第2話 サトリ
第1章は出会いがテーマです。
第2章から様々なことに遭遇します。
そこまで我慢?して読んでみてくださいな(笑)。
まずは一人目。
木漏れ日がキラキラと緑の大地を照らす。
時折吹くそよ風もほほをくすぐる。
小鳥のさえずりも耳に心地良い。
どうやら森の中らしい。
「ふぅ~」
軽く深呼吸してから、ゆっくりと脚に力を掛けて立ち上がる。
久しぶりの自力での屹立だ。
果たして脚が震えることもなく、すっくと立ち上がることが出来た。
ちょっと感動。
そして、自らの手のひらを眺めてみる。次に手の甲。
「小さいな」
どうやら管理者様は、約束通り肉体を若返らせてくれたらしい。
「それにしても幼すぎないか?」
かえすがえす手のひらと甲を見てみて、どうやら少年期に少し足りないほど幼く見える。
「ええと、ステータスボードは出るかな?」
それで目の前に画面らしきものがフッと現れる。
名前:鈴木次郎
年齢:5歳
種族:まだヒト?
HP:少ない
MP:ちょっとある
SP:まあまあ
スキル:身体強化 気力回復 治癒 妖召還 管理者の加護
アバウトな表現だこと。
それと、管理者様。若返らせてくれたけど5歳って。
いや、ありがたいけどもね。
こんなんで生き残れるの? HP少ないってあるけどぉ。
それに種族の箇所になぜ?ハテナマークがついている?
スキルに治癒を見つけてホッとした途端、詳細説明が表示され、自分には効かないって……そんなご無体な。
『主様! 敵性生物を感知しました。2時方向。 二体です。』
頭の中で警告が響く。
「誰!?
……今は良いや。2時方向、二体ね」
身構えてそちらに向く。
「まずは身体強化!」
全身に血液を巡らせる如くイメージする。一気に体温が上昇した気がする。
『あと13秒で接敵します』
前方に、犬?狼?らしき姿が見えてきた。
果たしてこちらの生物に対して、地球の格闘技が通用するのか。
それも5歳児の体格で。
疑問は尽きないが、ゆったり構える。生き残る為に。
『まずは下段。足が狙い。二体目は上段に飛び上がって来ます』
「ガアァッ」
先行していた一体が足を狙ってくる。
姿勢をそのままに半歩横にステップする。すれ違い様に太股に獣の毛が触れ、通り過ぎて行く。
一体目をかわした次の瞬間、二体目が喉元狙って飛びかかってくる。
「連携か。賢いね」
言うが早いか、二体目の横っ面を手のひらで叩きつける。
いわゆるリードフックだ。
パンッと軽い音が響き渡り、その勢いで身体を入れ換える。
衝撃でフラフラとしている二体目を視界の端に捉えつつも、眼光鋭く一体目に正対する位置を保つ。
ふらつきながらも立っている仲間に気を良くしたのか、一体目が再度飛びかかってくる。
おそらく二体目への攻撃を認識出来ていない為に、今度は喉元を狙って。
「本能は悲しいね」
肉食獣は得てして喉を狙いがち。テレビ番組の動物ワールドをしこたま観たからね。
後ろ足を力強く蹴り出し、先程より力を込めて、同じくリードフックを放つ。
パァンッと甲高い音が響いたと同時に、後ろ足で二歩素早くステップして、ふらついたままの二体目の額に裳底を叩き込む。
今度はゴリッと鈍い音がして沈む二体目。
二体とも泡を吹いて倒れているが、まだ戦闘体制を解かない。
それから3分ほどして、
『二体の敵性生物の生命反応無し』
「ほ~っ……」
ゆっくりと構えを解く。
管理者様が造り上げてくれた肉体は、幼いながらも自分の経験をスムーズに再現してくれた。
35歳まで格闘技続けて良かったよ。
また、身体強化ってスキルもスゴかった。
現役時よりも強化されていたんじゃ?
「ありがとう。
ところで君は?」
『主様に仕える妖でございます』
「ほう? 妖とな?」
そういえば、スキルにそんなのがあったな。
妖召還。
『はい。主様に最初に仕えることが出来て光栄でございます』
「うん。君が居てくれて良かったよ。
名前は?」
『お好きに呼んで頂ければ幸いかと』
ん~、名付けとか苦手なんだけど。
ナビゲーションのアナウンスっぽいからナビってのもなぁ。
腕を組んで考え込む僕。
んと、んと、んと……。
「………サトリ」
『……………なぜ、その名を?』
彼女?が息を飲んだ気がした。
「うん、まあ、感知したこともだけど、相手の攻撃予測が正確だったからね」
『狩人なら予測がついたかもしれませんよ』
「さっき、自分で妖だって言ってたじゃん。その道で有名な妖だし」
『……恐ろしい主様』
「愛称はサトちゃんね」
『フフッ。主様には敵いません』
サトリは機嫌を良くしたらしい。
「さて、サトちゃん。この世界を説明出来る?」
『かしこまりました』
サトリによると、人類がちゃんといるとのこと。ただし、ヒトもいるがエルフもドワーフも獣人もいるらしい。
ヒャッホー♪ 異世界らしくて良いね。
また、その文明は地球に比べ未発達で、宇宙も認識出来ていないとのこと。
よって、この世界の名称は特に無く(自分の天体を認識してないから仕方ないよね)、各々の地域や大陸の名称があるくらい。
そして、魔法が存在するらしい。
自分のステータスにMPってあるから、そうじゃないかと思ってたよ。
ファンタジーだね!
でも、なんと!
……自分は魔法が使えない!?
衝撃の事実。
ここでは異世界人だからかぁ。残念。
なお、レベルも存在しない。
だからステータスに表示無いのね。
地球じゃそれが当たり前だから割りきろう。
地道にコツコツと修練するしかない。
また、スキルの妖召還は、成長に伴って呼び出せる妖が増えていくとのこと。
強い妖が来てくれると良いな。
弱肉強食のこの世界では戦闘は避けて通れないみたいだし。
「んじゃ、街を目指して移動しようか」
『主様。まずは水と食料を確保することを優先した方がよろしいかと』
「ええ~。街ってそんなに遠いの?」
『はい。かなり』
「がぁ~ん」
『口でそうおっしゃる方を初めて見ました』
「そう? 現代人は結構いるよ?」
『左様でございましたか。勉強になります』
いや、地球の現代人は自分独りだけど。
「じゃあ、飲料水の確保からだね」
生い茂る樹木からこぼれる木漏れ日を眺めてから、鬱蒼とした森の奥へ視線を動かす。
「よし! レッツラゴー!」
『古いです』
それは知ってるんだ!?
不思議なヤツ。
サトリって、敵対するお話が多いじゃないですか。
ここではそうではありません。
本編では、数多の妖怪達にも恐れられる存在です。
今後のサトリの活躍にご期待ください。