り取ったらそうなるの?」

『全ての避難民に手を差し伸べ、衣食住を提供しましたよね』

「困ってる人を助けるのに理由って無くない?

それに、こっちも人手があって助かった訳だし」

『まあ、次郎様が欲に取り憑かれているのは否定致しませんが。特に食欲に……クスクス』

「うぐっ」


 第10師団の造反を受け入れた次郎。

 サトリが居るおかげで判断に迷いが無いですね。

 ジーンが仲間となりましたが、実は初期プロットでは、西砦紛争で破れた第5師団長が仲間になるはずでした。だから、MIAだったんですけどね。まあ、この路線でも面白いかな?とジーンを登場させましたが、いかがでしたでしょうか?


 さて、次話は、そのジーンの活躍が見られます。

 お楽しみに。

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