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第112話 竜車問題

ブライト一家が大樹の森の都の住民になった。

竜達も移住し、ますます発展することが予想されるが…………。

深森のエルフ達の移住も滞りなく済み、新築アパートで満足そうだ。


そして、北山への走竜捕獲作戦も無事完了した。

その際、八岐大蛇やまたのおろちから要望のあった翼竜やラプトル達の移住も一緒に敢行した。

彼らの住まいは、人の住居から離れた都の南側にしてある。

牛小屋や馬小屋の近くだ。

これで畜産チームの労働が増え、新たな人材拡充に繋がった。


恐竜達は見た目は怖そうだが、頭も良く、すぐに人に慣れ、愛想を振り撒くほどだ。

これが広まると一気に畜産チームへの入職希望者が殺到した。

ただし、狩猟チームがライバル心を燃やしている、とのこと。

現場でケンカしないでよ。


個人的には、ティラノサウルスが馴染めるのか、仕事が出来るのか、心配だったけど、上手くやっているそうだ。

大樹の森で狩りをするには、身体が大き過ぎるし、走る速度もラプトルに比べれば遅い。

しかし、狩猟チームの最大の難点だった魔熊デビルベア魔猪デビルボアをティラノサウルスは容易く狩るのだ。

しかも、自分で食べずにちゃんと持ち帰る。

なんて偉い子。


それにしても、ウチの魔牛デビルカウ魔馬デビルホースがティラノサウルスを恐れず、のんびりしている。

不思議に思った僕は、ティラノサウルスのステータスを覗いて、大樹さんの加護が付いているのを発見。

「大樹さん大樹さん。

ティラノサウルスに何かしたの?」

(ん?加護のこと?)

「そうなるのかなぁ?

いや、捕食者と被食者を同居させてるけど、問題無いのかなって心配でさ」

(大丈夫よ。

加護付き同士だもん。

どっちも家族と思ってるわ。

それにティラノちゃん、賢いから平気よ)

もう愛称で呼ばれている。

「そ、そうなんだ。

ありがとね、大樹さん」

(どういたしまして)

大樹さんに聞いてみると、大樹さんの加護が付いている者同士は、同族意識や家族意識が働き、襲うことは無くなるんだと。

とてもありがたいことです。

仕方ない。今日はお供え物のお代わりを供えよう。ぼた餅を。

(わっ、嬉しい♪)



また、走竜に関しては一悶着あった。

いや、正確には竜車のことだね。

最初に出来上がったのが、この世界の現状の馬車を竜車用にしたものだった。

当然、不採用。

だって、お尻が痛くなるんだもん。


「なんじゃと!

尻が痛いくらい我慢せい!」

「こんな出来のものが、毎日都内を走ることは認めない!」

「こんな出来じゃとぉ。

貴様の根性が足らんのじゃ!」

「足らないのはドアンの頭の方だ!」

もうドアンとは大喧嘩。

ドアンがガルルッとやれば、こちらもグルルッとやり返す。

僕とドアンの両脇を他のドワーフ達が必死に抑えている。


『何をやってるのです!』

いきなりサトリが介入して来て、僕とドアンの身体が動かなくなる。

「うぐっ。これは……」

「ぐおっ。身体が動かん!」

『二人が暴れていると聞き、参りましたが、何がどうしたと言うのです?』

サトリの呪縛は強烈だが、口は利けるようだ。


「ドアンが竜車を痛車にした……」

「イタ車とはなんじゃ!

ワシは普通に最高のものを仕上げたぞ」

『次郎様。

その言葉はこの世界にありません。

ちゃんと説明してください』

「ドアンが造った竜車では、振動が酷くて乗車したみんなが痛い思いをするんだ。

乗り物酔いする人はさらにツラい」

「それは車では避けられん問題じゃ」

サトリの呪縛効果なのか、少しずつ落ち着いて話せるようになってきた。


『ドアン。

それは本当に避けられない問題なの?』

「いや、そう言われてもな……。

解決策があれば教えを乞いたいものじゃ」

『次郎様。

解決策をお持ちなのでは?』

「あるよ。

……あるけど、この世界にあるのかどうか……?」

『それをドワーフ達に確認しましたか?』

「い、いや」

『なるほど。

二人ともそこに正座なさい』

サトリが命じると、なぜか正座の姿勢を取らされる。

強制正座の術!?


『まず、ドアン。

馬車や竜車の欠点を知っていて、何も解決せずに事前に意見を聞かずに製作したのですね?』

「そ、それは仕方がないことじゃ」

『そこまでの技術で十分という認識ですね』

「誰が満足するものか!

技術はより磨かなければならん」

『では、ドアンには探求心が足らなかった、ということですね』

「ぐっ」

いいぞ、やれやれ。


『次に、次郎様』

不意に呼ばれてビクッとした。

『次郎様は、問題解決策を持ちながら、その提案をせずにドアンを責めるばかりでしたね?』

「だって、ダメって言ったらドアンのヤツが食って掛かるから……」

『それで自分も声を荒げるだけと。

情けないですね。

大樹の森の盟主ともあろうお方が』

「くっ」

『二人とも、相手の立場に立った意見を述べず、自分の言いたいことばかり。

大樹の森の都の一員として、私は本当に情けない想いです』

「…………」「…………」

ドワーフ達も皆頷いている。

「……あ~、ドアン。

さっきは悪口言って悪かった。

ごめん」

「ワシの方こそ、先に怒鳴ってしまってすまんかった」

「「ごめんなさい」」


『良いでしょう。

これからは仲良くするのですよ』

「「はい、ごめんなさい」」

サトリは怒らせちゃダメな人だった!

静かに怖かった。

『では、次郎様。

問題解決策をどうぞ』

「あ、あの~、サトちゃん。

そろそろ正座はもういいかなって……」

『もうしばらく我慢なさい』

まだ怒っていらっしゃる。


「ええと、車は便利だけど、その振動に因る被害はバカに出来ないと思うんだ。

乗車している人達もそうだけど、運ばれてる荷物も損傷することが避けられない。

速度を上げれば上げるほどね」

「じゃが、この大樹の森の都は道路が整備されとる。

ここまで綺麗な道は他にも無いくらいじゃぞ。

振動も少ない」

「それは都内だけでしょ?

他国との交易が始まったらどうするのさ。

幸いにも大商人が住民になったんだ。

明日にも始まるかもしれないよ」

「ブライトとやらか。

それはそうかもしれんが……。

いかんな、話が逸れていく。

要は振動の問題じゃ」

ドアンが話を戻してくれた。


「そこで、解決策は二つ。

タイヤの改善とサスペンションの導入だ」

「「「???」」」

ドアンのみならず、ドワーフ達も首を傾げている。

サスペンションがわからないらしい。

「サスペンションっていうのは……。

サトちゃん、この姿勢じゃ説明出来ないよ。

正座を解除して」

『いいえ。

このままでどうぞ。

私を介せばイメージを送れます』

あいやー。まだダメかぁ。

仕方ない。イメージを送るか。


「なるほど!そんな手が」

「さすぺん……にも色々種類があるぞ」

「タイヤも送られて来たな」

「タイヤに服を着させるのか!考えもつかなかった」

「タイヤの服に空気を?

ああ、ふいごみたいな感じか?」

「これは面白くなるな」

「忙しくなるぞ」

ドワーフ達にもイメージが伝わったようで、工房内が一気に騒がしくなる。

ドワーフ達は、忙しくなるって言う割りには嬉しそうだ。


「あとは素材の問題なんだ。

サスペンションには、金属を使った方が耐久性は上がる。

鉄は錆びによる劣化があるけど、まあこの際は棚上げしておこう。

一番不安なのがタイヤの素材。

果たして、この世界にゴムの代わりになるものがあるのかどうか……」

「ごむ?」

「ゴムは大きく分けて2種類ある。

天然ゴムと合成ゴムの二つ。

天然ゴムは、ゴムの木の樹液から不純物を取り除いて乾燥させれば出来る。

固まる前に混ぜ物をすると固さの調整も出来る。

合成ゴムは……石油が無いと話にならない」

説明をしながら、僕はだんだんと落ち込んで来た。

ゴムの木なんか見たこと無いし、ましてや石油なんてある訳無い。


「ジロー様。

そのごむというのをもっと教えてくれ。

ジロー様の元いた世界では当たり前の存在なんじゃろ?

素材の入手経路が二つあることはわかった。

いや、わかったフリをする。

教えて欲しいのは、ごむの特性じゃ。

どんな形状をしている?

それは形を変えられるものなのか?

どんな効果を産む?」

ここで、ドアンの本来の持ち味、探求心旺盛なドワーフらしさが出てきた。

サトリを通じてここにいる全員にゴムの特性のイメージを伝えていく。

車を走らせるだけでなく、そのタイヤをハンマーで叩く映像や輪ゴム指鉄砲まで、ありとあらゆるゴムのイメージを思い浮かべる。

(サトちゃん、まだ大丈夫?

続けられそう?)

(はい。まだまだ大丈夫ですよ)

サトリの返事をもらったので、ゴムの製造方法もイメージを送る。

ただし、実際に見学した訳ではないので、テレビのニュースなんかでやってた製造工場の様子をイメージしただけだけど。


「「「なるほど」」」

イメージを送り終わると、ドワーフ達が一斉に納得していた。

「ジロー様の世界では、これが常識なんじゃな。

格差があり過ぎて、ワシらがもどかしいはずじゃの」

もどかしいなんて思ったことは無いさ。

そういう世界なんだと認識……再認識しなきゃいけないのは僕の方だ。


「あの馬の無い車を見たか!?」

「見た見た!あれを造ってみたいぞ」

「バカ。何世紀も先のものだぞ。

すぐに出来る訳が無い!……が、あの形状は活かせるかもしれないな」

「そんな大きなものより、俺は輪ゴムに感動した!

あんなに小さいのに、優れたパワーを秘めている。

応用も数えきれないほどあるぞ」

ワイワイガヤガヤとドワーフ達の熱論が止まない。


『次郎様。

この世界の住民を侮ってはいけませんよ。

この様子をご覧になればお分かりでしょう。

また、ドアンもこれまでの技術力に胡座をかかずに、もっと謙虚に生きなさい。

賢い者ほど頭を下げるものです。

貴方以外の全てが貴方の先生になるのですから』

「はい!サトちゃんの言う通りです」

「サトリ様のお言葉をしかと肝に命じますぞ」

『では、もう許してあげます』

強制正座の術が解除になった!

……でも、足が痺れて……。

ドワーフ達はゴム談義に夢中で誰も見向きもしない。してくれない。

ドアンと二人、あひっあひょっ言いながら、なんとか立ち上がった。

立ち上がった時、思わずドアンと抱き合ったよ。

痺れた足で大地に立つ一歩目って、ずわわぁ~んて来るの気持ち悪いよね~。


僕は決めた。

もう決してサトちゃんを怒らせないって。

そう足に……胸に刻んだんだ。


しばらく経ってから、ドアンの発言。

「ジロー様の嫁は恐ろしいのぉ。

いろんな意味で」

「しっ!

ドアン、どこに耳があるのかわかんないんだから、滅多なこと言わない方が良いよ」

もういないとは思うけど。

ドアンも、サトリの能力を褒めているのはわかるけど。

もうこれ以上は僕の足がもたないからやめて。

「しかし、あれくらいでないといかんだろうな。

ジロー様の隣にいるのなら」


そう?

そんなドアンの言葉がちょっぴり嬉しかった。


サトリは怒らせてはダメ。

なぜ、多くのあやかし達がサトリを恐れるのか、身をもって実感した次郎。

みんなと仲良くね。

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