第114話 狩猟大会スタート直前
空は晴れ渡り、微風が心地よい。
桜の大樹の下に集う人々。
皆さーん、お元気ですかー?
狩猟大会の当日ですよー。
天気は晴れ。
暖かく、気候もよろしい。
見上げた大樹さんも調子良さそうだ。
風も無いのに、一本の枝だけ揺れている。
まるで手を振っているようだ。
せめて大ケガはないように見守っていてね。
今は朝の6時だから、大会開始まで3時間ある。
今のうちに朝ごはん食べて、会場の事前チェックに行こう。
ーーーここから三人称ですーーー
大樹がピンク色に染まり続けている下、広場に続々と人が集まり出している。
狩猟大会の会場である。
会場の周辺には屋台が設置してあり、飲み物や軽食類が販売されている。
少し遅い朝食をとっている者もちらほらいる。
壇上には、次郎やブライト達数名が上がっている。
狩猟大会主催は次郎だが、大会審査委員長はブライトだ。
そのブライトの意見により、大会ルールも多少の変更が為された。
狩猟大会を企画した週間定例会議では、兎一羽を1ポイントとするとされていたが、急遽全てのポイントが10倍に変更された。
大会で狩猟した獲物は、あくまでも商品としての価値が無いとならないと、ブライトが進言。
獲物がズタズタで引き裂かれた状態で持ち込まれても、ポイントが素直に加算されることが無いようにする為だ。
そんな状態で持ち込まれても、毛皮の価値はゼロに等しく、マイナスポイントとなる。
残った部位を食肉として判定するのみ。
兎で例えをあげてみる。
満点評価なら10ポイント。
一刀両断された兎一羽は、毛皮としての価値が大きく下がるが、食肉としては少し下がるのみにとどまる。
そして、兎は毛皮と食肉の価値が6:4の割合とされている。
ポイントは、5+2=7となる。
その評価を下すのが、ブライト他4人の審査委員だ。
ブライト以外の審査委員も二人が普段食肉管理で評価をしているプロだ。
また、毛皮を扱う職人のドワーフも二人入っている。
ブライトは商人らしく両方の判定が出来る。
出場選手達も会場入りをして来ている。
「ナターシャ、おまえには負けねえぜ」
獣人族のハヤテがエルフのナターシャに声を掛ける。
「無理ね。
これは狩猟大会よ。
狩りでわたしが負けるはずがないじゃない」
ナターシャは余裕の笑みを浮かべる。
「だが、今回の大会はチーム制だ。
ウチには秘密兵器があるんだよ」
ハヤテは動じない。
「どうせ、奥さんの橋姫さんも一緒なんでしょ?
戦闘行為ならいざ知らず、これは狩りよ。
経験がものを言うわ」
「旦那様、ナターシャ様の言う通りですよ。
ですが、ナターシャ様。
経験の浅いわらわは全力でいきます。
良い勝負とならんことを願っております」
橋姫の目に妖光が灯り、ナターシャの背に冷たいものが這う。
「ナターシャお姉ちゃんはミーシャが倒すの!」
そこへ名乗りを上げたのは、小さな戦士。
「それでお母さんも倒すの!」
ミーシャは大人達を見上げながらも、堂々としている。
「ミーシャちゃんも参加するのよね。
ミレイユお姉ちゃんよりもよっぽど手強いわ」
「あら、聞き捨てならないわね。
二人とも容赦はしませんよ」
ミレイユも参入する。
「魔法はともかく、狩りでミレイユお姉ちゃんに負けたことはないわ」
「ふふん。
ウチには強力なメンバーが揃っているのを知っていて、そのセリフが言えるのね」
「ずるいわよ!
お屋敷でメンバー組むなんて!」
「なんとでも仰い。
これは運命なのよ」
オホホと笑うミレイユは、まるで悪役の幹部のようだ。
「あそこの輪には入りたくありませんわぁ」
「しかし、エルフ一の狩人がいるのであろう?
エルフは根っからの狩猟民族だ。
十分に警戒すべきだぞ」
ドラド族の長エリシャンテとその祖父オルテガ。
「武闘大会ではなく、これは狩猟大会ですからねぇ。
最大のライバルではあります」
「エリシャンテさんじゃん。
おはよう」
エリシャンテに声を掛けて来た者がいた。
「あらぁ、マーリン署長。
おはようございますぅ。
……と、マフティ副署長。
巡回かしら?」
警察署長の兎系獣人のマーリンと副署長のマフティだ。
「違う違う。
あたし達も出場するの」
「え? あなた達揃って?」
「そ。公休日なの」
「いや、知らない間に公休日にされてて、いつの間にか出場することになっていました」
「マフティらしいというか、なんと言うか……。
まあ、いいわ。
お互い頑張りましょう~」
また別の一角では、弁才天と河童の喜一郎が声を潜めて話し合っていた。
「弁才天様、本当に大丈夫でしょうか?
私は心配でなりません」
「今さら何言ってるのよ。
まともに勝負して、あのナターシャに勝てると思うの?
相手は狩猟民族一の狩人なのよ」
「いや、しかし、獲物を魚介類にするなんて……。
ポイント一覧表に載っていないんですが」
「そんなのはどうとでもなるわ。
兎や鳥よりもポイントは下がるでしょうけど、私達が真面目にやっていれば評価は付くはずよ。
あの現人神のことだもの。
真面目な者には寛大よ」
「いや、そこは否定しませんが、審査委員がなんと言うか……」
「とにかく、私が海側で喜一郎が湖側。
せっかく二チーム作ったんだもの。
有効にしなきゃ。
却って私達がライバルになるかもよ?」
「は、はあ。
まあ、やるからには全力を尽くしますよ」
「ユキお姉様、椿達は本当に草原に向かうのですか?」
「ここは大樹の森よ。
あの鬱蒼とした森の中で、狩り慣れてるエルフや獣人達に敵うと思う?」
雪女チームのユキと椿等雪娘達が会場の南端に寄って固まっている。
「北山調査の時は茂みが鬱陶しかったですから、難しいかも?」
「そうでしょう?
彼らと違う場所でないと勝負にならないでしょうね。
でも、草原であれば、飛翔術を使える私達なら見通しが効くし、居るのは牛や馬などの大物ばかり。
これを逃す手はありません」
「さすが、ユキお姉様です。
でも、同じ考えの人がいるかも知れませんね」
「ええ、ですから、開始と同時に素早く草原に出なければいけませんよ」
「「「はい!」」」
「あんた、壇上の景品を見たかい!?
米俵や野菜や果物がたんまりあるよ」
「おう、見た見た。
ぬぅよ、あれはワシらの腹に収めような」
「ミャオウ」
一朗太と鈴蘭、鵺のぬぅの三人だけのチーム。
「狩猟大会の景品が米や野菜だなんて、気が利くじゃないのさ。
これなら鍋も造り放題だし、漬け物もこさえ甲斐があるってもんさ」
彼らが三人だけなのは、単純に取り分が減るからという理由からである。
なんとも大食漢家族らしい理由だ。
東西南北の防壁上に天狗達がずらりと並んでいる。
「烏天狗様、皆配置に着きました」
「ご苦労」
天狗達は大会参加を控え、全員上空からの監視業務に就くことになっている。
「中には大会に参加したかった者もおろうに、某に付き合わせてしまったな」
「いえ、こういう裏方は皆好んでやるタチですから、お気になさることはありません」
「そうか。ならば良いが。
くれぐれも低空飛行はしないようにな。
特にエルフの真上は危険だ」
「それも了解済みでございます。
それよりも、ナターシャ殿の頭上を担当される烏天狗様が一番気をつけていただきたいところです」
「うむ。
だが、あのナターシャ殿は弓の腕も一流。
却って安全かもしれんぞ」
カラカラと烏天狗の笑い声が響く。
スタート直前の狩猟大会。
各人の思惑が入り乱れる。
誰がどう動くのか!?




