第17話 次郎倒れる
日本神話の有名な妖の登場ですね。
自分はその神々の人間臭いところが好きですね。
当然、ギリシャ神話の神々も。
海で漁はしたが、真神の眷属狼達にお願いした浜辺の漂流物の調査では、人工物は見つからなかった。
船も行き交うことの無い辺境なのか?
まあ、いい。
それはそれで静かに過ごせるというもの。
大樹さんの下でスローライフも悪くない。
まあ、魚介類を入手出来たことだし、ウォータードラゴンも見れたから、ヨシとしよう。
無事に拠点にたどり着き、西門をくぐった途端、何故か身体が震えた。
「あぁ、サトちゃん……ちょっと助け…て欲しい……かも?」
身体中に力が入らなくなり、そのまま倒れる。
『主様!?』
「なにっ!主殿!」
「次郎様、次郎様、次郎様!」
(あるじ……あるじ……大丈夫?)
八咫烏まで地上に舞い降りてくる。
「ご主人様、しっかり!」
後鬼が抱き上げ、大樹の屋敷へと駆け出す。
ーーーここから三人称になりますーーー
次郎の自室に担ぎ込んだ後鬼は、次郎を布団に寝かせつけて、タマモに後を任せると言って部屋を出る。
自分の自室に取って返し、薬湯を煎じ始める。
タマモは泣きながら「次郎様、次郎様」と繰り返しながら、次郎の手を握り続けている。
サトリは留守番していた前鬼とアヤメにも状況を知らせた。
部屋に飛び込んで来たアヤメは、
「タマモ!あんたが付いてながら何でこんなことになるにゃ!」
と言いながら、タマモと反対側の次郎の手を握る。
前鬼がやって来ると、
「後鬼はどうした?」
冷静を努めるように問うが、少し震えている。
「うむ。今、薬湯を煎じておる」
真神がそれに応える。
八咫烏も心配そうに次郎の顔を覗き込んでいる。
八岐大蛇も手乗りサイズで次郎の額に掛かっている髪の毛を除いてやり、別の首で次郎の頭を優しげに撫でる。
「薬湯をお持ちしました」
後鬼が薬湯だけでなく、桶や手拭いも携え入室する。
『アヤメ、タマモ。おどきなさい。
後鬼の邪魔になります』
アヤメは泣きながら、イヤイヤするように首を横に振る。
「だって、だって」
「……アヤメ。ここは後鬼に任せるでありんす。
あちきらが泣いて喚いても次郎様のためになりんせんしょ?」
そう言うと、タマモはしばらくじっと次郎の顔を眺めてから、手を放し、下がる。
アヤメもそれを見て、アウアウ言いながらも、下がっていく。
『後鬼、次郎様は意識を取り戻せません。
治療はどのように?』
「次郎様が突然意識を失い倒れられたという事実から憶測するしかありません」
『そうですね。それしかありませんね』
「でも、こうなる予測をしていた者がいます」
皆がなにっ!とざわめく。
「それはあなた、サトリです」
『ほう?』
「あなたは、妖召還する度、毎度毎度ご主人様に確認していました。
お加減は悪くないか、体調に変化がないか、それこそしつこいくらい」
『…………』
「術式までは解りませんが、妖召還も術法の一種のはず。
我らも術を使いすぎれば似たような症状を起こします」
「気力切れか!?」
前鬼が呟く。
『おそらく、そうではないかと私も思います。
あなた方は、揃って妖界の大物ばかり。
それをこの世に、それも異世界に喚び出せば、気力も相当消費したはず』
心配だった、という言葉を飲み込み、サトリが告げる。
「そんにゃら、あたしらが原因にゃの?」
アヤメが顔を青ざめて聞く。
『いいえ。
次郎様は気力回復という特殊能力をお持ちです。
召還後、しばらくすれば徐々に回復します』
「なるほど、だから次郎様の術法はあれほど際限無く出し続けられるのだな」
前鬼はオーク戦で、実は次郎が一番倒した数が多いことを思い出していた。
後鬼も、前鬼の格闘術の指導を受けた直後は「疲れたぁ」とぶっ倒れてたのに、術法の訓練時にはいくら術を放出しても涼しい顔して「次は?次はどんなの教えてくれるの?」と笑いながらせがんでくる次郎の顔を思い出していた。
『なので、召還直後が一番心配でした』
皆が一斉に八岐大蛇を見る。
「じ、自分か?」
八岐大蛇が幾ばくか後ずさったようにも見えた。
『いいえ。八岐大蛇を召還しても次郎様に何ら変化はありませんでした。
寧ろ、八岐大蛇との模擬戦を楽しそうにご覧になっていましたよ。
それに、召還から倒れられるまでにはかなりの時間の開きがあります』
その言葉で、ようやく八岐大蛇もほうっと息を吐き出した。
「なので、気力を回復していただけるよう、活力増進の薬湯を煎じました」
『それしか方法はありませんね』
「では」と後鬼が次郎の上半身を支え上げ、自分が薬湯を口に含む。
そしてそのまま口移しに薬湯を流し込む。
「あっ!」というアヤメとタマモを無視して、ゆっくりと少しずつ薬湯を流し込んでいく。
ゴクリと次郎の喉が動いたのを確認すると、そっと布団に寝かしつける。
「今はこれくらいしかできません。
……しかし、その原因を明確にすべきとも思いますが……。
あなた達はいつまでも何をしているのでしょうか!?」
後鬼が鬼の形相で皆を睨み付ける。
「サトリの話を聞いたのでしょう!?
早く原因のモノを見つけ出さないか!」
髪を逆立て、牙を剥くその姿はまさに鬼。
他の皆の身体がビクンッと跳ね上がり、各々が脱兎の如く走り出す。
『あなたには感謝しかありません。
指示まで出してもらって』
「いえ、前鬼も情けない。そこは夫がしなければならないと言うに」
『フフッ。いの一番に行ったではありませんか』
「あの人はもう」と言いながら、水に濡らした手拭いを絞って、次郎の汗をふいてやる後鬼。
その甲斐甲斐しく面倒をみる様は、まるで母親のようだとサトリは思った。
『では、私も皆のところへ行きます。
次郎様をよろしく頼みます』
そう言うと、部屋から気配が消える。
倒れてしまった主人公。
その原因は果たして?