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第224話 穀倉地帯の戦い

 もうすぐ春の収穫期を迎える頃、カザフ王国軍、ヤンバル国軍、そして大樹の森国軍の三国軍が今度はゴドー王国へ逆侵攻する。

ーーー 三人称です ーーー


 ゴドー王国北部の穀倉地帯。

 そこは南北を結ぶ街道が5本走っている。

 収穫した小麦を輸送する為、道幅は広い。

 その5本の街道全てを、武装した軍隊が南進している。

 カザフ王国軍とヤンバル国軍、そして大樹の森国軍である。

 ゴドー王国の国境軍とは既に一戦交え、壊滅に追い込んだ。

 彼らを止めるものは何人なんぴとも存在しなかった。


 いや、今は、南のゴドー王国王都から第2師団が、南東から第9師団が、南西から第10師団が、ここ穀倉地帯に進軍している最中だ。

 侵攻している三国軍とゴドー王国軍が会敵するのももうすぐ。


 三国の軍隊が東西を走る川を渡る度、ヤンバル国軍が隊列を離れていく。

 川沿いにある町を制圧する為だ。

 もう既に三本目の川を跨いだ。

「川沿いの町の制圧具合はどう?」

『はい、町の警備兵も降参し、非常に順調です』

 次郎とサトリの会話だ。

「ヤンバル国軍は優秀だね。

さほど争いにならず、制圧するなんて」

『ヤンバル国軍は、風魔法に長けている者が多く、その風魔法に声を乗せて、我ら三国の兵力を伝えながら開城させています。

この手法は、私達も見習わなければなりません』

「うんうん、とても良い手法だ」

『そろそろ、ゴドー王国軍と会敵する頃ですね』

「うん。

王都から来ている一個師団と東から来ている一個師団が到着しそうだ。

かなり飛ばしているようだ。

たぶん、会敵する頃にはかなりバテてるんじゃないかな?」

 八咫烏やたがらすの超視力が、正確な情報をもたらせてくれるのだ。

「まあ、それでも、彼らと接触するのは、穀倉地帯を制圧完了した後にはなるね」

『では、全部隊に準備を行うよう伝達して参ります』

「うん、よろしく」

 サトリの存在感が消失する。

「……西から来る部隊が厄介そうだけどね。

その対処は僕らがやった方が良いだろうな」

 そう呟いた次郎は、念話であやかし達に、穀倉地帯を抜けたら西側へ寄るように指示を出す。



 サトリも次郎の念話を受け取り、その旨をカザフ王国軍とヤンバル国軍の将軍達へ通達する。

「では、穀倉地帯を抜けたら、そこで待ち構えるのですな。

そして、そのタイミングで大樹の森国軍は西側に寄ると言うことですか」

 カザフ王国軍のナールトン将軍だ。

『ええ。

西側から駆け付けている部隊が警戒に値すると盟主様が仰っておいでです』

「盟主様が警戒と……。

何者でしょうな?」

『例の撤退した後詰め部隊らしいのです』

「なるほど。

この間の深追いして来ない冷静な指揮官の部隊ですな。

しかし、ヤンバル国軍の将軍が聞いたら悔しがりそうだ」

『実際、この情報を聞いて、今この時も悔しがっていますよ。……ウフフ』

「でしょうな」

 サトリとナールトン将軍は笑い合う。


 先日の戦いにおいて、先行部隊の第3師団と第4師団を壊滅させた後、実はヤンバル国軍と大樹の森国軍の水軍が待ち伏せていたのだ。

 後詰め部隊の指揮官は、先行調査の10騎を派遣した後、もう一騎だけ追随させただけで、全部隊を即座に撤退させ、待ち伏せ部隊は空振りに終わってしまっていた。

 「敵ながら、見事な撤退ぶり」と、次郎が褒めていたほど。



 そして、三国軍が穀倉地帯を抜け、防備を固め終わった頃、ゴドー王国軍がその場に到着した。

「もうこんなところまで侵攻されていたのか!?

カザフ王国め、好きにはさせんぞ!」

 ゴドー王国軍の第2師団長が吠える。

「弓隊及び魔法部隊、攻撃開始せよ!」

 第2師団長の号令のわずかの直前、カザフ王国軍の弩弓が発射される。

 ドッドッドッドンッ。

 ゴドー王国軍の前衛が大盾を翳すが、弩弓の矢が大きく、容易く貫いていく。

「ぐわっ」「うわぁ!」「ぐぐっ」

 ゴドー王国軍の体勢が間に合わない内に矢継ぎ早に弩弓が撃ち出されていく。

「れ、連射が出来るのか!?

ええい、装甲兵を前に出せ!」

 弩弓は威力が高いが、一度発射すると弦の巻き上げに時間が掛かるのが欠点とされている。

 しかし、カザフ王国軍の弩弓は、縦に何層ものいしゆみが備え付けられており、射出後も魔石とギアを使って自動で巻き上げられ、ヒトは大型矢を置くだけで良い構造になっている。

 邂逅戦は、カザフ王国軍に軍配が上がったようだ。


 そして、到着した第9師団の加勢が加わり、東側ではカザフ王国軍とゴドー王国軍が拮抗し始めた。

 ゴドー王国軍の装甲兵が突撃し、カザフ王国軍の弩弓の連射がそれを阻む図式は変わらず、カザフ王国軍のバリケードまで到達出来ないでいた。

 だが、じわりじわりとゴドー王国軍の前線が押し上げて来ている。

「よし、第9師団が到着したおかげで、もう少しでヤツラの防御壁まで到達出来るぞ。

そうすれば、流れが一気にこちらに来るはずだ。

押せ、押せ!」

 第2師団長はそう確信しているが、カザフ王国軍は一個半師団を食い止め、クリムト帝国軍の千人隊を壊滅させた実績がある。

 ゴドー王国軍に情報が無い為、第2師団長はそのまま押し込もうとする。


「ふん。大分押し上げて来たな。

よし、次の段階に移る。

バリケードを開けろ。

敵軍を壊滅する」

 こちらはカザフ王国軍のナールトン将軍だ。

 将軍の命令に従い、バリケードが開かれる。

 そして、ゴドー王国軍の突撃を許さず、その場に現れたのはカザフ王国軍の戦車。

 それは、3頭の馬に曳かれた馬車であり、鉄の装甲板に覆われていた。馬も装甲衣装を纏っている。

 その戦車にも連射式の弩弓が備え付けられ、敵の装甲兵を撃ち抜いていく。

 こちらは、軽量化の為に5連射式となっており、5人の兵が乗っている。

 御者が一人、射手が一人、装填係が一人、護衛役が二人。護衛役は接近戦用の剣だけでなく、通常の弓矢も装備しており、通常兵を射貫いている。


「おのれ、カザフ王国め!

あんなものまで用意しているとは」

 第2師団長のセリフは、阿鼻叫喚の前線の声に掻き消されていく。


 自国が滅多に無い侵攻を受け、その焦りから部隊全体を急いで進軍させたツケが、ここに第2師団と第9師団の兵達を苦しめていた。


「報告致します!

援軍の第10師団が到着した模様」

「遅いぞ! あの青二才が。

この戦いが終わったら、小言では済まさんぞ!」

 伝令兵の報告に、文句を言いながらも勝利を確信している第2師団長。



「もう始まってますね。

第2師団と第9師団の両方が揃っているようです」

「距離的に王都からの方が近いとはいえ、ずいぶん早く着いたようだな、第2師団は」

「第9師団の到着も脅威ですよ」

 第10師団長とその副長の会話である。

「頭に血が昇りやすいお二人だからな。

兵達に同情するよ」

「結構ヤられていますな」

「先の戦いの報告を、上層部が握り潰すからこうなる」

 二人の下に、第2師団の伝令兵がやって来た。

「第10師団長。

第2師団長からの指示であります。

すぐさま参戦せよ、とのことであります」

「了解した。

我々は、このまま敵軍の西側を攻める。

そう伝えろ」

「はっ」

 伝令兵が戻っていく。

「ヘイズル(引き抜いた水魔術師)。

上手くやれよ」

「はっ。

計画通り、単身で中央部に斬り込みます」

「決して死ぬな。

貴官の生死に我が部隊の命運が掛かっている」

「承知。

必ず目的を遂げてみせますよ」

 水魔術師のヘイズルは、師団長と副長に一礼してから、その場を走り去る。

「頼むぞ」

 第10師団長は、ヘイズルの背を見えなくなるまで見つめ続けた。


「よし。

では、第1から第4大隊まで、突撃せよ」

「「「おおっ!」」」

 第10師団長の号令に、兵達が鬨の声を上げる。


 三国軍とゴドー王国軍の三個師団が激突しました。

 両者の兵数はほぼ同等。

 結末は如何に?


 さて、次話は、ゴドー王国軍第10師団長ジーン・フェデラルの思惑が判明します。

 その部下のヘイズル士官の奮闘ぶりも。

 お楽しみに。

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