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第225話 弁才天vsヘイズル

 戦場の中央区に単身で乗り込むゴドー王国軍第10師団のヘイズル。

 戦場では珍しい水魔法が飛び交う。

ーーー 三人称です ーーー


「何っ!?

カザフ王国軍が手こずってる?」

 次郎の下にサトリからの緊急の知らせが届く。

『はい。

それもたった一人にです。

水魔法の使い手です』

「そんなヤツが居たなんて……。

大国ともなると逸材も居るか」

『もう既に50人ほどが溺れさせられてるようです』

「そうか……。

弁天!」

「はい、ここに」

 次郎が呼ぶと、既に跪いた弁才天が目の前に居た。

「行ってくれるか?」

「あなた様は、ただ命ずれば良いのです。

"行け"と」

「では、弁天に対処を任せる」

「御意」

 弁才天は返答すると、すぐさま後ろの川へ飛び込む。と同時に、水飛沫が中央部へ向かって走っていく。空を飛ぶより速いと言われる高速泳法である。


◇◆◇


 中央部にたどり着いた弁才天は、ナールトン将軍の下へ向かった。

「水軍長!

応援ありがとうございます」

「ナールトン将軍。

なにやら、魔法に苦しめられてる、とか?

あなた方には、魔法防御装置があったのではなくて?」

 カザフ王国は、世界初の魔法防御装置の開発に成功していた。

 その装置は、実際には魔法の発生を抑制するだけのものであるが、通常の魔法兵10人分のファイアボールを発動させないことが出来る。

「いや、威力は弱めることが出来るのですが、水魔術師にはそれがあまり役に立っておらず……。

まだ開発途中のものを担ぎ込んだものでして」

 くだんの水魔術師の魔法は、弱めることが出来たが、発動を抑えることは出来なかったようだ。

「ふーん。

まずは見せてもらおうかしら」

 そう言うと、弁才天は最前線に足を運ぶ。


 そこで、弁才天の視界に入ったのは、数十人が倒れている中心にゴドー王国軍の士官服を着た者が一人。

 そして、その者の周りで10人ほどのドワーフ達が苦しそうに踠いている姿だった。

 弁才天が腕を一振るいすると、踠いていた10人が盛大に呼吸をし始め、力尽きたように膝をつく。


「ふーん。

少ない水量で、多数を的確に攻撃するのね。

発動を抑えられなきゃ、威力が弱くても同じじゃない。

なかなかやるわね、あなた」

「おや?

綺麗なだけでなく、雰囲気が大物を物語っていますね」

 今、無詠唱で自分の術を一斉に解き、近付いて来る弁才天に正対し、水魔術師のヘイズルは身構える。

「水を吐き出させるでもなく……蒸発させたのか?

しかも無詠唱で。

少しどころか、大きく予想に反するぞ、これは!?」

 カザフ王国軍の兵達を苦しめたヘイズルが、たった一人の弁才天に恐れおののいている。

「ま、まさか……貴女一人であの水量を操っていたのか!?」

 ヘイズルは、先の戦いで先行部隊のほとんどを壊滅させた術者が、目の前の女性だと確信した。


「この間の件かしら?

……ああ、そういえば、あなた、兵の遺体を調べてた人ね。

じゃあ、あの時の後詰め部隊か……。

面倒な指揮官が居るなとは思ったけど、その部下も面倒ね。

ここで潰しておくわ」

「ぐっ…………。

力を示さねばならないか」


 二人の間に緊張感が走る。

 唐突にヘイズルの周りに、わずかコップ一杯程度のウォーターボールがいくつも生じる。

 ヘイズルはそのウォーターボールを撃ち出すが、周囲に生じたウォーターボールのいくつかが術者のヘイズルを狙って来た。

「何っ!?

くっ、この程度!」

 ヘイズルは、それらを全て身体能力で躱しきった。


 弁才天に向かったウォーターボールは、弁才天がクスリと笑うだけで消失する。弁才天に触れることなく、蒸発してしまう。

(術者のレベルが桁違いだ。

私の魔法で生成した水を乗っ取って、攻撃すらして来るとは!?

フェデラル師団長、想定外でした!

……だが、こちらの力も示しておかないと)

 ヘイズルは、内心の焦りを隠し、矢継ぎ早にウォーターボールを連続で射出する。

 それは、直進するものもあれば、曲射の如くカーブを描いているものもあった。中には空高く舞い上がり、弁才天目掛けて落下するものもあり、それが時間差攻撃ともなり得た。

 だが、弁才天はウォーターボールの方を見ることもなく、詠唱すら唱えず、腕を振るう等の動きも見せず、ただ微笑むだけで数多のウォーターボールが蒸発していくのだった。


「ふーん。

サイズを小さくして大量に生み出す訳ね。

制御も精密ね。

一つでも被弾させれば勝つ自信があるのね」

「私は、貴女のように大容量の水を生成出来ない。代わりに制御を突き詰めた」

「なるほどね。

魔力量には自信が無いなら無いなりに…………でも、これ、かなりの水量になると思うけど?」

「一度の生成が、それくらいの少量ならさほど負担にはならない。それなら連続生成出来る。

それにわずかではあるが、時間と共に魔力も回復する」

「ああ、それで。

アリエル(むすめ)にも使えそうね。

最近は制御に力入れさせてるからタイミングが良いわ。

ありがとう。参考になったわ」

「娘さんへの指導の参考にされてしまった程度か……。

つくづく化物だな」

 ヘイズルは悪態をつく。

「お詫びに、あなたの壇上で戦ってあげる」

 弁才天はそう言うと、ヘイズルと似たような水球をいくつか作り出す。そして、ヘイズルへと射出する。

 ヘイズルもステップを踏み、避けながらも無詠唱で自分の前に水の障壁を作って防御する。

 シュンッ、シュンッ、シュンッ。

 ドドドドッ。

 ヘイズルはいくつかの水球を身体ごと避け、避けきれないものは、水の障壁で受け止める。

「ぐぅっ!」

 だが、水の障壁で受け止めたはずの水球が通り抜け、何か固い物にでも当たったかのような衝撃を受けて、後方に弾き飛ばされる。

「水は万物を象徴するもの。

液体化は一つの姿でしかない」

 弁才天が軽く呟く。


 弁才天が射出したもの。

 それはウォーターボールに似て非なるものであった。

 見た目はウォーターボールそのものの液体の水の塊だが、中には固体化した氷の塊を内包しており、またその周囲には気体化させた水を纏って、進む方向も射出速度も自由自在な代物。

 ヘイズルの身体中のあちこちに被弾して、彼も倒れるしかなかった。


「ま、参りました。

降参致します……」

 ヘイズルは倒れたまま、白旗をあげた。

「あら、素直ね。

では、あなたを捕縛します」

 弁才天は、水の妖術でヘイズルを縛り上げた。

「……自力で立てないか。

仕方ないわね」

 そう言うと、ヘイズルを水でくるみ、宙に浮かせて運び出した。


「さすがは水軍長。

お見事でした」

「ナールトン将軍。

コイツは盟主様の下へ連行します。

よろしいでしょうか?」

「はい。ご自由に扱って下さい。

それと……」

 ナールトン将軍が弁才天に耳打ちする。

「なるほどね。

様子がおかしかったのよね。

その件、盟主様にもお伝えしておきます」

「はい、盟主様にも感謝をお伝え下さい」

 弁才天は、ナールトン将軍に別れを告げ、ヘイズルを水の監獄に閉じ込めたまま引き摺り、再び川へと入水する。

 あっという間に立ち去る弁才天。


「大樹の森に住むものは、強烈な方々ばかりだな……」

「ナールトン将軍、駆け付けるのが遅くなりました」

「おお、魔法隊長」

「いや、実は大樹の森国軍の方に少し遅れる程度でしたが……ついつい目を奪われました」

「どうだ、凄かろう?」

「はい。

どちらも一流の使い手でした。

大樹の森国軍の方は桁が違い過ぎて何も申せませんが、ゴドー王国軍の士官も並外れています。

魔力量が少ないと自分から話していましたが、通常の魔法兵よりも多いと感じました」

「相手が水軍長ではなぁ。誰でも魔力量で太刀打ち出来んだろうな」

「それもそうですが、二人の戦いは、"質より量"と言うこれまでの考え方を一考せねばならない一戦でした」

「戦略的には"質より量"で間違いではないが、戦術的では時には"量より質"と言うこともあるか」

「特に魔法隊の訓練方法は一考したいと思います」

 ナールトン将軍と魔法隊長は、考え事をしているかのように黙るのであった。


 水術では弁才天に敵う者無し。

 部隊では最強の水魔術師のヘイズルもあっけなく捕らえられました。

 次郎の前に引っ立てられるヘイズル。

 彼がそこで語るものとは……?


 さて、次話は、戦場を離れ、グルメ話になります。

 こう殺伐としたお話ばかり書いてると、作者がパンクしちゃいます。作者のワガママでほのぼの話を入れます。

 お楽しみに。

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