第115話 狩猟大会開始
狩猟大会のスタート。
参加者の思惑が交差する。
ーーー三人称ですーーー
大樹の森の都の広場。
今は狩猟大会スタート地点となっており、選手達が東西南北に広がり、自分達が狙った箇所に詰め寄ろうとしている。
ただし、後鬼の張った結界に阻まれ、一定の距離から進めなくなっている。
朝8時から、主催の次郎の挨拶から始まり、審査委員長のブライトから注意事項の再通達が為され、今は開始の合図を待つばかり。
やはり、獲物が多いとされている湖のある東側に選手達が片寄っている。
開始時刻の9時までまだ30分以上あり、焦れて来る者、柔軟で身体をほぐす者、のんびりお喋りする者など様々だ。
壇上では、前鬼が筒を設置している。
それを覗き込もうとしている次郎の頭を後鬼が叩き、ガミガミと叱っている。
当然だ。
その筒には、前鬼の手による号砲の音花火が仕掛けられている。
開始の合図と1時間ごとの時刻知らせの号砲である。
号砲が一発鳴れば1時間経過、二発鳴れば2時間経過と順繰りに増えていき、六発鳴れば大会終了となる。
壇上の次郎の右手が上がる。
ステータスボードの時刻を眺めつつ、次郎がカウントダウンをする。
「開始まで10秒、9、8……」
声に気力を乗せ、全員に聞こえるようにしている。
「……3、2、1、スタート!」
ヒュー…………ドンッ!
号砲が鳴り響き、選手達が一斉に走り出した。
中には、飛翔術で飛ぶ者達もいる。
「うわぁ、選手達が四方八方に散らばってするスタートって、珍しい光景だなぁ」
次郎があっちキョロキョロ、こっちキョロキョロと物珍しそうにしている。
「さすがに私も初めて見る光景だな」
前鬼も同じように眺めている。
「私達の本番は6時間後からよ。
それまではのんびりしましょう」
後鬼は壇上にあるテーブルにお茶を並べている。
「これは奥様。ありがたくいただきます」
ブライト達審査委員は、いつ何時ここに獲物が持ち込まれるかわからないが、そこは次郎のインベントリに収容出来る為、のんびりは出来る。
この時間を使って仮眠を取るのも計画の内である。
「果たして、誰が優勝するのやら」
次郎は、大樹の桜を見上げ、独り呟く。
大樹の森の都の東門。
ドッドッドッ……!
防壁が揺れるのではないかと、疑うほどの地響き。
狩猟大会の選手達の半分以上が東門に殺到する。
「くっ、こいつらも同じ考えか!」
「仕方ないわ!
森の東側は獲物が豊富だもの!」
「おらぁ、退け退け!」
「邪魔よ!」
森の東側に獲物が豊富にあるという話は、住民なら誰しもが周知の事実。
しかし、今までこれほど多くの狩人が狩りに向かうことは無かった。
そんな最中、涼しげな顔で宙を飛ぶ集団がいた。
森の狩猟民族エルフ達である。
さらにその中でも一段と速い速度で飛ぶ者がいた。
「下は暑苦しいわね。
頑張って走ってねー。
ごきげんよう~♪」
エルフ最強と詠われるナターシャである。
彼女についてくる4人のエルフ達も速度が速い。
「うわっ、ナターシャもこっちに来るのか!?」
「だ、大丈夫よ。
野鳥狩りは得意でも、ポイントは低いわ」
「俺はヤツが魔猪を狩ったのを見たぞ!
それも超特大のヤツを」
「やめてー!
私達にも獲物を残してよー!」
それを聞いたナターシャの笑みが深まる。
そして、さらに加速していく。
こちらは大樹の森の都の西門前。
こちらに寄せる者は、東門に殺到する選手達の半数もいない。
「みんなおバカばっかりなの。
獲物が豊富なのは、何も東側ばかりじゃないの」
ミレイユの娘ミーシャをリーダーに、クリスチーナやスレッガー達がメンバーを組んでいた。
「確かにな。
野鳥をターゲットにすれば、むしろこちらの方が豊富と言える。
しかし、ポイントは低いぞ」
「そこが盲点なの。
この狩猟大会は減点方式を採用しているの。
大物は仕留めるまでに、穴だらけ傷だらけになっちゃうの。
減点だらけなの」
「なるほどですね。
鳥ならば、我らの弓矢で一点しか傷が付かないし、羽毛はそのまま。
ミーシャさん、さすがですわ」
「ポイントが低いのは、速射や多重展開でカバーすれば良いの」
「それで、練習にそればかり注力していたのだな。
さすがは魔王の娘だ」
「安心するのはまだ早いの。
ライバルのナターシャお姉ちゃんは、東側のそんな状況をひっくり返して来る人なの。
油断出来ないの」
「ナターシャさんの話は聞いています。
十分に警戒すべき相手ですよね。
でも、ミーシャさんのお母様のチームも参加されていますよね?
そちらも脅威では?」
ミーシャが母親のミレイユを問題視していないことを訝しむ。
「ああ、お母さんのチームは無視していいの」
「お屋敷チームをか!?」
「大丈夫なの。
あ、もう西の森に入るの。
みんな、弓を構えながら進んで欲しいの」
「「「了解」」」
大樹の森の都の南門前。
「やはり、ある程度は飛翔術を使う者がいるな。
私は少し先行する。
こちらを頼む」
「選手達の安全確保が任務だが、自分が撃ち落とされぬようにな」
「わかっている」
天狗達が何人か、防壁上から南へ向かって飛び立つ。
「雪女チームか。
飛翔術を使えるのは感心するが、速度がまだまだだな。
むっ。
飛翔するよりも地上を走る者の方が速いだと!?」
先行する天狗が驚愕の目で見つめる先には、草原の草が次々倒れ、一本道が出来上がっていた。
一際体格の良い鬼が草をなぎ倒しているのだ。
「何奴!
宙を舞う我らを置き去りにするとは」
雪娘が思わず口に出す。
「一朗太様ですね。
相変わらず、非常識な方」
雪娘筆頭の椿がやや呆れながら呟く。
「彼らも同じ狙いのようですね。
私達も遅れを取る訳にはいきません。
急ぐわよ」
ユキが号令をする。
「「「はい」」」
「隠形鬼チームなのか?
鬼があれほど速く走れるなんて知らぬぞ。
……いや、先頭の鬼は非常識だが、後続はよく考えられている。
こやつら、なかなかやるな」
先行した天狗がよく観察すると、先頭の一朗太が高速で走り抜けるそのすぐ後ろを鈴蘭が、そのまたすぐ後ろを鵺が綺麗に一列に並んで走っている。
スリップストリーム現象を利用した走法だ。
ただし、先頭の一朗太の負荷は計り知れないが。
天狗も徒党を組んで飛翔する際によく使う手法である。
(あんた、南門からかなり来たよ。
そろそろ獲物を探さないと)
かなりの高速で駆け抜けている為、声が届かないので、鈴蘭が以心伝心で一朗太に伝える。
(むっ、そうか。
少し足を緩めよう)
少しずつ速度を落としていく隠形鬼チーム。
「ぬぅ、頼む」
「ミャオウ」
返事をした鵺の身体がふわりと浮く。
いや、鵺だけでなく、一朗太と鈴蘭も浮き出した。
「あら、天狗が見てるわね」
「監視だろう。ほっとけ」
三人の身体が10メートルほど浮き上がる。
「ミャミャミャウ!」
「ぬぅが見つけたか」
「あ、本当だ。
牛の群れだ。
ぬぅちゃん、偉い!」
鵺が浮遊術を解き、三人が一斉に大地に足を着ける。
同時に三人ともダッシュをするが、鵺が抜きん出る。
「ぬぅちゃん、速いね」
「ここでは、ぬぅが一番だな。
ぬぅ、一番槍は譲るが、あまり傷つけずに仕留めろ!」
「ミャオウ!」
かなり先行した鵺から返事が聞こえる。
一朗太と鈴蘭が魔牛の群れに到着してみると、魔牛が全て頭を地面に押し付けて踠いている状況だった。
中には、横倒しになったまま立ち上がれないものもいた。
「ぬぅのやつ、上手いことやったもんだ」
鵺は魔牛の頭部だけ過重を掛け、動きを封じていた。
鵺のぬぅだけが持つ特殊能力である。
バランスを崩して倒れた魔牛は、そのまま頭部に超重力が掛かり、もう身動き出来ない。
「これなら、仕留めるのも容易いよ」
「下手に骨折させずに封じるのは上手い手だ。
牛の骨は骨髄が旨味の宝庫だからな」
「あんたも感心してないで、さっさと仕留めな!
ぬぅちゃんばっかりに負担させるな」
横倒しになった魔牛の喉をナイフで掻き切り、仕留めながら、鈴蘭が一朗太を急かす。
「おう、すまんすまん。
ぬぅ、もう少しの辛抱だ」
一朗太も慌てて駆け寄る。
斯くして、隠行鬼Aチームは開始早々魔牛5頭を狩ったのであった。
ナターシャは参加者が殺到する東へ、ミーシャはその反対の西へ、ユキと一朗太は南へ向かった。
果たして優勝するのは誰か!?




