第12話 防壁
防壁が出来ると、一気に拠点らしくなりますね。
と言うことで、防壁造りに取りかかることになった。
弓矢や魔法の遠距離攻撃に長けたエルフとは逆に、身体能力の高い獣人達には岩を組み上げる作業に従事してもらった。
その岩はどこから出たんだろうね?不思議だね。
前鬼が陣頭指揮を摂ってるからいいか。
また、その作業が早い早い。
獣人は女子供関係なく力持ち。子供も自分の身体より大きな岩を持ち上げ、振らつくことなく次々と運んで行く。
その岩の積み上げ方は、安土時代の「野面積」ではなく、「打込接」よりさらに高度な「切込接」だ。
頑丈で登りづらく垂直に近いメリットがありながら、江戸時代でも手間やコスト面の問題であまり採用されなかった切込接を採用するとは。
あ、後鬼が岩に切り込んでる。そらもうスパスパと。
それを獣人達が運び、前鬼の指示で隙間なく積み上げていく。
うん。頑強な防壁が出来上がることだろう。
エルフ達は畑の手入れや炊き出しに協力してくれてる。
エルフの子供達も投石に使える岩の欠片を運び出してる。
そして、1ヶ月もしない内に防壁が出来上がった。
しかも、かなり大きい。いや、広すぎじゃない?ってくらい。
前鬼は「必要です」の一点張り。
前鬼に設計を任せたし、彼がそう言うなら、いずれは必要な時が来るんだろう。
また、防壁の周りに堀まで出来てる。
これはいずれ湖から水を引き込む予定だ。
それでもって、防壁の上からの見晴らしがとっても良いのだ。
防壁の上に昇ってみて、そこから森の木々が視界の下にあった。
従者のリントは、「ふわぁ」と空いた口が塞がらないまま、しばらく立ち尽くしてた。
防壁周辺の木々も防衛観点から伐採して、木材として保管してある。何かが近付いて来たら、すぐさまわかるだろう。
一応、見張り役をエルフと獣人の双方から出してるけど、八咫烏と真神の眷属狼達がいるので必要性があるかと問われれば困るけど、エルフ達や獣人達は「役目」が欲しいと訴えるので就任してもらった。
適宜に交代制で長時間労働は禁止だよ。
さて、湖の水の引き込み工事はこれからだけど、防壁の一応の完成を見て、今日は宴会でも開催しようかと思ってた時、また事件のお知らせが来た。
今度は南の草原ではなく、北からだった。
(あるじ……あるじ……ヒトいた)
八咫烏の報告だ。
(ヒト?何人?)
(……15人。大樹から……北に100km離れた場所…)
八咫烏の視界の共有で確認してみると、木々の隙間から人らしき姿が窺える。
何か曳いてるな。
荷物が山盛りの台車を二人がかりで3台曳いてる。
まっすぐこちらに向かっている。
ああ、大樹を目印にしてるのかもしれない。
ここまでまだ100kmもあるのか。
危ないな。
湖近辺ほどではなくても、野獣や魔物がうろついているだろう。
「サトちゃん、護衛を差し向けようかと思うんだけど、良いかな」
『主様がお決めになったことなれば、従います』
「真神とアヤメを呼んで欲しい」
『かしこまりました』
ほどなく二人が到着した。
「真神、これに」
「にゃ~ん♪」
「ご苦労様。
ここから北の100km地点に15人の遭難者がいる。
保護して欲しいけど、頼めるかな」
「御意」「御意にゃ」
「アヤメは接触する際には、一応人化して事情も聞いて欲しい」
「わかったにゃ」
「彼らの頭上にヤタがいる。
それが目印になると思う」
「では、失礼」
「あ、待つにゃ」
そう言うと、ポーンと防壁の頂上から飛び降りてく二人。
ちょっと背中がぞわっとしたのは内緒だ。
「では、炊き出しが必要ですね。
ボク、後鬼様やナターシャ様に知らせて来ます」
ちゃんと一礼してから立ち去るリントの優雅なことよ。リントの成長が嬉しくなる。
北にも人影が。
八咫烏は良い仕事をしますね。