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第111話 大樹の森の都

まるで夢幻を見ているかのような一日を過ごしたブライト一家。

そして、お伽の国、大樹の森の都へと誘われる。

ーーーブライトの視点ですーーー


スズキ・ジロー様に妻と娘を助けていただいてから、驚きの連続だ。

まず、千人長のオーガの前に立ち塞がったのはカラステング殿。

オーガの千人長に単身で挑むとは、なんて無謀なことと思ってしまった私が馬鹿だった。

何合もやり合って、満身創痍になりながらも、とうとう千人長を倒したのだ。


その後すぐに妻と娘と合流出来た。

青年が守っていてくれたようだが、この青年もすごかった。

カラステング殿に回復魔法を掛けつつ、叱っていた。

この青年の方が偉いようだ。

そして、カラステング殿に護衛役を命じ、自ら単身で多数のオーガに向かっていったのだ。

止めようと伸ばした手が、思わず止まってしまった。

たった独りにも関わらず、オーガを次々に倒していく。

見事に、凄まじく、鮮やかに……オーガを全て倒していくのだ。

私も商隊を率いて行商に行く時は、護衛に冒険者を雇うが、ここまでの猛者は見たことが無い。

もしかしたら、闘いの世界の頂点に立つ人物かもしれない。


そして、幾ばくもしないのに、全滅させたというのだ。

三千体以上の大軍団を。

先ほどの青年を含めた僅かな手勢だけで。

その手勢がまたすごい。

青年を除く全員が浮遊魔法を駆使し、なんとフェニックス様までいるではないか。

そのフェニックス様も青年の配下となっている。


魔石の回収の段階で妻と娘の特殊スキルが活きた。

ホンの少しだけ、恩返し出来ただろうか?

いやいや、とうてい返し切れるものではなかろう。


その直後、青年がまたすごいものを見せてきた。

伝説のマジックホールだけでもかなりのものだが、土魔法の凄まじさよ。

5km以上に渡って、土が舞い上がり、オーガ共を埋めていく。

ああ、きっと神様が勇者を遣わせたんだ。

そうに違いない。


また、その勇者様が自らの都に招いてくれるという。

そこで商売を再開させろと。

喜んで従うさ。

私に出来るのはそれだけだ。

そして、いつか勇者様にこれ以上ないほどの恩返しをしてみせる。

えっ? 資金も投資していただける? 家まで?

今代の勇者様は太っ腹でいらっしゃる。

一生ついて行きますぞ。



今、私は感動している。

これ以上ないほどに。

大樹の森の都。

噂で聞いていたあの大樹の下に、都が築かれていたなんて。

いや、そうじゃない。

転移魔法だ。

転移魔法を体験出来たのだ。

おとぎ話の魔法だぞ。

商人全ての憧れだ。

これも勇者様のスキルだと言う。

これは秘密にせねばなるまい。

この存在が知られたなら、世界中の軍隊が押し寄せるに決まっている。

勇者様や従者の方々は、自覚されていないようだが、お諌めしなければ。



勇者様の話は本当だった。

アルメリア姫様やヤクト様とお会いすることが出来た。

ヤクト様は笑顔で、アルメリア姫様は涙ぐんで再会を喜んでいただけた。

私の商会は王宮御用達だったので、お二人とは交流があったのだ。

王宮のパーティーに出席するのは、我が家にとって日常茶飯事だった。

妻のミライはアルメリア姫様やヤクト様の遠縁に当たり、その縁もあって、娘のチェーミンを可愛がっていただいていた。

また、顔馴染みのダイクン王国の人達にも再会出来た。

勇者様には感謝しかない。



アルメリア姫様に都を案内いただいたが、臭いが無いのに驚いた。

普通、人が拠り集まる街では雑多な臭いがこもるものだ。

有り体に言えば、糞尿の臭いだ。

首都なんて酷いものだ。

それがどうだ?

ここは都と言う大都会でありながら、臭いが無いのだ。

街路樹が設けられ、ところどころに花壇まであり、季節の花がちらほら咲いている。

流れてくる空気には、植物の香りだけでなく、芳しいお茶の香りや食べ物屋の香ばしい匂いも混ざっている。

私は本当に現実に立っているのだろうか?

何かしらの物語を読み込んで、寝落ちしてしまったのではないか?

これが夢だとしたら、このまま起きないで欲しい。

頬をつねるなんて、無粋なことはしない。

この夢の住民になるのだ。


「夢や幻ではありませんよ」

アルメリア姫様がクスクスと笑いながら仰る。

「ああ、いえ。

あまりにも違い過ぎて……なんと言って良いのか……」

わたくしも来たばかりの頃は、驚きの連続でしたから、お気持ちはわかりますわ」

「そういえば、道が整備されているにも関わらず、馬車があまり通りませんね。

馬が少ないのでしょうか?」

「いえ、魔馬デビルホースが30頭以上いたはずですが、全て軍馬だとか」

デ、魔馬デビルホースだと!?

あの気性が荒く、扱いに困るという……いや、この大樹の森の都ならではの常識に慣れていかないといけない。


「では、交通に不便があることが欠点なのかもしれませんね」

「いえ、それも通勤に関しては転移魔法で解決して頂いていますよ」

なんと言うことだ。

一般市民の通勤の為に、転移魔法が利用されているのか。

「でも、近々、バスが運行予定との知らせも来ています。

きっとより便利になるのでしょう」

「ばす?……ですか?

それはどのようなものでしょうか?」

「都内を定時に巡回する乗り物だそうです。

走竜の群れを発見したので、捕獲作戦を実行するようですよ。

この都には、多くのドラド族もいますので、彼らが操縦士候補のようですね」

走竜か。

何でもありだな、ここは。

世界各地に竜車はあるが、馬車の十分の一もいないだろう。

それだけ珍しいのだ、走竜は。

馬並みに賢く大人しい為、扱い易く、速い上に力強い。

私もいずれ欲しいところだ。


「ブライト。

走竜が欲しいのですか?」

「恥ずかしながら、私も商人の端くれ。

いずれは、と考えておりました」

「商人ならそうなのでしょうね。

…………盟主様にお願いしてみましょうか?」

「ほ、本当ですか!?」

「あまり期待しないでくださいね。

わたくしはさほど地位は高い訳でもありません。

盟主様のお母様がわたくしの上司というだけです。

その関係上、たまに盟主様にお会い出来るということだけです」

アルメリア姫様でも融通が効かぬとは。

しかし、大樹の森の都ということだけはある。

一国の姫君程度では動くものでもないのであろう。


都の大まかな案内をしていただいた後、アルメリア姫様のお屋敷に招かれ、晩餐をご馳走になっただけでなく、しばらく滞在することになった。

その日の晩餐にヤクト様も現れ、旧交を温める場となった。


「ふむ。

走竜が欲しいのか。

私からもお願いしてみよう」

「おお、ヤクト様まで」

「ただし、走竜を手にしたならば、おまえにも役に立ってもらわなければならないぞ。

主に経済面でな」

「私で良ければ何なりと仰ってください。

経済は私の範疇です」

必死に頼み込む。

走竜……延いては竜車を持つことは、商人としてはトップステータスを持つことに他ならない。

ヤクト様と後日詳細を打ち合わせる旨お約束いただき、その日は解散となった。



そして数日後、盟主様のお屋敷にて、アルメリア姫様とヤクト様に同席いただき、盟主様と謁見出来る運びとなった。

「やあ、ブライトさん。

元気にしてた?」

そこには、少年期になる直前の可愛らしい男児がいた。

なるほど。聞いていた通りだ。

盟主様は自在に年齢を操るので、見た目に騙されるな、とヤクト様から先に教えられていなければ、幾ばくか失礼を働いていたかもしれない。

私は青年の盟主様とお会いしているので、そちらをイメージして接見しよう。


「はい、おかげさまで。

アルメリア姫様にもよくしていただいたので、私はもとより妻も娘も恙無く過ごさせて頂いております」

「それは良かった。

そうそう、ブライトさんのおうちも出来たから、ヤクトに案内してもらって。

ヤクト、後で後鬼ごきから資料とカギを受け取って、案内してね」

「かしこまりました。

スズキ・ジロー様、それとは別にご提案したいことがございます」

私の商会の立ち上げの話だ。

ヤクト様から盟主様に提案書が渡される。

盟主様は提案書を1ページごと丁寧に読まれ、最後のページの損益計算書に時間を掛けられておられた。


「ふうん。デパートメントストア構想か。

悪くはないけど……これ、ブライトさんじゃなくて、ヤクトのアイデアだろ?」

提案書でそんなことまでわかるのか。

「ご慧眼です」

「損益計算予定表の数字が甘い点が見受けられる。

この都の住民の多くはダイクン王国の元国民というのはわかるが、彼らより先に住民となっている者達の方がお金を持ってるぞ。

戦争成金の集団だからな。

この構想ではそこが抜け落ちているな。

やつらは自分の楽しみには金に糸目をつけないが、それ以外は財布のヒモは決して弛めない。

もう少し練り直した方が良いな」

この盟主様はすごいぞ。

住民の経済嗜好まで把握しているのか。

そんな国主には会ったことないぞ。

「はっ。

失礼致しました。

検討し直して再提出するように致します」


「で……結局、何が言いたいんだ?」

「…………」

「ヤクト。

おまえは非常に優秀で頭も良い。

僕達も大変助かっている。感謝もしている。

……が、回りくどい。

おまえの悪いクセだな」

「失礼致しました。

スズキ・ジロー様には、もっと率直に申し上げるべきでした。

要は、このブライトに走竜を、竜車を授けて頂けないかとお願いに上がった次第でございます」

「なんだ、そんなことか。

僕はブライトさんに投資をする約束をしている。

ヤクトが推すなら走竜を引き渡すよ。

もちろん、竜車もね」

なんと! 投資枠に入れて頂けるとは。


「ヤクト。

組織では報連相が大事だと教えてるよな。

おまえは特に上への相談が一番大事だと認識しておけ」

「ヤクトお兄様の悪いところですよ」

盟主様とアルメリア姫様がお笑いになり、ヤクト様がお困りになっている珍しい風景を目にするとはな。


盟主様の部屋を出て、皆揃って客室に移動した。

「ブライト、すまん。

あのお方が元いた世界で商いをしていたことを失念していた」

「いえ、ご尽力ありがとうございました。

ヤクト様のご推薦があったからこそ、走竜を頂ける運びとなりました。

起業に関しては、本来私のフィールドでございますれば、もっとしっかりしたものをお届け致します」

アルメリア姫様とヤクト様のご推薦で走竜が手に入るのだ。

それ以外はなんとでもなる。

しかし、盟主様が商売にも明るいとは、却って嬉しい限りだ。


「しかし、スズキ・ジロー様の得意分野であのお方を納得させるのは大変だぞ」

「盟主様は何を扱っていらっしゃったのでしょうか?」

「……確かショウシャとかいうところで、様々な物を扱っていらっしゃったとは聞いている。

よくわからない機械や……ああ、軍事品もあったと仰っていたな」

「でも、食品関係も明るいお方ですよ」

機械や軍事品か。

それに、アルメリア姫様によれば、食品関係にも強いと。

これは腰を据えて挑まなければいかんな。


それからしばらくは、盟主様談義となった。

帰ってから、しばらくは現状の市場を探ることにしよう。

楽しくなりそうだ。



商社マンを舐めちゃいけませんよ。

一つの物事に関してはスペシャリストに敵いませんが、グローバリズムを備えたゼネラリストもなかなかやりますよ。

技術は伴いませんが、専門知識を備えて俯瞰した観点から、また集約した一点に立つことが出来るのが商社マン。

勉強することが多すぎて、ヒーヒー言うことがあるのは内緒♪

ちなみに、地下鉄サリン事件直後に、全国の警察署へガスマスクを配備したのは作者です。


さて、もう一話だけ閑話を挟んで、新しい展開に移ります。

お楽しみに。

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