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第226話 飯の友 前編

 次郎達が穀倉地帯で激戦を繰り広げている頃、大樹の森の都では……。

ーーー 三人称です ーーー


 大樹の森の都、そこのアーケード商店街の入り口に立ち尽くす男が居た。


「ああぁ~……。

そっか、いくさに行ってしまってるのかぁ。

仕方ないな。何か他のもので腹を埋めるか……」

 それは赤提灯の店の常連客の男だった。


 赤提灯の店主は、常日頃「戦人いくさびとが本業」と言って憚らない。

 その日は、カザフ王国軍の援軍に大樹の森国軍が参戦しているため、臨時閉店となっていた。

 赤提灯の店主も悪いと思ったのか、アーケード商店街の出入口の両方に赤提灯をぶら下げ、営業日には赤提灯が広げられ点灯もしているが、休業日の場合にはそれが畳まれて消灯している。それで奥の方にある店舗までわざわざ歩かなくても済むように工夫されていた。

 常連客は、入り口でそれを確認してからアーケード商店街に歩みを進めるのだ。

 

 このアーケード商店街は、飲食店が多くあり、空腹を埋めることが出来るであろう。

 男はアーケード商店街を進んで行くが、かなり閉店率が高く、肩を落としていった。

「うまいと評判の店ほど閉まってるじゃないか!?

……ああ、早く戦争なんて終わっちまえよ!」

 男が悪態をつくのも無理はない。

 ここアーケード商店街の人気の飲食店の店主のほとんどがあやかしである為、こぞって参戦しているのだ。

 唯一、入り口の一等地にある疾駆はやがけ庵の二号店は営業していたが、夕食を甘いもので賄う考えを男は持っていない。


「あ! 暖簾のれんが掛かってる!」

 ようやく男が見つけたのは、「さぬき屋」と言う看板が掛かった店。

「たしか……ウドン屋だったか?

ウドンかぁ。腹の足しになるかぁ?

……だが、背に腹は代えられん。

ここにするか」

 男は決断し、暖簾のれんをくぐる。


「いらっしゃいませ~♪」

 店の扉を開けると、中から明るい声が迎えてくれた。

「お一人様ですか?

ご案内致しますね。こちらへどうぞ」

 若い女性店員が案内してくれる。

 どうやらカウンターへ案内してくれるようだ。


 店内は混んでいて、ほぼ満席状態だ。

(俺と同じ夕食難民が溢れてるな。

仕事終わってすぐに来て良かった。

今の時間で、少し遅くなってたら外で待つことになっていたかもな)

 男はホッと息を吐く。


「ご注文がお決まりになりましたら、お気軽にお呼び下さい」

 女性店員は案内後、お茶とおしぼりを提供してくれ、その場を去る。

(ウドン屋に来たからにはウドンを頼むが、それだけではな)

 男はふと顔を上げ、カウンターから厨房の中を覗く。

 そこには、店主らしき若い女性がテキパキと働いていた。

 厨房には何人かの料理人が居たが、男がその若い女性が店主と睨んだのは、動きが的確且つスムーズであり、また時折料理人達に指示出ししている様子からだった。


「店主!」

 男は、その女性の手が止まる隙を見つけ、呼び掛ける。

「はい。何でしょう?」

 その女性は近づき、軽く会釈して問い掛けてきた。

 ソバカス顔がチャーミングにも見える得な顔立ちをしている。

「忙しい時にすまない。

いつもは赤提灯の店に行ってるんだが、今日は休みでな。

ここは初めてなんだ。

何がおすすめかな?」

「まあ、シンさんのお店の常連客なんですね。

……困りました。

シンさんのお仕事に比べれば、私のお料理では……。

あ、でも、シンさんは、ちょくちょくウチで召し上がられますよ」

「ほう? あの鬼のタイショーが常連なんだ?

じゃあ、それと同じものを貰おうか」

「はい、かしこまりました。

あと、ニホンシュなら当店にもありますよ?」

「良いね。それも貰おう。アツカンで頼む。

ついでにツマミになるものも頼む。これは任せる」

「はい、ありがとうございます」

 女性店主は一礼して、厨房の奥へ引っ込む。


(鬼の店主が足繁く通う店かぁ。

こんなハズレの日もあって良いもんだな)

 男はおしぼりで手を拭いてからお茶を啜る。

(だいたい、このお茶だって仕入れてるだろうに。無料で提供するんだもんな)

 大樹の森の都の飲食店では、どこへ行っても、おしぼりと水またはお茶を無料で提供してくれる。他国では考えられないサービスだ。

 特に男が気に入ってるのが、その接客ぶり。

 どの店に行っても、従業員が明るく挨拶するし、丁寧に対応してくれる。

 かといって、そのサービスに余分に料金がとられる訳でもない。

 以前、男は赤提灯の店で「釣りは要らない」と、端数を切った料金を払おうとしたことがあった。切り捨てるには少々大きな額ではあったが、気に入ってる店なので構わなかった。

 すると、従業員の睡蓮すいれんから叱られながら釣り銭を渡されてしまったのだ。

「こんなこと、旦那にバレたら出禁を喰らっちまうよ!」

「で、デキン……?」

「出入り禁止ってこと」

「それは困る!」

「ここは鈴木次郎様の統治下だ。

清廉潔白なあのお方のことだ。こんなのウチが貰ってるなんて知られたら、嘆かれるに決まってる」

「じゃあ、チップとしてなら……」

「それこそ要らないね。

店主の料理に対しての評価はありがたいことだけど、旦那は鈴木次郎様の信奉者だから絶対に受け取らないね」

「いや、店主だけじゃなく、あんた達店員の対応も良いから……」

「それこそお門違いさ。

この店は旦那の料理の腕一本でってる。

私達は、その旦那の腕を止めることなく、客に料理を届ける為に働いているだけ」

「わ、わかった。降参だ。

店主が羨ましいよ。あんたみたいな嫁さんが居て」

「ありがとうさん♪」

 睡蓮すいれんの顔に花が咲いたような錯覚を覚えた。


「お待たせしました。

アツカンとおつまみです」

 わざわざ女性店主がカウンター越しに渡してくれる。

「ありがとう」

 男は礼を言い、カウンターの上の台から手前に各々下ろす。


「では、いただきます」

 今日も男は手を合わせながら、頭も下げる。もう習慣化しているようだ。

 男はまずおつまみから手を伸ばす。

(これは……キンピラか)

 箸でつまみ上げた細切りにされたゴボウとニンジンをしげしげと眺めた後、おもむろに口に放り込む。

(鬼の店主の味わいと違うが、これも良い。

口にゴマの風味が広がる。

ピリ辛なのも良い)

 すぐに酒で追いかける。

 口の中がキンピラに支配されていた味わいを、日本酒が洗い流していく。

 ゴクリ。

 まだ口の中にキンピラが残ったままだ。

 バリ、ボリボリボリ……。

 そして、残ったキンピラを租借音良く噛み砕いていく。

(このアツカンが通った後のキンピラの味も良い。味に変化が出る)


「ふぅ……。

もう一つのオツマミは……何だ、コレ?」

 おつまみは二種類あり、一つは男も知るキンピラゴボウだったが、もう一つの方は初見だった。

 それはカンナで削ったおが屑のようであり、カンナ屑同様反対側が透けて見える。それが小鉢に山盛りとなっていた。

 男はそれを一枚指でつまみ上げる。

 何かのチップスではあるが、男にはそれがわからない。わかったことは、それがフワッとしていて柔らかなことだけだった。

(いつまでもこうしている訳にもいかない。

ええい、ままよ!)

 意を決して口に放り込む。


 ソレが舌の上に達した時に、男は衝撃を受けた。

(な、なんだ!?

旨味の塊じゃないか!?)

 男は堪らず、もう何枚かのソレを口に入れる。

 そうしてソレを味わいながら、アツカンを流し込む。

(こんなものがあったなんて……。

これは最高のツマミだ!)

 男は、夢中でおつまみを頬張っては熱燗を煽る。


 戦闘中の為、大樹の森の都のあちらこちらのお店が臨時休業。

 赤提灯の店の常連客の男は、困った末、コニーの店にたどり着きました。そこで新たな発見があったようですね。


 さて、次話もこの続きです。

 お楽しみに。


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