表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/208

第21話 またまた避難民

大樹の森の拠点が避難民収容所と化してますね。

でも、まだまだ収容出来るスペースは十分にあります。ご安心ください。

ただいま空中からお届けしております。

風圧激しい最中、独りゴーグルをしてデンッと構えたドアンがうらやましいであります。

ハヤテが迂闊にも口を開けてしまって、ちょっと見られない姿に変貌しております。

ナターシャ、あーたはまたケラケラ笑ってらっしゃる。

真のスピード狂ですな。

いずれにしろ、帰ったらドアンにゴーグルを発注しようと心に決めた。


前方を窺うと、避難民達が真神まがみの眷属狼に後方を守られながら、一斉に逃げて来る。

真神の機転だろう。

また、眷属狼も賢いので、うまくこちらに誘導しているようだ。

さらにその前方では、前鬼ぜんきと真神に八咫烏やたがらすがドンパチやってる。

「圧倒的じゃないか、我が軍は」

言ってみたかったセリフその一は、風圧に飛ばされて誰の耳にも聞こえてない。

『ええ。あの程度の魔物の数に対して、3体ものあやかしが当たっていますから』

あ、サトちゃんがいた。恥ずかしー。


地上スレスレに高度を変えた八岐大蛇やまたのおろちは、避難民達の目前で速度を緩めてくれる。

その隙に八岐大蛇の背から皆が飛び降りる。

あ、ドアンはハヤテが担いでるよ。安心してください。

元のサイズの八岐大蛇は大きいので、僕は5点着地法で接地したけど、ナターシャはなにやら魔法らしきものを纏って着地してた。

さすがエルフ。美しい上に優雅。

ドアンを担いだハヤテはドォンと二足で普通に着地。

どんな筋力してるのやら。

あ、ドアンから「ぐえっ」って聞こえた。


「皆さーん。こちらに来てくださーい。こちらは安全でーす」

ナターシャが誘導する。

キレイな声だが、さほど大声でもないのに不思議と言葉が通る。

「声に魔法を通しています。全員に伝わったはずです」

ここでも魔法。ナターシャはいったいいくつの魔法を操れるんだろう?

「ハヤテとドアンは避難民達を先導して。

避難民達は疲れてるだろうから、少し足を緩めることを忘れずにね」

「おう。承った」

「どうせワシの足ではさほど速く走れんわい。ちょうど良かろうて」

「ナターシャは僕と殿しんがりに」

「はい」


僕達が避難民と合流する頃、対魔物戦は佳境に入っていた。

野獣の狼よりも一回り大きい魔狼の背に小型の鬼が乗っている。

あれはもしや、かの有名なゴブリンか?

初めての遭遇がゴブリンライダーとは、話を進めすぎじゃない?

ラノベではスライムに率いられたゴブリンライダーが無双してたが、こちらではどうか?

あ、真神がゴブリンの頭をパックンチョしてる。

八咫烏も鉤爪でゴブリンを引っ付かんで空高く舞い上がった。

ああ、地面のあちこちに赤い花の大輪のようなのが咲いてるのが、その残骸なのね。

前鬼師匠はまず魔狼の頭を潰してからゴブリンの腹をぶち抜く。堅実な方法ですな。

あとから参戦した八岐大蛇が殲滅速度を加速させる。

ゴブリンと共に魔狼ごとゴックンチョだもんね。お腹壊さないでね。

もう、騎手を失くした魔狼がいくらか残ってるくらい。

それからさほど時を経ずして、戦場が静かになった。

殲滅が完了したみたい。

サトリから伝達を受けたハヤテとドアンも足を止めたようだ。

八咫烏はまた上昇し、警戒モードに移ってくれた。

他のあやかし達は魔石の回収をしてくれてるね。

あとでドアンに渡すのだろう。

今まで倒してきた魔物の大半をそのまま放置してきたと言った時のドアンが猛烈に怖かった。

目を剥き、唾を飛ばしながら、「そもそも、魔石というのはじゃな!」と猛然と抗議してきたドアンと言ったら……。

「ガルルッ」という幻聴まで聞こえたほどだった。


それはさておき、殿しんがりから先頭位置に移動してきた僕らに避難民達がお尻を向けてるのはなぜ?

ナターシャは首を傾げ、ハヤテも首を振るばかり。

ドアンを見ても、「訳がわからん」と言うばかり。

あの~、避難民の皆さん。僕らはここにいますよ~。

ざわざわとなにやら嘴っている。

「竜神様だ」「多頭竜様が我らをお救いくださった」「竜神様ー」

おやぁ、フェンリル様ではなくて、今度は竜神様ですか。

正確には八岐大蛇は竜神様ではなく龍神様なんだけどね。

「あのよう、ジロー様。ありゃあドラドと呼ばれてる部族だぜ」

ハヤテが話しかけてくる。

さっきのハヤテの首振りは、「わからない」じゃなくて「やれやれ」の方だったみたい。

「ドラド?」

「なんでも、竜を神様の如く拝んでる部族だとよ」

避難民達をよく見ると、ヒト種と獣人種の混成の集団だ。

「ほれ、皆どこかしこに鳥の羽を着けてるだろ?」

確かに、鳥の羽を髪飾りにしている者や胸にさしてる者など様々だ。

中には、バンダナにさしてアメリカ映画で観たインディアンみたいな者もいる。

「竜を崇めているのに、なぜ鳥の羽?」

「何でも、鳥は竜の末裔なんだそうだぜ?」

おお、地球の考古学と一致するよ。

「ともかく、このままじゃ話にならないね。

サトちゃん、八岐大蛇をここに呼んでくれるかい」

『かしこまりました』


ほどなく、八岐大蛇が舞い降りてきた。

「八岐大蛇はそこにいてくれるだけでいいよ」

「わかった。では、ひと言だけ」

八岐大蛇はそう言うと避難民達に向き直り、大音量を響かせる。

「そこなる者達よ。我があるじの言葉を聞け!」

それを聞いた避難民達が一斉に跪いた。

「あー、皆さん。楽にしてください。

僕は鈴木次郎と言います。

あの大樹の森に住まう者です」

また「竜の神子だ」「神子様」とか聞こえるけど、今は無視。

「何があったんでしょうか?」

集団の中央辺りの馬車にいた老婆が、二人の若い女性に支えられ、歩み寄ってくる。

近くまで来ると、再び跪く。

「神子様。お目もじを賜り、恐悦にございます。

我らはドラドの末裔。古くから竜神様を奉ってきた一族にございます」

一呼吸置いて再び口を開く。

「森深くに集落を開き、竜神様の加護を頂いて生きてきた者達でございます」

老婆の話を聞くと、たまに魔物の襲撃はあるものの、竜神の加護とやらで難なく撃退出来ていた、とのこと。

一月ほど前、今度はオーガの集団の襲撃を受けたと言う。

オーガは知性の低い魔物とは一線を引く存在で、魔物でありながらヒトと同じく戦術も用いる非常に厄介なモンスターと認識されているようだ。

また、老婆は集落と言っていたが、ドラドは500人以上の規模で、小さな町と言っても良いくらい。

そこをオーガが集団で襲いかかった。

オーガの正確な数ははっきりとはしないが、ドラドの人数をはるかに上回っていたらしい。

避難民達は、文字通り避難してきた生き残りと言うことだ。


「それは大変でしたね。

僕らはあなた達を避難民として受け入れることが出来ます。

ただし、住民といざこざなどの問題を起こさないことが条件です。

また、移住したいと言うならば、仕事も住居も与えましょう」

「おお、おお……。ありがたきお言葉。

我らは神子様と共にありましょうぞ」

老婆だけでなく、皆一斉に泣いている。

振り返ると、ナターシャやハヤテ、ドアンまで涙ぐんでいる。

みんな自分達も似た境遇だったからか、共感しちゃったのね。

ハヤテなんかわんわん泣いてる。ちょっとウルサイ。

でも、ハヤテのように、ストレートに感情を表せるのはうらやましいな。

さて、ここから拠点まで100km近くとなると健常者でも二日掛かる。

三泊の夜営を挟まないとならないな。

このまま、みんなにも付き合ってもらうか。

え?前鬼を戻して仮宿を建築しないのかって?

フッフッフ、こんなこともあろうかと、第二集会場をすでに建築済みなのだよ、明智君。

ああ、八咫烏だけは通常の業務(森全域の偵察)に戻ってもらうけど。

「サトちゃん、拠点のみんなに3~4日で戻るって伝えて」

『かしこまりました。

主様はすぐにお戻りにならないので?』

「走って戻るよ。

避難民達の食料を受け取ったら、こっちに合流して一緒に夜営する。

こっちのみんなにも伝えておいてね」

『では、そのように』

サトリの気配が消失する。

(ヤタ。いつもの業務に戻る前に、僕の進行方向の偵察をお願い)

(ヤタ……あるじの上を……飛ぶ)

「ナターシャ、ハヤテ、ドアン。避難民達の先導をお願い。

僕は食料を持ってくる」

拠点に向かって走り出す。

ナターシャの「お気をつけて」がかすかに聞こえた。

拠点に着くまで、八咫烏が三回急降下していた。魔物などを排除してくれたのだろう。

拠点にたどり着くまで1時間半。

病み上がりにしては、なかなかでしょ?

他のあやかし達は、この3倍は速いし、前鬼と真神はもっと速い。

もっと成長すれば速くなるかな?


さすがはドアン。

ゴーグルも常備品なんですね。

そのうち、次郎から発注が来ますよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ