第16話 水竜
海です。
自分は海辺で育っているので、とても当たり前の存在でした。
玄関開けて、走れば10秒で海にドボンの環境。
小学生の頃、通学路に魚市場があって、帰り道は息を止めて猛ダッシュの毎日。
朝はそんなでもないのに、お昼を過ぎるとものスッゴい臭い!
当時はよくもまあ、片道2kmの通学路を毎日徒歩で通ってたもんだ。
おかげで?100m走で11秒の壁はギリギリ破れました。陸上競技やってれば良かったかな?
オーク戦から数日、やや暑さが緩んだ頃。
森の探索の再開だ。
残るは西側。
八咫烏のおかげで何があるのか、もうすでに把握している。
海だ。
水着姿の美少女達がキャッキャウフフすることはありませんが、海です。
海水魚美味しいよね。貝も。
タコやイカもいるといいな。
それに塩が採れる。
もしかしたら、海洋資源もあるかもしれない。海底深くにあるっぽいから、難しいかな?
メンバーは、僕、後鬼、タマモ、真神。サトリは僕に取り憑いているからもちろん同行。八咫烏は上空からの偵察。
前鬼とアヤメは留守番。
後鬼は畑の面倒や炊事などで拠点内にいることが多いので、たまには外出して気分転換してもらおうという魂胆。
替わりに前鬼がお留守番。
アヤメはドワーフの護衛してもらったので、タマモとトレード。
真神は、「元々そういうお役目なので」と言うので、そういうもんかと思い参入。
しばらくすると潮の香りが辺りに漂って来た。
こちらも東の湖同様、拠点から近いみたい。
森が途切れ、浜に到着した。
目の前に海があるのだが、海原が広がっていたのではなく、どうやら周りが陸地に囲まれた湾内のようだ。
この様子は渥美半島と知多半島に囲まれた三河湾に酷似している。
三河湾は荒波を両半島が遮り、台風の時期でも比較的海が穏やかだ。
ここの海もそれに近いと思われる。
海面が陽に照らされ、キラキラと輝いている。
遠くで魚が跳ねた。ボラかな?
前鬼がいたら釣竿を用意しそうだ。
「静かな海でありんすね」
「うん、良い内海だね。漁もしやすそう」
「主殿。眷属狼に浜辺を探索させようぞ」
そう言うと、真神は眷属狼達を次々召還して浜辺に散らしていく。
「ご主人様。投網漁はいかがですか?」
後鬼の手にはもう網が握られてる。
知識としてはあるが、直接見るのは初めてだ。
「うん。やろうやろう」
ザアッと後鬼が投げ入れた網は、意外と遠くまで広がり海面を叩く。風術に乗せてるのかもしれない。
あとは、後鬼の後ろに僕とタマモ、そして真神が一番後ろで一緒になってロープを掴み(真神はロープを咥えて)、引っ張り上げる。
ヨイショヨイショとやってく内に網が見えてきた。
おお-っ、大漁ではないか。
大小様々な魚からカニまでいる。
帰ったら、魚介パーティーだ。
ステータスボードに収容したら、貝類が多く表示された。
ここの海が豊かな証拠。
ん?少しムズムズする。
「どうしたでありんすか?」
「うん。また召還かな」
オーク戦で大量の経験値が入ってたことはなんとなくわかってた。
オーク戦の前から、ステータスボードの妖召還の文字が明るく見えてたから、いつでも召還出来ることはわかってた。
今までは必要に応じて召還してたから、何かあった時でいいか、と放置してた。
『妖の方から訴えて来ているのでしょうか?』
「そんな感じ……なのかな?」
『為すも為されぬのも主様次第』
「まあ、いいでしょ。召還するよ」
後鬼、タマモ、真神すら僕に寄り添って来る。
それを見定めてから、一言呟く。
「召還!」
目の前に巨大な存在感を出すモノが現れた。
いや、存在感どころではない。巨体だ。
蛇?龍?が鎌首を持ち上げ、こちらを窺っている。
首がいっぱいある!
「八岐大蛇だと!?」
「これは歯ごたえがありそうなモノでありんすね。あちきが遊んであげましょうか?」
「もしも歯向かうようなら構いません。ご主人様の護衛は私が致しましょう」
みんなが僕の前に立つ。
(なんだ、ここは?)
八岐大蛇の鎌首が四方八方を向く。
(それにこいつらはなんだ?
エサにするには存在感が有りすぎる。
特に一番後ろの小さいのは……おぞましいほど)
「どうしたでありんすか?
次郎様に従うかそうでないか、はっきりするでありんす!」
「八岐大蛇よ。
我もどちらでも構わん。
一戦交えても良いぞ!」
真神も唸り声を上げる。
(これは……思い出した、真神か!?
軽く遊ぶのも悪くないが……)
中央の頭がちらりと僕の方を見た気がした。
(……好きにしろということだな)
「やる」
八岐大蛇が言うと、真神が咆哮とともに超音波のようなものを吐き出した。
八岐大蛇の首の一つが同じようなモノを吐き出したが打ち消すことが出来ず、全身が震える。
また、タマモも一瞬で九尾狐に戻り、大量の鬼火を降らす。
「ご主人様、もう少し下がりましょう」
後鬼が後方へ促す。
(こやつ、九尾狐か!)
八岐大蛇が冷気を吐き出すが、鬼火は消えない。
しかし、威力が減じたのか、鱗を多少焦がす程度だ。
突然、八岐大蛇の首の一つが後方に跳ねとんだ。
時間は掛かったがぐぐっと持ち直す。
(なんだ? どこから?)
瞬足の八咫烏の特攻だ。
八岐大蛇は理解してない様子。
その隙に真神が飛び掛かり、首の一つに噛みつくが千切れない。
他の首が真神を狙うように襲いかかる、が、後鬼の岩つぶてが牽制する。
タマモが今度は特大の鬼火を喚び出し、ゴウッと八岐大蛇に向かっていく。
ぶつかる寸前、ゴンッと何かの障壁に阻まれるかのように特大鬼火のスピードが緩まる。
それでも留めることが出来ず、やがて八岐大蛇の胸辺りに弾着する。
八岐大蛇の全身が震え、鱗に焦げがあるが、平気な様子。
さらに、今度は全身を光輝かせた八咫烏がその同じ箇所にぶち当たる。
さすがに八岐大蛇も仰け反らざるを得ない。
「こちらからも…………行く」
そう言った八岐大蛇は、八本全ての口を開け、ブレス?を吐き出した。
全員が結界を張るが、ブレスに圧されてジリジリと身体ごと下がる。
ブレスが止むと、お互いが様子を窺うように静寂が訪れる。
(………………)
「遊び、終わり?」
『もう良いでしょう。
双方退きなさい』
サトリが邂逅戦の終わりを告げる。
スゴかった。ドンパチってのはこういうのを言うんだ。
リアルな怪獣大戦争を観られて、ちょっと感動した。
「それにしてもおっきいね-。拠点に収まるかな?」
八岐大蛇は、挨拶を交わすとみるみる内に身体が小さくなって、とうとう手乗りサイズに。
手乗り龍? なんか可愛い。
オロチっていうから蛇の化身かと思ってたけど、手足があるんだよね。
だから龍の一種じゃないかな?
剣呑な雰囲気が消え去り、みんなで和気あいあいとしてると、突然水柱が立った。
静かな内海に似合わぬそれが甲高く鳴く。
「これはまた水竜とは」
後鬼が言うそれは、間違いなく竜だった。
ああ、これがウォータードラゴンか。
龍ではなく、恐竜に近い顔立ち。
想像してた首長竜ではなく、ワニに近い。
「自分が行く」
八岐大蛇が肩からポンッと飛び下り、振り返って言う。
「少し、下がってて」
『主様。後方に下がりましょう。
八岐大蛇の戦いは派手でしょうから』
「あちきが行きたかったのに」
「ヌシが出ると内海が蒸発しかねん」
「まあ。心外なことをおっしゃるでありんすね」
「何を抜かすか。
ヌシは加減というものを知らん。
我は八岐大蛇の鱗が焦げたところなど、見たことも無い」
後ろに下がりながら、二人はまだ言い合ってる。
言い合いしてる二人はさておき、八岐大蛇の様子を窺う。
八岐大蛇が元の大きさになり、自ら海へと進む。
お互い接触する前にウォータードラゴンが潜航し、姿を消す。
次の瞬間、水面から跳び上がったウォータードラゴンが八岐大蛇の首の一つに噛みつく。
が、八岐大蛇は気にした風も無く、そのまま他の首でウォータードラゴンに巻き付く。
ギリギリと音さえ聞こえそうなほど締め上げている。
そのうち、そのままの姿でクルリとこちらに向き、ゆっくりと上陸して来る。
浜辺に上がってくると、「終わった」と言い、締め上げてたウォータードラゴンを離す。
ズズンッと地面が響き、30メートルにも届きそうなウォータードラゴンの巨体が横たわる。
あら? あっさりと終わったね。
「自分は加減を知っている」
言うね。
ほらほら、タマモも睨まない。せっかくの美人が台無しでしょ。
ウォータードラゴンをよく見ると、ワニ顔してるが、映画で観たモササウルスのような感じかな?
確か、モササウルスは白亜紀の頂点捕食者だったはずだ。
このウォータードラゴンもそれに近い海の捕食者だったに違いない。
それをこうも簡単に処理出来るとは。
古のモノ達の凄まじさよ。
で、コレどうするの?
ああ、はい。収納係の出番ですね。
みんなして見なくても。
わかりましたって。
余談
「水竜、つまらない」
「我が聞いてたほどではなかったな」
「おまえたち、面白かった」
「我も楽しかったぞ」
「…………が」
「が?」
「狐の火……熱かった」
「ああ、あれはイカン。鬼火は消えること無く、必ず当たる。何故かはわからんが、そういうものだ」
「そういうものか」
「そういうものなのだ」
では、その鬼火を完全に防ぐアヤメの結界術とは?
妖の世界の不思議は深まるばかり。
怪獣を見上げるって怖いですよね、きっと。
モササウルスって鳴くのかな?




