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第118話 狩猟大会 その4

緊急応援の青の発煙筒が次々と炊かれる。

間に合うか。

ーーー三人称ですーーー


大樹の西の森。

「なんだ? 地響き!?」

「マフティ! あれ!」

兎系獣人のマーリンが指差す方向の木々が薙ぎ倒されて、その前方に青い煙が移動しながら立ち上っている。

魔猪デビルボアの群れに手を出したな、バカが!?」

「どうする?」

「警察官の立場でそれを言うか?」

「だっハッハッハ。

一応確認?」

「行く気満々のクセに」

「先行くよー」

「あ、こら、待て!」

マーリンの瞬足に追い付くべく、マフティは土魔法で、足下の土を斜め前に高速で突き出す。

「マフティって、多芸ね」

「芸じゃない。

これも応用だ」

「でも、木にぶつかるよー」

「ふん。

それほど不器用じゃない!」

マフティは土の土台を森の木々より高い位置に変え、高速に移動する。

「お先にー」

「あ、ずるい!

待てー!」



同じ大樹の西の森。

「旦那様、何かが迫っておりまする」

「ん?」

橋姫はしひめが注意喚起を促し、ハヤテが地面に耳を着けて様子を窺う。

「こりゃあ、魔猪デビルボアの群れだな。

しかも、母親が相当に怒っていやがる。

誰か子供に手を出しやがったな」

「猪の子供に手を出すのは禁止のはずでは?」

「ああ、狩人の常識だな。

しかし、魔猪デビルボアを初めて見たヤツは、子供でも普通の猪の数倍でけえのを知らねえから、やっちまったんだろ」

ハヤテと橋姫はしひめの二人だけのチームであった。

狩猟大会をデート代わりに参加していたのだ。

次郎がいたら、「不届き者!」と色々なイタズラを仕掛けることだろう。

「どうします、旦那様?」

橋姫はしひめもわかってんだろ?」

二人がニッコリと笑い合う。

「せっかく向こうから大物が来てくれるんだ」

「では、このまま待ちましょう」



同じく大樹の西の森。

前鬼ぜんきが転移した場所では、魔熊デビルベアと獣人達が死闘を演じていた。

その傍らには鹿が一頭倒れている。

どうやら、獣人達が鹿を狩ったところに魔熊デビルベアが乱入したようだ。

獣人チームのリーダーは、魔熊デビルベアの出現に、回収班を呼ぶよりも救援要請の青い発煙筒を炊くことを選んだ。

獣人達は救援が駆けつけるまでの間、自分達も傷つかないようにしつつ、獲物の鹿を奪われないように上手く立ち回っていた。


「上手く連携しているな。

本当に救援が必要なのか?」

前鬼ぜんき様!

見てないで、助けてくださいよ!」

魔熊デビルベアの爪攻撃を躱しながら、女性リーダーが叫ぶ。

「いや、なかなか良い動きをしてるじゃないか。

必要なかろう?」

「「「必要です!」」」

チーム全員が叫ぶ!

前鬼ぜんきの言うように、魔熊デビルベアの正面に立つ者が囮となり、攻撃を躱すか弾いている隙に、仲間が後ろや横から攻撃して、少しずつ魔熊デビルベアに傷をつけている。

囮役も適宜交代して体力を保たせている。

かなり連携が上手いチームと言える。

「私達では決定打を入れられないのです!

はっ!……フッ……えいっ!

早く……助けて…欲しい……とうっ……のよ!」

リーダーは女性ながら、囮役をしていても、避けながら反撃も入れている。

「踏み込みが甘いだけでは?」

「そう言ったアドバイスは、ふんっ……大会が終わったらいくらでも聞きますから!

今は助けてください!」

今も、会話をしながら回避しつつ、魔熊デビルベアの足を斬りつけた女性リーダー。

「そういうことなら仕方あるまい。

大会後に特別訓練をしてやろう」

「え? いや、訓練は……」

リーダーが呟いている内に、いつの間にか前鬼ぜんきが懐に入っており、彼女からはまるで魔熊デビルベアと肩を組んでいるかのように見えた。

スパンッ。

一瞬の出来事だった。

前鬼ぜんき魔熊デビルベアが背中方向に共に倒れ、魔熊が下で大地に倒れていた。

柔道で大変危険な為に禁止技となっている河津掛けである。

投げられた者が後頭部から落ち、自分の体重と投げた者の体重がダブルで掛かる。

さらに、掛けられた足も抜けられないので、間接も痛める。

魔熊デビルベアは後頭部を強く打ち、脳震盪を起こしているようだ。

前鬼ぜんきは技の勢いを利用し、後転して立ち上がる。

そのまま前に出て、魔熊デビルベアの頭を踏み潰す。

ぐしゃりっ。

魔熊デビルベアの上顎から上の部分が足の形に凹んでいる。

踏みつける勢いが良すぎた為、魔熊デビルベアの両目が飛び出していた。

魔熊デビルベアは、二度三度ビクッビクッとした後、動かなくなっていった。


「決定打を入れられないと言うが、こういうやり方もあるのだぞ。

相手の体重を利用すれば良い」

「は、はあ」

前鬼ぜんきは、周りの者達の戸惑いの表情を気にすることなく、自分の札を魔熊デビルベアに結び付けていた。

「回収班を呼ぶのは任せる」

「はい。こちらで信号を上げておきます。

助けていただいて、ありがとうございました」

女性リーダーが青い発煙筒を消し、代わりに回収班を呼ぶ発煙筒を準備する。


「あれは!?」

「青い煙がこちらに向かっている!?」

「いえ、少しずれているわ」

獣人達がホッとしている脇で、前鬼ぜんきの表情が厳しくなる。

「次か。

せわしないな」

前鬼ぜんきは一言呟くと、挨拶もせずにその場を立ち去る。


前鬼ぜんき様は、相変わらず暴風みたいな方ね」

「何を呑気に言っている!?

俺達は、大会後にあの前鬼ぜんき様の特別訓練を受けなきゃいけなくなったんだぞ」

「ああ~……そうだったあ。

せっかく鹿を仕留めたのに!

これじゃ、却って損の方が大きいわ。

はあ……」

獣人チーム全員が憂いていた。


そして、三者三様にトレイン状態の魔猪デビルボアの群れへと向かうこととなったのである。


前鬼ぜんきのありがたーい特別訓練が課された獣人チーム。

良かったね。

より強くなれるよ、きっと。

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