第223話 ジーン・フェデラル
鮮やかに撤退したゴドー王国軍第10師団長。
その現在は……?
ーーー ゴドー王国軍第10師団長の視点です ーーー
私の名前はジーン・フェデラル。
ゴドー王国軍第10師団長を担っている。
カザフ王国への侵攻に、後詰め部隊として我が第10師団も参戦した。
だが、道半ばの街道で、先行部隊の第3師団と第4師団が全滅してしまった。
我が第10師団が一切参戦すること無く。
私は、先行部隊が壊滅した現場で撤退を決定した。
敵軍が1万5千の部隊を全滅させるほどの戦力を持つこと、そして周囲の環境が敵の罠が仕掛けやすいと判断し、一切の戦闘をすること無く、全員を撤退させることにした。
敵軍には、強力な水魔術師の集団、またはそれに代わる兵器があることが窺われたのだ。
その戦術で先行部隊の1万の兵がやられていた。
王都に戻った私は、その件を伝えたが、軍の上層部にはあまり信じてはもらえなかった。
いくら水魔術師の脅威を訴えても、過去の事例から否定しかされなかったのだ。
「実際、1万以上の兵が溺れ死んでいるのですよ。その事実を無視するのですか!?」
軍の上層部に対して、思わず声を荒げてしまった。
「君は師団長に任命されたばかりだね。
浮かれ過ぎて夢でも見たのでは?」
「見たのは私一人ではないのですが!」
「…………」「……集団で夢を見ることもあるのでは?」「まだ若いしな」
軍の上層部には老害が蔓延っているな。
その時には、もう二の句を告げる気力が失われた。
その後、軍の上層部は、第3師団と第4師団をMIAとした。1万5千人全員を。
西砦紛争で敗戦した第3師団と第4師団は、その敗戦が恥と捉え、逃亡したことになっていた。
ガッカリだ。
軍人は冷静に事実を捉え、事に当たらねばならない。
そう信じて今までやってきたのに……。
私も忠誠心に陰りが出始めていた。
私は貴族家出身だが、王都から遠い田舎が領地だ。爵位も男爵で低く、中央では軽んじられていた。
そんな現状を覆そうと、15歳で軍に入隊し、努力を積み重ねてきて、師団長の地位にまで昇って来たのだが……。
我が第10師団は、軍の上層部から西砦の監視を命じられた。
西砦がクリムト帝国に奪われてからは、敵軍に特に動きは見受けられない。
こちらから仕掛けない限り、クリムト帝国軍は動かないようだ。
前任部隊が何度か攻撃したが、全て返り討ちに遭っているとのこと。
この敵軍は、ゴドー王国軍最強と謳われていた第5師団を壊滅したほどの実力を持つ。さらに、後詰めの第3師団と第4師団も半壊している。
ここは、何かしら動きあるまでは、監視業務に留めるべきだな。
第1大隊長が攻めようとずっと進言して来るが、決して認めない。
西砦紛争の軍事記録を読み返すと、通常のクリムト帝国軍には無い軍略家の存在が浮き出てくる。しかも、この軍師は短気とは真逆。一番厄介なタイプだ。
決して、こちらから動いてはいけない相手。
「師団長。
王都から連絡便が届きました」
副長が連絡書を渡してくれる。
「それと、前師団長からの手紙も一緒に入っていたようですね」
「ありがとう」
副長から連絡書と手紙の両方を受け取った。
まず、連絡書の方から目を通す。
こちらは、各所の紛争の状況報告が主に記述されている。軍の新聞のようなものだ。
ゴドー王国は、あちらこちらで紛争を拡げているから、こういった連絡書はありがたい。
どこでどの部隊が展開しているのか、把握出来る。
そして、ここの西砦前以外は全て侵略戦争だ。ゴドー王国は拡大路線を突き進んでいる。
ただし、基本的に良いことしか書かれていないが。
兵達の戦意を高める為、と言う理由だったはずだ。前任の師団長から教えて頂いた。
ここ西砦前は、壊滅してしまった部隊のことには一切触れられず、「クリムト帝国軍と睨み合っている」としか報じられていない。
また、こちらから宣戦布告したカザフ王国への侵略紛争についても、「カザフ王国との戦争の準備に入った」とだけ記述されている。
薄くため息を漏らした後、前任の師団長からの手紙を読んでみる。
「…………」
「なんと?」
黙って副長に手紙を渡す。
「なんですって!?
軍は、この第10師団を解散させるつもりなんですか!?」
「正確には、分解と再編成だがな。
第3、第4、第5と三個師団が壊滅してしまったからな。全軍の編成を見直すのだろう。
まあ、わからないでもない」
「ですが、師団長はその職位に就いてまだ間もない。それに師団長の中で一番若くもあります。
これは、師団長を閑職に追いやる材料にもなり得ます」
「事実、そうなのだろう。前任の師団長もそのことを指摘している。
軍部では、特に敵を作らないように配慮してきたつもりだったのだがな」
「ああ、いえ。
貴方はそう感じなかったのかもしれませんが、師団長の昇進スピードが早すぎて、外野の者達からは妬まれていたのかもしれませんよ」
「副長もそうなのか?」
「だから、外野の者達ですよ、妬むのは。
貴方と同じ部隊を経験すれば、妬むどころか、その才能に惚れ込んでしまいます。
私もそうですが、ヘイズル(引き抜いた水魔術師)も貴方の信奉者ですよ」
「ハハハ、ありがたいことだ」
「軍の上層部も富みにおかしい。
先日の第3師団と第4師団をMIAとするなんて……。
我々もいつなんどきMIA認定されるか、わかったものでもありません」
副長も軍の上層部に不信感があるのだな。
「いっそのこと、自らMIAとなることも考えなければならないか……?」
「…………それも想定して行動した方が良いかもしれませんね。
私は、妻に先立たれ、子供もおりません。
師団長に従いますよ」
物事を広く捉えて考えてみよう。
原点に帰ることも必要だな。
そして、仲間達のことも。
そんな折り、また王都から連絡が来た。
今度は連絡書ではない。
命令書であった。
そして、それが私にとって大きな転換点となることになる。
ーーー 余談 ーーー
ここは、大樹のお屋敷の執務室。
『三国共同戦後会議から、戻って参りました』
「お帰りなさい」
「お帰りにゃ」
「お帰りでありんす」
今は、後鬼、アヤメ、タマモの三人の女性達しか居ない。
「どうでした?」
『はい。
サトリ姫様などと呼ばれてしまいました。
……ちょっと嬉しかったです』
後鬼は、会議の内容を聞いたつもりだったのだが、サトリが珍しくはしゃいでいる様がわかり、軽く戸惑いながらも言葉を繋げる。
「そ、そう……。
婚約期間中は"姫"と呼称されるのも間違いではないわね」
「うらやましいにゃ。
あたしも姫って呼ばれたいにゃ!」
「姫かぁ。
各所の宮殿や後宮暮らしを長年してきたでありんすが、姫の立場は初めてでありんすねぇ」
タマモは、両手で頬を包み、嬉しそうに微笑む。
「あ! あたしもそうにゃるにゃ?」
「貴女も次郎と婚約してるのでしょ?
ここに居る三人共が"姫"と言う立場になりますね」
後鬼も微笑ましく、三人娘を見つめる。
「やったー!
プリンセスにゃ、プリンセス!」
『うふふ……』
「でも、タマモは"姫"って言うより、"女王様"って方が似合うにゃあ……」
後鬼とアヤメが揃ってウンウンと頷いている。
姿は見えないが、サトリもそうしていることが予想された。
「あなた達は、あちきを何だと思ってるでありんすか!?」
まあ、これも母娘の他愛ない日常シーンである。
戦争で領地を拡大して大国になったゴドー王国。
その軍部に腐敗の兆しが出ているようです。
地位が高いほど、それに触れてしまうようですね。
さて、次話は、三国同盟軍の穀倉地帯への侵攻模様をお届け致します。
お楽しみに。




